Angel Sugar

「秘密かもしんない」 最終章

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「……お……お前が悪いーーーー!」
 大地は茹で蛸のようになりながらそう言って怒鳴った。
 もう手足の先まで赤いに違いないのだ。
「別に恥ずかしがることないよ……ずっとこうしたかったんだから……」
 するっと博貴の唇が頬に触れ、大地は目を細めた。
「……うう……気持ち悪い……」
 自分の腹が濡れていることで大地は小声でそう言った。それは恥ずかしさを隠す為もある。どうもこういう事はいつまでたっても慣れないのだ。
「なに?これが気持ち悪いの?大地のものなのに?」
 博貴がそう言って自分の身体を起こすと、まだ勃ったままでいる博貴のモノが大地の腹を擦った。もちろん、腹を濡らしている大地の白濁したものを絡ませて肉厚なモノの先が腹を移動するのは見ているのも恥ずかしい。
 うう……。
 は……。
 恥ずかしい……。
 こういう時どんな顔したらいいんだよ……。
 俺は……慣れないんだっ!
 涙目になりながら大地がチラリと博貴の表情を伺うと、博貴はとても楽しそうだ。
 ……
 こいつ……
 さっきまでの落ち込んだ男は何処に行ったんだよーー!
「……大地……ここはいいの?」
「あっ……」
 腹を撫で、そこにあるぬめりをそのまま手につけたまま後ろに滑らせた。何とも言えないぬめりが大地の身体をひくつかせた。
「……や……いやだっ……」
 うう……っと唸って大地は博貴に言ったが、全く聞き入れてくれない。更に博貴は手を動かし、大地の窄んだ部分を指先で弄びだした。
 久しぶりに感じる刺激が、身体に伝うと、一度は収まった震えが再度身体を覆った。
「あっ……あっ……」 
「大地……足をちゃんと立ててくれないと、触ってあげられないよ……」
 クスクスと笑って博貴はそういうと、もう片方の手で、大地の足首を掴み、無理矢理膝を曲げさせてきた。大地はそれに抵抗することも出来ずに、自分の手で顔を隠しながら、羞恥に耐えた。
「恥ずかしいの?」
 指先を狭い中に何度も突き入れられ、大地はギュッと目を閉じてその刺激に耐えていたのだが、博貴唇がまた頬に寄せられ、そのまま瞼に乗せられた。
「……うーーっ……あっ……やあっ……」
 数本に増やされた指が、内部で動かされ、大地は閉じていた瞳を開け声を上げる。だが博貴は口元に笑みを浮かべたまま、指をひたすら動かしていた。
 内部を擦る指先は敏感な部分を的確に捉えて、その部分ばかり攻めてくる。こうなると大地はもう何がなんだか分からない気分に陥るのだ。
「あっ……あっ……あーーっ……」
 身体を仰け反らせ、大地が博貴の身体を突き放すように両手を突っ張るが、博貴はグイッと身体を押しつけ、逆に大地の身体を自分に密着させてきた。その状態で博貴は大地の首筋に舌を這わせて、唾液を擦りつけては舐め上げ、更に大地の快感を煽った。
「……や……ああっ……あ……博貴っ……やだっ……」
 組み敷かれたまま後腔を指先で抉られながら、大地は涙をうっすら瞳に浮かべて荒い息を吐いた。無理矢理立てさせられた膝はガクガクと震え、その片方は博貴の肩に掛けられている。
 自分の姿を想像するだけで、身体が焼けそうに熱くなり、更に指で弄ばれている部分から聞こえる淫猥な音が聞こえると、耳まで大地は閉じてしまいたくなった。
「愛してるよ……大地……戻ってきてくれて……嬉しい……」
 耳元で博貴がそう囁き、辺りにキスをしてくる。それはいいのだが、大地にはもう余裕が無くなってきているのだ。
 何度も煽られている身体の奥はもっと強い刺激を欲しがって、博貴の指を取り込んだまま離そうとしないのだ。
 そんな自分の身体の変化に戸惑いながらも、大地自身も博貴のモノを望んでいる。ただ言葉に出来ないだけだ。
