Angel Sugar

「秘密かもしんない」 第6章

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 寝室に入ると、博貴は大地の身体をキングサイズのベッドに横たえるように下ろした。
「大地……」
 博貴は大地の隣りに同じように身体を伸ばすと、額にかかる髪を撫で上げてくる。その手の動きは緩やかで、先程博貴が言った「欲しくて堪らない……」という性急さは全く見られなかった。
 一度博貴が父親のことで正体を無くすほど飲み、酔った時は相手が博貴ではないような扱いで大地は抱かれたことがあるが、生の感情をぶつけられた事は、あの時が最初で最後だった。
 以来、博貴が剥き出しの感情をぶつけてくることはない。
 またあんな抱かれ方をしたいと大地は思っているわけではない。だが何処かあの時は満足感があったのだ。
 痛かったし……
 もう……二度と嫌だけど……
 なんだか満たされてたよな……俺……
 マゾとかじゃなくてさあ……
 何となく感じている事なのだが、いつも大地は博貴の手の平で転がされているような気がするのだ。いや……別に悪い意味でそう思っているのではない。
 年齢差もあり、その分博貴の方が人生経験は豊富だ。その上、普通の二十五歳よりも、色々苦労している分だけ同じ年の人達よりも人生経験が豊富に違いない。
 それを知っている為、大地は博貴より大人になりたいとは思っていないのだ。もちろんそれを望んだとしても無理だろう。
 ただ、たまには感情をぶつけてくれても良いのに……と大地は思っていた。
 多分それは、大地の兄弟は何時も自分の感情を隠さずに、ぶつかり合い、その末に殴り合いの喧嘩に発展したりと、大変なものなのだからかもしれない。但し戸浪の方はどちらかというと早樹と大地の間に入り、まあまあと宥める役を何時もしていたような気がする。かといって早樹より気が弱い訳ではなく、本気で怒ると当然怖い。
 それに較べ博貴は何事にもスマートだ。その立ち居振る舞いにまで、計算されたものを感じるのは何故だろうか?それが逆に大地自身に対しても計算されているような気がして仕方がないのだ。
 これが博貴なのだと大地は思う。多分ホストとして働くうちに培った、淀みのない洗練された振る舞いがそのまま私生活に現れているだけなのだ。
 どんなときでもきちんとした服装をしており、大地のように着の身着のまま一日だらだらと過ごしている姿など見たことがない。
「大ちゃん……何を考えてるんだい?」
 クスクスと笑いながら博貴はそう言い、ベッドに頬杖をついてこちらを見ていた。
 あ……
「え、あ……早樹にいのこと……」
 違うのだが、大地は誤魔化すようにそう答えた。
「あのお兄さん。大ちゃんにお兄さんって聞いていなかったら、他人だと絶対に思うね」
 苦笑しながら博貴は言った。
「う~ん。早樹にいは父さんにそっくりだからなあ……。でもよく考えるとうちの母さんなんで父さんと結婚したのかと未だに謎だよ。あ~んな頑固で、そんな男前でもないし、その上お金も持ってないし……まあ……正直者だけが取り得だけど……」
 大地がそういうと博貴は爆笑した。
「なんで?お前笑いすぎ……」
「いや……そのね、正直者だけが取り得って……大ちゃんを含めて、兄弟みんなそんなところがあるんじゃないかなあって思ったらおかしくて……」
 目に涙が溜まっている。
「……別に……そこまで笑うことじゃねえよ……」
 ああもう……
 こいつって……
 ……
 あれ?
 俺……
 やるつもりだったんだけど……
 博貴、途中で手を引いてるよな?
 チラリと博貴の方を見ると、大地の隣りに同じように身体を伸ばして頬杖をついてる。その上、笑っているのが目に入った。
 ……
 欲しくて堪らないとか言ってたけど……
「で、早樹さんは私達のことも戸浪さんの所のことも知らないんだよねえ……」
「あ、もちろんだよ……知ってたら、早樹にいどんな行動に出るか分からないよ……。それにしても早樹にいって、自分のことは棚に上げて俺達に、彼女がいないって嘆いてたもんな……。全く……変だと思わない?結婚するにしても一番上から順番じゃないか……」
「そうだね……」
 博貴はただ笑った。
「……まあうちは早樹にいに家を継いで貰うことになるから、さっさと彼女作って欲しいんだよな。そしたらもっと性格丸くなると思うし……」
 まあ……
 男同士つき合うのを認められる丸さは無理だと思うけど……
 大地は心の中で溜息をついた。    
「ねえ……大地……」
 急に真剣な声になった博貴に大地は驚き、仰向けになっていた身体を横に向けると、博貴がじっとこちらを見つめていた。
「何?」
「本当に良いのかい?」
 何が?
