Angel Sugar

「やばいかもしんない」 第10章

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「愛してるよ……大地……」
 そう言って額にキスを落としてそのままベットに押し倒す。次に横向きにさせて博貴は後ろから抱きながら背を丁寧に愛撫した。前に回した手で大地の身体を上下にゆっくりと滑らせると、腹の辺りに手が触れると「う……っ……」と痛がるような呻きごえを上げた。どうしてだろうと舌を滑らせて横から見ると、先程は身体の芯まで冷え切っていた所為でどこもかしこも血の気のない色を見せていたが、抱き合っているうちに体温が上がり、いつもの肌の色になってきたにも関わらず、部分的に青く痣になっている所があるのが分かった。
「大地……ここ……痛い?」
 お臍の横をちょっと押さえると、大地はキュッと身を強ばらせた。
 青くなっているところは、へその横とウエストの横の辺り、それと下からみて確認できる顎の辺りである。きっと男達に拘束される前か後に、抵抗し蹴られたか殴られたりしたのだろう。
 博貴はそんなことを大地にした、顔の分からない男達に対して怒りを覚えながら、そんな大地の傷ついた所を丹念に舌で愛撫してやった。
「あっ……はあっ……や……」
 足の付け根まで舌が滑り降りると、大地はそう言って頭を軽く押さえてきた。
「ここ、気持ちいいんでしょ?」
 既に立ち上がった大地のモノを人差し指で腹に押しつけ舐め上げると、こちらの頭を押さえていたはずの手が、愛おしそうに上下に動かされ、髪を撫で上げそして撫でつける。
 その大地の緩やかな動作が、気持ちよかった。こんな風にされたことは今まで無かった。いつも自分の事で精一杯のような大地が自然にこういう行動に出てくれていることが博貴には嬉しい。
「あっ……う……うん……ん……あっ……」
 舌で弄ぶように辺りを愛撫し、指で揉むと大地はその度に身体を震えさせ、動かしていた手を止めるが、撫でる行為を止めることはしなかった。
「は……っ……やく……いれて……くれよ……」
 ぶるっと身をよじらせて大地が懇願する。博貴は大地の膝を立てさせ、後ろから溶けた中へ己の鉄を沈めた。
「はあっ……あっ……」
 背をしならせて大地は声を上げた。
「っ……」 
 博貴も大地の中の甘い締め付けと、トロトロに溶けた蜜坪につっこんだような感触とそれに伴う快感が頭の芯を痺れさせた。
「あっ……はっ……う……うん……っ……」
 最奥目指して激しく腰を揺らすと、先程放出した白濁の液が大地の太股と伝って流れ落ちた。だが、そんなものはお構いなしというばかりに博貴も荒く息を吐きながら大地からもたらされる快感に酔った。
 じゅぶじゅぶと淫猥な音があたりに響き、内部は博貴のものを断続的に締め付ける。腰を引くとこちらのものを逃がさないようにと熱い襞がからみつく。
「はっ……あっ……あっ……ああっ……あ……」
 シーツに頬を付けて大地の閉じることの出来ない口元から唾液が一筋流れ落ちている。快感に酔って零れる涙はシーツに落ちて吸い込まれていく。
「いっ……ああ……あ……は……あっ……」
 感極まった表情で大地が喉から絞り出すように声を発した。手はシーツを握りしめてくしゃくしゃにしていた。
「い……悦い……はっ……あ、はあっ悦い……っ」
「私も……だよ……っ……大地……っ」
 博貴が大地のモノも掴んで動きにあわせて擦り上げ、腰を激しくグラインドさせた。握りしめたモノの先端から白濁の液がトロトロと手にこぼれ落ち、大地が必死に空気と取り込もうと喘ぐ。
「はっ……あっ……あっ……」
 自ら腰を振って深く博貴のモノを取り込もうとする大地は腰を突き上げ、ねだるように身をよじる。そんな大地の嬌態にこちらも煽られた。
 大地の全てに自分の印を刻んでおきたい。手の先から足の先まで……おそらく出来るのなら細胞に一つ一つにだった。
