「春酔い」 後日談 第2章 完結
「何が可愛いんです?何処が?私は……嫉妬してるのに……」
最初勢いのあった言葉はだんだんと小さくなる。
「春菜は……きっとお前のことも好きになったと思うよ……」
名執を抱きすくめながらリーチが言うと、驚きで目を見開いた。
「なにを言ってるんですか……」
「あいつは……一生懸命に生きる人間が好きだった。正直に……素直に言葉に出来る人間にあこがれていた。だから……」
「……」
不服そうな瞳がじっとこちらを見上げ、口元が言葉を発しようとして止める。
「先に会っても、後に会ったとしても……ユキを選んでいるよ……。心配するなよ……」
リーチが言うと名執はまたこちらに抱きついてきた。そしてキスをねだる。求められるままに口元に噛みつくと、これでもかと言うほど口内を愛撫してやろうとしたが、翻弄されているのは実は自分であることにリーチは気が付いた。
「……ん」
侵入している名執の舌はリーチの舌を優しく愛撫する。普段の行動と全く違う名執がそこにいた。そんな名執にリーチはとまどいが隠せない。
その間も、名執の手はいつの間にかリーチの股下にのばされていて、欲望の源を揉み上げる。それは柔らかい動きで、酷く心地良いのだ。
ユキちゃんすげえ……
などと感動していると今度はベルトを外され、既にきつくなっていた場所から、リーチのモノは外へとだされた。
そこで名執はようやく口元を離して言う。
「舐めて良いですか?」
誘う瞳に魅入られながらリーチは頷く。すると名執は身体を起こしたリーチの股下に顔を埋め、そろりと舌でまず舐め上げた。
「……ん~」
もちろんリーチも名執にすることなのだが、される方になる立場はかなり照れくさいものがあった。嫌ではない。名執が初めてリーチにこういう行為をしてくれた時より格段と上手くなっているのをリーチは気が付いていたが、どうにも照れが拭いきれないのだ。
舌が絡められると、痺れが背を這い、同時に愛おしさも感じる。
「ユキ……」
手を伸ばし、名執の茶色の髪を撫でる。だが名執は自分の行為に没頭していて上を向くこともしない。小さな口が一杯一杯にリーチのモノを含んでいるのを見ると、幸せな気分になる。無理をしているわけではなく、本気で自分からしたいと思ってくれているのが分かるからだろう。
暫くすると名執は口元を離し、ようやくこちらを見上げた。
「リーチ……私にも触れて……」
髪は先程から撫でさすっているのに、こんな事を言うのは別な場所を触って欲しいからだろう。
「ん~どこ?」
分かっているくせにリーチはそう言った。
「意地悪してるんですね……」
涙目で名執は言い、またリーチのモノを口に含むと軽く歯を立てた。すると今まで快感を感じていた部分から軽い痛みが走り、リーチは思わず腰を引く。名執が間違ってもリーチを傷つけることは無いだろうと分かっていても、敏感な部分からの意味は少々複雑だ。
「よせよ……びっくりするだろ……。触って欲しかったら、そこを見せてくれよ……」
「……もう……」
真っ赤な顔をして、それでもリーチの言おうとしていることが分かったのか、名執はゆるゆると四つんばいになって腰元をこちらに向けた。
「やっぱりこう、きちんと見せてもらわないとなあ……俺、鈍感だから……」
「何処が鈍感なんですか……」
肩越しに振り返り、名執は呆れたように言う。
「それで?」
「……ここを愛してください……」
口の中にこもったような声で名執は言って、双丘を自分の手で両側から引っ張る。するといつも隠されている部分が露わになって、襞の部分がヒクヒクと蠢いているのが見えた。
「大胆だな……」
苦笑しながらリーチは言って、硬くすぼんだ部分に指を添わせた。すると名執は小さく震える。
「中に入れて……」
聞き取りにくいほどの小さな声が聞こえ、リーチは指を自分の唾液で湿らせてから、閉じている部分に指を突き立てた。
ちゅくっと淫猥な音と共に、指はずぶずぶと中へと入っていく。まだ弛みのない部分は周囲の襞に擦られながらも抵抗はしなかった。傷つけないように、それでも指先にこめた力を抜かずに更に奥に指を入れると、名執は顔を床に擦りつけてうめき声を上げた。
「気持ちいい?」
「……イイ……」
掠れた声で名執は言い、更に腰を上げてくるので、指の数を増やしてリーチは中を抉るように擦りあげる。名執の体温よりやや高い温度が指先から感じられ、吸い付くように収縮した。リーチの指を歓迎してくれているのだろう。
「……あっ……」
内側の壁を引っ掻くと、名執が背を仰け反らせた。徐々に肌に浮く汗は、名執の身体に快感を蓄積させているのを証明しているのだ。
くちゅくちゅと散々弄ると、益々名執の嬌声は大きくなる。最初自分の双丘を手で広げていた手も今は床に這わされ、快感の為に床を引っ掻いていた。
「入れて……リーチ……指じゃなくて……貴方のものが欲しい……」
荒い息と共にそう言われ、リーチはようやく腰を上げて、名執によって鍛えられたモノをまだそれほど弛んでいない場所にゆっくりと沈めた。
「……あっ……あーーーっ……!」
声と同時にギュッと締まる内側が、リーチのモノを締め上げる。すると快感が一気に下半身から背骨を伝わってリーチの脳を麻薬に似た感覚にさせた。いつものことだ。だが、毎回新鮮な快感を名執から味わうことが出来る。
初めて名執を無理矢理抱いたときからずっとリーチはそう思っていた。名執は一度味わったら手放せない身体を持っているのだ。もちろん根底には愛情があるからそう感じるのだろう。
