Angel Sugar

「駄目かもしんない」 最終章

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 大地がコーポに戻ってきたのは夜の八時であった。今度藤城は車から降りずに去っていった。階段を上がると博貴のうちの方は電気が付いている。大地は自分の部屋に入って上着を脱ぐと博貴の部屋に入った。だが博貴はいなかった。下にいるのかなあと思って階段をそっと降り、ドアノブに手を掛けると中から声が聞こえてきた。「ああ、大地……」とかなんとか言っていた。まさか、まさかだよなあと思ってそっと扉を開けるとベットに座った博貴がびっくりしてこっちを向いた。
「だ、大ちゃん……あはは……」
 左手に大地の写真、右手は……。
「て、てめええええ!一体何考えてるんだよ!お、俺を……おかずにすんなぁ!!!」
 博貴が持っている写真を取り上げて大地は言った。
 この男は一体どういうつもりなのだ!こっちは真剣な話しをしようと来たのに、博貴は人の写真で欲求を満たそうとしている。そんな態度に余りにも腹が立った大地はクッションを掴んで博貴の頭をボカボカと殴った。
「いたっ……痛いよ大ちゃん……傷口が開いたら……」
 右手で掴んでいたモノを直しながら博貴が言った。
「開くかこの馬鹿野郎!開いたらまた縫ってもらえ!ついでにあそこも縫ってもらえば良いんだよ!この大馬鹿野郎!」
 藤城を選んだ方が良かったのかもとフッと思った。
「だ、だって大ちゃん……私だって男だよ……やる相手がいなかったら、こうするしかないだろう……。これは生理現象なんだから……」
「だっ……だからって俺の写真を何でそんなことに使うんだ!そ、それもただ笑ってるだけの写真でやるか?普通……」
「……でもねえ……君が好きなのに外に行って誰か他の人とは出来ないし……かといってエロエロ写真を見るわけにもいかないだろ、どちらにしても君を裏切ることになるし、なら君を見てやるんなら文句言われないだろうなあって」
 しれっと博貴はそう言った。
「も、文句あるわ!よ、よくまあそんな理屈をこねられるんだな…てめえは……全く……」
 ゼイゼイと息をしながら大地は言った。
「怒らないでくれる?唯一の楽しみなんだから……」
 真面目な顔で言われると、もう怒る気も無くなった。
「何が……唯一の楽しみだよ……はあもう、怒る気も失せた……はは……ははは」
 クッションを放り投げて大地は言った。床に足を投げ出して座り込むと、大地はなんだかもう馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。
「……大ちゃん酔ってるね」
 そう言えば夕食にコースを食べた。そのときワインを軽く飲んだのだ。少し気分が高揚していた方が、博貴に黙っていたことを話しやすいと思ったからだ。
「ちょっとワインを飲んだから……でも酔ってないよ……」
「目がすわってるよ……大ちゃん……その上泣いたような目だね……」
 と言ったところで博貴がまずいことを言ったという顔をした。確かに泣いた。
「……泣かされたもんな……一杯……さ……」
 大地はそう言った。
「……大ちゃん……のろけるのなら帰ってくれないか?残酷だろ?思わないのかい?」
「お前に泣かされたんだよ俺は!何言ってるんだよ」
 キッと博貴を睨んでそう言った。
「ちょっと待った!私は君に手を出してないだろう……」
 と言って「写真には手を出したけど……」と小声で付け加えた。
「てめえ!エロい話しは一旦忘れろ!違うだろ!俺そんな話しに来たんじゃないよ!」
「じゃ……何の話しだい?」
「お前さあ……何でわからねえんだよ……藤城さんはすぐに分かったのに……」
「何のこと?」
 きょとんとした顔で博貴が言った。
「俺……記憶無くしてたってのは嘘だったって……」
「えっ?」