 確かに大地は無事に帰ってきた。だが、藤城に聞いたとき一瞬大地が無理矢理犯されたと思ったのだ。あの時、血の気が引いて、怒りで身体が震えた。もし、そんなことになっていたのなら、大地を辱めた相手をどんなことをしても捜し出し、半殺しの目に合わせていただろう。
 いや、殺していたかもしれない……
「大地……っ……」
 ギュウッと手の中のモノを掴むと大地の膝を立てた身体がしなり、同時に内部がきつく収縮する。
「……っ」
「あっあああっ……」
 緩んだ口元を開けて大地は声を上げ、手の中のモノから白濁した液が溢れた。同時にこちらも大地の暖かな奥に向かって放出した。内部の収縮は全て取り込み痙攣していた。
 手の中のモノも同じくビクビクと震え、力をうしなったものを掴んだまま上に、にじり上げると大地が甘い声で鳴いた。
「あっ……やあっ……」
 快感の涙目になった大地がベットに身体をのばし、その刺激を堪能している。手を離そうとすると、大地の手が博貴の上に添えられた。
「もっと……して……」
 ちょっと照れたような、それでいて、大地は娼婦のような目を向ける。
「大地って可愛いねえ……いつもこうならすごく嬉しいんだけどね」
 そう言って博貴は大地が添えている自分の手から覗いていた大地の力を失ったモノを口に含んだ。先程溢れたものでヌルリとしている。それを大地に聞こえるように、博貴は音を立てて舐め回した。その音に興奮しているのか、大地は小さく何度も鳴いた。
「あ……ん……っ……ひろ……きっ……」
 甘い声を上げながら手を離そうとするので、博貴は言った。
「大地がしっかり持っていてくれないとね……ここ触れないよ。ここも触って欲しいだろ?だったら、しっかり君が立てておいてくれないとね」
 博貴は自分の手を離して大地に握らせると、ひくついて赤くなった所に指を入れた。すると大地の身体はしなった。 
「ひっあ……っ……」
 二度ほど入れた所は赤くめくれてひくつきを止めなかった、博貴はそんな中に指を二本沈めると、中のものを掻き出すように、指を折り曲げては廻した。その度に中にあった蜜がトロトロと零れだし、大地の下半身と大腿部を濡らした。
「大地……まだ中はヒクヒクしてるね。指に吸い付いて離れないよ」
 くわえていたモノを少し離して博貴が言った。
「あ……やだ……っ……」
「前も後ろも敏感だね。ここもほら……っ」
 言って蕾の奥をかき混ぜながら、もう片方の手で二つあるものを手でこね回し、口元で大地が押さえている立ち上がったモノを口に含んで舌で弄ぶと、大地が顎を仰け反らせて声を上げた。
「あっ……あっやっ……やああっ……」
「ん?気持ちよくないの?嫌なのかい?じゃ、止める?」
 全ての動作を止めて博貴は自分の濡れた口元を舌で舐めてそう言った。大地は怯えたような目に急になると、上半身を起こして、博貴の頭を抱いた。
「博貴……やだ……やめちゃ……やだよ……もっとして……もっと……」
 いやいやと言う風に大地が頭を博貴に擦りつけてくる。その仕草が妙に子供っぽくて可愛かった。
 たまにはこういうのも悪くない……博貴はそう思い、大地が求めるだけ与えた。

「……っつ……」
 目が覚めると身体中が痛かった。その上、眠っているのはベットの上ではなくて博貴の胸の上であった。身体を起こしてずらそうと思ったのだが、下半身から鈍い痛みが走り、結局断念して、温かい胸板に頬を付けた。 
「起きた?」
 ニンマリした笑みを口元に浮かべて博貴が言うと、こちらは戻ってきた記憶の為に首から耳の先まで赤くなった。
「う……うん……」
「……スッキリした顔してるよ、君」
 くすくすと笑いながら博貴は言って鼻をつまんできた。大地は何を言って良いか分からなくなった。自分の見せた醜態が思い出されて、言葉が出ないのだ。
「だってねえ、大地離してくれなかったんだもんねえ。入れて、触って、キスしてって色々注文五月蠅いし、何度イかせても満足してくれなかったんだから……こっちもまだ身体を起こせないよ」
