Angel Sugar

「駄目かもしんない」 第5章

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 そんな頃戸浪は病院の入り口で見知らぬ男に呼び止められた。
「少しお話があるのですが……澤村大地君の事で……」
 胡散臭いと思いながらも、大地のことというので立ち止まった。
「どなたでしょう?」
「大良さんの身内です。少しお話が……お時間は取らせません。そこの端ででも……」
 そう言って男が入り口から少し離れた所に行くので、戸浪は仕方なくついていった。
「で、話とは何でしょうか?」
「実はうちのご主人様の息子が大良さんなのですが、ちょっと困った問題が起こっていまして」
「困った問題?あの男の事などうちの大地には関係ないだろう」
「いえ、大良さんと大地君……つき合っているのです」
「はあ?冗談も休み休み言いたまえ。うちの大地にしても、あの男にしてもどちらも男だぞ。なのにどうしてつき合えるというんだ」
 戸浪は不愉快そうにそう言った。
「最初私の方も信じられませんでしたがね。別れて欲しいと大地君に申し上げたのですが断られてしまいました。大良さんの名誉もありまして、こちらも困るんですよ」
「ではうちの大地が誘惑したとでも言うんですか?あの子は騙されやすい。そちらに良いように騙されているというのが本当のところではないんですか?」
 戸浪は怒鳴りそうになる声を、ようやく押さえつけてそう言った。
「まあまあ、お兄さん。そう言うことはとりあえず横に置いてですね。こちらにしてもお兄さんにしても、別れて欲しいと思っているわけですよ」
 男はそう言って溜息を付いた。
「それが本当ならば大地にきちんと話して、けりを付けるようにする」
 複雑な気持ちで戸浪はそう言った。
「ですが、色々お話ししたのですが、全く受け付けていただけませんでしたよ。ですので、私共も困っておるのです。で、お兄さんにお願いしたいことが……」
「……お願い?あんたにお願いされる理由など無いが」
「お話を聞いていただければ納得していただけると思いますがね」
 男はそう小声で言った。
「……」
「こうしたらどうですか、貴方は会社で上司に呼ばれて、成り行きによっては首にすると言われた。と言ってください。理由は弟さんの事があってと言うんです。はっきり理由を言わない方が良いでしょう。本人には分かっている筈ですからね。そうすればお兄さん思いの弟さんは目が覚めると思います。怒鳴りつけるだけでは反発されるだけですし、恋する者同士を引き離そうとして恨まれるのはお兄さんも不本意でしょう。だからこういう手を使うんです」
「……なるほど……」
 まだ大地が博貴とつき合っていると言うことが信じられなかったが、確かにあの二人は仲が良かった。その上相手はホストで、大地ははっきり言って女より男にもてるのは分かっていた。だから早樹も戸浪も大地にはそれを悟らせないように、見守ってきたのだ。
 幸い、本人に自覚が無いために、歪まず真っ直ぐに育ってくれた。その分人を信じやすい一本気な所が今度は気にかかっていたが、それは仕方ないだろう。
 そんな大地が余計に可愛いと思う男もいるかもしれない。いや、いたのだ。
 博貴ならやりかねないと。
 だいたい博貴は戸浪が一番気に入らないタイプなのだ。甘いマスクで女を騙す職業の男など、男の風上にも置けないと常々思ってきた。隣にそんな男が住んでいるだけでも大地に悪影響を及ぼすのではないかと心配していたのだが、悪影響を通り越して最悪の結果になっていたのだ。
「では頼みますよ。こちらも引き続き大良さんを説得します。お互い大変ですが、二人の為ですからね」
 男はそう言って帰っていった。
 うさんくさい男の言いなりになるのは少々気が引けたが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
 戸浪は大地の病室へ急ぎ、病室の前に立つと、誰かが尋ねてきている気配がした。戸浪はすぐ病室に入らずに何となく立ち聞きしてしまった。大地は「俺はお前が好きなんだぞ」と言った。相手は「私も愛してるよ」と言った。先ほど聞かされたとはいえ、こういう状況に頭がクラクラきそうなほどショックを受けたが、必死に平静を取り戻し、扉を開けて中に入った。