「だからっ!俺、覚えてるよ!全部、全部だっ!俺、自分がどうしてショックを受けて、そん時、車が来たことも間抜けなことに分からなくて……跳ねられた理由を誰にも、誰にも話したくなかったんだよ!苦しくて……辛かったから……忘れようって……。お前に会ったこともお前とつき合ったことも全部忘れたら楽になれるって……そう思ったから忘れたことにしたんだ。それで終わるはずだったのに、お前は死のうとしたって聞くし……何がなんだか分からなかった。その時にはもう、嘘付いてたなんて都合良く言えなくなったんだよ!分かったか馬鹿野郎!」
 それは自分の責任であるのだが、大地はそんな風にしか言えなかった。
「大地……」
「お前から何で死のうとしたか聞いた。でもあの時と同じだよ。分からない。何でそんなことするんだ?ううん。出来るんだよ。分かるよ……気持ちは色々考えて……分かった。でも気持ちと実際やる事じゃ違うだろ?」
 そう言うと、博貴は苦笑した。
「あの時はあれが一番最善だと思ったんだよ……」
「……お前は……ばっか野郎だ……」
「そう思うよ……」
「もう二度とするなよ」
 大地が博貴をじっと見て言った。
「それしか方法が無かったら、またやるよ……」
「いい加減にしろ!」
 ぼかっと又クッションで大地は博貴の頭を叩いた。
「相談も無しに勝手にきめやがって……俺がどんだけむかついたか分かるか?なあ、どれだけ俺が辛かったか分かるか?もし、もしお前の言うとおりに誰かにそんな目に合わされても、俺はお前が側にいて欲しい……。お前が側にいてくれたら絶対立ち直れる。どんな事があっても、お前にはいて欲しいんだよ!だから……勝手に死のうなんて……二度としないでくれよ……俺……」
 ポロポロと涙が零れてきた。頬に伝う涙を博貴がそっと拭った。
「……大地……」
「俺だって……自分で身を守れると思わなかった……だからあの時、藤城さんに頼んで、俺をプロにガードして貰ってたんだ。だからあの時、高良田の言うとおりに俺を拉致なんて出来ない状態だったんだよ。それ……お前に話しておけばこんな事には……」
「……私のしたことは……滑稽だったんだね……」
 悲しそうな顔で博貴は言った。
「違う!そんなこと言ってない……腹立つし、むかつくし、辛かったけど……俺……嬉しかった……お前がそこまで俺を大切にしてくれているのが分かって嬉しかったよ。でもなそれはお前が助かったから言えるんだ。お前が死んでたら……こんな事言えなかったよ」
 大地は博貴の腕を掴んでそう言った。なんと言えば自分の気持ちが上手く伝えられるのだろう?どういう言葉が良いのだろう。
 考えるのに、上手い言葉が出てこないのだ。
「……ありがとう……大地……」
 博貴は大地が掴む手をそっと離して言った。
「大良……」
「君のためにしたことなのに……辛い思いをさせて……済まなかった……」
「…やめようよ……大良……俺……もう、そんなことどうでもいいや。お前が二度とこんな事しないって言ってくれたら……いい」
「……分かった。もうしないよ……大地には藤城がいるんだから……何だって頼れるだろうから……安心だったね」
 と言ったところで又大地はクッションで博貴を叩いた。
「そんな言い方するな!」
「ごめん……。まあ、色々あったけど、お互い元気になれたことだし……」
 と言っている最中に大地は博貴の腕をもう一度掴んだ。
「もう、そんな話しやめようよ……。俺、お前が元気になったらもうそれでいいよ。それより……俺……お前に随分抱きしめて貰ってない……」
 博貴はびっくりした顔をして又苦笑した。
「駄目だよ……大地」
 鼻をキュッと掴まれた大地は身を竦めた。
「……身体……まだ駄目か?」
 ものすごいことを言ったことが分かると大地は顔が真っ赤になってしまった。
「……あのねえ大ちゃん。いくら私が君を何時だって襲いたいと思っていても、人の恋人になった人を襲えるかい?まあ、君は酔うと大胆になるか……」
