10万ヒット記念企画 テーマ「H」 第10夜
アル&ユウマ
アル「H」について考える。 私の名前は幾浦アル 幾浦家に飼われ、今年二歳になるアフガンハウンドだ。 自分で言うのも何だが、私は自分が犬だと認めていない。それに飼われているとも思っていない。ご主人様の友達だと自分では思っている。ご主人様もそれを分かってくれているようだ。だから私を鎖で繋いだり絶対しない。 まあ…… そんなことされたら…… 私は、切れるが…… だが本当は鎖より嫌いなものがある。それは病院だった。病院に関しては嫌だと言っても聞き届けて貰えない。理由は分かっているがやはり好きになれない。 そうして今年も又、注射の季節がやってきた。毎日何時だろうとビクビクしていたが、ご主人様が突然言った。 「アル、動物病院から連絡が来たよ。そう言えばもうそんな季節なんだな……」 何故かそう言うご主人様の顔は私に同情しているようだ。 同情はいらない。それより連れていかないで欲しいと、毎年思うのだが、それが私の身体の事なのだから文句は言えない。 私の健康に何時も気を配ってくれているご主人様様の気持ちはやはりありがたく受け取らないと駄目なのだろう。何より注射を打たずに病気になると、もっと嫌な目に合う事を、以前こんこんと諭されたのだ。 それ以来私は大人しく病院に行くことにしていた。 その日の夕方、私はご主人様のベンツに乗って動物病院へと向かった。外は小雨が降ったり止んだりしている嫌な天気だ。 そんな車外を見るのが嫌で私は後部座席で丸くなった。 「ああ、アル、途中でトシを拾うからな。今日は早く帰られるそうだ。お前も久しぶりにトシに会えて嬉しいだろう……」 本当は自分が嬉しいご主人様なのだが、照れくさいのか私にそう言った。 トシというのはご主人様の恋人だ。それも男性だ。まあ私も大人だから、相手には女がいいとか男は駄目だとか言うつもりはない。何より私が気に入ったから、玄関に入ることを許したと言ってもいい。 そのトシはなんだか不思議な人間で、どうも一つの身体に二人入っているようだ。そんな人間は見たこと無かったが、まあ世の中には色んな人間がいるようなので、二人くらい一人の身体に入っていても良いのだろう。 私はどちらとも自分は仲良くやっていると思う。トシは、私が初めて恋した相手なのだが、そのトシの相手はご主人様なのだから張り合うことは出来ない。それに私は自分が犬だと認めていなくても、見た目は犬なのだからトシとつり合うわけなど無いのだ。それを一瞬で悟った私は、仕方無しに諦めた。今はまるで親友の様に仲が良い。 後もう一人の方だが、こちらは危険だ。ご主人様はリーチと呼んでいるが、私の本能は彼を怒らせるのは止めた方が良いと言っていた。それは大昔、犬が狼のように上下関係を持ち群れていた時に培った本能が警告したのだろう。あのリーチは群で言うと、私より数段上の存在なのだ。だから逆らわず従属している方がいい。リーチは人間なのに、何処か動物的なものを持っているからだ。だから私がもしリーチに対し少しでも不服を感じたら、向こうはそれを感覚で捉えるだろう。そうなると、喉笛に噛みついて来そうなタイプだ。 悲しいことに私はあのリーチには反撃できない。それも又本能で悟っていた。 何より一番恐いのはあのリーチに何か憑いているように見える。 まあ…… 悪さしそうなタイプじゃないから良いんだが…… 「トシ……時間通りだな……」 いつの間にか車は停まり、トシが助手席に座った。 「うん。珍しくね。こんな事滅多にないよ……」 クスクス笑いながらトシはそうご主人様に微笑みかけている。 可愛い笑顔だ…… 私が人間だったら…… 例え相手がご主人様であろうと堂々と張り合えたのに…… どうして私は犬なんだろう…… 何度も思ったどうにもならないことを、トシの笑顔を見るとまた私は不覚にも思ってしまう。 「アル……今から病院なんだよね。もしかして恐いんじゃないの?注射……」 その穏やかな笑みに私は思わずトシの頬にキスをしていた。 「あはは……くすぐったいよ~舐めないでっ……」 ちっとも通じていない…… 私はトシにキスの雨を降らせたつもりだったが、トシは私がただじゃれているとしか思っていない。 