「お、おおおお、俺っ……その、あー……ごめん……」
「ごめん?謝るような事をしたのかい?君は私を求めてくれた。私も君が欲しかった。いいんじゃないの?それで……」
 あっさりそう言って博貴は笑っている。
「なあ……お前、すげえ、顔がつるつるってしてるような気がするんだけど……」
「なんか、スッキリって感じだねえ……もう、絞り尽くしちゃったってとこかな」
 真顔でそう言うので大地は呆れてしまった。
「……あ、あ、そ……」
 大地は何か言うのを諦めて博貴の厚い胸板に身体を預けた。博貴の腕が背に廻り、緩やかに撫でてくれる。その動作がとても気持ち良い。
「大地……もしね……」
 ふと博貴が言った。
「何?」
「もし、君が、不本意で何かあったとしても、私は君を愛しているからね。分かってる?それだけ私にとって君は大切な人なんだよ」
 まるで言い聞かせるように博貴が言った。
「俺……何も無かったよ。多分……」
 覚えている限りでは何も無かった。
「うん。知ってる。君は必死に理性を保って身体を守ったんだよね。うん。分かってるよ。そうじゃなくて、もしもの時の事だよ。もしも何かあっても……私は君を離さないからね。君が嫌がっても、私は離さないよ。例え大地が私を嫌いになっても……諦めない」
 真剣な目で博貴がそう言った。
「……やめろよ。俺がそんな目に合ったときの話しなんてさ。その上、俺がお前を嫌いになるって?逆だろ。お前が俺に飽きる方が早いよ……」
 そう言うと博貴は暫く黙り込んで、又言葉を繋いだ。
「一度聞きたかったんだけど、君……私が大地に飽きる事なんて考えてるわけ?だから、酔ったりしたら、そう言うこと言うのかい?それとも普段心の何処かで、くだらないことを考えてるから、そう言う言葉がでてくるのかい?」
「え?」
「私は、君を手放す気なんかこれっぽっちもない。君が私から離れていくことも考えたくない。君は私に惚れてると自信を持っているつもりなんだ。私自身が大地に惚れているのと同じくらいね。でも君は違うの?」 
 じーっと見つめながら言われて大地は困ってしまった。
「だってお前もてるもん。俺そんなにもてねえけどさ。一緒に歩いても、女の子はお前に振り返るじゃねえか、そんなの見てたら、不安になるよ。そりゃ、大良は俺のこと好きだって言ってくれるし、信じてるけど……。やなんだよ俺……女がお前に惚れるの見るの……百人いたら一人くらい俺より良いって思う女の子出てくるかもしれねえじゃん。俺は男だし……抱き心地が良いと思わない。それに性格だってぜってー可愛くねえっ。それ、分かってるけど、俺可愛くなんかなれねえし、言葉遣いだって可愛くなんて出来ない。だから時々どうして良いか分からなくなる。もしかしたらお前……俺の作る飯だけに惚れてるのかなあって思うとき……ある」
 淡々と大地がそう言うと、背を廻っていた博貴の腕がするりと下半身に伸びた。
「やっ……ちょ……」
「あのねえ、心底惚れてないとこんな事につき合えないでしょ?」
 言いながら博貴の手はまだ乾いていないぬるりと湿った部分を撫で回した。
「博貴……やめろって……俺も……」
 大地は触れてくる腕を掴んでそう言った。
「大地……こんなに濡れてるのは……私が一杯愛してあげたからだろう?君もそれに応えてくれたから……濡れているんだ……だろ?」
 ニヤニヤとしながら博貴は言った。
「あっ……あ、う……うん……分かったから……も、触らないでくれよ……なんかヒリヒリするんだもん……」
「だろうねえ……君のここに何度つっこんだか、分からないくらいだからねえ」
 クッと笑って博貴が言った。
「え、えっちいこと言うな!俺……思い出したらもーお前の顔まともに見られないくらい恥ずかしいんだからな」
 ああもう、記憶喪失にマジでなりたいと大地は本気で思った。
「大地……」
「わあっ……!」
 急に大地は組み敷かれて声を上げた!
