Angel Sugar

「秘密かもしんない」 第21章

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 博貴の瞳に後悔を見つけることは大地には出来なかった。それがショックで言葉を失っていると博貴が言った。
「ねえ……大地。もちろん、母さんがあんな事になる前、私は多少自信過剰な、何処にでもいる男だったと思う。でもね……ホストで働くようになってから、君からすると酷い男になったんだ。ただ、それを後悔しないのは私が後悔するともっと辛い思いをする人がいたからだよ……」
 それは……
 もしかして……
 大地がじっと博貴を見ていると、続けて言葉が聞こえてきた。
「そうだよ……母さんのことだよ。意志の疎通が出来ない人になってしまったけど……私は母さんが亡くなるまでの間、奇跡なんていう馬鹿馬鹿しいものを、ほんの少しだけど信じていたんだ……。もしかすると目を覚ますかもしれない……。一言でも会話が出来るようになるかもしれない……ってね。そんな事なんかある訳なかったんだけど……信じていたんだ。それでね、もし、もしもだよ。母さんの意識が戻ったとき、自分が誰に世話をかけたかなんて考えて……私の職業を知って……母さんが自分を責めたら……。そんなことを考えてから……後悔なんかしなくなったんだ。これでいいんだ。これは私の意志だってね。そうでもしないと母さんがきっと辛い思いをするだろう……。まあ……もう母さんはいないんだけど……それでも何処かで見ていて、私が少しでも自分の人生に後悔なんかしたら辛い思いをしそうでね。そういう人だったから。私と違って本当に優しくて儚げな人だったよ……」
 博貴は何処か遠くを見ながら、そして何かを思い出しながら淡々とそう言った。その博貴の表情に大地は胸が詰まった。
「だから後悔はしない」
 無言でいる大地に博貴は更に言った。
「……」
 俺は……
 恋人の過去なんてどうでもいいって言っていたのに……
 俺が一番、気にしていたんじゃないか……
 そのことに気が付いた大地は自分自身が恥ずかしくて仕方なかった。
 もし、大地が博貴の立場に立たされていたら、母親を抱えて何処まで一人でがんばれたか分からない。自分には兄弟もいて、両親も健在だ。何かあればいつでも頼ることが出来る。
 だが博貴はそんな中、本当に一人で病気の母親を支えていたのだ。
 誰にも文句を言わず……
 たった一人で……
 いつか、もしかしたら母親が治るかもしれないと信じていた。
 博貴がどういう方法を選び、金を稼いだとしても、そのことで大地が意見などできる訳はないのだ。
 それは恋人であっても権利はないだろう。
「……博貴……俺……」
 俺は……
 母親のことと、過去を切り離して考えていた……
 だけど……
 それはどうあっても切り離して考えてはならい事だった。
「あ、これは私の事情だからね。別に大地が気にすることはないんだ。ただ、ほら。人間にはいろんな事情があるわけだから……。それを大地にはきちんと話しておきたかっただけだよ……」
 言って博貴は大地の手を離した。
「俺っ……!」
「いいんだよ……。私はこの話をして同情して貰いたいとか、少しでも良い人間だと思われたいと考えて、大地に話した訳じゃないんだ。そいうのは嫌いだからね……」
 そこでようやく博貴はいつものように笑みを浮かべた。
「……」
「じゃあ……大ちゃん。一人で帰ってくれるかい?こんな私でもやっぱりショックはショックなんだよ。君を見送るのはここからだけにして欲しいんだ……。送っていけないけど……一人で帰られるね?」
 博貴は大地の頭をさらりと、だが愛おしそうに撫で、そう言った。その博貴に大地は顔を左右に振った。胸が詰まって声が出せないのだ。
「大ちゃん?」
「俺……っ……」
 今度は大地が博貴の腕を掴み、ようやく声を出したがその声は掠れていた。
「……いいから……何も言わなくて良いよ……」
 博貴の表情はどことなく寂しそうだった。
「違うんだ……俺……俺が……俺が悪いんだ……ごめんっ!」
 大地はそう言って自分から博貴に抱きついた。
「……大地?」
「俺……俺は真喜子さんに言ったんだ……。博貴の過去がどんなものでそれは過去だって。昔のことだって……。でも本当は俺が一番気にしてた……。俺は心の何処かで……お前が昔したことを許せなかったんだと思う……。でももっと深く考えたら……俺は……多分……」
 そろそろと顔を上げて大地は博貴の方を向いた。博貴の方は驚いた表情で大地を見つめていた。
「多分?」
