「相手の問題、僕らの代償」 第7章
大きな事件もなく一週間が過ぎた。
世間は新たな湯河の情報も無くアイドルのスキャンダルの方に関心が移り、トシ達の身もやっと自由に動けるようになってきた。
庁内のムードも湯河が既に都内を出たのだろうという雰囲気が漂い始め、気が緩み始めていた。
しかしその中で一向に気を抜くこともなく、神経を張りつめている人間が三人いた。
田原とトシ、そしてリーチであった。
聞こえない足音に耳を傾け、全神経の感覚を研ぎ澄まし湯河の近づいてくる気配を、少しでも早く掴もうと、特にリーチはその事に必死であったので、毎日ぐったりと疲れていた。
トシは妙な不安が頭をもたげ、振り払うことが出来ずに日々を暮らした。
二人ともお互いその話はせずあえてその問題の会話を避け、平静を装っていたが田原はそれに敏感に気付いていた。
気が緩みだす頃が一番怖いことを知っていた田原は事あるごとに一課の人間、捜査本部の所轄に活を入れたが余り効果はなく、苛々としていた。
『ね、リーチ。今晩のプライベート代わってもらえない?』
その週はリーチであったが、トシがどうしてそう言うのかが分からなかった。
『お前の用事…なんかあったっけ?』
『ずっと悩んだんだけど…今晩、恭眞の所へ行きたいんだ…』
『お前…』
トシが何を決心したのかが分かったリーチは驚いた。
『いい?』
『駄目だとは言わないが…お前が辛い思いをするだけだろう?』
『ほら、恭眞…婚約したし、きっと二人で撮った写真なんかを整理するだろうから、される前に僕に貰えないかなって思ってさ、僕のは火事でみんな燃えちゃったから…』
それだけでは済まないとリーチは重々分かっていたが、トシが決心したことを止める権利は無かった。
『お前が納得しているのなら俺は何も言わない。好きにするといいさ』
『ありがとうリーチ…』
切ない恋…それでも諦めきれないのか…
リーチはトシのそんな想いをどうしてやることも出来ない自分の無力さが疎ましかった。
叶わぬ想い…それでもトシは想わずにはおれなかった。
その夜遅く幾浦のマンションをトシは訪ねた。
「トシ…」
既にパジャマ姿の幾浦はその訪問者に驚いた。
アルはトシが帰ってきたと、嬉しそうに周りをぐるぐる駆けている。
「あの…夜分済みません…本当はもっと早くに来たかったのですが…色々忙しくて…」
トシは幾浦に視線を合わせづらいのか、やや俯いて言った。
「何の用ですか?」
幾浦は努めて平静に言った。
「ご…ご婚約されたそうですね」
「まだはっきり決まったわけではないのですが…近いうちに…」
そんな話をトシは何処から仕入れてきたのだろう…
まだ専務には何の返事もしてはいないというのに…
幾浦はそう思ったが、トシにそれは違うと否定はしなかった。トシには他に恋人がいるのに自分だけ何も無いというのが悔しかったのだ。
「そうですか…少し早いですが、おめでとうございます」
「ありがとう…」
この虚しい会話を幾浦は何とかしたかった。
諦めようとしていた筈なのに、目の前にトシがいるという事が、幾浦の心をかき乱した。
「用件とは何でしょう…」
さっさと済ませて帰って貰おうと幾浦は思った。これ以上会話を続けるのが苦しかったのである。
「結婚されるなら、色々整理されると思うのですが…宜しければ、写真を…整理される前に頂けたら…とてもありがたいのですが……。ご存じかと思いますが、家が燃えてしまって何も残って無いんです。…も…整理されたのでしたら、諦めます」
トシは震えるような声でそう言った。