所詮……無理なのだろう…… 分かっていたのだが、何時もこの現実が悲しい。そうであるからトシを諦め、自分も新しい恋をするのだと決心した。だが、これと言って心ときめく相手がいない。 恋がしたい…… ああ…… そんな季節だ…… 私がそんな風にぼんやりと思っていると、動物病院に着いた。 相変わらず馬鹿共がわんわん、にゃんにゃんと叫び声を上げている。ここまで来てじたばたしても仕方ないだろう……そう思った私は一人何食わぬ顔でご主人様の足下に行儀良く座った。 「アルは本当に賢いね」 トシはこちらの頭を撫でてそう言った。 そうだ…… 私は賢いんだ。 注射は嫌いだが、仕方ないのだから諦めるしかない。 どうしてみんなはそれを分からないのだろう。 馬鹿にしたような目をチラリと周囲に向けると、真っ黒な小さな子猫と視線が合った。その瞳は黄金色で、体毛は奇麗に手入れされて光沢を放っていた。 「んだよ……がんつけてんのか?」 黒い子猫は主人らしき男の膝に丸くなりながらも、こちらに鋭い視線を投げかけた。 「そんなつもりはないよ。少々目が合っただけで、いちゃもんをつけていると思われる方が不愉快だ」 私はムッとしたようにそう言った。 「あそ……」 言って子猫は又丸くなった。 「ユウマ……意外に大人しいな……」 飼い主らしき男がそう言って、膝の子猫の頭を撫でる。すると子猫はもうこれでもかと言うくらい嬉しい表情を見せた。 なんだ…… 可愛い顔ができるじゃないか…… 私はそのユウマと呼ばれた子猫の顔から視線が外せなくなった。 するとその私の視線に気が付いたユウマがまたジロリと睨んできた。 「何ジロジロ俺の顔みてるわけ?」 「いや……別に……」 やや視線を避けて私は言った。 「俺は野良猫だったんだ。だからそうやって見られると喧嘩ふっかけられていると思っちまうんだよ。そんな気が無いなら見るな。鬱陶しい……」 子供の癖に生意気な口調だ。 その上、野良猫…… 素性がしれるとはこの事だな…… 育ちが悪すぎる…… 「野良猫ね……」 そう言うと、ユウマはもう一度言った。 「悪いか?金で取り引きされたような、ご立派な身分じゃないんだよ。悪かったな野良で。こっちは人に言えないような苦労をしてきたんだ。なのにお前みたいな苦労知らずに、鼻で笑われながら野良か……ってどうして言われなきゃならないんだ?このぼんくら犬め。図体ばっかりでかいのがいいってもんじゃねえんだよ」 ユウマは立ち上がって姿勢良く座ると、そろえた両足に長い尻尾を巻き付けた。その姿が私にはとても堂々として見えた。 「ユウマ?どうしたんだ?駄目だろう……」 急に身体を起こしたユウマに飼い主が驚いた風にそう言った。 「ごめん戸浪ちゃん。でもさあ、あいつが文句つけてくるんだよ。鬱陶しくてさあ……別に喧嘩しないよ……」 人間に通じるわけでも無いのに、ユウマは飼い主の方を向いてにゃーにゃーと鳴いた。 「……野良って言ったことは悪かったよ。済まなかった」 野良なのだろうが、そう見えないほどユウマは奇麗な毛並みと、美しい黄金の瞳を持っていたのだ。 「……ふん。じゃあ最初からこなかけてくんな……」 だが口調はまるで可愛くなかった。 「アル……お前の番だぞ。何をさっきからクンクンと鳴いてるんだ?恐いのか?」 恐い訳じゃなくて…… あの黒猫が…… と、思っている間にさっさと診察室に連れて行かれた。 そこの診察室は広く、そして医者の人数も多いせいか、同時に数匹が診察を受けている。 チラと見ると、あのユウマも右隣の机にのせられて診察を受けていた。だがユウマは何故か大暴れしている。それを飼い主と松葉杖を持った連れが抑えていた。 驚いて眺めていると、ユウマが激しく怒っていた。 「触るなっ!俺はそれに触られたくないんだっ!もう治ってるんだよっ!思い出すから触らないでくれよっ!」 先程の強気なユウマからは全く想像も付かないほど、情けない声だった。 「ユウマっ、嫌かもしれないけど、ちゃんと見て貰わないと駄目だよ。ああどうしよう祐馬……嫌がってる」 「仕方ないよ……後で膿んだりしたらこいつ可哀相じゃんか。