 と言ったところで今度大地は両手で博貴の頬を挟むように叩いた。
「あーのーなー……人の恋人って何だ?誰のこと言ってるんだよ。それにな、酔っていても誰にでもこうじゃねえって言ったことあっただろ!」
 最初の始まりが大地の酔いから関係が出来た事で、博貴はいつもそう言うのだ。
「あたた…それに大ちゃん今日は藤城と大事な日を過ごしたんだろう?」
「大事な日の意味が違うんだよ!」
 久しぶりに博貴と抱き合うんだと大地が勝手に決めた大事な日だったのだが、それは言えなかった。
「良いんだよ……例え記憶が元々失われていなくても、今度は藤城を選んだというだけなんだから……私より頼りがいがあるだろうし、優しい男だからね……」
 酷く悲しそうな顔で博貴が言った。
「大良……お前俺を何だと思ってるんだよ……そんな軽い男だと思ってるのか?そりゃ、藤城さんはお前より優しくて、頼りがいがあるかもしれない。その上俺の写真をおかずにしようとはしないと思う。でも……俺が頼りたいのは……好きなのはお前だぞ……」
 全くなんて色気がない言い方なんだろうと大地は思った。
「大ちゃん……この間藤城と……。その……首にキスマーク付けていたことあったね……あれって……その……違うの?」
 やっぱり聞こえていたのだ。大地はもう、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかった。なんと言って良いのか分からない。
「あ、あれ……あれは……その……急に藤城さんが……お、俺はそんなつもりなかったんだからな。それに……別にやったって程のものじゃねえし……」
 急にもごもごとはっきり言わない大地に博貴が近寄った。
「ふうん……でも大ちゃん……君、痛いとか叫んでたでしょ……痛がらして藤城は下手な奴だとか……色々考えて落ち込んだんだけどねえ……」
 にやーっと笑って博貴は言った。
「お、おまえ……ん、んなこと考えてたのかよ!さ、最低だぞ!」
 足の先まで大地は赤くなりそうな気がした。
「壁薄いし……こっちは静かに寝てるしかないしね……聞くつもりは無かったんだよ。聞きたいと思うかい?想像だってしたくなかったよ。でも……大ちゃん……あの時はかなりショックだったよ」
 俯いて博貴はそう言った。
「ほ、ホントに何も無かったんだよ……そりゃ…キスは不覚にもされてしまったけど……それ以上は……」
「ねえ、大ちゃん……どうして今まで話してくれなかったんだい?もっと早くに……」
「……お前弱ってたから……このことで……俺、絶対怒鳴ると思ったからさ。お前が元気になって俺の怒鳴る声も平気なくらい回復してからにしようって……」
「……もっと早くに聞きたかったよ……大地……」
 博貴はそう言って大地の頬を撫でた。
「……ごめん……それは謝るしかないと思っ……」
 全部言い終わらないうちに博貴は大地の唇を塞いだ。久しぶりの博貴の口づけは貪るような口づけであった。
「……ん…」
 博貴の舌はこちらの舌に絡まり、離してくれない。口内で弄ぶような動きをするかと思えば、吸い付いては離す。そんな舌の動きに大地は翻弄されて、目眩しそうであった。実際唇を離されると、一瞬目眩を起こして身体が、ふらっとぐらついたのを博貴が支えた。
「大地……大丈夫かい?」
「なんか……久しぶりに大良にキスをして貰って……なんかクラクラ来た……」
「そんなに……気持ちよかったの?」
 言いながら博貴は大地の耳朶を舌で舐め回した。
「あっ……お前……も、いいのか?」
 ピクピクと刺激に身体を震わせながら大地は言った。
「写真より、もちろん本物が良いからね……」
 ベットに倒されて大地は急に心臓の鼓動が早くなるのが分かった。初めて博貴に抱かれるわけでもないのに、ものすごく恥ずかしく感じるのだ。久しぶりだからだろう。
「あっ……お、俺……その……」