 突然聞かれたことに大地は博貴の言う事が分からなかった。
「え?」
「……だからねえ……君が気になってるんだったら……」
 あ……
 その話しはもう良いって……
 俺は考えたくない……
「いいよ……」
 言って大地は大きな瞳を閉じた。
「……私は、君に胸を張って言えるような人生は歩んでいない」
 博貴の口調は淡々としたものだった。だが言葉を選んでいるのは分かった。
「聞かない」
 大地は小さくそう言った。
「……私が……」
「止めろよっ!俺は聞きたくないって言ってるんだ!」
 大地は身体を起こして叫んだ。
 どうして無理にでも言おうとするのか大地には分からない。聞かされてどうしろというのか、博貴の考えている事が大地には全く分からないのだ。
「……うん……そうだね。君が嫌なんだ……」
 そういう博貴の表情からは何も読みとれない。今悲しんでいるのか、苦笑しているのかそれすら大地には分からなかった。
「……もうこの話は止めようよ……俺は……」
 忘れたい……
 あのビデオを一瞬であったが見てしまったことも……
 何となく想像が出来る博貴の過去も……
 何もかも……
 俺にはもうどうでも良いことだから……
 忘れるんだ……
「分かったよ……。もう何も言わないよ。確かに聞かされるのは嫌だよね……。もちろん……分かるよ……」
 言いながら博貴は大地の頬に手をかけ、そのまま撫でさすった。
 もちろん……分かるよ……
 その後、何か言いたいことがあるのか?
 俺は聞いてやらないと駄目か?
 でも……
 それが過去に触れることなら……
 俺……
 大地の視線が自然と俯き加減になる。そんな大地の頬を博貴は相変わらず撫でていた。
「大地……」
 急に引き寄せられて大地は驚いた。
「なに……何だよ……」
「……いつか……」
「え?」
「いつか……君の気持ちが受け入れてくれるようになったら……聞いてくれるかい?」
 ……
 どうして……
 博貴はその事にこだわるのだろうか?
 何かとてつもないことでもあるのだろうか?
 分からない……
「約束してくれなくて良いんだ。いつか……遠い先に……君が聞きたいと思ったときは……聞いてくれるかい?そういう気持ちで居てくれたら……それでいいんだ」
「……う……うん」
 期限のない約束ならいい……
 良いけど……
 何故こんな事にこだわるんだろう……
 先程より余計に大地は恐くなった。
 一体何を隠しているんだろうという不安がまた復活してくるのだ。聞いても仕方がない。とにかく聞きたくない。だから聞かない。そう決めた。だが博貴はどうあっても自分の過去を話してしまいたいようであった。
 博貴は誰かに自分のことを話したいと思っている?
 違う……
 自分を知って貰いたいと思っているんだ……
 俺だから……
 俺に分かって欲しいんだ。
 ようやく博貴の気持ちが大地にも分かった。だが聞かされてそれらを受け止められるかどうか大地には自信がないのだ。
「……もし……」
「……もし?」
「いや……いいよ……」
 何かしら切羽詰まったような声であったが、大地にはそれ以上問うことが出来なかった。
「……なあ……それでさあ……しないの?」
 言って大地は博貴を見上げると、驚いた顔がこちらを向いていた。
「何でそんな顔するんだよ……」
「いや……珍しいなあと思ってね。大地からのお誘いだろう?」
 言って博貴はニヤニヤと笑った。それはいつもの博貴の表情だった。
「え……あ~そ、そうなるのかなあ……」
 真っ赤な顔で鼻を掻きながら大地は言った。
 うう……
 なんかさらっと言っちゃったけど……
 これって俺が誘ったことになるのか?