「大地……怖かったね……もう大丈夫だからね……」
 軽くキスをされて、その心地よさに大地の瞳が細くなった。
「うん……」
 博貴の首に腕を廻して大地は直に触れる肌の温もりを味わった。規則的な鼓動に安堵感が急にやってきて、忘れていた恐怖と入り交じり、瞳から涙が落ちた。
「あれ……あれれ……」
 そんな自分に驚きながら目を擦る。
「泣き虫だねえ……大ちゃんは……」
 頬に伝って涙をチュッと口元で掬われて大地は鼓動が早まる。
「俺……覚えてる……うん。すげえ気持ちよかったの……覚えてるんだ。何か夢見てたみたいだ……すごく気持ち良い夢……。今は身体痛いけど……」
「君は分からないかもしれないけど、君の中ってすごく気持ち良いんだよ。なんかもう、女なんか目じゃないね……熱くて、柔らかくて……こっちも溶けそうだった……」
 うっとりした目で博貴は言った。
「うわっ……馬鹿……っ……止めろ……そんな風に言うな!!」
 手で博貴の口を押さえてそう言った。その手をやんわりと博貴が掴んで更に言う。
「本当だよ。きっと大地のあそこは名器なんだよ。うん」
 め、名器ってなんだ??
 頭に血が昇って湯気の出そうな程、大地は恥ずかしかった。どうしてこいつはさらっとこんな事を言うのだろうか?
「お、おおお、お前なあっ……!何言ってるんだよっ!止めろっ!」
「大地ってからかうと可愛いねえ……」
 ペロリと頬を舌で撫でられ、大地は博貴に何か言うという根性が萎えた。
「……で、俺何で安佐さんに助けられたんだろう?っていうか、何がどうなってるのか俺全然分からないんだけど……博貴、藤城さんに何か聞いてる?」
 どう考えても拉致されるような理由が思いつかないのだ。
「何も聞いてないよ。ただ君を迎えに来てくれっていわれただけだね。あのね、私が事情を夕方聞いてくるから、君はうちにいなさい。ああ、本日は病気で休むと君の会社には連絡して置いたから」
 当然のように博貴は言った。
「はあ?お前勝手に休みにするなよ」
「でもねえ、君動けるの?私も結構きついよ、今日は……」
 苦笑しながら博貴は言った。
「た……確かに……」
 身体も痛くて怠いのだが、それよりも頭がクラクラするのだ。多分打たれた薬の所為なのだろう。
「だろ?まあ、君が私を許してくれたのは朝方だったからねえ。それから私も暫く仮眠を取って、君と自分の会社に連絡を入れて、もう一眠りしたんだよ。その間君はぐっすり眠りこけていたから仕方ないだろう?本当に、君の体力につき合うのも大変だったよ。まあ、私は美味しく君の熟れた所をたっぷり頂きましたけど」
「……」
 口では勝てない大地は博貴のそんな台詞を無視した。
「で、大ちゃん、そろそろ、このマンションの感想を聞きたいんだけど……」
「あ、ここ、ここなんだよな……って、お前……っ!このベット……キングサイズ!!」
 周りをわたわたと見回して大地が言った。十二畳ほどある部屋にキングサイズのベットがどんと置かれている。クリーム色の壁紙は模様に凹凸があり、そこに光があたると、柔らかい陰影を浮かび上がらせる。足下近くの壁には小さな電灯がいくつもついており、白熱灯のような鮮やかさはなく、その変わり暖かみのある光を発していた。まだそれほど家具が入っていない所為か、妙に広々としていた。
 南向きの窓は上から下まであり、分厚いカーテンが太陽の光を遮っていた。
「わあ……すげえ……」
 口をぽかんと開けた大地がおかしかったのか、博貴はくすくす笑っていた。
「……でもさ、ここでもこんな風って事は……他の部屋……どうなってるの?」
