Angel Sugar

「やばいかもしんない」 第4章

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 風呂場に着くと大地は、誰も周りにいないのを確認してから服を脱ぐと、浴室に入った。熱い湯が張られている湯船に浸かるとホッと息を吐く。湯気で白くなった視界の中で自分の身体を確認すると、やはりまだ消えないキスマークがあちらこちらに付いている。
 こんな身体を友達に見られた日にはなんと言って釈明するんだ?
 あいつが悪い、博貴が悪いと、一人ごちて鼻まで湯に浸かった。
 湯が冷えた身体を温めてくれると、だんだん眠くなってきた。やばいと思った大地は、浴槽から上がると身体を洗い、濯ぐと、今度はもう湯に浸からずに、そのまま風呂をでた。
 外にでると、新しい下着とパジャマが置かれている。徹が用意してくれたのだろう。
 それらをありがたく着て大地は、昔ここへ来るといつも一緒にみんなで眠っていた畳間へと向かった。すると既に布団を敷いて、徹がそこへ大の字になって横になっていた。
「気持ち良かった……徹は入らないの?」
「ん……もう入るのも怠いよ……」
 眠そうな目で徹が言った。大地も布団に横になる。
「なんだか久しぶりにみんなで騒いで楽しかったなあ……」
 大地はそう言って天井を仰いだ。
「良く言うよ。お前、連絡もしなかったくせにさ」
「働き初めて色々あったし、慣れるのも大変だったもん」
 そう言うと徹はクスッと笑った。
「社会人だもんな……大……」
「まあね、でも社会人ってもっとなんか自分が変わるのかと思ったけど、俺あんまり実感ねえよ」
「確かにお前全然変わってないな」
「もっとさー大人になるのかと思ったけど、そうでもないし、東京って冷たいところかと思ったけど、いい人達とも出会えたし、俺ってラッキーだったのかもしれない」
 第一に博貴だ。あと真喜子さんも、藤城もその部下達もみんないい人ばかりだった。
「ふうん。そうなんだ……」
 そう言った徹の口調がちょっと沈んでいるように聞こえた。大学生活はそれほど楽しくないのだろうか?と思った大地は徹に言った。
「徹はどう?」
「俺?俺はねえ……都会ってやっぱりなじめないかな……。確かに毎日面白いし、女だって向こうから寄ってくるしさ、でも友達は出来ないな……。だから結局、こっちのだちとつるんでるんだろう」
「無理に作らなくてもいいじゃん。俺なんか同い年の友達なんていねえよ。会社自体俺が一番若いらしいし、どっちかっていうと、おっちゃんの方が多いもん」
 ははっと笑って大地が言うと、徹が先程より大きな声で笑った。
「おっさんばっかりか、色気ねえな」
「ないない。警備員だもん。あるわけねえよ。ほんっと地味な仕事」
 大地は身体を起こして手を振った。
「彼女出来た?」
 徹がじっとこちらを見て言った。
「まさか……」
 つき合っている男は居るけど……と、言いそうになって大地はぐっと言葉を飲み込んだ。
「だろうな、お前どっちかっつーと男にもてるもんな」
 目の端に涙を溜め、笑いを堪えるように徹が言った。今はもう否定はしないが友達に言われたくない。
「言うと思った。俺はやろうに好かれたって嬉しくとも何ともねえよ」
「まあ、ちょっかいかけられても、お前見た目と違ってこええからな。あ、そうだ、大、俺、来週東京に帰るから遊びに行っていい?」
「いいよ。でも夏休み中ずっと家に帰ってるんじゃないのか?」
「ゼミがはじまるからな……千晶と金澤も多分来週辺り帰るんじゃないか?」