「ユキ……お前の中……俺のモノ食いちぎりたいみたいだな……」
ギュッと締め上げられる感覚がそんな言葉をリーチから出させた。
「あ……ああ……食いちぎったり……しない……」
喘ぎと共にはき出される言葉。
「お前も腰をもっと使えよ……」
背を撫でてリーチが言うと、こちらの動きにあわせて名執は自ら腰を振った。その所為で指では決して触れられない部分にリーチのモノが沈む。
「……っあ……ああ……あ……っ……」
快感の涙を落とし、名執は何度も頬を床に擦りつけている。こんな風に乱れる名執を見るのがリーチは好きだった。自分であるからこそ、決して他には見せないの姿を見せてくれているから。
自分だけが知っている。
名執は時には自分から乱れ、リーチからもたらされる快感に酔う。
そして、幸せな笑みを浮かべるのだ。
それらすべてが、自分のものだった。
誰のものでもない。リーチだけの名執だ。
現実に人を愛すことが出来たのも、名執に出会えたからだった。
最初、監禁した。
そして酷い屈辱を味あわせてしまった。
それでも名執は今自分の側にいる。
幸運なのか、奇跡なのかリーチには分からない。
だが、現実に己の下で、快感に打ち震え、幸せに浸る男が存在する。
それでいいのだろう。
首筋を愛撫し、それでも尚、リーチは自分の行為を継続した。
「あっ……はあっ……ああっ……」
根元近くで名執のモノを掴み、解放することを許さなかった。せき止められたものはどうあっても解放することが出来ないようにする。すると名執の表情が、苦痛を伴っていながらも快感を感じているであろう表情になり、目から涙がボロボロとこぼれ落ちていく。
はき出される息は荒く、手の先に力がこもっているのが見えた。だが暫くは名執を楽にさせる気はなかった。
「……ひっ……あ……。や……や……」
「感じてるんだろ?苦しくはないはずだぜ……」
腰を動かしながらリーチは言う。
「……あっあっ……やめ……はあ……はあ……」
「止めていいのか?」
例えここで名執が止めて欲しいと言ったとしても叶えるつもりなどない。ギリギリまで拘束したあとの快感は例えようもないものだということを知っているからだ。当然、名執もそれを分かっているはず。
「あっ……ああっ……や……止めないで……やめ……っ……」
ギリギリという音でも立てそうなほど、床のカーペットを掴んだ名執の手は、必死に積み重なる快感のうねりを味わっているのだ。
そこでパンパンになった名執のものを更に煽るように両手で握り、指先で先を弾く。
「ひっ……あっ……ああ……や……も……だめっ……」
「俺も……」
既にこちらも限界だった。
名執のモノを拘束する手をゆるめ、擦りあげるように思い切り引っ張り上げると、己の腰も最奥に突き入れた。
「っ……ああっ……」
短い声でイった名執の腰を抱えたまま、リーチは休む暇も与えず名執を数度責め上げた。
暫く余韻を味わうように二人で抱き合いながら、時にはじゃれ合うように肌を触り、床に転がっていると名執がふと言った。
「私……リーチに渡したいものがあるんです」
ゆるゆると身体を起こして、自分の脱ぎ捨てた衣服のポケットに手を突っ込んでいる。
「なに?」
「これ……」
差し出されたのは小さなお守りだった。何処の神社でも売っているだろう、ごく普通のお守り。それでも名執からすると、刑事であるリーチを守るものになればという祈りのようなものがこめられているような気がした。
「ありがとう……」
受け取ってリーチがお礼を言うと、名執は何故か顔を赤くする。
「……春菜さんはいつも貴方の側にいる。でも私は、そういうわけにもいかない。だから……それを私だと思って下さい」
可愛いことを言うなあとリーチが思っていると、名執は更に言葉を続けた。
「そのお守りには私の分身が入っていますから……」
首元まで赤くして名執は言う。何処か不自然だ。
「は?分身って何だよ……」
「……それは別に……知らなくてもいいです……」
そう言われると益々中を見たくなるのが人間だろう。思わずお守りの紐を引っ張ろうとすると、名執が慌ててリーチの手を掴んできた。
「あっ……開けちゃだめです!」
「だってさあ……気になるじゃないか……」
「お守りは……中に小さなご神体が入ってるんです。それは外に出しては駄目なんですよ。折角のお守りの効力がなくなります」
「……お前も開けてなんか入れたんだろう?」
「よ……横から無理矢理入れたんですっ!」
もう、身体まで赤くして名執は言う。こうなると気になって仕方がない。
「折角もらって、こんな事言うのは悪いんだけど、これ持ってたら、中に何がはいってるんだろうって気になって仕事にならないよ……。だからユキに返すよ……」
こういえば名執が白状するだろうと思ったからリーチは言った。本気ではない。
「……リーチ……そんな……」
返されたお守りを手に持って名執は泣きそうだ。
「中身教えてよ……」
「私の……」
「私の?」
そこまで言って名執は口を閉ざし、チラチラとリーチの方を窺う。暫くにらみ合っているとようやく名執がぽつりと言った。
「毛……」
「……け?」
「……も……もういいです。リーチが嫌なら、受け取って下さらなくても良いんです」
と言った、名執の手からお守りを取り上げて、リーチはまじまじと眺める。
「毛って……もちろん……下の?」
ニヤニヤとした顔で聞くと、名執はこちらを見ずに小さく頷いて、言った。
「ちゃんと消毒して入れましたから……」
その一言が可笑しくて、リーチは暫く笑い転げた。