「まあ、大地が何時家族を連れてくるか分からないから、君の部屋が六畳あるよ。もちろん。使わないベットがいれてあるだけだけどね。あと客間として畳間が十畳、リビングキッチンに二十畳、納屋として六畳。他は……ウォークインクロゼットが十畳ほどあるかな……あとお風呂とかそんな風に何処にでもあるもんが付いてる」 
「……リビングダイニングに……二十畳ってお前……」
「大地は料理が好きだから、冷蔵庫やキッチンも良いものを入れたよ。使いやすそうなのね。ねえ、大地、リビングからは外に出られるんだよ。ベランダから屋上の公園に続いているし、ああ、緑化計画の一環で木を植えてるけど、一般住民は入られないようになってるんだ。ま、オーナー権限で椅子や机を置いて、天気の良い日は外で食事出来るよ」
「いや、そーゆうんじゃなくて……こ、こんなとこ……俺……落ちつかねえよ……俺、やっぱり駄目だよここ……」
 どうせ博貴のことだから、こちらが名前も知らないブランドのものが、自然にあちこち鎮座しているのだろう。それを考えると怖くて仕方ない。大地には本来関わりのないものばかりだからだ。
「……大地約束してくれたよね。一緒に住んでくれるって……」
 ジロッと睨むようにして博貴はこちらを見たが、似合わない自分がここに住むのは恥ずかしすぎるのだ。
「い、言ったけど……こんなすげえとこだと思わなかったから……」
「すごくなんか無いよ。まあ、他のフロアよりは間取り多いかもしれないけどね。この階はオーナー専用だから、他の住民は住んでいないしコーポでエッチするより、こっちの方が秘密厳守出来るよ」 
「そ、そういうんじゃねえよ!」
「男が一度した約束を破るのかい?」
「だって俺……こんなの……落ちつかねえ……」
 今も周りの状況を確認して、そわそわしているのだ。
「慣れるよ大地……大丈夫……。ねえ、こんな広い家で私一人きりにさせる気かい?寂しくて誰か連れ込んじゃってもいいの?」
「お前それマジで言ってるのか?俺いなかったら誰か連れ込む気でいるのかよ」
 冗談でも聞きたくない台詞だ。
「ああ、連れ込むね。誰もいない家に仕事から帰ってくるの嫌だからね。私はこれでも寂しがり屋なんだ」
 それがどうしたという風に博貴は言った。
「……なにが寂しがり屋だよ……」
 溜息をついて大地は言った。
「大地……君本気で言ってるの?」
「……だってさ……俺……こんな奇麗で広い家……似合わねえよ」
「大丈夫……大地……約束は約束だよ……ここはこれから君と私の家だ……」
 いつの間にか抱きしめられて甘く囁かれた。
「う……うん……でも……」
「でもなんて言葉は聞きたくないよ……。私のためだって思ってここに一緒にいてくれないかい?寂しがり屋の私の頼みを聞いてくれないのかい?」
「……」
 決心がなかなか付かないのだ。
「それじゃあ仕方ないね。君がうんって言ってくれるまで、もうひと鳴かせしないと駄目なのかなあ」
 言いながら博貴の手は大地の下半身に伸びる。
「わっ……馬鹿……俺もう今できねえぞ!も、くたくたなんだよ!」
 こいつはこういうときは本気なのだ。
 嫌だと言ったらマジでやられてしまうだろう。
「約束…守ってくれる?私は君を一晩満足させたんだよ。つき合ってあげただろ?じゃあ、ご褒美に私の言うこと聞いてくれなきゃねえ」
 首元に唇を滑らせて博貴は言った。
「……分かった」
「本当に?後からやっぱり嫌だは聞かないよ」
 じいっと見つめられて大地は腹を決めた。
「うん。約束だからな……」
「じゃあ、お風呂に入ってからご飯でも食べようか?私は腹ぺこだよ……」