幾浦は二人で撮った写真を、いつか処分しようと思いながらできずにいた。だが恋人がいる筈なのに、何故そんなものが欲しいのだろう。戦利品とでも思っているのだろうか?だが、自分では処分出来そうにない。ならばトシに渡す方が気も楽だと幾浦は思った。
「構いませんよ。お渡しします」
「ホント!…あ…いえ。ありがとうございます」
そのトシの笑顔が幾浦にとって眩しく見え、それを避けるように部屋に入ってアルバムと持ってきた。
それを受け取ったトシはアルバムをギュッと抱きしめて本当に嬉しそうだった。何故これほど嬉しい顔をするのか幾浦には全く理解できない。
「ありがとう…本当にありがとうございます…」
「コーヒーでも…飲んでいくか?」
幾浦は思わずそう言っていた。
「え、いいですよ。誤解されると幾浦さんが困るでしょう」
トシは慌ててそう言った。
「いいから入りなさい」
この家は、お前しか入れたことが無いんだ…
幾浦はそう思いながらトシに言った。
「お…お言葉に甘えます」
トシは断れそうもない幾浦の声にそう答えて、おずおずと部屋に入った。
アルはトシが帰らないよう後ろから付いてくる。
幾浦はキッチンでコーヒーを二つ入れると、手出しはしないと心に誓いながらそれを居間へと運んだ。
トシはきちんとソファーに座っているが、アルは遊んで欲しいのか膝に乗ったり、背中から飛びついたりしていた。そんなアルをトシは首に手を回したり、抱きしめたりしてやっていた。
幾浦はつい、アルになりたいと思ったが、それをすぐに振り払うと、カップを机に置いた。
「ありがとうございます…」
トシはコーヒーを一口飲んだ。
「誰に聞いたんだ?」
「えっ?」
「婚約の話…」
「そちらの会社の人から電子メール貰ったんです。以前の件で、友人になった方がいまして、一緒にお祝いしてあげないかとお誘いを受けてるんです」
「そうか」
友人とは誰のことだろう…
もう気にしないと心に決めていたが、幾浦はトシのことがどうしても気になることが分かった。
私はトシのことを、たぶん…いや…ずっと、今も愛しているんだ…
心の奥にしまい込んだ筈の想いは、薄れることも、消えることも無く、今すぐにでも復活しそうな気配を見せたので、幾浦は必死に耐えた。
「事件…大変そうだな…」
話題を変えようと幾浦はそう言った。
「テレビを見て知っておられると思いますが、連日マスコミや、他の事件もあって殆ど家に帰れないのです。少し参ってます」
そう言ったトシは、少し痩せた肩をポンと軽く叩いた。
痩せたな…顔色も余り良くない…。
「お前を恨んでいる奴は捕まえられそうか?」
「分かりません…追われるのは初めてで…予想が全く付かないのです…」
「それは大変…」
「お願いが有るんです…聞いてもらえますか?」
幾浦が言い終わる前にトシが言った。
「なんです?」
「さ、最後に一度だけ、一度でいいんです。僕を抱いて下さい」
突然の事に幾浦は二の句が継げなかった。
トシは一体何を言ってるんだ?幾浦は混乱したままトシをじっと見つめた。
「もう二度と会いに来ません。婚約者の人に迷惑をかけることもしません。だから…だから…私に思い出を下さい」
暫く互いの間に沈黙がおりた。
「済みません…だ、駄目ですよね…信じられないことを言ってしまった…忘れて下さい。じゃ、帰りますね」
そう言って立ち上がったトシの腕を掴んで引き寄せると、幾浦は言った。
「おいで…」
「幾浦さん…本当に…いいんですか?」
「いい。だが……」
「え……」
「頼むから、他人行儀なものの言い方もやめてくれ」
幾浦は初めてトシを抱いたときもそう言った事を思い出していた。
トシを寝室に連れていくと、幾浦はベットに座らせた。
