「君がいるから途方に暮れる」 第13章
「何時から?いつからなんだよ……」
「さ、最初から……だ」
言われてこちらも赤くなってしまった。
「……あ……あれ?」
「わ、私が……何の感情も無く……男に……それも無理矢理抱いた男に何時までも身体を任せているとでも思っていたのか?……何か……無ければ……続けられない……だろ?」
戸浪は必死にそう言った。
「戸浪……」
「だから……例え……お前が欲求だけを満たすために……私を抱いていても……それが特別だと思える間は……耐えられたんだ……。だが、お前に婚約者が出来て……私の存在が本当にただの性欲を満たすだけの存在だと思い知らされたとき止めたいと……お前から離れたいと思った。だから……」
戸浪の瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。
「……違う……あいつは違う」
祐馬はギュッと戸浪を抱きしめた。
もう二度とこんな風に抱きしめることは出来ないだろうと思っていた身体。
「ああ……噂で聞いた。幼なじみだそうだな……」
「……そうだ。それだけだ」
言いながら祐馬はもう一度抱きしめている手に力を込めた。
何て遠回りをしたのだろうと後悔しながらも、必要な遠回りだったのかもしれないと思う。素直になれない戸浪がようやく自分の心を祐馬に見せている。真由香のことがなければ、きっと今も互いの気持ちを確かめられずに、ずるずると抱き合っていただろう。
「私は……こんな気持ちをどうして良いのか分からない……」
目をぎゅうっと閉じ、何かを耐えるような戸浪の様子が酷く印象的だった。
今までになく戸浪が可愛い。
こんな風に顔を赤らめて、瞳に涙を滲ませる表情など、自分以外見ることはできないはずだ。それを思うともう我慢が出来なかった。
「なあ、抱いていい?……」
すると戸浪は閉じていた瞳を開けた。
「……多分……私は……抱かれたいから来たんだと思う……半休を取ったのも……そのつもりだった……からだと……」
心の内を見せない戸浪が時折言う本音はかなりストレートであることに気がついているのだろうか?
その飾り気のない言葉が、祐馬をどれほど煽るのか分かっているのだろうか?
多分本人は気付いていないだろう。
気づいていたなら戸浪は絶対にこんな言葉など口にしないから。
「戸浪……俺は……」
「早く抱いてくれ……」
自分を求める瞳が祐馬の姿を映していた。
祐馬も限界だった。
「あっ……はあっ……」
いつもより激しく祐馬は戸浪を貪った。身体にうける愛撫の強さが戸浪の快感を更に煽る。あっという間に素っ裸にされ、己自身が恥ずかしいと思う間もなく抱きすくめられたのだが、いつもより高い祐馬の体温を感じて何故か安堵感が心を覆う。
「戸浪……」
低いがよく通る声で囁かれると戸浪は益々身体が疼く。こんな風に抱き合える日が来るとは夢にも思わなかった。
「……あ……」
祐馬の舌はするすると下半身に降りていき、湿った戸浪のモノを口に含むと、舌で舐め回す。そんな刺激が神経を刺激して頭の芯を痺れさせた。
「あっ……急にそんなに強く……やめっ……」
強く吸い上げ、次にゆるく嬲られを繰り返されて、一気に駆け上りそうな快感の波を必死に戸浪は押さえた。しかし、ここしばらく押さえていた欲求が、久しぶりの愛撫を歓迎していて、理性が機能しない。
貪られたいと思うのは本音なのか、それとも生理的なものなのかも判断がつかないほど。
「我慢しないで達っちまえ」
くくっと笑いながら祐馬は言う。その声は楽しそうだ。
「うっ……あっ……祐馬ッ!駄目だ……」
ガクガクと震える両足を突っ張り、祐馬の頭を抱え込んで戸浪は必死に耐えた。いつもされるこの行為が戸浪は嫌だった。戸浪とてやるのは嫌だ。
あんな所を舐めて最後にそこから出るものを口に含んだり、飲み込まれるのは耐えられない。