「そっか、学生は大変だな……。俺、勉強嫌いだから、働いてる方がいいや」
 だから速攻に就職を決めたのだ。
「ま、お前が必死に勉強してる姿なんて見たことねえもんなあ」
「五月蠅いな……自分にあった道選んだんだからいいじゃないか……もー俺寝る。すげえ眠いもん」
 大地はそう言って、タオルケットを引っ張り身体に巻き付けると目を閉じた、まだ遠くで徹が何かを言っているような声が聞こえたが、睡魔には勝てず大地は熟睡した。

 スースーと寝息を立てた大地をそっと覗き込んだ徹は、先程まであれ程眠かったにも関わらず今は目が冴えてしまったことに気が付いた。
 それは多分隣に大地が居るからだろう。
「大……寝た?」
 そう問いかける言葉に返事はない、ずいっと近寄って徹は近距離で大地の寝顔を見つめた。
 大地は幸せそうな顔で眠っている。こっちがどんな気持ちでいるのかも、多分、分からずに眠っている。
 ずっと一緒に居るうちに、いつか告白しようと思っていたのだが、完全なノーマルの大地に例え本気で言ったとしても、信じて貰えなかっただろう。冗談で言った日には殴られているだろうとも予想できた。
 大地が大学に行かず、就職するということは本人がそう言っていたから、分かっていた。だが、東京で就職するとは夢にも思わなかった。こっちは離れれば、少しは自分の気持ちにけりが付けられるだろうと思ったのと、やはり就職にはある程度の大学に行った方がいいという気持ちから、東京の大学に行くことにしたのだ。
 それが、気が付けばホンの目の先に大地は住んでいたのだ。
 これはチャンスなのかな?
 徹はふとそう思った。
 このままこんな気持ちを抱えてこれからも大地と、お友達を続けていけるのだろうか?それならば、少しずつ大地に自分の気持ちを表して行き、ここと言うところで告白したらどうだろう?
「……ん……」
 横向きになっていた大地が、寝返りを打って仰向けになった。薄く開いた唇がまるで徹を誘っているように見え、思わず唾を飲み込んだ。
 眠っているし、良いよな……一瞬だけ……良いよな……。
 心の中で徹はそう言いながらそっと大地の唇に、自分の唇を一瞬重ねた。余り長い間触れていると大地が起きるかもしれないと思った為に、すぐに唇を離した。
「……俺って……」
 足を立てて膝を抱えた徹は溜息をついた。
 なんだか虚しいのだ。その上、益々眠れなくなってくる。ちらりともう一度大地を振り返ると大地の胸元が、何時の間にか外れた第一ボタンの間からちらりと見えた。
「……?」
 鎖骨の辺りに虫に刺されたような跡を見つけて徹は血の気が引いた。嘘だと思いながら手を伸ばして、大地を起こさないように他のボタンを外して前をはだけると、虫に刺された跡はそこだけではないことが分かった。
 もしかして……こいつ……嘘だろ?
 そっとはだけた前のボタンを留めながら徹は指先が震えた。
 これは紛れもないキスマークだ。こんな跡をつけるのは男しかない。じゃあ、大地は誰か男とつき合ってるって言うのか?こいつがノーマルなのは俺は知ってる。なのに?
 全部のボタンを留め終わる前に徹は衝動的に自分のキスマークも大地の首もとに付けた。起きるかと思ったが、ぐっすり眠っている大地は気が付かないようであった。
 そうして全部のボタンを留め終わると、何も知らずに眠っている大地の頬をそっと指で撫でた。
 都会の男に騙されたのかもしれない。大地はころりとそれに騙されたのだ。そんな男も女も東京には多い。田舎者の、それも人を疑うことの知らない大地のことだから上手く言いくるめられたのかもしれないのだ。