「あの…もう一つ宜しいでしょうか…?」
「だからその言い方、何とかならないのか…ところで次は何だ…」
「優しく…して…」
そう言ってトシは幾浦のパジャマの袖をおずおずと掴んだ。
「トシ…」
幾浦は包み込むようにトシをその腕に抱いた。
初めて…トシから自分を求めてくれたことが幾浦は嬉しかった。
トシ…
ずっと謝りたかった…酷く、傷つけるようにお前を抱いたことを…
後悔していたんだ…
きっかけが無くて…何も言えずに日が経った…
今夜は優しくしてやるから…ずっとそうしてやりたかったんだ…
幾浦は静かにトシをベットに倒した。
「恭眞…」
トシは幾浦の瞳を見つめ返し、その中に自分が写っている事を確認するように目をしばたき、次に目を瞑った。
それがまるで合図になったかのように、幾浦はトシに唇を重ねた。
トシの震える舌を幾浦は自分の舌で捉えると、やんわり絡め、緊張を解きほぐすように優しく愛撫した。
幾浦がそうして丹念に、何度も口腔で舌を絡めるとトシの四肢の緊張が和らいでくるのが分かった。
幾浦が上着を脱がせようとすると、トシの脇に硬い何かが有るのに気付いた。
「あ、ごめんなさい。今、銃は常備携帯になってたの忘れていました」
そう言ってトシはあわてて上着を脱ぐと、銃をぶら下げているバンドを外しだした。
そんなに危険な奴を追っているのか…
幾浦はそんなトシを見て、これほど銃の似合わない男はこの世にはいないだろうと思った。幾浦自身海外主張が多く、自衛のため、アメリカで銃を撃つ練習を欠かさずしている。あちらでは、鞄に入れているのを見ても違和感はないが、日本で携帯をしている人間を見ると、妙に変な気分になる。
それもトシのような不似合いな人間が持っているとなおさらであった。
銃を外したトシは自分のシャツも一緒に脱ごうとしたので幾浦はそれを止めた。
「トシ、私が脱がしてあげるから…」
「えっ…」
幾浦に招かれるまま、トシは自然にこちらに身体を預けてくる。
そして再び、唇を重ねる。
そうしながら幾浦の手は一つずつトシのシャツのボタンを外しだした。
するとトシが何か思い出したように幾浦の手を止めさせた。
「待って…あの…タオル敷かないと…汚してしまう…」
真っ赤な顔でそうトシは言った。
「お前はどうしてそう気を使うんだ…そんなことはいいから気にするな」
少し苛立ったような声に聞こえたのか、トシは目を潤ませて後ずさった。
「ごめ…ん」
「怒ってるんじゃない…ただ、私に気を使わないで欲しい。それだけだ」
優しい笑みでトシを見つる。
「恭眞…」
「ほら、こっちにおいで」
幾浦は身を引いたトシの腕を掴むと自分に引き寄せ、その項に唇を這わせた。
その瞬間、トシの身体はピクッと震えた。
その反応に幾浦は満足すると、今度はトシのシャツを少しずつ肩から下ろし、その方向に合わせて項から肩、肩から腕へと唇を滑らせた。
その間、手は休まずトシの身体を軽く撫でる。幾浦の手に触れられた肌は、その度に身体を後ろに引く。その事気が付いた幾浦は、トシをベットに倒すと逃げられないように覆い被さり、今度は胸の尖りを口に含んだ。
「あっ…」
幾浦の唇はトシの突起を舌で転がし、吸い付きを繰り返す。手は、ズボンのベルトを外しだした。するとトシの身体が小刻みに震えだし、よく見るとシーツを掴むその手に異常に力が入っているのが分かる。
「どうした…怖いのか?以前の事を思いだしたのなら謝る……。もう二度とあんな事はしない……」
「違うんだ……」
「トシ……?」
顔を上げた幾浦はトシの方を向いた。
「何時もこうなんだ……僕……」
いつも?