 そこにはやはり問題の博貴がいた。
「帰ってくれ」
 いきなり戸浪は博貴にそう言った。
「兄ちゃん。又そんな風に言う……」
「いいよ。大ちゃん。明日退院だろう?明日会えるよ。じゃあね」
 そう大地に言って博貴は扉に立つ戸浪に礼すると帰っていった。それを憎々しげに見送り大地の方を振り返った。
「兄ちゃん……何かあったの?なんか顔色悪いよ」
「ああ、悪くもなる」
 そう言って戸浪は椅子にどかりと座った。
「……どうしたんだよ」
「大、お前一体何をかくしているんだ?」
「え?」
 戸浪の言ったことがすぐに理解できないのか、とぼけているのかは分からないが大地はそのまま黙りこくった。
「今日、会社に出たんだが、すぐに上司に呼ばれてね。話を聞くと、成り行きによっては私を首にすると言われた。理由は、はっきり教えてくれなかった。ただね、君の弟さんの事があってと言われたんだ。それは大地の事だろう?何があってこっちまでトラブルんだ?私には全く事情が飲み込めない。だから半休をとって慌ててきたんだ。説明して欲しいな」
 実際はただ事故にあった弟の面倒を見るという事情で半休を取ったのだが、それは大地には言わなかった。
「兄ちゃん……何で兄ちゃんが巻き込まれてるんだよ……」
 ようやく大地はそう言った。理由がしっかり分かるようだ。やはり大地はあの男に騙されているのだ。そして、周りが別れさせようとする事に反発してどんどんのめり込んでいる。兄として何とかしなければならない。戸浪はそう思った。
「知らない。でも大地に聞けと言われたんだ。どうなんだい?」
「俺……別に……何も隠してないよ」
「隠してないのならどうしてこんな事になるのだ?」
「分からないよ…兄ちゃん……」
 大地の性格を戸浪は良く分かっていた。自分が信じることを無理矢理曲げさせようとしても大地は梃子でも動かないのだ。あの男が何者かは良く分からないが、この方法が一番いいだろう。大地は家族思いのいい子だ、きっと自分でけりをつけてくれるはずだ。
「まあ、いい。大地が分からないのなら仕方ないからね。折りをみて上司に尋ねてみるよ。だが、良く分からないことだな」
「……うん……」
 大地の顔色は酷く青かった。
「大地……大地はきっと間違った答えを出さないと私は信じているよ」
 戸浪がそう言うと大地は泣きそうな表情を返した。
 そんな大地の表情に戸浪は心が痛んだが、顔には出さなかった。

 戸浪が帰ると大地は布団に潜った。博貴の父親がどんな人物か全く分からなかったが、社長でしかも大きな力を持っているのだ。博貴には話せなかった。話すと向こうの思うつぼなのだ。だからといってこのままでは戸浪は首を言い渡されるだろう。それが済めば絶対一番上の早樹にも被害が及ぶのだろう。そうやって大地の家族を苦しめて、それが大地の所為だと責めようとしているのだ。
 分かっているがそれにどう対抗して良いか分からない。高良田を絞め殺してやりたいと真剣に大地は思った。人を何だと思っているのだ。だが、こちらには頼れるバックなどない。その辺にいるただの一般人だ。
 戸浪は何も知らない。何故そんな風に言われたのか、どうして大地に聞けと言われたのかも……だが深くは聞こうとしなかった。それが戸浪が大地に寄せる信頼の所為だろう。大地はきっと間違ったことはしないと、信じているから問いたださなかったのだ。その信頼を自分は裏切ろうとしているのだ。
 博貴との関係を止めればそれで終わるのだろうか?そうすれば博貴はもう二度と人を信頼できない男になってしまうと大地は思った。だから約束を破ることは出来なかった。
 博貴が大地に向ける信頼も裏切れないのだ。
 胸が痛かった。切り刻まれたような痛みだった。どちらも立てることが出来ないのだ。なのに、どちらかを取れと迫られているのだ。博貴を取ればきっともっと酷い仕打ちを家族に対して高良田はするだろう。
 大地はその日一晩眠ることが出来なかった。

 翌日大地は戸浪に連れられてうちに戻った。三日ほど留守にしただけなのにとても懐かしく大地には思えた。
「大、一人じゃ大変だろう。やはり私のうちに……」
「大丈夫。来週には仕事に戻りたいし……」
 大地は俯いてそう言った。戸浪をまともに見られないのだ。
「そうか……」