 ……い……
 いいけどな……
「大地……」
 背に廻っていた博貴の手が大地の太股に移動し、辺りをサワサワと撫で回してきた。その動きに身体が小さく震えた。
「……あ……」
 太股を這っていた手はそのまま大地のジーパンに掛けられ、硬いデニムの上を強く擦り上げてくる。布の上からの愛撫は直接的に触れられるものと違った痺れを身体に伝えてくるのだ。
「……や……ちょっと……俺……ジーパン脱ぐ……っ」
 そう言った口元を塞がれ、先程とは違うきつい愛撫で口内を掻き回された。
「……ん……ん……」
 博貴の首に手を回し、ぶら下がったような格好で、大地は身体を枕にもたれさせた。もちろん、両足は膝を立てて開かされている。何時もと違うのはジーパンを履いたままの上に手が置かれていることだ。
 敏感な部分にあるチャックはまだ下ろされる気配はなく、その辺りを強く手で揉まれた大地は声を上げた。
 痛いようなくすぐったさが股から這い登るのだ。
 口内のあらゆる部分を博貴の舌に愛撫され、それだけでイきそうになった大地の瞳は、快感のために細くなる。暫く翻弄された口元は、博貴の舌がそこから離されても、うっすらと開いたまま息を浅く吐き出していた。
「誘われたんだから……励まないとねえ……」
 嬉しそうにそう言って博貴は顎から首へと舌を滑らせていく。その間も手の動きは止まらない。
「や……っ……いた……」
 ジーパンの裏地が肌に押しつけられ、大地は身体を捩った。狭いズボンの中で自分のモノがふくらみを持ってくるのが分かるのだ。そんな場所で勃つと、堪らなく辛い。
「こんな場所で勃つと辛いね……」
 その事に気がついていた博貴は、首筋の辺りを愛撫しながら笑った。だが相変わらず、布地の上からの愛撫に博貴は専念している。
「……や……やだ……」
 手と足の先まで赤くなりそうな気持ちで大地はそう言った。
「じゃあ……大地……誘ってくれたんだから……自分で脱いで……」
「……あ……う……うん……」
 大地はそろそろと博貴に廻していた腕を解き、自分のジーパンに手を掛けた。そうしてベルトをまず外そうとするのだが、その間も博貴の手は大地の張りつめた部分に手が置かれ、動かされている。
「あっ……も……やめろって……俺……ぬげねえ……」
 身体を反らせ、大地はそう言って喘いだ。もう一杯一杯になった部分が外に出たいと訴えていたのだ。
「脱げなかったらどうなるんだろうねえ……」
 言って博貴は大地の胸元にある突起を歯先で甘噛みする。そのぴりっとした電気が流れたような感覚に、身体が益々跳ねた。
「あっ……よせって……あ……も……」
 ベルトを外そうとする手が震えて上手くいかない。何度も博貴の動きに邪魔されるからだ。それでも大地は何とかベルトを外し終え、次にチャックに手を伸ばすと、何故か博貴が先にチャックを下ろした。
「はあ……っ……」
 ようやく下半身がくつろげたと思ったら、先程まで布の上で彷徨っていた博貴の手はズボンと下着の間に差し込まれた。
 今度は柔らかい手の感触が大地を襲った。
「あっ……あっあーっ……や……」
 博貴の手の平はズボンの中でそそり立っている大地のモノの側面を何度も撫で上げる。その刺激に先から滲んだ液が下着をうっすらと染めた。
「ひっ……あ……や……嫌だっ……」
 大地がそう叫ぶように言うと、いきなり狭い中で博貴の手は大地のモノをギュッと掴んだ。その痛みに大地の声が止まる。
「大地……君から誘ってくれたんだろう?嫌だって言わないで欲しいんだけど……」
 胸元を音を立てて愛撫しながら博貴はそう言った。
「だって……だって……ズボン……脱ぎたい……足……痛い……」
 ようやく大地は喘ぎの中からそういうと、博貴は大地のジーパンをズルズルと片手で下ろしていった。残った圧迫感は博貴が掴む部分だけだ。
 そこも辛い。
「……下着……」
「別にこれは良いだろう?」
 言って博貴の身体が少しずつ移動し、大地の腰の辺りで止まると、手で掴んでいたモノを今度は布地の上から舌が這った。
 ぞろりとした感触を受け、大地はまた声を上げた。
「な……何か気持ち悪……っ……」
「気持ち良いの間違いだろう?」
 太股のつけねを親指で押され半分痺れている両足が余計に痺れで麻痺してきた。
「脱ぐっ……脱がせろっ……」
 両手で下着を掴み大地が必死に脱ごうとするのだが、その真ん中を掴んで博貴が笑った。
「すごい色っぽいよ大地……でもどうしてか笑いの方が漏れるけどねえ……」