 キュッと口元を噛みしめて徹はタオルケットに潜り込んだ。
 結局、朝まで眠ることが出来なかった。

「大……お前今日帰るんだろ?起きろよ……」
 ゆさゆさと身体を揺すられて大地は、ぼんやりと目を開けた。
「……あ……朝?」
「今日帰るんだろう?おまえんちの兄ちゃんから電話あったぞ。八時に迎えに来るって言ってたぞ」
「迎えに……って??俺ここにいるの何で知ってたんだろ……」
 まだ半分意識が眠っている大地は、なんだか良く分からなかった。
「お前昨日お母さんに電話したんだろ?……そんなことはいいか。まあ、いないときは、たいがい俺んちにいるの知ってるから、かけてきたんだろ。それよか着替えないと飯くえねえぞ」
「電話……あー……うん。あ!」
 ガバッと起きあがって大地は、昨日結局、家に電話をいれていないことを思いだした。電話をかけたのは博貴の携帯なのだ。
「さっさと顔洗って来いよ」
 そんなことに気が付いていないのか、徹はそう言って台所の方へ歩いていった。
 大地は、ま向こうも酔っぱらっていたし、電話したことさえ忘れているのかもしれない。そうだ、そうにちがいない。と、思うことにした。
 大地は身体を起こし、布団を畳んで洗面所に顔を洗いに向かった。冷たい水がまだ起ききっていない意識を起こす。それが済むと、やっぱり徹の服に着替え、自分のまだ乾ききっていない服をビニール袋に詰めると、台所にいる徹の所へと向かった。
「はよ……」
「飯、くってくだろ?」
「いや俺、一旦うちに戻るよ……」
「んーでも、お前の兄ちゃんもう言ってる間に来るぞ」
 パンにバターを塗りながら徹は言った。
「へえっ!?」
「お前の荷物はもう積んであるって、戸浪にい言ってたぞ。さっさと食わなきゃ朝飯抜きになっちまう」
「でも俺、徹に服借りてるし……」
 大地は椅子に座ってそう言った。
「いいよ、来週返して貰いに行くから」
 ニッコリ笑って徹は大地にパンを渡した。
「あ、そっか、ちゃんと洗っておくよ。何か俺の方が迷惑かけたよな……ごめんな」
 パンを受け取って大地はそう言った。
「お前の携帯ぶっ壊した原因は俺だからいいよ」
「そうだった……はあ……」
 もぐもぐとパンを口に頬張りながら大地は言った。
 帰ったら速攻新しいのに変えないと……
 いや、メモリーもアウトだとかなり困る……。
「なあ……」
 急に生真面目な声で徹が言った。
「え、何?」
 暫くじっと見つめ合って、徹の方が視線を逸らせた。
「何だよ?」
「いや、別に……お前って可愛いよなって思ってさ」
「……朝からふざけんなよ……ったく……」
「別にふざけてる訳じゃあ……」
 何か徹が言おうとした瞬間、玄関が開いた。
「大!さっさと帰るぞ!」
 人の家の玄関で、こんにちわもなく怒鳴る戸浪に呆れながら、大地は残りのパンを口にくわえて立ち上がった。その前に徹が玄関へ走っていった。  
「あー戸浪にい。俺が大に迷惑かけちゃったんです」
 徹がそう言って戸浪にニッコリ笑った。徹と戸浪は顔見知りで、もっと幼い頃は一番上の早樹と一緒に良く遊んで貰ったのだ。
「徹君済まないね。うちの大が随分迷惑かけたみたいで……」
 そんな二人の会話に大地が割り込んだ。
「にーちゃんごめん!」
「……母さんが呆れてたよ。本当に帰ってこないってね」
 ジロリと戸浪は睨んだ。
「だ、だって兄ちゃんも帰らなかったんだろ!?」
「朝早く一旦戻った」
 こほんと一つ咳をして戸浪は言った。
「……狡い……」
「何が狡いだ!ほら、さっさと靴を履くんだな、もう出ないとかなり混む」