 言葉も呂律が回らない。折角少し酔って帰って来たが、ここに来て酔いは完全に醒めてしまってたのだ。
「大地……止まらないよ……ずっと我慢してきたんだからね……君が、手足に怪我を負ってからだから、とても長い間……我慢してきたんだ……」
 こちらの足の間に身体を入れた博貴が大地を見下ろして言った。
「お……俺だって……その……あの……でも、お前身体……本当に大丈夫なのか?」
「誘ったのは……大地だよ……」
 チュッと軽くキスをして博貴が言った。
「博貴……」
 大地は手を伸ばして博貴に抱きついた。ずっとこうしたかったのだ。博貴の温もりを感じ、温めて欲しかったのだ。
「俺……もう嫌だからな……こんな思いすんの……嫌だからな……お前が死んじゃうかもしれないなんて……絶対嫌だからな……」
 博貴を病室で見たときのことを大地は思い出した。あの時、このまま博貴が死んでしまうかと真剣に思ったのだ。その時のショックはまだ心の中にある。
「大地……」
 博貴は大地のシャツのボタンを弾くように外すと、そっと肌に手の平を当てた。壊れ物を扱うように緩やかに滑らせ補合した部分を軽く撫でた。
「……あっ……」
「手術のあと……」
「うん……あっ……」
 博貴はぺろりとその部分を舌で舐めると、その部分から愛撫し始めた。ぬるりとした舌が蠢くと身体がその刺激でビクビクと震える。その間指は大地の胸の尖りをつまんで揉んでいる。
「んっ……あ……や……」
「なんだか大地……今日はとても敏感だね……何処を触っても身体が反応するよ……そんなに欲しかったんだ……」
 笑いを含んだ声で博貴はそう言って、手を大地のズボンの中に忍ばせた。そこにあるモノは既に熱くなっていた。キュッと握り込まれて大地は膝が曲がった。
「俺……っ……は……はあ……あっ……」
 博貴の手は握り込んだモノを手の中で揉みほぐしながら、もう片方の手でするりとズボンと下着を一度に脱がした。
「ひ……博貴……ま、待って……」
 抗議の声を上げた大地の唇を閉じさせながら博貴は握り混んだモノを上下に擦り上げた。その刺激は何時にもまして鮮烈に頭の中と身体を駆けめぐる。いつもより自分高ぶっているのを知られたくなかったのだが、博貴の方は大地のそんな状態を敏感に感じ取っているようであった。
「だから……待たないよ……我慢しなくて良いから、達っていいから……。ああ、そっか、君は口がいいんだったね」
 言われて言葉を失ったまま大地は赤い顔が更に赤くなった。
「べ……別にそう言うわけ……あっ……」
 急に舌の湿った感触が下半身に走って大地は声を上げた。博貴の口に含まれたモノは博貴の舌の上でビクビクと喜びに打ち震えているようであった。そんな刺激に追加して、辺りを指でなぞりながら博貴は固く窄んだ部分に軽く突き立てた。
「だから……あっ……ま、……待って……博貴……やだ……っ……」
 両足を抱え込むように博貴が大地の股に顔を埋めているので動きが取れない。大地は一人だけ先走った身体が恥ずかしいのだ。それなのに博貴はお構いなしに大地のモノを口から離さずにくちゅくちゅと淫猥な音を鳴らしながら、自分の行為に耽っていた。
「あうっ……」
 両足に入っていた力が急に抜けて大地は身体が伸びた。息だけが荒く自分の耳に入ってくる。
「大地……」
 ずいっと身体を起こして博貴は大地の頬や額にキスを繰り返した。そうしながら自分も服を脱いでいるのか、ばさばさと言う音が遠くに聞こえた。ぼんやり眺めていると覆い被さっている身体には腹の部分にまだ包帯が巻かれている。
「お前……まだ包帯とれてねえ……やっぱりやめよう……」
 急に心配になった大地が博貴にそう言った。
「自分だけ気持ちよくなって私はおいてけぼりかい?そんなの許せないよ」
 博貴の指は先程放出したモノを指に付けて蕾の部分に塗り込めていた。
「違う……よ……俺より酷い怪我だったんだぞ……こんな運動したら……」