「大地……ねえ……ここ……このままで良いの?」
 分かり切ったように博貴はそう言った。
「……う……うーーっ……あっ……あ……」
 いちいち聞くなと言いたいのだが、言葉にならない。
「さっきから唸ってばっかり……」
 クスクスと笑いながら博貴はそういうと、今まで散々突き入れていた指を大地の中から抜き去った。
「……あ……はあっ……はあっ……ひろ……博貴っ……」
 訴えるような瞳を向け、なんとか分かって貰おうと大地は涙目で見つめた。そんな大地の瞳を博貴は舌で舐め上げた。
「あ……あ……も……苛めるな……っ」
 急に立場が逆転したような気分になったが、こうやって抱き合うと絶対的に博貴が優位に立つのは仕方がないだろう。
「苛めてなんかないだろう……。気持ちよくしてあげているのに……。ねえ……大地……もっと気持ちよくなりたくない?」
 欲望を込めた瞳を大地に向けて博貴は言った。こうなると悪魔にしか博貴が見えないのが大地には不思議だった。
「……あ……俺……っ……」
「なに?何が欲しいのかなあ……」
 博貴の方も額にうっすらと汗を滲ませ、そう言った。
「……う……俺……っ……」
 腕を回して、大地は博貴に擦り寄り、必死に自分を訴えるのだが、博貴は笑うだけだ。
「大地……愛してるよ……だから聞かせてくれないかい?」
「博貴っ……」
 博貴はじっとこちらを愛おしそうに見ているだけで、全く行動に移してくれそうにない。いつだってこの男はこうなのだ。
 俺のこと苛めてるっ!
 絶対、苛めてるって……!
 愛してるんだったら分かってくれよっ!
 半分麻痺しそうな頭の中で大地はそんなことを考えた。
 とはいえ、博貴は充分大地の状況を把握している。それでもこんな風に焦らすのだ。これはもう博貴という男の性格だと思うしかないのだろう。
「……あ……た……頼むから……博貴……っ……俺……も……」
 半開きの口元から絞り出すようにそう声を発した。これが大地の精一杯だ。
「……うん……頼まれたら仕方ないねえ……」
 うう……
 こいつぜってー……
 俺のこと弄んでるよな……
「入れて欲しい?」
 続けて博貴は言った。その言葉に大地は頷いて応えた。
「ほんと?」
 更にそう問われ、大地は何度も頷いて見せた。口ではとても恥ずかしくて言えなかったからだ。
「じゃあ……入れてあげる……」
 嬉しそうにそう言って、博貴は大地のもう片方の足に手を掛けた。
「……あ……あああ……」
 指で散々解された部分は、博貴の切っ先を簡単に呑み込み、聞いていると恥ずかしい音をたてながら内部に沈んだ。それと共に、中は擦られ痙攣に似た震えを大地は感じ、喘ぐように口元から息を吐いた。
 だが折角息を整えようとする大地の事など構わずに博貴は腰を動かしはじめた。
 最初はゆっくり揺すられていたのだが、すぐにそれは激しいものへと変わる。
「あっ……あーっ……あっ……や……」
 両足を抱えられたまま身体を抱きしめられているため、腰が浮き上がったまま博貴のモノを受け入れる体勢はかなり辛い。だが同時に、奥まで突き入れられる快感が頭の芯を侵し、そんな辛さなどは全く感じなくなった。
 大きくグラインドされ、ベッドに押しつけられるように内部を穿たれると、大地は掠れているような快感の声を上げた。
「……大……地……愛してるよ……」
 肩や首筋に何度もキスを落とされ、大地はその度に快感が身体を走るのを感じた。
「……あっ……あ……お……俺っ……俺もっ……っ……」
 快感を身体に一杯取り込みながら、大地は何とかそう言い、博貴に廻した腕に力を込めた。すると汗で湿った博貴の肌を感じ、大地は何故かホッとした。
 ようやく元に戻れたという気持ちになれたからだろう。
「……あっ……あ……」
「大地のも……勃ってきた……。後ろだけで勃つんだね……」
 ……だから……
 そういうことを言うなって!!
