Angel Sugar

「君がいるから途方に暮れる」 最終章

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「頼む……早く……欲しい……」
 戸浪が言うと祐馬は激しく腰を突き上げた。しかし、一瞬擦りあげられただけでは満足など出来ない。
「こんな……ふうか?……」
「も……もっと……もっとだっ……」
 ぎちっと詰まったものが激しく内部を擦り出すと、痛みと快感が交互にやってくる。どちらかといえば痛みよりも快感の方が強い。
「あっ……はっ……ああ……あああっ……もっと……もっと……」
 戸浪は喘ぎながら祐馬の背に爪を立てて何度も求めた。
 身体が熱くバラバラになりそうな激しい動きがなにもかもを忘れさせてくれる。祐馬はこちらの期待に背かない。欲しいと一言囁きさえすれば与えてくれる。
 身体の全ての部分に祐馬の印が欲しいと戸浪は思った。その印の分だけ愛されているのだと感じることが出来るから。
 言葉だけでは何も信じられない。
「とな……みっ……」
 祐馬は一旦抜いて戸浪の身体を荒々しく裏返すと今度は腰を掴んで後ろから突き入れてきた。
「あっ……!」
「こっちからの方が……いいだろ……」
 ズンッとした重みを感じて戸浪は息が止まりそうだった。それでも拒否する事など考えない。それほど今は祐馬から与えられる快感を戸浪は欲していた。
「ああっ……はああっ……ゆう……まっ……ゆうまあ……」
 シーツをぎりりと握りしめて戸浪は叫ぶように言った。
 このまま壊れたい。
 抱き壊されてもいい。
 身体中を覆う快感に酔いしれながら戸浪はよがった。
「今日の……お前……今迄になく……激しいな……」
 くくっと声をあげて祐馬が言った。
「ああっ……も……達かせろ……頼む……」
 根元を掴まれたモノは物憂げに頭をもたげ、先端から滴を滴らせている。それは糸を引いてシーツに落ち、色が変わっていた。
「もう少し我慢しろよ……」
 ぐにぐにと中をかき混ぜるような腰の動きを見せて、更に追い立てるように祐馬は腰を突き入れてきた。だがその度に戸浪は息が上手く継げない。
 荒く浅く吐き出される吐息は、自分でも分かるくらい熱かった。視界が歪み、ぼやけた景色が更に歪む。
「あ……ああっ……も……頼む……祐馬っ……」
 両足がガクガクと振動するが止められない。快感が身体の隅々にまで浸透して脳を刺激して夢心地に陥っていた。あとは己が解放されるときに感じる、何もかも忘れた状態に陥るだけ。
「……まだ……だっ……!滅茶苦茶になりたいんだろ!してやるよ……」
 ぺろりと舌で口元を拭い、祐馬は戸浪がシーツを握りしめている手を掴むと、ベットの縁を掴ませて上半身を起こさせた。
「ゆう……まっ……なに……何を……」
「しっかり掴んでろ!お前が突っ張る分、気持ちいいぜ……」
 そう言って祐馬は腰を深く突き入れた。
「ひいっ……あーーーーーーっ……」
 両手で縁を掴んで身体支えた分、後ろからの重圧をもろに身体に受けて戸浪は腕が折れそうな気がした。それでも最奥を突かれて戸浪の身体は悦んだ。
「な……いい……だろ?」
 荒く吐き出される息と共に祐馬は言った。
「やっ……あっ……い……いい……い……い……」
 後ろから強く押し出されるように突き上げられると、だんだん身体が前に動く。戸浪はベットの縁をいつの間にか抱きかかえるようにしてその刺激を身体に刻み込んだ。
 それは今まで感じたことのない快感だった。
「も、駄目だ……達かせてくれ……頼む……ゆ…ま……頼む……」
 からからの喉から掠れた声を発し、戸浪は喉が焼け付くような錯覚に陥っていた。
「あ……ああ……俺も……だっ……一人で達くなよ……一緒にだ……」
 ぐいっと突き上げられると同時に自分のものを強く擦りあげられて、戸浪は身体の奥が熱いもので溢れるのを感じた。
 真っ白になる瞬間。
 心地よい気だるさに包まれながらあとは二人で倒れ込むだけだった。