我慢して貰わないと……」 にぎゃー~と鳴き声を上げるユウマを押さえつけている二人がそんな会話をしている。 余程嫌なのだ…… 一体何だろう…… よく見ると背中に古い傷跡が見えた。ユウマはそれを触られたくないようだった。 あいてっ…… ぼーっとあちらを眺めていると、お尻に注射が刺された。自分のことをすっかり忘れていたのだ。 「アルって……ちっとも痛がらないね……」 トシが感心したようにそう言った。 「……お尻に神経が通ってないんじゃないか?」 ご主人様は笑いを堪えたようにそう言った。 「通ってるっ!」 ワンと鳴いて、私はそう訴えた。 痛いのだが…… あっちが気になるのだ。 いつの間にかユウマはぐったりと主人に抱かれ、黄金の瞳は涙に濡れている。 …… 可哀相に…… すると医者の声が聞こえてきた。 「これは……かすり傷じゃないですね……小さい頃、刃物か何かで切られたんですよ。それが自然に治ってこんな風に傷が盛り上がってるんです。……」 と、聞こえ、ユウマの先程触られていた古傷が人間によってつけられたものだと分かった。 そんな酷い人間がいるのか…… 信じられない…… 続けて聞いていると、その所為でユウマの成長が芳しくないようだ。ショックで成長が止まることがあるとも言っていた。 酷い…… 何て可哀相なんだ…… もっと話しを聞いていたかったのだが、私の方は診察室をご主人様によって連れ出された。 ユウマは…… 野良で…… 小さい頃人間に傷つけられて…… それでもあんな風に胸を張れるのだ。 先程のユウマの姿を思い出し、私は思った。 なんて素晴らしい猫なんだろう…… 奇麗な黄金の瞳…… 黒真珠のような真っ黒な体躯…… 精一杯意地を張って、強気に見せているユウマ…… 可愛すぎる…… 私はもう心の中からユウマを追いだすことが出来なくなった。 「さてと……精算は済んだし、帰ろうか……」 ご主人様がそう言った為、名残惜しい気持ちで後ろを振り返りながら私は出口に向かった。振り返りながら歩いていると、ユウマを抱いた飼い主が出てきた。 チラリとこちらを見たユウマは、先程の自分を見られた恥ずかしさの為か、主人の腕に顔を埋めた。 その姿に私は胸が締め付けらるほど愛しさを感じた。 自宅に戻ってからもあのユウマが忘れられなかった。 もう会えないのだろうか…… ソファーでクンクンと鼻を鳴らし、その事を考えると寂しくなった。 何処の猫だろう…… 何処に住んでいるのだろう…… 公園では見たことがない…… 近くで飼われているのだろうか…… 私の心は黒真珠のような光沢を放つユウマの事で一杯だった。 そんな私の気持ちなどお構いなしに、ご主人様はトシといちゃついている。 いつもは知らぬ顔が出来たが、本日はあまりにも刺激がきつい。 私も…… いちゃつきたい…… そんな季節なんだ…… 恋したいのだ…… いや…… 恋してしまった…… あのユウマに…… 真っ黒な黒猫に…… 「恭眞……好きだよ……」 私も好きだなんて言われたい…… 「トシ……愛してるよ……」 まだ愛していると言えるかどうか分からないが…… 「あっ……や……そんなとこ……」 ああ…… いいなあ…… 「ここ……何時もトシは気持ちよさそうな顔をするな?」 「……っあ……や……恥ずかしい事言わないでよ……」 楽しそうだ…… いや…… 幸せそうだ…… 「……ここなんかどうだ?」 「ひっ……あ……やだっ……あ……ん……」 何処なんだろうなあ…… 私だって気持ちよくなりたい…… 頭の中で思わずユウマのことを考えた私は自分も顔がぽーっとなってくるのが分かった。 そんな私の事など気にせず、ベットでご主人様とトシは楽しそうに抱き合っている。 私も…… 愛してやりたいなあ…… ギシギシと鳴るスプリングの音がこちらの気持ちを興奮させるのだ。 聞き慣れた音であるのに、今はとても辛い。 「トシ……ここは?」 「あっ……あ……恭眞……っ……」 涙声のトシが決して苛められて泣いているわけでないことを私は知っている。気持ちよすぎても涙が出ることを、この二人を見ていて知ったのだ。 