「俺……嫉妬してたんだと思う……。それ……隠すのに……俺は……違う事で腹を立てているみたいにお前に言っていたような気がする。昔のこと……何を言っても仕方ないのに……。過去つき合っていた女が出てきて……お前とつき合ってたんだ……って思ったら……すげえ……気になって……。それも嫉妬なんだと思う……。だって……俺……博貴が好きだから……。なんか……お前のこと……自分だけのものだって勝手に思ってたんだ。なのに……過去のことが出てきて……俺……ああもう……上手く言えない……」
 また大地は博貴の胸に顔を埋め、廻している手にギュッと力を込めた。自分勝手な大地に博貴は呆れ、突き放されたらどうしようと思ったのだ。だが博貴はそっと自らの腕を大地の背に廻し、頬を頭に擦り付けてきた。
「もちろん……俺……お前の過去のこと……許せないところもある。だけど、それは俺が責められることじゃない。そう思った……。当時の誰かがそのことでお前を責めたり、怒ったりするのは当然のことだと思うけど、もう時間がたって、今頃俺がそのことでとやかく言う資格はないんだ。だって俺の知っている博貴は……俺を大事にしてくれる……。今はもう、女を騙したりなんかしてない。なのに今の博貴に……どうして過去のことを持ち出して責められるんだろうって……。俺……分かった。俺が見てる博貴はそんな奴じゃないって……。俺……知ってたのに……」
 大地はそこまで言って涙が滲んだ。自分がどれほど無茶苦茶なことで腹を立てていたのか、ようやく分かったからだ。
 根本にあったのは大地の嫉妬だった。いつも自分だけを見てくれていると思っていた博貴が、過去つき合っていた女性と何かあったのではないかと、嫉妬してしまったのだ。
「大地……君には責める権利はあるんだよ……。そんなことで泣く必要なんかない……」
 博貴は相変わらず大地の頭に頬を擦り付け、呟くようにそう言った。
「……ごめん……俺……どうしようもないことでお前に迫ってたんだよな……。いつも俺……すぐに分からなくて……後になって自分で後悔する……こんなの……駄目だよな……。こんな俺……ガキだよな……」
 情けない気分に陥りながら大地は言った。
 一生懸命背伸びして、大人になろうとしている自分自身が滑稽だった。世の中にはいろんな人がいると分かっていながら、自分の中に、これが正しい、これは悪いと狭い囲いを作っていたのだ。それに当てはまらなかったからといって、すべてが悪いわけではない。何もかも白と黒で分けてしまうことなど出来ないのだ。
 育った環境も、事情も違う二人が付き合い、一緒に暮らしているのだ。考え方の違いや、ものの見方でぶつかってしまうのは仕方ないだろう例え兄弟であっても、生きてきた人生が違うのだから、そこに大きな差があったとしても不思議ではない。自分が認められない事があったからといって、すべてが悪いわけではないのだ。
 人にはそれぞれ事情があり、その中で一生懸命生きている。そんな人の人生の歴史を、たかだか二十歳にも満たない大地が否定することも非難することも所詮できないのだろう。
 いや、してはいけないのだ。
「大地は自分で思っているほど子供じゃないよ……。私はいつも君を見て……とても勉強になるんだから……」
 何となく笑いがこもった声で博貴はそう言った。
 ……
 思ってねえ……
 絶対ガキだって思ってる……
 ムッとしながらも大地は、そんな博貴が好きなのを知っていた。大地が決して理解できない世界で世渡りしてきた男なのだ。元々、理解できない世界を無理に理解する必要が何処にあるのだろう。自分が知っている博貴だけをしっかりと見ていたらいいのだ。
 大地はそういう答えにたどり着いた。
 自分の兄である戸浪と早樹にもきっと話せない過去があるのかもしれない。もちろん真喜子にもあるのだろう。だがそれは知らなくて良いことなのだ。
 本人が隠すから秘密なのであり、それを必ず知る必要は何処にもない。自分が知っている。そして見ている兄達と、真喜子を信じていたらそれで良いのだろう。
「博貴……」
 再度顔を上げて大地がそういうと、博貴の唇が下りてきた。
「……ん……」
 ……
 ちょっとまって……
「……っ……て、待て待て待て……」
 グイッと口元に吸い付いてきた博貴を押しのけ、大地は言った。
「大地……もしかして……このまま……じゃあな……なんて言う気はないだろうね?」
 目を思い切り開き、博貴はそう言った。とはいえ、博貴はいつの間にか大地の背でしっかりと腕を組んでいる。この状態では本気で帰ろうとしても帰られないはずだ。
「……違うよ……。俺、一つだけお前に撤回して欲しい言葉がある。それをちゃんと言ってくれないと……嫌だ……」
 博貴は事もあろうに別れようと言ったのだ。どうあってもその言葉だけは撤回して貰いたかった。
「……え?」
 今度は驚いた顔で博貴は言った。
 もしかして……
 こいつってすっげー大事なこと忘れてるとかいう?