「ああもう、写真でやるの飽きたんだよ」
 と、言って博貴は、しまったという顔をしてから、はははと笑った。
「……って事は……信じられねえ……」
 違う意味で涙が出そうだ。全くこの男はーーと呆れるのだが腹は立たない。それだけ俺とやりたかったんだなあと思うことにした。
「まあまあ、細かいことは忘れて忘れて……」
 そう言って博貴は大地の身体を起こした。
「え?」
「大地……私も気持ちよくしてくれないかい?」
「あ……うん……」
 白い包帯が痛々しい。それなのに、この男の下半身は元気だった。目線に入ると急にまた恥ずかしくなってきたのだが、おそるおそる両手で掴んで博貴の顔を見上げた。一度は自分からやったのだが、それ以来出来なかった。多分初めてやったときに博貴が「痛い」と言ったからだ。それが未だに頭に残っており、下手だから出来ないというトラウのになっているのだろう。しかし考えると妙なトラウマだ。
「嫌かい?」
 困ったような顔で博貴が言った。
「そ、そうじゃないけど……俺……お前みたいに出来ないから……」
「一度やってくれたでしょ。あれで嫌になった?」
「ううん……そうじゃないんだ……俺……その……お前痛がらせたから……その、又痛いって言われるの怖くて……」
 そう言うと博貴はくすりと笑った。
「気持ち悪い訳じゃないんだ」
「あ、当たり前だろ……お前のなんだから……」
 と言ってぽーっと顔が赤くなった。さっきから赤くなるようなことばっかりだった。
「慣れ慣れ」
 そう言って博貴は大地の頭を軽く引き寄せた。すると口元に博貴の切っ先が当たった。
「あ、はは……そ、そうだよね……」
 大地はそう言って、掴んだモノをそっと口に含んだ、熱を帯びたそれは口内で太さを増した。
「ん……」
 顎が痛いくらい口の中で大きくなったモノに、何とか舌を巻き付けようとするのだが、上手くいかない。歯が当たらないように必死に口を開けるのだが隙間が開かない。もごもごしていると、どんどん奥の方まで入り、いきなり咳き込んでしまった。だが一旦口をはなしたものの、今度は外側を舌で舐め上げた。
 良いのか悪いのかどうか分からないが大地は必死に舌を使って動かした。暫くすると博貴の荒くなった息が聞こえてきた。もしかして気持ち良いと思ってくれてるんだろうか?そう思うと大地は嬉しくなった。
「なあ……痛くない?」
 上を見上げて言った。
「気持ちいいよ……大地……」
 博貴はそう言って大地の頭を撫でた。もう一度口に含んで手で擦り上げるように大地は口を上下させた。
「あ……大地……すごく良いよ……」
 口の中に粘着質の苦い味覚のものを感じて大地は又咳き込んだ。
「ゲホゲホ……ごめん……もちょっと頑張ってみる……」
「もう良いよ……充分だ。これ以上私も耐えられないからね」
「え、俺……やってみたい」
 俺が博貴をイかせるっていうのはどういう感じなのだろうか?と大地は思ったのだ。
 何となくやってみたい。
「だーめ。私は君の中で達きたいんだよ」
 そう言って博貴は大地の両足を抱えた。すると大地は反動でベットに倒れ込んだ。
「そん……ひっ……!」
 ぐちゅっと言う音と共に蕾の内部に博貴の指が沈められた。指はちゅくちゅくと音を立てて入り口を出たり入ったりしている。
「あっ……あっ……ひろ……き……俺……指より……あっ……」
 指よりもう、博貴のモノが欲しかった。欲しくて欲しくて仕方ないのだ。
「もうちょっと慣らさないとね……」
 指を器用に滑らせて蕾と立ち上がったモノの表面を擦り上げる。大地の快感が一気に身体を支配した。
「あっ……博貴……頼むよ……はあっ……はあっ……あっ……俺……」
 身体をしならせて大地は懇願した。目の端から涙も流れ落ちる。
「そうだね……」
 ぺろりと指を舐めて、ぐいっと大地の蕾めがけて己の鉄を打ち込んだ。
「あーーっ……」