「あ、うん。じゃ、徹また来週連絡するよ。服借りてくな!」
「ああ、じゃあな大……」
 徹の玄関をでて、道にでると戸浪が歩き出した。
「車は?」
「目の前に止める訳にはいかないからな、そこの先に停めているよ」
「ふうん……」
「なあ大……」
 ちらりと戸浪は意味ありげにこちらを見て「いや良いんだ」といった。
「何だよ?」
「いいんだ」
 戸浪はその後何も言わなかったが、大地は妙にそのことが気になった。後で聞いておけば良かったと思ったが、それは後の祭りであった。

 コーポに戻ったのは夜遅くだった。意外に混雑し、時間は既に十二時を廻っていた。大地が祐馬にお礼を言って、自分の部屋までくると、明かりがついていた。
「ただいまあー」
 玄関を開けてはいると、思った通り博貴が大地の部屋でテレビを見てくつろいでいたが、大地の姿を見ると立ち上がって、側に近寄ってきた。
「お帰り大ちゃん」
 言ってギュッと抱きしめる。
「大良……」
「寂しかったよ……大ちゃん……」
 んーっとキスをしようと顔を近づける博貴を押しのけて大地は言った。
「嘘付け……女と一緒に仕事して楽しかったろ」
 又思い出して大地はむかついた。いくら仕事だと分かっていても、やっぱり腹がたつものは腹が立つのだ。
「嫉妬はいいね。私がとても愛されてるって分かるか……」
 といって博貴は笑っていたが、急に顔を引き締めてこちらを凝視した。
「……どうしたんだよ?」
「大地……その服見たこと無いよ」
「あ、これ?昨日川に落ちた友達助けるのにさ、俺も濡れたから友達に服を借りたんだよ。しっかしよく俺の服じゃないって分かるよな……」
 感心して大地は言った。博貴がもし、誰かに服を借りても分からないだろう。
「……それに……」
 グイッと首元を引っ張られて大地は驚いた。
「んっ……だよ……。何するんだよ」
「私はここにはキスマークなんてつけなかったよ。どういうことなんだい?」
 酷く怒った顔で博貴が言ったが大地には全く覚えがない。
「え!お前がつけたんじゃねえのか?忘れてるだけだろ!」
 そう言うと博貴は、大地を担ぎ上げて鏡の前に立たせた。
「これ、こんな見えそうな場所に私が付けると思ってるのかい?」
 後ろから羽交い締めにされて鏡の方を向いた大地は、確かに昨日まではこんな所に無かった事を思いだした。
 じゃあ、これは一体どういうことなんだろう?
 大地には記憶が全くなかった。
「し、しらねえよ!」
「そう言えば君、酔ってたね。だから誰かにちょっかいかけられたんだろう?」
 後ろから廻されている博貴の腕に力が入った。思わず息が止まりそうだった。
「そんな酔ってなかっただろ!お前とちゃんと話ししてたじゃねえか!」
「でも覚えていないって君は言っただろう?それとも覚えてるのに、覚えていないと言い張ってるのかい?」
 鏡に移った大地の瞳を射抜くように博貴は見つめていた。
 怖い、こういう博貴は怖いのだ。だが覚えていない自分も悪いのだろうか?
「嘘なんかついてねえよ。覚えてたらお前に見つかるような真似する訳無いだろ!」
 暫く思案した博貴はガバッと大地を担ぎ上げて、自分の部屋へと通じる扉を開けた。
「……気に入らない」
 思いっきり怒ってるぞ!大地は冷や汗が出た。
「言われても……俺マジで覚えてねえんだもん。友達が悪戯……」
 一階のベットに下ろされて大地は、ふと徹のことを思いだした。
 もしかして俺が寝た後に悪戯したとか?
 いやまて、もしかして俺の身体にあった博貴が付けた跡を見た?