 頬にキスを落として博貴は言った。だがこっちは動きたくない。だが濡れた部分を洗い流したいとという欲求の方が強かった。
「う……うん」
「あ、忘れてた。バスはね二つあるんだよ。寝室についてるでかいのと、他にもう一つね。ああ、ワインセラーも作ってある」
 この男は何処まで贅沢ものなのだろう。一体いくらかかったか予想が付かない。だが聞いくと決心が揺らぐのが分かっていたから何も聞かなかった。
 大地はよっとベットから足を下ろして床につけて立つと、血の気がすうっと引いて倒れそうになった。
「大地、大丈夫かい?君、変な薬打たれたから、それがまだ残ってるんじゃないのかい?」
 がしっと博貴に支えられて大地はふうっと息を吐いた。
「頭クラクラするよ……なんか二日酔いに似てる……身体も怠いし……」
 怠くて怠くて立っていられないのだ。
「身体が怠いのはやりすぎなんだよ。ほら、掴まって。一緒に入ろう」
「……やりすぎ……」
 余計に倒れそうな事をいうな。と大地は心の中で思った。
 ようやくバスルームに着くとやはり広い浴槽に大地はあんぐりとした。タイルは薄いピンクと黄色を基本として敷き詰められている。
「……も、俺……何見てもおどろかねえ……」
 小さく溜息をついて、二人で身体を洗いあって、と言っても大地には立つ元気が無かったために、博貴のなすがままに洗われた。嫌だというのに、恥ずかしい部分迄、それも指を入れられて洗われた。まだ残っていた博貴のモノがトロトロと太股を伝うと、もう、逃げ出したくなるくらい恥ずかしかった。
 だが身体の反応は鈍く、抵抗する腕の力も弱い。その上これでもかと付けられたキスマークの跡がさらに気を遠くさせる。
「お尻がなんだか気持ち悪い……」
 何処がという場所が分からないのだが、もぞもぞして何となく気持ちが悪いのだ。
「何度も君の中でイかせて貰ったから……それでじゃないのかい?」
「…そ、そうなの?」
「だって外で出させてくれなかったからねえ、仕方ないだろ」
「は……ははは……はあ……」
 気力も根性も費えた気分であった。
 身体を洗っているうちに湯が入り、その中に博貴が白い粉をまいた。湯は乳白色になりいい香りがする。
「はあ……気持ちいい……なんか筋肉がほぐれる……」
 身体を伸ばし、縁に腕をかけて大地は言った。
「大地……ねえ、少しは原因分かってるのかい?何かトラぶったこととかないの?」
「……ねえよ。んな、監禁されるようなことなんて俺やってねえし……」
 バシャバシャと顔を洗って大地は言った。湯の温かさで頭がぼんやりしてくる。
「藤城さんがその理由知ってるのか?」
 大地が、ふと言うと博貴は聞いてない振りをして、目を閉じた。
「ほんっとにお前って藤城さんのこと毛嫌いしてるよな」
 溜息混じりに大地が言った。
「あのねえ大地、藤城はね、もし昨日私がすんなり掴まらなかったら、自分が大地の相手をしてやってたって言ったんだよ。そんな奴毛嫌いして当然だろ」
 ムッとした顔で博貴は言った。
「冗談に決まってるじゃないか……そんなの」
 ははっと笑って大地は言った。
「馬鹿だね大地。昨日の君は普通じゃなかった。やっとこ残った理性で私や藤城を見分けていたけど、あのまま時間が経ってたら、君は自分自身を見失っていたよ。それは薬の所為だけど、そんな君を一晩放っておけるわけないでしょ。仮にも藤城は君が好きなんだから……」
「そんなことねえよ。心配しすぎだって」