「ん……何、耐えてるんだよ……良いって言ってるのになあ……」
いきなり先端に軽く歯を立てられた戸浪は、その刺激に我慢ができず、祐馬の口内に自分のものを吐き出した。
「お前が……悪いんだからな……っ」
荒い息をしながら、戸浪は怒鳴るように言った。恥ずかしさを隠すために怒鳴るしかないのだ。
「何が?」
口元に付いた白い液体を拭いもせずに祐馬は不思議そうな表情を向けてくる。戸浪には祐馬の表情より、その口元に僅かについている白濁した液を見つけて羞恥心で気を失いそうになった。
「だからっ……」
戸浪は言葉で言うより先に自分の手で祐馬の口元を拭った。これが自分のものだと思うと酷い自己嫌悪に陥る。
「よせよ……そういうことするの。俺は好きでやってるんだぞ。お前のだし」
しかし、祐馬はけろりとした顔でそう言う。戸浪の気持ちなど全く分かっていない。
「汚いだろうが。私は嫌だ。だから……もうしないでくれ……」
涙が出そうだった。
「ばっかだなあ……そっか、だから口で達かせると、いっつも嫌な顔をしてたんだ……はは。そういうことかあ……」
「そうだ……あっ…」
祐馬にぐいっと顎を掴まれ瞳を逸らすことを許されなかった。
「俺……お前を愛してるんだ……ずっと……研修生でお前が来たときから……。お前のものなら何だって俺は愛しい」
そう言って濡れた戸浪のものを手で握りしめた。
「う……よせ……」
ビクリと身体をしならせて戸浪は喘いだ。
「嫌なら俺しねえよ……好きだから出来るんだろう……違う?」
胸の尖りに歯を立てられ、手は執拗に手の中のものを弄ぶ。その刺激が身体中を支配して、理性がどんどん麻痺してきた。
もういいか……
このまま快感に翻弄されて自分を見失いたい……
戸浪は普段なら考えられない気持ちが己の心を占めていくのが分かった。多分、祐馬だからこんな気持ちになれるのだろう。
「あっ……はっ……あああ……あっ……やめ……」
だが、口をついて出る言葉は心とは反対だった。そんな自分が嫌いだ。素直になりたいと思いつつ、自分の性格が邪魔してすんなり言葉に表せない。
「戸浪……なあ、俺にも聞かせろよ……俺のこと愛してくれてる?」
愛してる……
ずっと……
「なあ……どうなんだよ?俺にもくれよ……」
戸浪のモノを擦りあげながら言うのは反則だろう。快感から出た言葉などどう信用できるのだ。しかし、祐馬は欲しがっている。
「……あ……ああ……私は……あ……」
「……戸浪……」
喘ぐ口元を祐馬は愛撫しながら、それでも完全に塞ぐことはせずに、戸浪の言葉を待っていた。
「……祐馬……っ……あ……」
祐馬から与えられる刺激で膝ががくがくと震えていた。腰元から這い上がる快感は、下半身を麻痺させているようだ。
いや、思考を麻痺させようとしているのだろう。
その前に、言わなければならない。
快感から出る言葉ではなく、理性を伴った告白をしたかったのだ。
「……あ……愛してる……お前を……祐馬を……私は……ずっと……」
荒く息を吐き出しながら戸浪はようやく言った。
ずっと口に出来なかった言葉が言えたことで、急に心が軽くなる。
そう、ずっと好きだった。
ずっと愛してきた。
「ああ……そんな目で見ないでくれ……いや、見ていたいな……たまらねえよ……」
膝に乗せられた戸浪は、祐馬からキスを繰り返された。
当然、既に口元は緩みっぱなしで閉じることなど出来なくなっている。
「はあ……はあ……祐馬……あ……んっ……あっ……」
祐馬の指が窄んだ部分に侵入して来ると、戸浪は祐馬にしがみついた。
「……ああもう……ここに入れたいのに……」
そんな風に言いつつも、祐馬は手荒に押し広げたりはしなかった。あくまでじっくりと慣らすように指が中で蠢く。
「……れて……いい……」
「なんだ?」
「入れていい……」
息を吐き出しながら戸浪はやっとそう言った。