 まさか……どうなんだろう。
 大地は色々思い出そうとするのだが、自分が寝てしまった後のことなど責任が持てない。寝ているのだから覚えている訳無いのだ。
「悪戯?お風呂に一緒に入ろうって言った友達かい?」
「あ、お前聞こえてたな!」
「聞こえるに決まっているだろう?大声で叫んでいたからね。じゃあなに、その友達とお風呂に一緒に入って……」
 最後まで博貴が言い終わらないうちに大地は、その口を手で遮った。
「あのなあ、俺、身体中にお前の跡付けられてるんだぞ、一緒になんて入れるわけねえだろ!ったくよー」
 だが、遮った手を博貴に掴まれベットに押しつけられた。
「……大地……じゃあ、何時何処でこれを付けられたんだい?」
 言って博貴は見知らぬ跡をきつく吸った。
「あ……や……だから……多分……俺寝ちゃった後の話しだと思うから……俺が朝、気が付けば笑い話にしようって……徹が思って悪戯したんだとおも……ちょっ!」
 博貴は無言で大地の服を脱がせにかかった。抵抗する間もなくあっさりと裸にされた。
そうして博貴はじっと検分するように胸や腰の辺りをじっと見据えた。
「……んだよ……疑ってるのか?俺が誰かと寝たって」
「……寝たとは思わない。だがこんな跡を付けられても覚えていない位、ぐっすり眠っていた大地のことだから、他になにされても覚えていないだろうって思ってね。きちんと見ておかないと気が済まないんだよ……私は」
「……ほ、他は何もされてないって……徹はそんな奴じゃないし、いつもの悪ふざけで……やっ……」
 博貴の指がすうっと肌を撫でて、下半身に向かい、指が敏感な部分に触れるとそのままキュッと握り込んだ。その刺激に大地はもろに快感を煽られた。
「……ば、馬鹿野郎……止めろよ!恥ずかしいだろ!」
 博貴は大地の胸元や下半身を散々見ると、次に身体を俯きにされた。
 博貴の手が双丘を掴んで、奥まっている部分を眺めているのが大地には見えなくとも分かった。普段隠している所を見られているというのは本来恥ずかしいことなのに、身体の奥が熱くなってくる。
「や……やだよ……博貴……」
 散々身体のあちこちを調べられた大地は、博貴が納得する頃になると、生殺しにされたような気分で息が上がっていた。
「ま、他は付いていないようだからとりあえず安心したよ」
 ふうっと息を吐いて博貴が言った。
「博貴……俺……も……」
 大地はそう言って博貴の首に腕を巻き付けてキスをねだった。そんな大地に口元で博貴は笑みを浮かべて軽くキスを落とす。
 何度かついばむようなキスの後、ベットに倒おされ、博貴は本格的に薄く開いた大地の口内に舌を入れ、中をかき混ぜるような濃厚なキスを繰り返した。
 その刺激は目の奥をじいんとさせた。
「ん……ふっ……っ……」
 口元を絡め取られながら、博貴の手は胸の突起を指で挟むと親指の平らな部分で押しつぶす。
「や……だ……」
 まだ少し覗く羞恥心から、心にもない言葉を言って大地は身をよじった。だがしっかりと組み伏せられた身体は博貴の胸に身体を擦りつけたような格好にしかならない。
「ん?何がイヤなんだい?大地、ここ舐められるの好きだろ?」
 そう言って博貴は大地の胸の突起を口に含んで甘噛みする。
「んっ……ん……あっ……」
「好きでしょ?」
 博貴は目を細めて大地を見上げた。すっきりと整った顔立ちが、こちらをじっと見つめる。表情だけを見ているなら普段の博貴だ。
 でもこいつ無茶苦茶怒ってるはずだ……
「う……ん……」 
 かあっと顔を赤くして大地は言った。
 この男は、とにかく大地の身体を大地以上に知っている。快感のツボを捉えるのが天才的なのか、ただのスケベなのか分からないが、博貴の腕の中では大地は降参するしかないのだ。
「正直だね……でも、ここをさわれる方が気持ちよくなって好きだろ?」
 言って博貴は大地の両足に滑り込ませた自分の足を曲げ、膝で大地の敏感な部分を刺激した。
「あっ……なっ……」
 思わず大地は自分の手を伸ばして、博貴の膝を掴んだが、そんなこと全く気にせず博貴は膝を器用に動かして、大地の欲望を煽る。
「んー……んっ……」
 刺激を耐えるように大地は眉間にしわを寄せて目を細めた。ただ膝で擦られるだけでイってしまいそうになる。
