「沈黙だって愛のうち」 第6章
珍しく祐馬が積極的だ。いや、本来はこの位の押しが欲しいと思っていた戸浪からするとかなり嬉しい傾向に見える。こっちは年上で年下に遠慮している部分があるのだからそれを分かって貰わないと……と、考えながらもそれは都合の良い言い訳なのだ。戸浪自身、こういうことに元々積極的なタイプではない。だから祐馬に強く引っ張って欲しいと思う。
甘えている。
それが分かっていても性格だからなかなか変えられずにいた。
「戸浪ちゃん……」
バンとベッドの上に押し倒され、すかさず乗ってきた祐馬の重みが戸浪には心地良い。もちろん、表面上は困惑してみせているが、本心は違う。はっきり言って戸浪にだって当然欲求はある。それが自分の好きな相手だから尚更だろう。
ただ、何処のカップルよりも間が悪く、すんなりエッチまでこぎ着けられないのは何故なのだと戸浪は不思議に思う。
「祐馬……」
見下ろしてくる瞳を戸浪はごく自然に受け止めると、頭の両側で行き場を無くしていた手に祐馬は自分の指を絡めてきた。それは戸浪の指より太く、やや固い感触があるのは社内での仕事と外回りを含めた仕事を持つ違いからだろうか。
「戸浪ちゃんはすぐ手を出してくるから……こやって最初に手を動かせないようにしておけば良いんだよな……」
ギュッとベッドに押しつけられる手には痛みはない。それよりも、戸浪の両足の間に割り込ませてきた祐馬の身体が内側を擦り、それだけで体温が上がった。
「でも……」
「でも?」
「これじゃあ服を脱がせられない……ね?」
へへと笑いながら祐馬が言う。確かにそうかもしれない。
「では……私が手を出せないように縛っておくか?」
冗談で言ったつもりなのだが、祐馬は顔を急に赤らめてせき払いをした。何を想像したのか、大体予想はついたが、いつものように怒鳴るとまた中断してしまうだろう。
ここまで来てそれは無い。
「……冗談だ……」
一応これだけは言っておこうと戸浪は思った。本気でぐるぐる巻きにされるのも困る。いや、そのくらいの勢いがあれば気を使うこともないのだ。
「戸浪ちゃんが……そゆの好きなら……俺は構わないけど……」
この男はどうしてこう、冗談が通じないのだろうか。しかも構わないと言うのはやってみたいということか。それでどういう答えを求めているんだ?
「冗談だと言った」
ジロリと睨むと、祐馬は肩を竦めた。
違う……
だから……
イライラ……
さっさとやれっ!
今日は押しの強い祐馬で行くんじゃなかったのか?
「……ん~気が付くと戸浪ちゃんに俺……押されちゃうな~」
苦笑しながら祐馬はそろそろと戸浪の頬に唇を触れさせてきた。
「……そんなつもりは……」
無い。
全くない。
これっぽっちもない。
だがいつもこんな風にしか言えない自分自身に腹を立て、恥ずかしいのを紛らわせる為に祐馬に怒鳴ってしまう。
「うん……分かってる……」
言って祐馬は口元にするりと唇を乗せ、口内に舌を滑り込ませてきた。今日は途中で止める気が無いのだろう。
「……ん……っ……」
絡めていた右手だけ祐馬は解くと、それは戸浪の胸元に這わされた。暖かい手の平が、シャツの上で何度も擦り上げられ、戸浪は久しぶりの刺激に思わず口を開きそうになったが、祐馬の舌に阻まれ、声すら絡め取られたようだった。
シャツのボタンを指先で外すのだろうと思っていたが、祐馬は裾から手を入れて、直接胸の尖りに手の平を擦りつけてきた。
意外に強く擦られているせいかその部分だけが摩擦で熱く感じる。いや、久しぶりの行為にこちらの気持が高ぶって、触れるだけの愛撫すらいつもより熱く感じているのかもしれない。
「……ゆ……っ……あっ……」
脇腹の敏感な部分を揉み上げられて、戸浪は身体を捻った。
「……戸浪ちゃん……ここ……ほら……」
祐馬の指先がチクチクと胸の突起を弄ぶと胸元が焼け付くような熱さに辺りが包まれる。快感が身体の体温をあげ、忘れそうになっていた甘い痺れを思い出した。
きっと、祐馬になら無理矢理身体を開かされても許せるだろう。
「……っ……あ……よせ……っ……」
言葉だけが素直にならない。
身体は久しぶりの愛撫に色めき立っているのに。
「よせ?……ほんとにそう思ってんの?」
祐馬の両親指と人差し指が、それぞれの突起を掴んでおり、くりくりと弄りだすと戸浪は喘ぐ息を吐き出した。
「……あ……違う……だが……」
痛いほど弄られ、戸浪は思わず祐馬の手に己の手を伸ばしたが、そこを掴んだまま小さく身体を震わすだけに留まった。結局、痛みはそのまま快感に直結しているのだから、それを認める限り、止めることは出来ない。
「ね、戸浪ちゃんって我慢してた?俺……俺はしてたよ……」
言って祐馬はいきなり戸浪のズボンの中に手を入れて、まだピクリとも動かないモノを掴んできた。
「……っ……ゆ……祐馬っ……」
流石にいきなり掴まれて揉まれるには抵抗がある。しかも衣服は殆ど脱いでいないのだ。もちろんそれはお互いだ。
「気のせいだと思うけど……ちょっと先が濡れてない?」
「……っあ……祐馬……よせ……」
祐馬の一言に戸浪は一人で顔を赤らめた。そんなはずはないという気持ちと、久しぶりの行為に己の身体が自分の理性から離れて祐馬を欲しがっていることだって考えられる。
「んなぁ……戸浪ちゃんの……ヌルヌルになってきたよ……」
……
や……
止めてくれ~!!