「これだから大地は……君の理性ぶっとんじゃって、それで、藤城に助けを求めたら藤城だってどうしようもなくなるだろ。君が薬の所為で苦しんでるのを放って置けないよ。誰だって欲望ってあるんだからね。いくら理性的に振る舞いたいと思ってもそれが吹っ飛んじゃう一瞬がある。まさにあのときがそうだね」
 クスリとも笑わずに博貴は真剣な顔でそう言った。
「……まあ、ほら、藤城さんとは何も無かったんだから、な、そんな真剣になるなよ」
「だーいーちー……ほんっと分かってるのかなあ?」
 急に引き寄せられてばしゃっと湯が跳ねた。
「分かってるよ……ほら、それに大良だけにして欲しいって言ったろ?も、それで許してくれよ」
 言うのは恥ずかしかったが、博貴を納得させるような言葉がそれしか思い浮かばなかったのだ。
「……そうだね……良い思いさせて貰ったから……」
 にいっと笑う博貴に溜息をつきながら大地は言った。
「俺……マジで腹減った……」
「君はほんっと、ベット以外では色気がないねえ」
 苦笑しながら博貴は言った。まあ、確かに腕の中に囲われて言う台詞では無いだろう。だがもう限界だった。
「でも、食い物なんかあるの?まだ住む予定じゃなかっただろ?」
「来週からと思っていたからね、冷蔵庫にはビールくらいしか入ってないよ。仕方ないから何か取ろうか?」
 ざあっとバスタブから出て博貴が言った。
「俺もうちょっとここにいるよ」
 大地は身体を伸ばしてそう言った。ぬるめの湯がとても心地良いのだ。
「じゃあ、大ちゃんが出てくるまでに何か注文しておくよ」
「うん……ありがと」
 博貴が出ていくと、大地はもう一度伸びをした。
「なんかもー俺……当分、大良に頭あがらねえよ……」
 このまま湯に沈んでしまいたいなあと思いながら、大きな溜息をついた。

 着替えをどうしようかと思いながら湯船からあがると、洗面のかごにタオルケットの柔らかいバスローブが畳んで置いてあった。博貴が用意してくれたのだ。それを羽織ってよたよたと寝室へ戻った。頭の奥がまだクラクラとしているのだ。身体も怠いし、腰は痛い。 ベットに倒れ込んで、何時のまにか替えられたシーツに顔を埋めてその柔らかな感触を味わった。このまま眠りそうだなあと思っていると、博貴が寝室の扉を開けて帰ってきた。
「大地、リビングに食事用意してあるんだけど、歩けるかい?」
「うん……大丈夫と思う……」
 怠そうに身体を起こして大地は言った。
 リビングは寝室や浴室を見たときより驚いた。二人で暮らすには広すぎるキッチンは全て電気であった。取り付けのレンジはガスレンジと電子レンジと二つそろえられ、クリーム色と薄いオレンジ色でコーディネイトされたタイルは暖かみがあって雰囲気がいい。床は総フローリングで何だか高そうなキッチンテーブルが置かれている。だが驚いたのはそこから続くリビングだった。そちらはダイニングとは違い、マントルピースまである。その上は梁のようになっており、そこに二つの球形の照明とポトス、テーブルは低く、周りをソファーが囲んでいる。
 その向こうにはサンルームがあり、そのまま外に出られるようになっていた。
「……ここ……どこ?」
 思わず立ちつくしてそう大地が呟くように言った。
「ここがリビングダイニングだよ。さ、ご飯にしようか。一階にイタリアンレストランが入ってるからそこから取り寄せたよ。ランチメニューだからちょっと物足りないかもしれないから、夜は外に食べに行こうね」
 博貴はそう言って椅子を引くと、大地の手を取り、そこへ座らせた。目の前には普通のトマト味のパスタと、山海のサラダ、コンソメスープとフランスパンというメニューのイタリアンランチが置かれていたので、ちょっとホッとした。