そう言えばトシは、幾浦が抱くとこんな風になることを思い出した。暫くすると震えも止まるが一度、聞いてみようと思っていた事を思い出した。
「怖い…自分が自分で無くなるみたいで怖い…」
「意味がよく分からないが…」
「恭眞とこうしていると理性が無くなって、自分が何を言ったかも分からなくなるんだ…いつもそうだったけど…又そうなるかと思うとそれが怖くて…」
それを聞いた幾浦は可笑しくて思わず声を出して笑ってしまった。
「それって可笑しい事?」
不思議そうにトシは幾浦を見つめる。
「何だ…感じることが怖いのか…普通はそれが良くてセックスをするんだがな…」
最初、そんなトシを見たとき男同士ですることに拒否反応を起こしているとばかり思っていたので、本当の事を知って可笑しくて仕方なかった
「?」
「沢山感じてくれ…そして、快感に我を忘れてくれていい。そうやって乱れるお前も見てみたい」
言いながら幾浦は器用にズボンと下着を一気に脱がせた。
「あっ…!」
「おしゃべりはそれくらいにして、少し専念させてくれ…」
幾浦はそう言うと、トシの頬に軽くキスをした。
「うん…」
トシのまだ堅さのないモノを幾浦は口に含むと、口腔で愛撫し始めた。
「はっ…はっ…」
トシの吐く息には熱が籠もりだし、それに伴って喘ぎが洩れだす。
「あ…ああ…ああ…」
嫌ではない刺激を与えられていたにもかかわらず、トシの手は幾浦の頭に添えられ、少し押し返すような力が入っていた。だが幾浦はその程度のことで自分の行為を止めるつもりはなかった。
やや体積を増したモノは幾浦の口内でこちらの愛撫に答えるように自らを膨らませた。その間、幾浦の手はボールを揉んで更にその周辺に刺激を与えた。
「ん…んっ……あっ…ああ…」
トシはその刺激に耐えようとしているのか、膝を立てて足を踏ん張らせている。どうも妙に力が入っているようであった。
そんな様子に気が付いた幾浦は、ふと自分の行為を止めトシに言った。
「我慢しなくてもいい…出したければ出すといい」
「いや…だ…」
喘ぎながらトシはそれだけ言った。
「強情だな…」
そう言って幾浦は笑みを洩らした。しかしそんな風に耐えられると、余計達かせたくなり口に思いっきり含み、次に先端に向かって擦り上げる。だからといって口からは離さず、吸い付いたまま根元まで口に含む。
そうするとトシの先端から、耐えきれなくなった愛液が滲み出してきたが、幾浦はそんな事を全く意に介せずヌルヌルになったモノを舌で丹念に擦り上げ続けた。
「や…あっ……だめっ…!」
トシは幾浦の肩を手で掴んで来たが、その程度ことでは、自分の行為に没頭している幾浦はとまらなかった。
「きょ…まっ!…ああ…あ…あああっ!」
身体を一瞬のけ反らせると、トシは幾浦の口内に自分を放出した。幾浦はゴクリという音と共にそれらを全て嚥下した。
「だめっ…て…言ったのに…」
荒い息を吐き出しているトシの瞳は涙で濡れていた。
「気持ちよかったろ?」
幾浦はそう言って額や、眉根にキスをする。
「一度だけって約束だったから…こんな簡単に終わりたくなかったのに…」
トシはシーツに顔を埋めてそう言った。
その言葉を聞いて、幾浦は何故あんなにトシが耐えようとしていたのかが分かった。
「私はどうなるんだ?」
にやにやと幾浦は笑いながら言った。
「あ…そうだよね…僕だけなんて…」
幾浦が何を言いたいのか分かったのか、トシは頬を赤らめた。
「それに約束なんか忘れた……」
「えっ?」
幾浦はトシが問いかける暇も与えず、その身体を裏返すと背骨に舌を這わせた。
「あっ…!」
トシは思わず背中から来る快感に、甘い声色で鳴いた。それが耳に届くと幾浦自身の下半身も煽られた。だがこの前の様な抱き方は二度としないと幾浦は誓ったのだ。
もう二度とこんな風にトシを抱くことなど出来ないと思っていた。
だがトシから来てくれた……。