ギュウッと目を閉じて、口元を引き絞ると祐馬の唇が触れてきた。そうして、貝のように閉じている膨らみを舌でペロリと舐め上げてくる。その間も、祐馬の手は戸浪のモノをゆるゆると扱いていた。
「……っ……」
チクチクとした刺激と、痺れる身体が更に快感を求めているのが戸浪には分かる。一人で悶える己はあまりにも浅ましく感じられ、戸浪は顔だけではなく身体まで赤くなっているような気分になった。
「目……開けてよ。俺の方見て……んねえ、戸浪ちゃん。戸浪ちゃんの喘ぐ姿を俺に良く見せてよ……」
耳元で囁くように祐馬は言い、促されるように戸浪は目を開けた。すると祐馬は嬉しそうにこちらを見下ろしている。
「悪趣味だっ……あっ……あああっ……」
ギュウッと握り込まれ、戸浪は顎を仰け反らせて呻いた。
「悪趣味じゃないよ。戸浪ちゃんが喘ぐ姿って俺の腰に直に来るんだよな……。すっげえ色っぽいの自分で分かってる?ねえ……分かってんの?」
子供が普通に疑問を口にするように言われ、戸浪は答える事が出来ない。だからどうしたらいいのかこうなると自分でも分からないのだ。
「しら……知らんっ!私はっ……あっ……」
グリッと先端を指先で潰され、上に乗っている祐馬の身体に思わずしがみついていた。
「戸浪ちゃん……可愛いな……いっつもこんなだったらいいのにさ……」
しっかり祐馬にしがみついて、下半身から来る痛みに似た快感を意識から散らそうとするのだが、弄ぶ手は全くその動きをやめようとしない。逆に煽るように動かされるのだから戸浪も目眩がしそうだ。
「あっ……よ……よせ……祐馬っ!」
戸浪が叫ぶにも関わらず、無視を決め込んだように祐馬は自分の手を止めようとはしない。しかも、喉元を仰け反らせている部分に舌を這わせてくるのだから始末が悪いのだ。普段からは考えられないくらい、祐馬は子供っぽい意地悪さを見せ、それら全てが戸浪には愛おしい。
「……喘いでる戸浪ちゃんって……美味しそう……」
祐馬はこちらの反応をじっくりと見て愉しみながら、口元を舐めた。チラリと覗く舌は肉厚で、それは戸浪のあらゆる所を舐める。指先と言わず、足先と言わずだ。多分、戸浪の身体は全てこの舌が這ったはずだ。それを思い出し戸浪は身体の奥が疼くのが分かった。例え時間が経ったとしても、祐馬とのセックスで感じた疼きは忘れることなく、いつでも思い出せるのだ。
「……ゆう……まっ……く……」
堪えるように戸浪は祐馬のシャツに噛みついた。自分自身が一杯一杯な所まで来ているのが分かるのだが素直に己を解放できずに呻くことしかできない。ここまで来て意地を張る自分は国宝級だ。
「……んなぁ……俺の手、戸浪ちゃんの恥ずかしいモノでヌルヌルになってるよ……。これって気持ちイイんだよな?」
散々手で扱いておきながら、そういう言い方は無いだろうと叫びたくなるほど戸浪は羞恥で震えた。
「……祐馬……っ……よせ……言うな」
瞳を潤ませ、戸浪は祐馬を見つめる。だが目新しいものを見つけたように祐馬は嬉しそうに戸浪の瞳にキスを落としてきた。
ああ……
もう……
どうしようもない奴だ……
いや、戸浪自身がどうしようもないのだろう。手でされることは嫌いではない。しかも言葉とは逆に、両手を祐馬に絡めているのだから文句を言ったところで説得力の欠片もない。しかも、祐馬が自分のモノを触りやすいようにと、己の両足を自ら広げているのだから戸浪自身も快感を受入、酔っているのだ。
……
何を言っても無駄だな……
自分の姿をつぶさに見ている祐馬には、戸浪が悦んで悶えているようにしか見えないだろう。いや、事実そうなのだ。ただ素直に口に出せないだけで、何処までもしつこくくっついてくる羞恥心が戸浪を年上だと自覚させてしまう。
たまには素直に言うべきなのだろう。
「戸浪ちゃん……ね……気持ちイイ?んなあ……たまには聞かせてくれよ……」
祐馬の声がこちらの姿に興奮しているのか、うわずった口調だ。
「……あっ……ああ……ん……うん……」
顔を上下に振って戸浪は自分では答えたつもりだった。だが更に祐馬のすりあげる力が強まり、戸浪は口を閉じることが出来ずに、必死に空気を吸い込んでは吐き出している。