「どう?」
 ギュッと押しつぶされて腰が引ける。
「やだ……っ……ん……あ、やっ……」
「膝よりこっちの方がいい?」
 笑いを含んだ声で博貴がそう言って、胸元から離した手を股のあたりに滑らせた。指先を立てて、ひっかくように手を動かしていく。
「博……貴っ……」
 大地は博貴の頭を抱えてしがみついた
「ん?どうしたんだい?」
 鎖骨辺りを愛撫しながら博貴は聞いた。
「この髪切らないでいてくれて良かった……」
 廻した手で博貴の髪を撫でながら大地は言った。
「それは嬉しいな……」
 大地に髪を梳かれて気持ちよさそうに細められた瞳で博貴はこちらを向いた。
「短いのも良いんだけど……俺はこっちの髪型の方が好きだ……」
 ボーっとしながら大地は言った。
「他の誰に言われるより、大地にそんな風に言われると嬉しいよ……」
 唇が触れ合うほどドアップで博貴は大地を見つめてくる。苦笑したように口の端を歪めた博貴の顔が驚くほど男前だ。鼻筋が通り、目はそれほど大きくないが、白目の部分が少ない、一重の瞼が知的な感じだ。
 眉も手を入れていないはずなのに、左右対称でスッキリと伸びている。その上耳からの顎のラインが芸術的に整っているのだ。
 ホストでナンバーワンと言われて、あっさり信じられる顔だ。だからそう、ちょっと髪で隠れてくれるくらいが丁度いいのだこの男は。
 大地はそんな風に考えながら、迫っている博貴の顔をぐいと横に向けた。
「あんまり見るな……」
「……私の顔は嫌いかい?」
「……違うよ……男前すぎて……俺照れくさくて仕方なくなるんだ。だから……その……ちょっと髪で顔が隠れていた方が……良いなあ……って」
 照れ照れと大地はそう言うと、博貴がくすくすと声を上げて笑った。
「なんだい、そう言う理由だったんだ……」
「……そりゃ、別に俺……顔がいいからお前を好きになったわけじゃないけど……どっちかっていうと、たらしみたいで嫌いな顔だけど……その……お前だから好きだって言うか……やっぱり男前だって……うう……俺何言ってるんだろう……」
 もう、どういって良いか分からない大地は言葉が尻窄みになる。そんな大地に博貴はキスの雨を降らせた。
「……ん……博貴……」
 もう一度大地は博貴に腕を廻して、頬に擦り寄った。
「好きだよ……博貴……」
「だったら私を不安にさせるような跡を、二度と付けて帰ってこないこと」
 先ほど見せていた優しい瞳はどこへやら、ジロリと睨んで博貴は言った。
「……ごめん……あいつ来週会うから、どやしつけてやる」
「……会うのかい?」
 ちらりとこちらに視線を寄越して博貴は言った。
「徹こっちの大学行ってるから、他のだちも二人こっちにきてるんだ。だから会おうって事になってさ……」
「ふうん……」
 といって博貴はいきなり、大地のものを掴んで一気に追いつめだした。急に強く擦り上げられ、痛みと快感が入り交じったものが大地の身体を覆った。
「あっ……あっつ……痛っ……あっ……んっ……あっ……な、なに?……っ」
「二人でこうしているときに、たとえ友達であっても他の男の話題は反則だよねえ……」
 意地悪っぽい目で見ながら、どんどん大地を追いつめていく。大地は博貴の肩を掴んで意地悪な博貴を睨み付けようとするのだが、手の先足の先が痺れて言うことを聞いてくれない。結べない口からは悪態を付くどころか、吐く息で精一杯であった。
「やっ……はっ……はっ……っ……あっ……ひろ……きっ……や……だあッ……」
 背を丸めて博貴にしがみついた大地は非難の声を上げた。
「いや?変だねえ……気持ち良いだろう?だってこんなに濡れてるのに……嫌なわけないよねえ」
 先端から漏れ出す白濁の液を手に受けながら博貴は言った。
「ん……ッ……あっ……あっ……ああっ……」
 曲げた膝がガクガクと震え、同時に博貴を掴む手も震える。一気に高みに追い立てられた身体は、ドクドクという血液の音を耳の奥に感じさせた。目が涙で霞んで景色がぼやけ大地は果てた。
「……は……はっ……し、しんじられねえ……っ……ん……なの……も……」
「手だけで簡単に大地はイっちゃうんだね」
 博貴は手の中のものから、最後まで欲望を絞り出すように、引っ張りながら上へ扱く。すると大地の身体がビクンと跳ねた。  