 戸浪の口数が少ない。それが大地を余計に辛くさせた。
「じゃあ、兄ちゃんもう良いから……帰ってくれて良いよ」
 出来るだけ明るく大地は言った。戸浪は「そうだね」とだけ言って帰っていった。それを待っていたかのように大地のうちのなかにある扉が開いて博貴が入ってきた。
「大ちゃんお帰り」
 両手を広げて大地を抱きしめ博貴は言った。
「ただいま博貴……」
「あれれ、元気が無いみたいだね。疲れた?お腹空いた?」
 顔色を覗き込むように博貴が言った。
「ちょっと疲れた……ほら、兄ちゃん色々五月蠅いタイプだろ……だから」
「車の中で色々言われたんだ」
 面白そうに博貴は言った。
「まあね。それに疲れちゃったよ」
 実際はほとんど会話がなかった。病院からここまでの距離がどれだけ苦痛だったか分からない程だ。
「会社は何時から出社?」
「来週からの予定だよ。そのころには包帯も取れてるだろうから……。たださあ、俺当分自分で消毒してクスリ塗らなきゃならないんだけど、気持ち悪い手足になってるよ……」
「気にすることないよ大地……ほら、傷は治るから、ちょっとの間だけの我慢だ」
 博貴は大地の頭を撫でながらそう言った。頭を撫でる博貴の手がとても心地良い。思わず大地はうっとりと目を細めた。
「大地、肩はどう?」
「あ、脱臼の方はもう痛まないよ。昔から良く外れてたから……。だから湿布も取っちゃった。ごわごわして気持ち悪いからさ」
 そう言うと博貴はフフッと笑って、抱き上げた。
「てめえ、いっとくけど、俺まだ出来ねーぞ」
「……えーーー……そんなあ……」
「そんなってなあ、手足こんなんで……俺やだよ」
「……仕方ないなあ……」
 と、言いながらも博貴は大地を抱えて歩き出した。
「お前俺の言うこと聞いてるか?」
「聞いてるよ。でもほら、疲れたって言ってたね。だからゆっくり休めるようにうちのベットで眠ればいいよ。大地の布団ははっきり言って固いから……」
 くすくす笑いながら博貴は大地を連れて一階の寝室に入り、ベットに下ろした。
「大良……」
「ゆっくりしてくれて良いからね。何かして欲しいことがあったら、気を使わないで何でも言ってくれていいから」 
 博貴があまりにも優しい為に大地は涙が出そうだった。こんな博貴に大地が悩んでいることを相談など出来るわけなど無かった。信頼され愛されている。それが嬉しく、そして辛かった。
「ありがとう……大良……」
 毛布に潜り込みながら大地はそう言った。
「大ちゃんのためなら何だって私は出来るよ」
 そう、この男ならするだろう。大地が傷つけられていることを知ったら、きっと条件をのんで嫌な父親の所に戻ることだってするはずだ。そんなことはさせたくない。して欲しくない。自分が望んで帰るなら、大地は何も言えない。だが大地自身の為にそうして欲しくなど無いのだ。だがそうなると大地の家族はどうなるのだろう。
 考えても答えは出なかった。
「俺……ちょっと寝る……眠くなってきた……」
 暖かい毛布のぬくもりと、安心できる場所が大地に睡魔をもたらした。
「ゆっくりお休み……」
 博貴は部屋の明かりを消し、二階へと上がっていった。煩わせることなく寝かせてやろうという心遣いなのだろう。
 大地は声を殺して泣いた。

 博貴は二階へ上がると、大地が起きたときに何か食べられるように料理を何か作ろうと台所に立った。冷蔵庫を開けて色々思案しながら、大地のことを考えた。様子が何かおかしいからだ。その感じは漠然としているのだが、大地が何かを隠しているのが分かるのだ。それが何かは分からない。だが例え問いつめても大地に話す気が無いのも博貴には分かる。
 何があったのだろうか?考えても全く分からないのだ。もしかして又高良田が大地にまたくだらないことでも言ったのだろうか?それなら話してくれても良いはずだ。
 だが大地には話すつもりが無いらしく、口を閉じたままだ。
 色々考えているうちに料理が出来た。鍋の火を一旦止めて、大地の様子を見に博貴は一階へ下りた。起こさないようにそっと覗くと、いつものように布団に丸くなっている大地が見えた。悪戯したい気分に駆られたが、その気持ちを必死に押さえてそっと顔を覗き込むと、額にびっしりと汗をかいていた。
 熱でもあるのだろうか?博貴は心配になってタオルを持って来ると、起こさないよう気を付けながら額を拭いた。