そんな戸浪を、祐馬は舌で舐めてくるのだ。首筋や顎、耳の裏から鎖骨にかけ、吸い付いては時折歯を立て、それがくすぐったいのか、気持ちいいのか分からない。
「戸浪ちゃんってば……」
「あっ……イイ……祐馬っ……」
祐馬にしがみつき、戸浪は嬌声を上げた。ここまで来ると押し殺す方が辛い。これが素直とは思わないのだが、堪らずに出てしまう声まで押しとどめる必要はないのだ。
「戸浪ちゃん……」
何故か祐馬の頬にさっと朱が走り、同時に戸浪のモノを掴む手にも力が入った。
「……くっ………」
狭い場所で祐馬は更に戸浪を煽るように手を上下に動かした。薄い布地に擦れる己の欲望がそこで解放されたがっている。祐馬の手はそれを感じているはず。
「……ゆ……祐馬っ……あ……はあっ……あ……」
背に爪を立て、上着に皺を作る。祐馬の表情もこちらの姿に興奮しているのか、うっとりとした表情でこちらを見て、浅く息を吐き出していた。
「……戸浪ちゃん……イイよ……俺の手の中でイって……」
「……ゆう……まっ……あ……」
そんなところで……と、思うのだがもう我慢できずに戸浪は己を祐馬の手の中で解放した。温い感触だけが股下に感じ、この瞬間だけ戸浪は羞恥を忘れる。我に返ると恥ずかしくて仕方がないのに。
「……は……はあ……はあ……」
まだ祐馬にしがみついたまま戸浪は息を整えた。濡らした部分が気持ち悪いのだが、祐馬の手はまだそこにあり、力を失ったモノを弄んでいる。
「ば……馬鹿。も……離せ」
手をゆるめ、祐馬の顔を凝視しながら戸浪が言うと、そろそろと手が引き抜かれていく。しかし、手はそのままズボンを下ろす仕草をし、戸浪の衣類を剥いだ。
「……っ……」
擦れる布地が敏感になっている部分を煽っているようで、戸浪は小さく身震いをした。イったばかりだというのに、ひくついている部分は今にもまた力を持ちそうな気配だ。要するにそれだけ放置されていたのだから、例え小さな刺激にでも普通より敏感に感じ取ってしまうのは仕方のないことだろう。
「……濡れてるね……」
耳元で祐馬は囁くように言い、今度は湿っている下着の上から手を置いて揉んでくる。濡れた布と、自分のモノが絡み合って粘ついた感触を戸浪に伝えた。すると羞恥心が一気に顔を赤らめさせ、言葉すら失わせる。
「……っ……」
祐馬の肩を掴み、言いようのない恥ずかしさを堪え、迫力など無いのにまた睨み付けてみるが、効果はない。逆に堪え忍んでいるような戸浪の表情に祐馬が欲情をかきたてられているとは思いもよらなかった。
「ん……」
無言のまま祐馬は戸浪にキスを落とし、薄く開いている口元から舌を這わせて口内をかき混ぜてきた。戸浪ももちろん、祐馬の愛撫に応えるように自分の舌を絡みつかせて、心地よい感触に酔う。そうしている間に、祐馬はシャツのボタンを外して身体を合わせてくると着ているシャツが直に肌に擦れた戸浪は、離せない口から声を出した。
「……あ……」
絡めていた手を解き、戸浪は祐馬のベルトに手を掛け外そうとした。だが、手元が見えないために上手く引き抜けない。苛々しながらも、戸浪は必死になる。ここまで来たら隠しようがない欲望が己の中で膨れあがり、疼く身体を祐馬のモノで貫かれるまで戸浪を苦しめるだろう。
戸浪にも当然祐馬を求める気持ちがある。例え普段それが上手く伝えられず、もどかしい気持ちで身体が捩れそうになり、一人愚痴をこぼすこともあるのだ。この祐馬がもっと積極的にさえなってくれたらと、神が本当にいるなら祈ることだってしただろう。
だが戸浪は無神論者で祈る相手はいない。
苦しいときの神頼みとよく言うが、そんなときでも神を思い浮かべたことがない戸浪であるのに、こと祐馬のことになると例え存在しなくても祈りたくなる。
それほど祐馬は手を出さない。
だからようやく甘く疼き出した身体を、貪ってもらいたいと恥ずかしいのだが、今は思う。戸浪も波に乗りさえすれば、なんだって出来るのだ。と、自分では確信していた。
ああもう……
手が……
未だに祐馬のベルトが引き抜けないことに、戸浪は苛々してきた。だが祐馬は相変わらず戸浪の口内を堪能している。
見えないんだ……
どうして気が付かない!
