「暴走かもしんない」 第6章
「あっ……あ」
博貴の指は腹を抉るように動かされ、大地の快楽を掻き立てる。敏感な部分をすべて把握している指だ。すぐさま耐え難い射精感に襲われ、屹立した雄が欲望の吐き出す瞬間を狙い、いやらしく蠢いている。理性では制御できない原始的な器官は、いつだって一番素直なところだろう。
「あ……博貴……」
「大ちゃんのこと、このまま全部食べちゃいたいくらい、可愛い」
無数のキスが顔中に落とされ、その一つ一つの刺激の心地よさに、大地は目を細めた。
「博貴……もっとキスして……」
「たくさん?」
「……うん」
「ここも舐めて欲しいかい?」
博貴は蕾を弄りながらも、あいているもう片方の手で、張りつめている大地の雄を握りしめる。自らの雄のムチッとした感触、それにまとわりつく博貴の手の平が、ますます大地の射精感を煽り、逆立った産毛の先がチリチリと焼かれるような奇妙な感覚を呼び起こす。
「……うっ……あっ、あ……」
「あれっ、手で満足?」
すでに答える余裕など失われている大地だ。瞳を覆うのは快感から浮かんだ涙で、博貴の顔もぼんやりとしたものに見える。けれどどれほど悪戯っぽい表情で笑っているのか、視界がクリアでなくても、想像がついた。
「……あ……ああ……や……」
腹筋をしているわけでもないのに、腹がビクビクと震える。雄を掴んでいる博貴の手の動きに反応しているのだが、根元をしっかりと押さえられているために、欲望を吐き出せないのだ。
大地は身を捩ることで博貴の手と自らの雄の間に隙間を作ろうとした。僅かでも隙間が空けば、今一番叶えたい欲求が達せられるから。
「うっ……くっ……あ……あっ……」
「駄目だよ、大地。ちゃんと口でしてあげるから、もう少し我慢するんだよ」
博貴はそう言うと、根元を押さえたまま、赤く熟れている雄の切っ先を、ゆっくりと呑み込んだ。
ジュクッと粘ついた音が響き、下部に力が入る。まだ指先しか内部に入っていないのに、内部が収縮して、襞はさらに奥へと誘おうと蠢いた。その動きに気づかない博貴ではない。じっくりと口内で弄びつつ、蕾の奥に突き挿れた指も同時に動かして、快楽の相乗効果を狙う。
「あっ……あっ……ひっ!」
堰き止められているのに、大地の雄は先端から蜜を滲ませ、博貴の口内を満たしていく。博貴は蜜を嚥下しながらも肉棒の弾力を口内で堪能し、吸い上げ、歯を立てる。その刺激があまりにも鮮烈で、大地はようやくすべてを吐き出した。
「……あああっ!」
「大地が限界まで我慢して楽になる表情はいつ見てもたまらないねえ……私の余裕も失われてしまうよ」
口の端から一筋漏れた蜜を舐め取り、博貴は微笑した。
端正な顔立ちに、肩まである栗色の髪。どこか皮肉っぽく歪められている唇は、大地より少し肉厚だ。こうやって間近で見ると、博貴がどれほど男前なのかよく分かる。そしてこれこそが大地の好みの顔なのだと、再認識するのだ。
「博貴……好きだ……」
「私もだよ、大地……」
忠誠を誓う騎士のごとく大地の手を取り、その手の甲に博貴は軽くキスを落とす。どこか厳粛とも思える行為に、大地はなんだか胸が一杯になった。
「博貴……」
「……きっと大地が思うより、私は大地を愛してる」
「ん……違う……俺、俺の方が絶対に好きだと思う……」
「そう?」
「うん……俺の方が……好き……」
「じゃあ……とりあえずそうしておこうか」
ようやく指先が抜かれ、代わりにもっとも望んでいたものが挿入され、大地は内部に入ってきた雄の代わりに押し出されるよう、息を吐いた。
「はっあ……!」
「大地の中、温かいねえ……それに……締め付けもちょうど良くて、私もすごく気持ちいいよ」