不思議だなあと思うのだが、人間は色々大変なのだろう。 それより自分のことであった。 はあ…… 溜息しかでない…… もう会えないのかもしれない…… そう思うと悲しい…… 「……ああっっやっあっ……」 もう…… 思い切り聞こえてる。 ただでさえ耳の良い私は、例えその場にいなくても、寝室からの声や音はつぶさに聞こえるのだ。人間より遙かに耳と鼻が利くのだから仕方ないにしても、本日はちと辛い。 私だって…… 恋してもいい年なのだ…… そろそろ可愛い恋人が欲しい…… ユウマが隣りにいてくれたらきっと幸せだ…… もう一度会いたい…… クンクンと鼻を鳴らし、ユウマを想い、時折遠吠えのような声を上げていると、ご主人様が慌てて走ってきた。 なんだ…… 済んだのか……? 「アルっ……お前どうしたんだ……クンクン鳴くわ、妙な声を上げてるし……気持ち悪いぞ……」 いや…… ご主人様のその腰にタオルだけ巻いた姿の方が…… 私は気持ち悪いんだが…… 「恭眞……もしかしたら……その……さかりの季節じゃないのかな……。ほら最近猫が良く変な声で鳴いてるでしょ?犬だってあるらしいから、それだよきっと。アルも恋人が欲しいのかもしれない……」 バスローブを羽織ったトシが、そう言って頭を撫でてくれた。 そうだ…… 私も幸せになりたいんだ。 あのユウマにもう一度会いたいんだ…… そんな気持ちでクンクンと鳴いていると、ご主人様が言った。 「……去勢するか?」 なっ…… なんだと…… きょ、きょ、去勢っ!? アレを切るっていうのか? 私の男の証をご主人様は切ろうというのか? 真っ青になりつつ、抗議の声を私は上げた。 切られるなんてまっぴらだったのだ。 性別不詳になるなんて死んでも嫌だっ! 「きょ、恭眞っ!そんな可哀相な事を言っちゃ駄目だよ」 トシが間に入ってそう言ってくれたので、私はトシの後ろに廻ってご主人様から隠れた。ご主人様はこうすると言ったら聞かないのだ。だがトシの言うことなら何でも聞くことを知っていた。 「トシ!お願いだっ!ご主人様を止めてくれっ!私は嫌だっ!去勢なんか嫌だっ!」 ワンワンとそうトシに言うと、分かってくれたようであった。 「ほら、アルだって嫌だって言ってるじゃないか……誰だって嫌だよそんなの……」 トシは苦笑しながらも私の前に立ってご主人様を説得してくれていた。 そうだっ! なんだ自分達は会えば盛ってるって言うのに…… たまに私が鳴いたからって……どうして去勢になるんだ? 鳴くくらいならいいだろうっ! 「だがトシ……ご近所様に迷惑がかかるとな……」 って…… 待てっ! ご主人様達だって迷惑だったぞっ! 私の耳はとてつもなく迷惑を被ってきたんだ。 それを黙って知らない振りをしてきてやったのに…… 去勢なんてっ! それは酷すぎるっ! 「……う~ん……それを言われると辛いけど……」 ああっ! トシまで去勢オッケーか? あんまりだ…… 酷すぎる…… 私はあまりの事に真っ白になりそうだった。自分が男でなくなる日が来るなど想像したことが無かったのだ。 去勢されたら…… 性別は何になるんだ? うわああああっ…… 嫌だっ…… 「でもさあ……ほら、恭眞が盛りすぎて五月蠅いから、去勢してよって僕に言われたらすっごいショックだよね?それと同じで、アルも今、とっても傷ついていると思うよ。多少五月蠅いかもしれないけど……去勢は可哀相だよ。アルだって男の子だもん。それより可愛いお嫁さんを連れてきてあげたら済むじゃない。ほら、インターネットでペットの花嫁、花婿募集って紹介してるでしょ?そういうので探してあげようよ。だってアルは立派なアフガンハウンドなんだから……」 ああ……トシ…… 愛しているよ…… 私が犬の姿をしていなかったら本当にご主人様から奪っていた…… 「……そうだな……言われてみればそうだ。私もアルの可愛い子供を見てみたいな」 ご主人様はようやく去勢を諦めてくれたようだ。 「ねえ……もしかして……今日動物病院に行ってからおかしいだろ。気に入ったワンちゃんがいたんじゃないのかな……」 そうなんだっ! トシっ! そうなんだよっ! 嬉しくて私は歓喜の声を上げた。 