「……お前っ……お前が言ったんだぞ。別れるって言ったぞっ!それ……そのままにしておく気かよ!そんなの……絶対……。どんなことよりも許さないからな!」
 叫ぶように大地がそういうと、博貴は本当に嬉しそうな顔をした。それは久しぶりに見る博貴の笑顔だった。
「そうだね……うん……ごめんよ……。大地が好きだ……。別れるなんて……絶対嫌だよ……。本心からじゃない……。ただ君を思っておもわず言ってしまっただけなんだ……。本当は……君を誰にも渡したくない。大地は私にとって本当に大切な人なんだ……」
 大地から視線を逸らせずに、博貴は真っ直ぐと瞳と見つめながらそう言った。こちらが受け止める瞳には嘘はこれっぽっちも見当たらなかった。
「博貴……ほんとか?俺のこと……呆れてないか?こんな……うじうじ……お前の過去のこと悩んで……。俺の言葉でお前を沢山傷つけたことも……許してくれるのか?」
 気になっていたこと……
 大地が酔っぱらっていたとはいえ、徹に思わず愚痴ってしまったことが大地にはずっと気になっていたのだ。
「もちろん、多少はこたえた部分もあったよ。でも……君の正直な気持を聞くことが出来て良かったと今では思っているんだ……」
 苦笑して博貴はそう言った。
「なあ……俺のこと……本当に嫌いになってないよな……」
 大地は確認するように言った。すると博貴はにっこりと笑って頷いた。
「逆に……私のことを嫌いになったんじゃないのかい?私はそう思ったけど……」
「……嫌いになる訳ないだろっ!そりゃ……お前の昔の話を持ち出したら、最低な所もあるんだろうけど……今はそんな男じゃないの……俺……分かってるし……今は……ちゃんと俺だけ見てくれているし……」
 ……
 なんかこれって……
 フォローになってないとかいう?
 チラリと博貴を見ると、なにやら遠い目をして天井を眺めていた。
「……だから……俺が言いたいのは……。博貴が好きだって事だ……。何があっても……俺は……博貴の側にいたいって……それが言いたかったんだ」
 必死に大地はそう言ったが、上手く自分の気持ちが言葉に出来ないでいる。
 俺……
 なんでこう……
 上手く言えないんだろう……
 何時だって……そうだよな……
 大地が落ち込んでいると、身体が博貴に引き寄せられ、その胸元に抱きしめられた。良く知っている博貴のコロンの香りが大地の鼻から入り、ホッとした気分になる。
「……うん……嬉しいよ……大地……」
「……俺は……博貴が好きだ……」
 なんだかもうそれだけでいい様な気が大地にはしていた。
 もういいのだ。
 俺は博貴の過去を知った。
 博貴はそれに対し偽ることなく答えてくれた。
 最初からそれで終わるつもりだったのだ。
 それ以上はもういらない……。
 大地は博貴に抱きしめられながら目を閉じた。
「ねえ……大地……触ったら怒る?」
 恐る恐る聞く博貴に何故か大地は笑いが漏れそうになった。
「昼間のことは……お前が……その……場所を考えなかったから……俺……怒ったんだ……。し……寝室なら……俺……いいよ……」
 もごもごと言葉を濁しながら大地は小声で言った。
「じゃあ……寝室に行こうか……」
 言って博貴は大地を軽々と抱き上げ、大地を見下ろしてきた。そんな博貴に大地は視線を逸らせた。だが顔が赤くなっていることを隠すことは出来なかった。

 久しぶりのベッドに大地は下ろされると、急に恥ずかしさが身体を覆った。もちろん何度となく博貴に抱かれてきたのだが、今日はまた違った恥ずかしさがあった。
「大地……君に触れたくて仕方が無かった……」
 こっちはまだおろおろとしているにも関わらず、博貴の方は既に大地に乗り上がり、そう言って額や頬にキスを落としてくる。
「……え……えと……」
 部屋は暗く、寝室の扉から漏れる、廊下からの光だけがこちらに僅かに入るだけで、殆ど博貴の顔が見えない。もちろん、明るい蛍光灯の下で抱き合うのはかなり抵抗があるのだが、真っ暗に近い部屋もなんだか気分的に気味が悪いのだ。
 多分、相手の顔が見えないからだろう。最初は暗い方が良いと思っていたのだが真っ暗も大地は嫌なことに気が付いていた。だから小さな白熱灯をつけて貰いたいと大地は思った。
 いつもはもちろん、小さな電灯をつけてくれているのだが今日はそんな気が回らないのか、博貴は大地のシャツに手をかけている。
「博貴……あのさ……あっ……」