「……う……」
「大地?」
「……やめ…ろっ……」
 大地はうなされていたのだ。一体原因はなんだ?博貴はあまりにも苦しんでいる大地の姿を見かねて、自分も大地の横になると、そっと腕を伸ばして大地を引き寄せた。
「大地……大丈夫だよ……」
「……っ……ひろ……きっ……」
 博貴は眠りの中でもがく大地をしっかり抱きしめた。こんな大地を今まで見たことがない分、急に博貴は不安になった。
「大丈夫……ここにいるから、安心して眠るといいよ……大丈夫」
 背中を撫でながら博貴はそう言った。
「あっ……あれ……俺……」
 ゼイゼイと荒く息を吐きながら、大地は目を覚ました。
「どうしたんだい?酷くうなされていたよ。嫌な夢でも見たのかい?」
「あ、え……うん……」
 ふーっと息をついて大地は身体を伸ばした。
「大地……ねえ、何か気にかかることでもあるのかい?」
「……大したことじゃないよ……ごめん……心配かけて……」
 目を閉じて大地は言った。まだ息が荒い。
「大地、心配事があったら相談に乗るよ。それとも高良田が又君に何か言ってきたのかい?」
「別に何も無いよ……本当に何かあったらお前に話してるって」
 大地はそう言ってぼんやりと目を開けた。
「……なら……いいけどね」
 何か隠してる。大地は嘘を付くと目が泳ぐのだ。今がまさにそれだった。
「大良……」
 大地は博貴に腕を廻して抱きついた。
「怖い夢……見た……」
「どんな夢?」
 今はそっとしておくしかない。話せるようになったら話してくれるだろう。何でも話し合おうと約束したのだ。だからきっときちんと大地から話してくれるはず。
 博貴はそう思うことで、下手な大地の話しにつき合うことにした。
「内容は良く覚えてないんだけど……ものすごく怖かった……」
「大ちゃんにも怖いものがあるんだねえ」
「……笑うなよ……マジ怖かったんだから……」
 ムッとして大地がそう言った。ようやくいつも通りの表情になっている。
「子供みたいだね……大ちゃんって……」
 よしよしという風に頭を撫でると、大地はくすぐったいという顔をした。
「ガキ扱いすんな!」
「ガキだよ……ガキ……」
 そう言って博貴は大地の唇に自分の唇を重ねた。舌を侵入させると大地の方も自分から舌を絡ませてくる。慣れたキスであるのに、久しぶりのような気がした。
「ん……大ちゃん……」
「大良……俺……お前のこと本当に好きだよ……自分でも信じられないくらい好きだ……お前のことばっかり俺、考えてる」
「……私もそうだよ。君のことを一番に考えているよ。だから例え君が私以外の人間を好きになっても……隠さないで必ず話してくれるかい?」
「大良……お前何て事言うんだよ。俺、絶対そんなこと無いぞ」
「本当に?」
「本当だよ。俺、そんな器用じゃねえもん」
「そうだね。くだらないこと言ってしまったね」
「ああっ!くだらねえぞ……そんなこと言うな!」
 大地は怒っているようであった。博貴は苦笑しながらもう一度謝った。大地はやっぱり怒っていた。



 大地が家で療養して二日目、手足は包帯を取っても大丈夫なくらい回復していた。爪がほとんど剥がれているために見た目が酷いが、痛みは取れた。
 足は靴下をはきたかったが、蒸れるのが怖くて裸足で過ごしていた。だが、手足が治ってきて自由に動かせるようになると、今度は毎日うちにいるのが退屈になってきていた。特に今日は博貴がお客との約束があり、昼ご飯を食べるとすぐに出ていったため余計に退屈なのだ。
 病院で会って以来、高良田は何も言ってこなかった。それも不気味だと大地は思った。諦めるようなタイプでは無いからだ。考えても答えの出ない問題が山積みなのだが、どうにも結論が出なかった。このまま戸浪のことを放っておいたら、みんなが忘れてくれるかな?という気持ちもあったが、そう言うわけにはいかないだろう。
「兄ちゃんに理由を話したらどんな顔するかな……」
 そう考えて溜息が出た。首がどうのとかそう言う問題ではなく、完全に戸浪は切れるだろう。別れろと言うに決まっていた。だから言えない。だがどの位の猶予があるのか分からなかったが、もう暫くしたら戸浪から連絡があるだろう。
 答えられない事にどう対処すれば良いのだろうか?