「ほら、そうなんだよ……きっと」 「だが……アルと同じアフガンハウンドなんかいなかったぞ」 「……確かコリーがいたと思うんだけど……」 違うっ! 違うんだっ! 犬じゃないんだっ! ギャンギャンと鳴くと、トシが言った。 「違うみたい……でもこれじゃあ分からないね……」 「相手が分かったら、動物病院に相談して飼い主さんと連絡取って貰えるんだが……」 あっ! そんな手があったのかっ! 又会えるんだっ! もう嬉しくて尻尾をぶんぶんと私は振った。 「嬉しそうアル……でも相手だよね……」 トシが考え込んでいると、ご主人様が言った。 「そうだ、アルを買ったときに店でカタログを貰ったんだ。それを見せたら分かるんじゃないか?」 「……そんなの……分かるのかな……」 分かるっ! 分かるぞっ! カタログを見せてくれ~ 私は催促するように、前足でご主人様の膝を叩いた。 「見たいんだ……」 「分かった分かった……持ってくるよ……」 暫くするとご主人様はカタログを持ってきてくれた。それを私の目の前に広げてくれた。だが犬しか写っていない。 むっすりしたかおを向けると、二人は困ったような顔になった。 「なんか……いないみたい……」 そう言ってトシは笑いながらカタログを手に取った。すると裏側に猫の写真が載っていた。思わず私は前足でカタログを叩いた。 「うわっ……びっくりした……」 カタログを下から突き上げられた形になったため、トシは驚いたようであった。 「……おい、裏は猫だぞ……」 ご主人様は怪訝な顔をして、カタログを裏返した。 「……アル……これ、猫だよ……」 そんな言葉を無視し、眺めていると種類は違うが真っ黒な猫が写っていた。私はその写真に前足を置いた。 「……ねえ……恭眞……。そう言えば黒い猫連れて来てた人いたよね……」 「……ああ。隣で暴れていた猫だ……」 そうそう! ユウマと言う名前なのだ! 私はもう一度彼に会いたいんだっ! 更に尻尾を振り、私はワンワンと吠えた。 するとご主人様とトシは、顔を見合わせ、次にこちらを見るといきなり笑い出した。 「わはははははははっ!」 「やだあ……も、アルったら……おかしい!」 なんだっ! 何が可笑しいのだっ! 私は真剣なんだぞ! 「アルっ、あれは猫だよ……犬じゃないよ……」 そんなの分かっているっ! 「お前あの猫はオスだったぞ。メスじゃないっ!」 何を今更っ! ご主人様達も男同士でつき合っているというのにそんな事を言うのかっ! 「……というかな……お前、それであんな小さな猫とどうするつもりだ?」 え? 「やだもう……恭眞やめてよ……」 トシはもう笑いすぎて涙目だ。 不愉快だっ! 私は不愉快だぞ! 「どっちにしても難しいぞ……」 は? 「だからあ……恭眞、アルは僕たちを笑わせようと思ったんだよ」 いや…… そんなことなどこれっぽっちも…… 「アル、よく考えろ。お前のその図体で、どっちが上になるんだ?お前が上など絶対無理だぞ。はははっ、でかすぎて入らないだろうっ!下ならかなり面白い絵になるが……」 言ってご主人様は又笑い出した。 「も、恭眞……止めて……そ、そんなの普通に考えても分かるって……ね、アル、僕たちをからかったんだろう?」 ああっ! そうか! 重大なことがあった! 私は大型犬だ…… 向こうはただの小さな猫だ。幾ら大きくなったと言ってもつり合うほど大きくならない。 がーーん…… 私は仕方無しに、自分の情けない間違いを悟られるのが恐くて、ただ嬉しそうに尻尾を振った。それで多分私が二人をからかったのだと思ってくれるだろう。 私の恋はまたもや一瞬で終わってしまった。 アル「H」について考える。 性別より…… 身体の大きさがまず問題だ……と。
10万記念これにて終了!アル賢いはずが結構間抜け(笑)全くもう、最初の段階で分かれよ。というのは置いて置いて、まあアルもお年頃なんだし、そろそろ花嫁が(男かも??)欲しいのかもしれません。それにしても幾浦……あんた去勢はないだろうって(笑)。皆様10夜連続で馬鹿げた話におつきあいありがとうございました。感謝感激の気持ちをもちつつ記念企画を終了させていただきます。 |