 その一言に大地の顔は更に真っ赤になった。
「おまっ……お前っ……そ、そんな風に掴むなっ!伸びるって!」
 上半身を起こしそういうと、腰元に身を屈めている博貴の笑い顔と視線が合い、恥ずかしくて仕方がなかった。
「もう……楽しいのに……」
 ふうと息を吐いて博貴は掴んでいる手を離した。すると勢いがついていた両手は一気に下着を両足から脱がせた。すると既に勃ちあがっていたモノがポロリと姿を見せる。それを博貴は素早く口に含んだ。
「あっ……ちょ……やっ……」
 ちゅくちゅくと音を立てながら博貴は、大地のモノを口の中で弄んだ。その感触は柔らかい舌と、時折当てられる歯で翻弄された。
「……んっ……あ……あ……」
 ここまで来ると大地はまた違う疼きを身体の奥に感じてくる。ゾクゾクというかジワジワというか、言葉に出来ない疼きが後口からやってくるのだ。
 暫くすると触って欲しいという気持ちで心の中が一杯になる。こうなるともう大地は博貴に任せるしかないのだ。
「……あっ……あ……も……そこ……ばっか……やだ……」
「……じゃあ何処を触って欲しいの?言ってごらん……」
 口元を離し博貴はそう言った。
 いつもこうなのだ。どうして欲しいのか大地の口から言わせようとする。恥ずかしくて言えないのを分かっていながら博貴は問いかけてくるのだ。
 うう……
「俺……その……あ~…ひっ……」
 もにょもにょと言葉を誤魔化していると、博貴は再度大地のモノを口に含み、舌で何度も舐め上げた。同時に指は大地の二つのモノを弄ぶように転がされる。その刺激に何度も身体を逸らせながら、大地はシーツをギュッと握りしめた。
「やっ……あ……あっ……博貴っ……」
 両足の先が痙攣を起こしたように震えているのが大地にも分かる。その感覚は徐々に上半身に上がってくるのだ。それは頭の思考を麻痺させ、大地を快感に酔わせる。だがまだ中途半端に煽られた身体は、そこまで到達しないのだ。
 この状態が一番辛い。
 早く……
 早く何とかしてくれよ……
 頭の中はその言葉で一杯になる。だが博貴は大地が言わない限り行動に出てくれないのも分かっていた。
 博貴は本当にいじめっ子な部分があるのを大地は知っている。どうにかして大地の口から言わせようとするのだ。その為なら何度でも大地を煽る行為を続けることができる。
 不思議なのは博貴はその間、涼しげな顔をしていることだった。今も自分は服をきっちりと着込み、裸になっているのは大地だけだ。
「……な……博貴……服……脱げよっ!」
 そういうと博貴は大地のモノを銜えたまま口元だけで笑みを作った。
 ああもう……
 こいつって……
 キュウッと吸い込まれた大地のモノは博貴のきつい吸い付きに、声を失った。身体を走り抜ける快感だけが、シーツを掴んでいる手に力を込める。
 もう……
 だめだ……
 そこだけじゃ俺……
 足りないっ!
 頭がぐらぐらしそうな程の快感を身体に蓄積させた大地は、ここまで来ると口から絞り出すように言葉を発した。
「……ひろ……きっ……頼む……入れて……入れてくれよ……っ……」
 既に涙目になっている大きな瞳は、濡れて煙っている。そんな姿を博貴は満足げに見つめて言った。
「何処に?」
「何処って……何処って……後……ろ。も……苛めるなよっ!」
 多分入れないと言われたらここで泣いてしまいそうなほど、二人で抱き合うときの大地の立場は弱い。
「良くできました」
 くすくすと相変わらず笑いながら、楽しそうに博貴は指を後に回してきた。
「……あん……っ……」
 喉元から掠れるように漏れた声が妙に艶っぽく自分の耳に聞こえた大地は、羞恥で博貴から視線を逸らせた。
「大地のここに早く入りたいよ……」
 言いながら博貴は触れた襞の部分を丁寧に揉み、そして指を入り口から少しずつ中へ潜り込ませてくる。だが入り口付近を彷徨う指は奥まで入っては来ない。そのくせ、既に熱くなっている身体は、もっと深い部分で博貴を感じたいと大地の脳に訴えていた。それははっきり言って拷問だった。
「入れて……くれよっ……も……辛い……っ……」
 吐き出す息は荒く、熱を帯びているのが分かる。緩やかに温度を上げてきた体温はここに来て一気に身体の温度を上昇させるのだ。
 何時だって……
 こいつ……
 俺のこと散々煽るんだから……
 だがふと気がつくと、いつもと博貴は違っていた。まだ苛める気なのか、襞の部分を指の先で弄ぶだけで、そこから先に進まない。
 なんで?