「やっ……だっ……」
 簡単にノックアウトされた大地の身体はまだ余韻を引きずっている。なのに博貴はすぐにまた追いつめようと手を蠢かせた。
「ねえ……何回くらい続けて君は手でイけるんだろうね……」
 素の顔で博貴が言うのを、大地は信じられないという顔を向けた。
「まっ……真面目な顔して……んなこと言うな!あっ……んっ……」
 抗議の声を上げようとしたが、両手で揉みし抱かれて喉が詰まった。
「どうして欲しいの?大地……」
 ふうっと耳元に息を吹きかけられて大地はキュッと目を瞑った。博貴はいつも恥ずかしい台詞と言わせようとするのだ。その為に、あらゆる手を使って大地の身体を追いつめる。
「やっぱり手で良いの?」
 ハムッと耳たぶを噛まれて大地は身を縮めた。とにかく大地は苦手なのだ。あれしてこれしてなどと、顔から火が出るくらい恥ずかしい。
 大抵こんな風に博貴に追いつめられて、やっとのこと口から出るのだ。
「ねえ、ここはいいの?ここ、欲しがってるのに……」
 窄んだ部分に指を延ばし、トロトロに濡れた辺りの液を潤滑油にして、指を埋めた。その刺激に喜ぶように、内壁は指をギュッと掴んで中へと誘い込むように震えた。
「あっ……や……っ……」
「うん、大地のここは正直だねえ。私の指に食いついて離れないよ……」
 にやりと笑って博貴は言った。
「……言うな……よ……も……あっ……」
 博貴は指をもう一本沈ませ、内壁を押し広げるように二本の指を動かした。広げられた内壁は負けじと収縮して指を捕まえようとする。
「……ふーん……欲しいんだって大地のここ……」
 かあああっと体温が上がった大地は言葉が出ずに、キッと博貴を睨んだ。だが目の端に涙を溜めた大地の顔は全く迫力がない。
「ん…っ……」
「大地、触られた訳じゃないよね……」
 言いながらも博貴は指を深いところで動かせた。その度に大地は小さく声を上げた。
「も……博貴……」
 中途半端な刺激が、燻る身体には拷問のようである。
「触られてないよね?」
 そう問われても大地は思い出せない。だが、触られたとでも言おうものなら、どんな風に苛められるかを考えると大地は寒気がした。
「……う……ん。そんなの……されたら……俺だって起きる」
 話しているのも煩わしい大地はそれだけ言うと博貴に抱きついた。もう、そんなことはどうでも良くなってきているのだ。
「それはそうだろうね……信用しましょ」
 低く笑って博貴は言うと、指を抜いた。
「……んっ……」
「大地……愛してるよ……」
 そう言って博貴は自分の熱くなった部分を大地の蕾に押し当て、そのまま沈めた。ゆっくりとした動作ではあったが、腰を揺らせて奥の敏感な部分を擦る。にじにじとした動きで何度も博貴の鋼は奥に触れる、大地は堪らない快感で声を上げた。
「あっ……ん……んん……ん……っ」
「ここ、大地がイイところだろ?ん?ほら、ここ……」
 ここといってぐいぐいと腰を押しつけてくる。
「やっ……あっ……」
「っ……ああ、全く……すごい締め付け。私も気持ち良いよ大地……」
「は、恥ずかしいこと……言うな……ッ……んっ……」
 先端が触れると大地の内壁はきゅうっと閉まる。まるで博貴のものを取り込もうとしている様であった。大地自身そうしようと思っているわけではない。下半身は自分の身体の制御を離れて、独自の動きをするのだ。
 暫く博貴はそんな大地の中を味わい、それに満足すると腰を上下に揺らし始めた。内壁一杯になっている博貴のモノは、下半身に重圧間と快感を伴って大地の身体を刺激する。
「あっ……んっ……ん……ああっ……」
「大地の中……熱いよ……すごく熱い……とけそう……」
 博貴は大地の耳元で掠れた声で囁き、頬にキスを落とす。こっちは息をするだけで精一杯なのだが、博貴にはそんな気配は無い。確かに顔を上気させ、細めた瞳をみると向こうも感じているからだろう。そんなことを考えて余計に大地は恥ずかしくなった。
 博貴も気持ち良いと思っているのだろうか?
 自分みたいに?
 ふとそんなことを考えたが、暫くすると快感に流され何も考えられなくなった。
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