 羞恥と快感が混じった奇妙な感覚に包まれながら、大地は目眩がしそうだった。身体が快感で満たされ、満足げにそれに浸っているのだ。心も身体も全て、快感の波に翻弄されながらも喜びに震えている。
 博貴が大地を言葉で苛めることは以前からだ。
 最初は本当に答えることが嫌だったが、最近はこういう奴なんだと大地は思うようになってきた。
 要するに博貴はエッチなのだ。
 でも……
 まあ……
 俺……
 こういう博貴のことも好きなんだから仕方ないか……
 溜息の混じる息を吐きながら大地は、より快感を取り込めるようしっかりと博貴にしがみついた。

 目を覚ますと博貴はまだ眠っていた。珍しく大地が先に目を覚ませたのだ。
 ぼーっとした目で時間を確認すると、九時を過ぎるところだった。
 室内にある時計から、また視線を博貴に移すと、気持ちよさそうに眠っている。先に大地が起きると言うことは、博貴がここしばらく疲れていたか、悩んでいて寝られなかったかどちらかだろう。
 大地は自分の都合の良いように、博貴も悩んでいたと思うことにした。ここに来たとき、本当に悩んでいるように見受けられたからだ。
 いや悩んでいたのだ。
 博貴なりに色々考えたに違いない。大地が大地なりに考えたように。
「う~ん……」
 くしゃくしゃになっている頭を自分で撫でつけながら、大地はそろそろとベッドの上を這い、何時も着ているローブをベッド脇に置いてあるかごから引っ張り出すとそれを軽く羽織った。
 それはもちろん大地専用のローブだ。それはいつもベッド脇にあるかごに博貴のものと一緒に揃えてある。
 今も有ると言うことは博貴がここに置いてくれていたのだろう。
 本気で追い出そうとは考えていない証拠だ。
 もう一度大地はサラサラの髪を自分でとかし付け、チラリと後ろで眠る博貴を振り返った。それはどうあっても起きてきそうにない寝姿だった。
 お腹空いた……
 今、大地が起きたのはお腹が空いたからだった。もちろん、眠いのだが、お腹も空いている。夕食の時間をオーバーしているのだから仕方ないだろう。
 何か作っておこうかなあ……
 スリッパを履いた大地は、寝室からそっと音を立てずに廊下に出た。
「駄目だ。マジで……お腹空いたよ……」
 ペタペタとリビングに向かい、中に入ったところで大地はマントルピースの前にあるローソファーの所に、興信所で調べた例の書類が持ってきたままの状態で置かれているのに気が付いた。
 あれをどうしようか……
 そのへんに捨てられないし……
 じーっと書類を眺めながら大地は処分の事で悩んだ。
 ずっとあの場所に置きっぱなしにしておくことは博貴に対して悪いのではないかと大地は思うのだ。博貴の方もあるというだけで、やはりいい気はしないだろう。
 大地はキッチンに入ると、料理に使う簡易用のバーナーを取りだした。これは魚の鱗に焦げ目を付けたりするのに使う小型のバーナーだった。
 それを手に持ち、今度はローソファーの前にある机から書類を掴んだ。
 これは……
 もう必要ない……
 大地は書類を小脇に抱え窓の方を向いた。
 このリビングはそのまま屋上に出られるようになっているのだ。もちろん、屋上は緑化計画の為に作られた人工的な公園がある。天気のいい日は、大地はそこで布団を干したり洗濯物を干すのがつねだった。
 博貴は乾燥機を使って欲しいと言うのだが、別にリビングから洗濯物がパタパタと見えること自体妙な光景だとは思わない大地は、洗濯物には太陽で乾かすのが一番良いんだと言い張り、何時もそこで干している。
 だが博貴は未だに気に入らないようだ。
 ……あそこなら良いか……