 疑問だけが大地の脳裏に浮かび上がる。
 俺……
 なんかまずいこと言ったか?
 普段と違う行動に出られるとそれだけで大地は不安になるのだ。それでも暫くすると、博貴の指が捻り込まれてきた。
「……っ……あっ」
 立てた両膝が、ガクガクと震えてようやく望んだ刺激に悦んでいる。そして何度か中で擦り上げられ、次に指の数が増えると今度は中で交差する動きを見せた。
「ひっ……あ……」
 擦られると堪らない部分を何度も指先で弄られ、喘ぐ声は掠れがちになる。
「あ……も……頼むから……入れてくれっ……」
 懇願するように大地が言うと、博貴は小さく笑って大地の両足を抱え上げた。
「……あ……」
 期待に満ちた瞳を博貴に向けると、ようやく博貴の方の表情もやや上気した顔を見せた。
「博貴……っ……」
 何故か奇妙なほどこちらを見つめる博貴の瞳が切なく揺れるのを大地は快感を感じている中で視界に捉えた。その瞳の意味が大地には分からない。
 ただ不思議な違和感だけが、そこから感じられた。
 なんだろう……
 どうしたんだろう……
 そう思っていると、いきなり博貴のモノが襞を割り裂いて入ってきた。同時に今まで考えていた事が頭から剥ぎ取られる様な痛みを身体に感じた。
「ひっ……やっあっ……」
 最初の挿入であるのに一気に奥まで突き上げられた大地は、シーツを掴んでいた両手をばたつかせた。こんな風に最初から最奥まで入れられることは、滅多にないのだ。
「あっ……あ……あ……ひ……博貴っ……!」
 自分の中も今の勢いにギュウッと収縮するのが分かる。その所為か、博貴の方も小さく呻いた。
「大地……緩めて……」
 言ってこちらの頬にキスを落としてくる。だが先程感じた違和感がやはりこちらを見つめる瞳の奥に揺れていた。
「あ……あ……ひろ……き……なんだよ……どうしたんだよ……」
 ばたつかせていた両手を、覆い被さっている博貴の頬に当て、その表情を読みとろうと大地はした。だが半分快感で麻痺している思考は全く正常に働いてくれない。
「……大地を見ているだけで……堪らないんだ……」
 そう言った博貴の意図が全く掴めないでいると、大きく腰をグラインドされ、大地は、問おうとした声を失った。
「やっ……あっ……あっ……ああっ……っ……」
 急に激しく何度も突き上げられた大地は、快感もさることながら痛みもその身体に感じていた。それはいつもとは違う博貴の激しさであった。
 変だ……
 なんだか……
 いつもと……
 違う……
「大地……っ……愛してる……」
 耳元で囁く博貴の声は普段から変わらぬ口調であった。だが何か掛け違えているものが二人の間にあった。
「ひろ……博貴っ……何……なんか……変っ……あっ……やっ……」
 これでもかと言うほど押し入れられ、普段当たらない部分に博貴の切っ先が突き入れられている。その動きは身体を裂きそうな程の勢いだ。
 怖い…っ……
 さっきまでいつも通りだったのに……
 何……
 なんで?
 大地は博貴のその行動より、今、自分を抱いている相手が博貴ではない様な違和感の方に気が取られていた。
 俺……
 俺が悪いのか?
 俺が聞けなかったから……
 だから……
 ちゃんと聞いてやれなかったから……
 怒ってる?
 それとも……
 悲しいのか?
 俺を……
 どうしたいんだ?
「博貴っ……やめ……止めてくれよっ……」
 ギュッと博貴の両腕を掴み大地が必死に言うと、博貴がぽつりと言った。
「君を……抱き壊してしまいそうだ……」
 大地の瞳を見開き、博貴の今までになく辛そうな表情を見つめた。
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