本当ならあんな風に抱かれたら二度と抱かれたいとは思わないだろう。だがトシは事もあろうか抱いてくれと言ったのだ。それもわざわざ尋ねて来てくれた。
幾浦は、トシの腰を持ち上げ膝を立てさせると、双丘を揉みながらまだ堅い蕾みに口付けた。
「あっ…だめ…こんな格好…だめだよ…」
丁度、尻を突き出す格好になったトシは、そう言って身体を捩ったが、幾浦にはそれが自分を誘っているように見え、自分の欲望の火が燃え上がるのが分かった。
内股を丁寧に舌で味わい、一時もトシの肌から唇を離さずに少しずつ蕾の周辺に舌を移動させた。
「ああっ…あ……あんっ……!」
その刺激にたまらなくなったトシが、恥ずかしげも無く甘ったるい声音を出し始めた。
蕾は襞を少し震わせ、幾浦を誘う。
幾浦は指で襞を引っ張り少し赤みが覗くと、舌を丸め蕾みに突き刺す。そうしてゆっくりと舌を内へ沈み込ませた。
「あっ……!」
トシは顔をシーツに擦り付け、何度も甘い声でないた。
幾浦は舌で抉るように廻し、襞をなぞる。手は内股を這い、ボールをなぞってトシのモノの先端に向かった。
「ああ…や……」
先端を掴んだ幾浦はそれを手の中に包み込み、優しく撫であげた。
「あ、ああ…や…だ……」
唾液を口の端から一筋流したトシが、上気した顔でそう洩らした。
「止めたいのか?止めたいならいつでも止めるが…」
自分を止めることも出来ないのに、幾浦はそう言ってトシを焦らした。
「いや…続けて…きょ…ま…止めないで……!」
トシは幾浦に切れ切れにそう言った。
幾浦はそんなトシが愛おしくて、目の前にある蕾みに指を一本沈めた。
「あーっ…!」
トシの中は熱を帯び、とろりと溶けていたが幾浦の指が侵入を果たすと周りの壁が幾浦の指を締め付けた。それに応えるように幾浦は指を回転させ、狭い中を押し広げてやった。
「やっ…ああ…ああ……!」
最初震えていた身体がいつの間にか快感に身を委ね、幾浦からもたらされる全てのものを、その身体全体で感じ取っている。
「トシ……」
何故こんなに愛しいんだ……。
「恭…眞ぁ…きょ…まっ…」
何度も何度も幾浦をトシは甘い掠れた声で呼んだ。
その声に煽られ、幾浦は激しく蕾みを嬲る。
この身体は私のものだ…
お前の何処が一番感じるかは私しか知らない筈だ…
雪久という男の事など忘れさせてやる…
お前をこんな風にさせることが出来るのは私だけだと身体に叩き込んでやる!
身体で繋ぎ止めるのは不本意だが、それ以外のものも確かに自分達の間にあると私は信じている…だからトシ…最初からやり直そう…初めから…これから何度も身体を重ね、もっとお互いを知り合うんだ…
幾浦はそう思いながら愛しいトシのモノをゆっくりと扱いてやった。
その手は先端から再度滲み出した蜜で濡れだしぬるっとしており、そのぬめりを内股や襞に塗り込め、蕾の開花を助けてやろうとした。すると少しずつ蕾が開き始めた。
幾浦はその瞬間がたまらなく好きだった。真面目でいつも厳しく自分を律しているトシが自分に全てを預ける瞬間であったからだ。
ようやく準備が整ったのを確認すると幾浦は、既に怒張したモノの先端を蕾にあてがい沈めた。
「あああっ…!」
トシはその熱い楔を身体の奥に感じて、悦び、全身を震えさせた。
幾浦が腰を動かし始めると何度も顔をシーツに擦り付け、喘ぎと共に歓喜の涙をこぼした。
「あっ…あっ…あっ……!」
トシにはもう理性など無く、快楽のもたらされる世界に漂っていた。
「トシ…トシ…」
幾浦がトシを呼ぶ。それに答えるようにトシは腰を振る。
確かにこの格好が一番痛みを感じさせないポーズであったが、幾浦はトシの表情が見えないのが悔しくて一旦自分のモノを抜くと、トシを仰向けにさせ膝を抱え上げ、再度挿入した。
そしてトシの表情を伺いながら、今度は腰をゆっくり動かした。
トシはとろんと潤んだ目を幾浦に投げかけていた。