 大地はリビングから外に出るガラス戸を開け、外に出た。するとビルの警告灯が上空に見え、チラチラと光を落としていた。庭の方にもライトは設置してあるので、真っ暗ではない。
 そこを今度はサンダルを履いた大地は歩き、端に設置してある水道の蛇口を捻ると、バケツに水を入れた。
 ブルーのバケツに溜まっていく水を眺めながら大地は肩を自分で叩いた。
 色々揉めたが、今ではスッキリしていた。あれだけ悩んでいたのが嘘のようだった。難しいことは考える必要は無かったはずが、どうしてここまでこじれたのだろうかと大地は今更ながらに思う。
「あっ……と」
 バケツから水が溢れる一歩手前で蛇口を閉めると。今度はバケツの取っ手を持ち、砂のある場所にまで移動した。
 この公園のような緑を生やした屋上は、それほど広いわけではない。丁度建物がこの字型に空いており、そのへこんだ部分に緑が生やされているのだ。
 向こう側に見える建物には、この一階下から入られる機械室になっている。もちろんこちら側には来る扉はない。
 大地と博貴が二人で楽しむのなら、広すぎる庭というくらいだろう。背の高い木が、マンションのリビング周囲を囲むように生えているためこちら側は隣のビルからは見えない。
 大地はその広場になっているような砂地の所にバケツを置いた。そして次ぎに持っていた興信所の書類を置き、数枚ずつ束で出すとバーナーで火を点けた。
 すると紙は一気に燃え上がり、白かった色が黒く変色し、ぺらぺらの煤になった。大地はそれが飛んでいかないように砂に埋め、また数枚取りだし、火を点けた。
 これで良いんだよなあ……
 煤がチラチラと舞うのを眺めながら大地は思った。
 最初からこうすりゃ良かったんだ……
 燃える紙を眺めながら、そこに書かれた字もどんどん炎で焼かれていく。
 過去は過去……
 今更こんな風に書いて残す必要なんてない……
 残したって仕方ないんだから……
 大地は燃え終わると順番に紙を取り出して、バーナーで火を付けていた。
「大ちゃん……そこで何をしてるんだい?」
 後ろから博貴の声が聞こえ、こちらに近づいてくるのが分かった。
「えー……うん。これさ……いらないから……燃やしてるんだ。こんなのそのへんに捨てられないし……。かといってお前もうちにあるの嫌だろうから……」
 バーナーで更に紙を燃やし大地は言った。
「大ちゃん……」
 その声は真後ろから聞こえた。だが大地は振り向かなかった。
「これでお前がやった悪いことは全部燃やしたからな。俺……お前は後悔してないって言ってたけど……ちょっとくらいはしたはずだと思う。だから嫌なものは燃やして、消してやったから、これからはこういうものを書かれない生き方しろよ。同じ様な生き方選ぶつもりなら、俺はここにはいられないからな。その代わり……この分に関しては焼いて終わりにしよう……。最初からこうすれば良かったと俺……思うよ」
 チラチラと舞う煤が更に足下で渦を巻いていた。
「大地……」
 博貴はそれだけ言うと沈黙した。
 何となく気まずくなった大地は、全部燃やしきった跡を足で踏みながら、明るい声で言った。
「なあ……こうやって燃やしちゃったら、母親思いの優しい息子だけが残ったような気がしないか?」
 大地はそこでようやく立ち上がり博貴の方を振り返ると、いきなり抱きしめられた。
「……どうしたんだよ……」
 博貴は無言で大地を抱きしめたまま、何も言わなかった。すると大地は自分の頬に博貴の頬から伝う生ぬるいものを一瞬感じた。
 しかし、大地はその事を追求しなかった。
 泣くことが苦手な博貴の為に……
 俺が気付いたことは秘密にしておいてやろう……
 大地はただそう思い、目を閉じた。
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