この……
大馬鹿者ーーー!
と、言う目つきを戸浪は必死に送るのだが、祐馬は全く気が付かないのだからどうしようもない。このまま腹を蹴り上げて一瞬気を失わせ、さっさとズボンを脱がしてしまいたいのだが、もちろん本当にそんなことをすれば、一気にやる気が萎えるに違いない。
祐馬……
どうしてお前はこう鈍感なんだ……
苛々が最高潮になったとき、ようやくベルトを引き抜くことに成功した。急にホッとした戸浪は今度、祐馬のズボンを下ろすことが出来た。こちらはすんなりと事は運んだ。
「……戸浪ちゃんって……器用だなあ……」
ようやく口元を離した祐馬は最初にそんな言葉を口にした。この馬鹿をどうしてやればいいんだと本気で戸浪は思ったが、これもいつものことなのだ。戸浪は苛々する気を静めて、後は一気に快感に身を任せることだけを望んでいた。
「……祐馬……お前が欲しい……早く……」
来いって言うんだこの馬鹿ーーー!
身体がもう、半分痺れて祐馬を欲しがっているのが戸浪にも分かる。心の中では散々怒鳴りながらも、戸浪は耐えた。
すると、ようやく祐馬の指先が、戸浪の窄まった部分に触れて中に入り込もうと蠢く。その刺激に戸浪の身体はビクリと反った。
「……ああ……っ……」
戸浪の指より太い指が中を抉るように動いた。そのたびに、まだ付けている下着が腰骨の辺りでつっぱり、中で溢れた白濁した液が下へと粘っこく落ちていく。その感触にすら戸浪は煽られていた。
皮膚の表面を伝わるトロリとしたものが己の茂みを濡らし、辺り一面に絡んでいることを想像するだけで堪らない。同時に聞こえる淫猥な音が耳をふさぎたくなるような羞恥を戸浪に与えるが、それに耐える事すら快感として感じてしまうのだ。
「祐馬……っ……くっ……」
グリッと指を根本まで押し入れられ、内側が収縮する。祐馬の指を取り込んで離さないつもりなのだろう。自分の欲望を気取られたような気がした戸浪は身体をうっすらと赤く染めることで祐馬に羞恥を伝えた。
「何本でも飲み込みそうだよね……」
祐馬は嬉しそうに言う。だが本当に欲しいのは指の太さではない。祐馬の硬く尖った、そして初めて入れられたときにゾッとするような恐怖と快感を味わった長さのモノだ。
「……もういいっ……だからっ……」
早く入れて欲しい。久しぶりに感じる熱はどれほどの熱さを伝えてくるのか。想像するだけで、戸浪は身体が震えた。
「うん」
祐馬は戸浪の下着をそろそろと下ろすと、両足から抜き去った。急に空気にさらされたせいか、腰元が寒く感じる。だがこれから二人で温もることが出来るのだ。少しくらい寒くとも構わない。
ここまで来たら、例えユウマが来ても……
にゃああお……
……
来ても……
にゃおにゃお……
「戸浪ちゃん。ユウマ扉のところで鳴いてる……」
「いいから……じらさないでくれ……」
悪い。ユウマ……
今日だけは私を幸せにしてくれ……
にゃお……にゃおおおおん
「……なんか、必死だけど……」
……
うう……
うーーーーっ!
この男はどういう感覚をしてるんだっ!
涙目で戸浪が睨み付けていると、祐馬にも分かったのか、身体をこちらへとずらし始めた。
……
ユウマには悪いが……
今日は駄目だっ!
今度は電話が鳴る。
戸浪は祐馬が何かを言う前に先に言った。
「取らなくて良い」
「わ……分かってるよ……」
祐馬が苦笑した次の瞬間、来客を告げるベルが鳴った。