 あまりにも色々考えすぎて、頭の痛くなった大地は気分転換に久しぶりに外に出ることにした。気晴らしに何か買い物でもしようかと、薄い手袋をはめ、財布と携帯をポケットに入れると大地はコーポを出た。
 久しぶりに外に出たせいか、空の青さが酷く目にしみた。空気は乾燥しており、喉が痛い。ぼちぼちと歩いて近くの本屋に入った。何か面白いものでもないかなあと探したが目に止まるものは無く、結局何も買わずに店を出ようとすると携帯が鳴った。
「もしも……あ、藤城さん」
 相手は藤城であった。  
『色々調べたことが分かってきたんだが、会えないかい?』
「はい。今からでも良いですけど、藤城さんは?」
『ありがたいね。今大君は何処にいるんだい?迎えにいくよ』
「え……と、今日はちょっと外をぶらついてるので……何処で待ちあわせしましょうか」『コーポまで迎えにいくよ』
「え、それはちょっと……」
 博貴が帰ってこないことは分かっていたが、もし又見られたら何を誤解されるか分からない。それは困るのだ。
『そうだね。困るね大君が、では以前君がいたあの公園で待ち合わせしよう。あそこの中央に噴水があったね。そこに今から一時間後にいいかい』
「はい」
 大地はあと二言三言話してから携帯を切った。藤城がいてくれて本当に良かったと大地は思った。藤城は自分のことを好きでいてくれるのを分かっている。そうであるから自分が頼れば頼るほど藤城に申し訳ないと思うのだが、今は頼れる相手がいないのだ。本当に頼りたい博貴には頼れないからだ。
 大地は暫く商店街をうろついてから公園に向かった。平日ともあって公園には人がまばらであった。大地は中央の噴水に縁に腰を下ろして藤城を待った。
 心地よい風が頬を撫でる。なんだか色々あることが嘘みたいな気分にさせてくれた。水の流れる音も耳に心地よい。
 その感覚を満喫していると、三人の男がいつの間にか自分の前に立った。
「何ですか?」
 男達は何も言わず、一人の男が大地を捕まえようと手を伸ばした。その手を大地は叩き落とした。
「なんだよ。ははん。高良田か……又あいつか……俺を痛めつけようって事かよ」
 構えのポーズで大地はそう言った。手も足もまだ全快では無かったが、この位なら何とかなるだろう。
「さあね」
 紺色のスーツを着た真ん中の男が言った。
「俺、簡単にやられたりしねーぞ……」
 そういうといきなり三人が警棒らしきものを延ばして襲いかかってきた。大地は必死に三人の相手をするのだが、どうも向こうも何かしらの武術の心得があるのか、なかなか手強かった。その上こちらは一人だ。防御するので精一杯だ。
 そのうち一人を何とか片づけたが、茶色のスーツを着ていた男がなにやら取り出してこちらに吹き付けた。
「……っ!ひ、卑怯だぞ!」
 目が痺れて涙が零れ、視界が霞んだ。その為に体勢が崩れた大地にあとの二人が殴りかかった。相手が見えないために腹や背をしこたま殴られた。こんな風に一方的にやられるのは悔しくて仕方がない。それでも何とかしのごうとしたとたんに鳩尾に警棒を突き立てられ、鈍い痛みが全身を走った。その痛みに膝が折れて立ち上がれない。
 反撃出来ない大地の腕を掴んで男達は引きずりだした。何処かに連れて行くつもりなのだろうか。必死に抵抗するのだが、一人が両手、もう一人が両足を掴んでいるためにどうにもならない。
「離せ!畜生離しやがれ!」
「良いところに連れて行ってやるよ」
 くくっと笑って男が言った。
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