「……聞かないで置こうと思ったんだけど……この設備のお金は誰が出してるんだよ?」
 既に頂きますをした博貴が、トマトソースのかかったパスタを食べようとフォークを突き刺しているところだった。
「え、まあねえ。でもまあ、たいした金額じゃないよ。それにこのマンションのオーナーだから毎月まとまった賃貸料が入るし、別に気にしないでいいんだよ」
 まとまった賃貸料とはいくら位なんだろう……と大地は思ったが、聞かないことにした。
「……ふうん。でもさ、少なくても俺からも家賃としていくらか請求してくれよ」
 バターを塗って焼いたフランスパンをちぎりながら大地は言った。
「いらないって言ってもこればっかりは君にもプライドあるだろうから、そうだね、あそこのコーポで一緒に居たとき食事代ってことで私に払ってくれていた金額で良いよ」
「あのなあ、ふざけんなよ……毎月払ってた食事代って一万じゃねえか、それもほとんどお前取らなかったろ。そりゃ俺沢山払えねえけど、五万……払う!」
 五万はかなりきつかった。今までなら会社がかなりの金額の家賃を負担してくれていたからだ。
「大ちゃん……多すぎるよ。貰っても私は使いようが無いよ……」
 手を振って博貴が言った。
「でも、俺、ここにただで居座ったらなんだか……その……愛人みたいでいやなんだ。だから受け取ってくれよ」
 家賃を払わなかったら、本当に愛人だ。
 そんなのは絶対嫌だった。
「……そう言うことなら仕方ないね……じゃあ二万」
「四万!」
「二万五千円だよ。これ以上は貰えないからね。私だって、ここをただで貰ったのに、君から貰うの心苦しいんだよ。私が家賃払う訳じゃないんだから食費として貰うから。いいね。分かったかい?この話はこれで終わり」
 ぴしりとそう博貴は言った。
 考えてみると、博貴もここをただで貰うのだ。だからこの辺りで妥協するのが良いのかもしれない。なにより二万五千円なら、今まで家賃として会社から請求されていた金額に近いからだ。
 それでも安い事は安い。
「うん。ありがとう。俺も助かる……」
 博貴はその大地の言葉を聞いてニッコリと笑みを浮かべた。
 食事を終えると大地は急に眠くなってきた。ごちそうさまを言うのも虚ろであったほどだ。満腹になった所為だろう。
「大ちゃん……すごく眠そうだね」
「うん、俺……寝て良いかなあ……」
 睡魔の誘惑はどんどん大きくなる。
「いいよ。ちょっと出かけるから君はゆっくりしてくれていたらいい」
「出かける?」
「藤城の所だよ。事情を説明して貰わないと私は納得出来ないからね」
「じゃ、俺も行く……」
 と言って椅子から立ち上がると、睡魔とは別の立ちくらみが襲ってきた。
「ほら、大地……、君まともにあるけやしないんだから、大人しく寝てなさい。いいね。それにここから出たら、キーを持っていない君はうちに入れないから、出ないこと。分かった?」
 博貴は大地を支えてそう言った。俺も聞きたいんだよと思うのだが、もう立ってるのも辛い。食事に一服盛ったんじゃ無いかと思うくらいだ。
「あ……うん。そうする……」 
 博貴の腕を掴んで寝室まで来ると大地はベットに倒れ込んだ。
「……あー……帰ってきたら……教えてくれよ……」
「はいはい、約束するよ」
 博貴はそう言って毛布を大地の身体に掛け、ポンポンと背中を叩いた。それが気持ちよく、大地はそのまま眠りについた。
 その後博貴が愛おしそうに大地の頬にキスを落としたことには気が付かなかった。
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