 背骨から一気に駆け上る快感が大地の頭の芯をとろけさせた。ずっとこの甘い快感を味わいたかったのだ。博貴が動くたびにそれが繰り返されると、大地は喘ぎながらも嬌声を上げた。
「博貴……っ……あっ……あっ……ひ……ろきっ……」
 手を伸ばすと博貴の手が絡んでくる。
「ずっとこうしたかったよ……大地……ずっと……ずっとだ……」
 博貴は腰を動かしながらも大地の唇を貪るように重ね合わせた。大地の方は涙を落としながら快感に酔っていた。
「俺……もっ……あっ……ああ……俺……ん……んあっ……」
「こんな風に……」
「ひっ……!」
 博貴がもう一段階腰を入れると鈍い痛みと快感が身体中を走り回る。息が上がって空気が吸えない。頭のなかがぐるぐると回転して景色が歪んだ。
「あっ……ひっ……はっ……ああっ……」
 結べない口元から荒い息と液体が流れ落ちた。
「大地……愛してる……よ……」
「お……れ……俺も……好きだよ……っ……なんで……こんなに……好きなんだろ……」
 ズルッと音がしたと思ったら急に下半身を圧迫していたものがなくなった。
「あ、駄目だよ……抜かないで……」
 そう言って手を伸ばした大地の身体を反転させて膝を付かせてもう一度博貴はぐいっと腰を入れた。
「んっ……あっ……」
 何度も何度も擦り上げられ大地は限界だった。涸れた喉がひいひいというおとで喘ぎを漏らしている。ギュッと握りしめたシーツがくしゃくしゃになり、汗が髪と一緒に肌にくっついてべったりしていた。
「だっ……駄目だっ……博貴……も、もう……俺……おれえっ……博貴っ……駄目だよっ!も、……達かせてくれよっ!」
 膝をガクガクとさせながら大地は言った。もう限界だった。しっかり博貴に握り込まれた自分のモノからポトポトと白い液が滴り落ちてシーツにシミを作っていた。
「あ、ああ……一緒に……大地っ!」
 博貴も歯を食いしばりながらそう言った。
「ああっ……!」
 大地は視界が暗転した。
 
 フッと目を覚ますと博貴は大地の背中を愛撫していた。こっちは身体がくたくたなのに何て元気なんだろうと思っていると手が大地の力を失ったモノを掴んで刺激を与え始めた。嘘だろっと思っているうちに、元気になってくる自分のモノを恨めしく思った。
「元気だねえ……大地のここは……」
「も、やめろよ……病人が何回する気だよ。俺嫌だぞ……」
 ジタジタ身体を動かすのだが、後ろからしっかり抱きしめられていて動けないのだ。
「大地が私に嘘を付いていたことを不問にしてあげるから、満足するまでつき合って貰うよ……」
「なっ……あっ!」 
 じゅるりと横から入ってきた博貴のモノは既に堅くなっていた。博貴の方はゆっくりと後ろから腰を動かしている。
「ああん……あ……っ……んっ……」
 嫌だと思うのだが身体は正直に与えられる刺激に酔っている。先程の激しさとは違い、ゆっくりした腰の動きが、滑りの良くなった内部で行ったり来たりを繰り返しているのだ。「気持ちいいだろ?」
 腰のゆっくりした動きと同じ早さで博貴は大地のモノを擦り上げていた。前と後ろ同時に触れられると、大地はどうにかなってしまいそうになる。
「あっ……あっ……ああ……気持ち……いい……」
「だろ?」
 くすくす笑って博貴は大地の耳朶を噛んだ。
「んっ……」
「ああもう、どうして大地はこんなに愛おしいんだ……」
 結局、ベットで二回、風呂場に入って湯船で一回、もうやめてくれと逃げだそうとして湯船の外で一回まで大地は覚えていたが、あとは全く覚えていなかった。
 気が付くと身体中がギシギシいって立ち上がれなかったが、博貴は熱を出していた。



「……で、貴方は駅伝でもしたのですか?」
 往診に来た医者が博貴を診察して言った。博貴が何をしたかを分かっているような顔をしている。まあ、医者には隠せないだろう。
「はは……はあ……済みません」
「確かに、家の用事くらいは許しましたがね……」