 結局、何度も身体を重ね合い、夕方ようやく互いを貪りあうのを止めた。
 ベットに身体を横たえながら祐馬が感動を込めた声で言う。
「今日のお前……すごすぎ……」
 半分意識がまだ戻らない状態の戸浪はうっすらと目を開けた。 
「…ああ……壊れても……いい……お前になら……壊されても……いい……」
 叫びすぎた喉は掠れて、戸浪はハスキーな声になっていた。それでも後悔という文字は浮かばないのだから不思議だ。
「ばっか……壊すわけねえだろ……俺の……大事な……恋人だぞ……」
 がしっとした筋肉質の腕に囲われて戸浪は祐馬の方を向く。
「……こい……びと?」
 今気が付いたように戸浪は言った。
 実感が無いからだ。
「なんだそりゃ……。お前なあ。じゃ、何だって言うんだこの関係は」
 ムッとした顔の祐馬に手を伸ばして戸浪は両手で挟み込んだ。
「……ああ……そうなんだな……私の望みが叶ったんだ……」
 緩やかに笑みを浮かべると祐馬の顔が見る見る赤くなった。
「なんだ?どうした?」
「なんてーか……そう言う顔の戸浪は本当に可愛いと思ってさ……」
「……馬鹿かお前は……」
 こちらまで恥ずかしくなった戸浪は、祐馬の頬から手を離してベッドに沈んだ。
「……私は……大地のように振る舞えない……可愛くなれないし、人に笑顔を向けるのが苦手だ……その上強情で頑固……そんな自分を痛いほど良く知っている。それなのにお前はこんな私でもいいのか?お前ならもっと……」
 先の言葉を言おうとしたが、祐馬の唇に塞がれた。
「祐馬……」
「その顔で愛嬌があったら、お前、もてすぎて俺が困るだろ。俺にだけ素直でいてくれたらいい。俺にだけその笑顔を向けてくれたらいい……俺だけが……お前を知っていればそれで良いんだ……」
 そう言って額にかかる髪を祐馬は撫で上げる。すると心が温まり安堵感が広がった。これが愛されると言うことなのだろう。
「……そうか……お前が納得してくれるのなら……それでいい……」
「俺だってさあ、ずっと望んでたんだ。こんな風に抱き合えることをさ……」
 嬉しそうに祐馬は言って戸浪の身体を抱きしめてくる。しかし、ふと、戸浪はあることを思い出した。
「……そうだ……お前に聞きたかった」
「なんだ?」
「大地に何を言った?」
「え?」
「大地に私のことを何か言っただろう?」
 そう言うと祐馬は顔が強ばった。
「……言え」
 ジロリと睨むと見つめる先の表情は、ばつの悪そうな様相になる。
「怒らないか?」
「……事と次第による……な」
「……その……怒らないと約束したら、白状する……」
 何を言ったか分からないが、戸浪が約束しないとこの男は白状しないだろう。だからといって大地達に聞けるわけなどない。
「分かった。怒らない」
「実はさあ……」
 と言って白状された内容に戸浪は、本当に頭に血が昇った。もしこんな風に抱き合う前に聞いていたとしたら、今戸浪はここにいないはずだ。
「ほお…いい根性をしているな」
 戸浪は冷たくそう言った。
「……だってな……俺、苛々してさあ、ほら、人間誰でもあるだろ。何かを壊したい一瞬がさあ……」
 慌てて言い訳をする男に戸浪は呆れてしまった。
「兄弟の仲をぶちこわしたいとでも思ったのか!」
 兄が祐馬の玩具だと聞かされた大地はどれほどショックを受けただろうか。それを考えると恥ずかしさと情けなさがごちゃ混ぜに戸浪の心で渦を巻いた。
「……そう言うつもりじゃなくて……。俺、本当に飲み会楽しみにしてたんだぜ。それなのに中止って言われたんだぞ。それが無茶苦茶腹が立ったんだ……。どうせお前が嫌だと言ったんだろうって……。分かったから……それが辛くて……俺だけが悪者みたいで……」
 最後はごにょごにょと誤魔化す。
「……」
「怒った?なあ、俺のこと嫌いになった?」
 心配そうに祐馬が問いかける。
 どうしてこんな奴を好きになったのだろうとため息をつきながら戸浪は息を吐いた。
「お前には散々な目にあわされてきたが……嫌いになれないんだ……困ったことだ……」
 戸浪がそう言うと祐馬はニンマリと口元に笑みを浮かべた。そう言う顔も戸浪の好きな表情の一つだ。
「俺、いい男だからな……」
「話しがそれた。許してやるが……会社で大地に会ったらちゃんと本当の事を言うんだぞ。いや、捜しても一度は必ず会って本当の事を話せ。そうしたら許してやる」
「え、あんなお子ちゃまに、お前が……狂わせてくれとか、もっとと叫んだから悦ばしてやったって言っても良いのか?」
 思わず戸浪は枕を掴んで思いっきり祐馬をぶちのめした。
「おま、お前……っ……手加減無しか?」
「ち、違うだろうが!」
「じゃ、何をいえって言うんだよ」
 これから先、この祐馬の性格に、きっと戸浪は毎度途方に暮れそうな気がしたが、それもまた、仕方のないことのなのだろう。
 普通なら考え込んでしまうような事なのだろうが、意外に戸浪は気分が良かった。
「……その私を恋人だと……言えば良いんだ」
 そう言うと祐馬はなるほどと言う顔をして次に嬉しそうに頷いた。

―完―
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