「駄目だ。まだちっとな……」
ジュブッと二本目の指を入れて祐馬は言う。その指が中で円を描くと、何かが同じように頭のなかで円をかいている。
「っっは……あ……祐馬……っ……」
身体を小刻みに振るわせて戸浪は耐えた。
祐馬の肩を掴んで項垂れながら、深く入り込む指の感触に戸浪は酔いつつも、霞んだ目が祐馬の下半身を映し、まだズボンを脱いでいないことに気が付いた。
戸浪は自然に肩から手を離し、祐馬のベルトに手をそえる。
「……なに?」
「私だけが……素っ裸で……恥ずかしい……」
「あとで脱ぐよ……」
と言っているのを無視して戸浪はベルトを外した。祐馬の方の戸浪のそんな行為を止める気は無かった。
「……ああ……」
「どうした?」
「これを……触るのは……初めてのような気がする……」
手で祐馬の固く立ち上がったモノを両手で掴み、奇妙な感触に思わずそう呟いていた。
これが戸浪を翻弄するのだ。
身体の内から……。
それを考えると急に恥ずかしくなって、顔が赤くなる。
「……お前の中にいつも入って悦んでるんだ……俺の……」
「……入っていたんだ……」
手の中にあるモノを確かめるように触れ、どう考えてもこれが入っていたと信じられずに戸浪は手が震えた。
「それは大きいって事を褒めてくれているのか?」
ニヤリと口元で笑って祐馬が言うと戸浪は手を離した。自分が何をしているのか今気がついたのだ。
よくよく考えると恥ずかしいことだった。
「いいよ……もっと触ってくれよ……」
祐馬が耳元でそう囁いた。
「あ……っ……」
キュッと指を中で曲げられて戸浪は又祐馬の胸元に倒れ込んだ。
「触ってくれよ……お前のその手で……」
頬に何度もキスを落として祐馬は言う。その間も指は戸浪の蕾の辺りを愛撫していた。それらの刺激が戸浪を麻痺させる。
「触ってくれって……」
「……あ……ああ……」
言われるがままに戸浪はゆるゆると手を伸ばすと先程掴んだモノにもう一度触れた。すると先程より熱くなっているのが感触で分かり、己の体温までも上がる。
「……熱くて……固い……」
「うーん……何か変な気分だなあ……」
祐馬は困ったように言うと、戸浪の浅く喘ぐ口元に舌を滑り込ませた。肉厚の舌は戸浪の舌を捕まえるとそのまま吸い付いて離れない。その心地よい刺激に戸浪は目を細くさせた。
「……ん……う」
甘い舌の感触を堪能しながら戸浪は自分が指で掴んだモノの形をなぞる。すると固くそそり立ったものは鋼を触っているような感触だ。しかし表面には弾力がある。
本当にこれが入っていたのか?
こんな固くて太いものが自分の中にいつも入っていたなど戸浪は信じられなかった。
暫く辺りを触っているとぬるっとしたものが指に付着した。
ああ……
欲しい……
戸浪は手で触れているモノを、己の中で感じたくて仕方がなかった。触れてるだけでは満足できないことを良く知っている。
内側から擦りあげられて初めて満足できるのだ。
駄目だ……
我慢が出来ない。
気が付いたときには、戸浪は腰を上げて、手で触れていたモノを自ら中に誘った。
「っ……荒っぽい奴だな……」
「はあ……あっ……つ……強い刺激が欲しい……私をお前の中で狂わせてくれ……」
慣らされた身体を自ら戒めてきたのだ。その為に久しぶりの快感を求める気持ちは貪欲だった。
ふと自分でも恥ずかしい行動をしてしまったと思ったが後悔はしていない。そんなものは今持ち合わせていないのだ。
「言ったな……しらねえぞ……」
繋がったまま倒されて、祐馬が上になる。そうして見下ろす瞳は意地悪い光を発していた。
祐馬の瞳の強さは生半可ではない。
見つめられると戸浪はいつも目を逸らせてしまう。だが、視線を感じ続けると、祐馬の言葉に言いなりになって、戸浪はいつの間にか己の身体を自ら開くのだ。
そんな眼光の鋭さを持つ祐馬の視線に戸浪は殺されてもいいとさえ感じた。