 ジロリと医者に睨まれて博貴は首を竦めた。
「……本当に申し訳ありません……」
 博貴は熱っぽい目でそう言った。医者は注射を二本打って、暫く運動はしない事をことさらきつく注意して、薬の数を増やして帰っていった。
「おまえなあ……やっぱ駄目だったんだろーが!っ……ててててて」
 とにかくこちらも身体がパキパキしていて腰が異常に痛いのだ。大地も暫く動けないと思ったのだが、博貴が熱っぽい顔をしてベットに突っ伏しているのを見て、洗面器に氷を砕いたり、タオルで博貴の頭を冷やしたりと動いているうちにそんな自分の状態を気にかけていられなくなったのだ。
「済まない……大ちゃん……」
 申し訳なさそうな顔で博貴が言った。
「はあ……もう、お前無茶しすぎ……」
 くたっと博貴の隣に横になって大地は言った。
「どうしてもやりたかったんだよ」
 今度はにこっとした笑みを返して博貴は言った。
「そう言う問題じゃねーだろ……」
 腰をとんとんと叩いて大地はそう言った。
「やりたりないのに……」
「うげっ……お前怪我しておかしくなったんじゃねえの?」
 大地は一瞬身体を引いた。
「だってねえ……本当に長い間ご無沙汰だったんだよ……その分を取り返さないとなんだか損した気分なんだよ」
 大地の引いた身体を引き寄せて博貴は言った。
「馬鹿じゃないの?お前って俺よりガキに見えることあるぞ」
「……そうかい?」
 不服そうにそう言った。
「そうだよ。何回やったと思ってるんだよ……全く、そんな身体でやろうと思うよな。でもま、俺もしたかったことはしたかった」
「大ちゃんって……何か言うようになったね」
 ニコニコしながら博貴は言った。
「ば、馬鹿野郎!お前をフォローしてるのがわかんねーのか?」
「……したいと思わなかった?」
 そう言って引き寄せた大地の耳たぶをかぷっと噛んだ。
「だからっ!てめえ、病人なんだから大人しく寝てろ!」 
 かーっと真っ赤になって大地は言った。
「……冷たいなあ、ベットの中の大地は素直なのに……」
「お前が元気なら素手で一発殴ってたぞ、全く、俺飯作るよ。今日から夜勤だから……まあ、昼間おれるからお前の面倒仕方ないから見てやるよ」
「大ちゃんやっぱり優しいね」
「五月蠅い」
 大地が立ち上がってベットから降りると博貴が言った。
「大地……今度こんな事になったら……今度こそ話してくれないかい?私も……きちんと話すから……」
「……お前が二度と馬鹿なことしないって約束したら俺も約束してやる」
「分かったよ。約束だ。その代わりもし、藤城に力を借りなければならない時があれば、私が頭を下げて頼むから……大地が頼まないでくれるかい?」
「大良……」
 大地は振り返った。博貴は相変わらず優しい目で笑みを見せていた。
「うん。お前に頼むよ」
「ありがとう大地……」
 博貴はそう言い、ホッとしたような顔をすると布団に潜り込んだ。
「そう言えば……俺お前にもう一つ聞くことがあったんだ」
「え?」
「お前が俺に言った言葉……ちゃんと否定しろ!」
 大地がそう言うと、博貴は何のことか分からないという顔をした。
 この男は~
「お前が言ったんだろ!男同士なんていつかどこかでけりつけなきゃ駄目だって!それ本気で言ったんじゃねえよな?」
「あ、当たり前じゃないか。本心で言った訳じゃない……それにそんな事一度だって考えたことも無かったよ……。本当に済まなかったと思ってる……」
 博貴は本当に申し訳なさそうにそう言った。
 まあ、許してやるしかないだろう。
「分かった。嘘でももう二度と言うなよ」
「言わないよ……それ証明するためにもう一回しようか?」
 冗談だと思って博貴の顔を見るとマジな顔でそう言っていた。
 大地は思わずクッションでもう数回博貴を殴りつけた。

―完―
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