口元は小さく開き、熱い喘ぎを洩らしている。
「恭眞…」
そう言ってトシは幾浦がこれまで見たこともない笑顔をその顔に刷いた。
「ト…シ…」
なんて愛らしい表情を持っていたんだろう…
幾浦はその笑みが自分に向けられていることが嬉しかった。
「もっ…と…」
トシはそう言って、幾浦の腕に手を廻した。
幾浦は驚きと共に、感動した。
初めて…初めてそう言ってくれた…
今まで一度も言ってくれなかった言葉を…
「もっと、どうして欲しい?」
額から汗を落とし、幾浦はそう言った。
「もっと…強く…強く突いて…」
幾浦のゆっくりとした動きに身を任せながら、トシはそう言った。
「強く…か?」
「うん…強く…」
トシはそういって目を細めて笑みを見せる。
幾浦は自分の欲望で突っ走るとトシが壊れそうで怖く、今まで力任せに貫いたことはなかった。
以前、強姦まがいのセックスをしたときですら、自分をセーブしていた程である。
それがトシから思わぬ要求を受けて、感激した。
「こうか…!」
幾浦はそう言って、思いっきり腰を突き上げた。
「あああっ…いい……!」
今までには無かったトシの嬌態が幾浦を更に煽る。
「恭眞…もっと…もっと……!」
トシの歓喜の声を聞いた幾浦は自分の欲望のまま突き進みだした。
「トシ…愛してる…愛してるんだ…」
激しい息使いの幾浦は何度もそうトシに囁く。
「きょう…まぁ…恭眞は…僕だけのものだ…誰にも…誰にも渡したくない…」
トシの幾浦を掴む手に力が入る。
その瞳は涙で潤み、身体全体で幾浦に訴えていた。
誰にも渡したくないと…
幾浦はトシの本心を知って益々愛おしさがこみ上げてきた。
「お前の…ものだ…みんなやろう…しっかり受け止めろ!」
叫ぶように幾浦はそう言った。
「ごめん…我儘ばっかり言って…ごめんなさい…ごめんなさい…」
トシは、絞り出すようにそう言った。
「いいからもっと我儘を言ってくれ。全部受け止めてやる。何でも聞いてやるやるから……。トシ、分かったか?ちゃんと理解しているか?」
何となく心配になった幾浦がトシに問いかけた。
「うん…うん…」
しかし、トシは口ではそう言っていたが自分が何を言っているのか、何を聞かされているのか、快感の波に呑み込まれ全く分かっていなかった。
「も…だめ…でも…いやだ…」
吐き出される息と共に、トシはそう言って顔をしかめた。
「達って…いい…トシ…」
幾浦は口を引き結んで耐えているトシの姿を見てそう言った。
「やっ…だって…ずっと…こうして…たい…」
間隔の短くなった呼吸が、限界を知らせていたのにもかかわらず、トシは必死に耐えようとしていた。
「これから…いつでも…出来るだろ?」
幾浦も限界が近く辛かったが、出来るだけ笑みを見せてトシに言う。
「本当…に…や、約束…して…」
「約束…だ…」
トシは幾浦からその言葉を貰うと、安心したかのような顔を一瞬見せ、一気に頂点まで駆け上がり始めた。
「んっ……ああああああっ……!」
全身の力が突然抜け、弓なりのままトシはシーツに倒れ込んだ。
幾浦はトシのそんな姿に心配したが、喘いでいた息が少しずつ平静に戻り、寝息に代わるのを見届けて、やっと安心してトシをその胸に引き寄せた。
トシは達するとそのまま眠りについたが、幾浦は満足して穏やかな表情のトシに身体の隅々まで優しくキスの愛撫を施した。
「トシ…」
これほど欲しいと思った相手はいなかった。
自分のプライドすらかなぐり捨てる事が出来る相手はいなかった。
トシ…
お前は知らないだろう…
私がどんなにお前を大切にしているかを…
本気で、逃げ出せないように拘束してしまいたいと思っていることを…
トシ…
お前は知らない…
私のこんな想いを…
だがいつか…きっと…お前に知って貰いたい…
急がない…強制しない…だから…
私の元からいなくならないでくれ…
幾浦はそうトシの耳元で囁くと、自分も眠りについた。