味わうようにゆっくりとグラインドする博貴に、大地は艶やかな喘ぎを上げた。この肉の擦れる感触は、数え切れないほど味わってきたのに、いつだって淫らに酔わされてしまう。
博貴が動くたびに、擦れあう肌は少し汗で滲んでいて、一瞬ヒヤリとするものの、すぐさま上がった体温の熱さにが伝わり、思わず大地は身を竦めてしまうのだ。同時に内部がギュッと締まり、博貴の表情にも快楽を楽しんでいる微笑が浮かぶ。
「俺も……イイ……」
大地はうっとりとしながら博貴から与えられる快楽に時間を忘れるほど浸った。
二人でシャワーを浴びて、パジャマに着替えてから、夕食にすることにした。すでに冷えてしまった料理をもう一度温め、テーブルに並べる大地はいつもどおりなのだが、なんとなくチラチラと博貴の様子を窺っているように見えた。
何か話したいことでもあるんだろうか……。
大地が嘘を付いたとき、何かを隠しているとき、相談したい出来事があったとき、本人は無自覚なのだろうが、いつもと違ってそわそわと落ち着きを無くすため、博貴にはよく分かるのだ。
今の大地がそれだった。
どことなく心ここにあらず、そのくせ博貴の一挙一動を気にするように、視線を寄越す。
「そういえば、大ちゃん。最近、仕事中にあった面白い話とか聞かせてくれないけど、警備の仕事、どうなんだい?」
博貴は大地が話しやすいように問いかけた。
「え……あ……うん。仕事は問題ないよ」
仕事は問題がない。
ということは別のところで問題があるのだろうか。
「人間関係でトラブル発生とか?」
「……」
何かを言いたそうに大地の大きな瞳が博貴に向けられたまま動かない。
「それとも、いやな上司に目をつけられたとか?」
「……相談をうけてさ……」
「相談?」
「うん。俺のことじゃなくて、同僚の話なんだけど……そいつ、ちゃんと付き合ってる恋人がいるんだけど、仲のいい友達から『ふりでいいから恋人になって欲しい』って頼まれたらしいんだ。でも、同僚の恋人はすごく嫉妬深いらしくて、ばれたら大変なことになることは予想が付くらしんだいけど、かといって友達が困っているのも放っておけないって。こういう場合、博貴ならどうする?」
嘘がつけない大地だ。
明らかに自分の悩みを話していることに博貴はすぐさま気づいた。
大ちゃん、それ……。
同僚の話じゃなくて、大ちゃんのことじゃないのかい?
嫉妬深い恋人は私だろう?
じゃあ、ふりでいいから恋人になって欲しいって言い出したのは誰だい。
一気に押し寄せてきた疑惑は、博貴の心を乱れさせたものの、だからといって、ストレートに『それは大地のことだろう?』とは言えない。大地は友情をとても大事にするタイプで、例え友人が恋愛感情を抱いたとしても、そのことが理由で絶縁することは決してないのだ。
もし博貴が大地の友達に対し、酷いことを言おうものなら、逆にこちらが険悪な状態になることは間違いない。
「どういう事情があって、恋人のふりなんて頼まれちゃうんだろうねえ……」
どういう状況であるのか、はっきりとしない今、できるだけ情報を集めなければならない。もちろん、大地が当事者であることに博貴が気づいているというそぶりは絶対に気取られないよう最新の注意が必要だ。
「……それがよくある話なんだけど、頼んできた友達のお父さんが病気で伏せっていて、孫とは言わないからせめて結婚してくれって言い出して、勝手に相手を決めちゃったらしいんだよ。頼んだ友達はそういう形での結婚は受け入れられないみたいでさあ……」
なんだか古くて胡散臭いシチュエーションに、博貴は内心ため息を付いた。
「よくある話かい?私にはそれこそが嘘のように聞こえるよ。問題はそこじゃなくて、相談したその友達が実は同僚を好きだということじゃないのかい?」
「えっ!」
大地の顔に、見間違えようのない動揺が走った。