 シャツを一気に脱がされ、大地は上半身を空気にさらした。だが暗闇の中、酷く不安になってくる。博貴と言えば大地の言葉を無視し、自分の行為に没頭していた。
 真っ暗な中で博貴は大地の胸元を舌で転がし、音をたてて吸い付いてくる。だが上に乗っている男の顔が見えない大地は不安で仕方がなかった。
「……なあっ……ひっ……」
 コリッと歯で噛みつかれ、大地は声を上げた。
「……や……ちょっと……待ってくれよ……」
 自分の胸元に張り付いている博貴の頭を大地は掴んでそう言った。
「大地……何?さっきから……嫌なのかい?」
 やや落胆したような博貴の声が大地の耳に入り、同時に身体をずらす音も聞こえた。
「ち……違うって……あの……小さい電気……点けてくれよ……。俺……真っ暗なのは嫌だ……。あ……明るすぎるのも嫌だけど……」
 暗闇で向こうからは見えないだろうが、大地は耳まで赤く染めていたはずだった。
「……そう言えば何時も小さい白熱灯つけていたねえ……」
 思い出すように博貴はそう言って、ヘッドボードの上にある室内の電灯を操作する盤に手を伸ばし、部屋の隅に付けられているフットライトを幾つか点けた。すると、寝室が下から少し明るくなった。
 薄ぼんやりとした明かりが、周囲を浮かび上がらせた所為で、大地の気持ちはようやく落ち着いた。
 やはり真っ暗よりも少し明かりがあったほうがいい。
「……これでいいかい?」
 言った博貴はとても嬉しそうだ。
「……う……うん」
 元々顔の彫りが深い所為か、博貴の表情には濃い影が落ちている。それがとても格好いい……と、突然大地は思ってしまった。だが我に返った大地が驚いたのは、いつの間にか博貴の上半身が裸だったことだ。
 いつ……
 何時脱いだんだよ……
 俺のを脱がしたのは分かったけど……
 やっぱり暗いと見えないから嫌だな……
「暗いの恐いの?」 
 博貴はそう言って、また身体を重ねてきた。今度はハッキリと博貴の肌の感触が触れている胸元から伝わった。
「……別に……恐い訳じゃないけど……ん……」
 言葉を発している口元にいきなり舌を差し込まれ、大地は驚いたが、何度も口内で舌が動かされると、目を閉じ、久しぶりに感じる博貴の温もりを身体全体で受け止めながら大地は舌の動きに酔った。
「……ん……ん……」
 大地の舌を吸い上げて絡めてくる博貴の舌は、生き物のように口内で動き回る。その動きに翻弄されながら大地も博貴の舌に自分から絡めた。
「……大地……キスが本当に上手くなった……」
 スッと離された博貴の口からそんな言葉が漏れ、大地はまた顔を赤らめた。さっきから恥ずかしいことばかりなのだ。
「……そ、そんなの……言うなよ……」
 何度抱き合っても、大地にはこの、ベッドでの睦言というのが苦手なのだ。
「私が教えたんだよ……大地……」
 言いながら博貴の口元が胸元に落とされ、最初は唇の先でただ密着させただけの動きが感じられ、次ぎに舌が周囲を這った。
 ヌルッとした舌の滑りは、背をゾクゾクとさせる。
「……あ……っ……」
 最初は緩やかな動きであったものが、途中からスピードが上がり、大地は一気に高まる快感に驚きながらも、拒否することはなかった。
 あちこち舌で吸い付かれ、どう考えてもキスの痕が付いてる……と思うのだが、それを確認する暇はなかった。だがあとから見たら絶対ものすごいことになっているだろうと、まだ少し残る理性は、あちこちから感じる小さな痛みについて考えていた。
「……っあ……」
 今まで胸や腹から感じていた痛みが、突然内股の辺りから感じ、大地は身体が仰け反った。
 あれ……
 ズボン……
 ガバッと上半身を起こし、見ると、いつの間にか素っ裸だった。
 俺は……
 俺って……
 脱がされてる事も覚えてないほど、没頭してるのか?
 そんな自分の事に大地が茫然としていると、博貴は股に顔を埋めており、身体を起こした大地の方にチラリと視線を寄越した。
 こんな状態で見つめ合うと、気まずいのは何故だろう……
 なんか……こういうの……すげえ……恥ずかしいっ!!
 大地は博貴の視線を受け止めたまま、言葉に詰まった。だが大地の内股を手で引き寄せて愛撫していた博貴は口元を離し、小さく笑った。
「……あの……さ」
「ここを舐めて欲しいの?」
 かああああっ……
 そうじゃないけど……
 この……この格好が……
「ちがっ……あっ……やっ……」
 チュクッと先を軽く吸われ大地は身体を起こし、膝を立てた体勢で喘いだ。何度も先だけを軽く舐められ、腰元が快感で震える。そのうち刺激で膝までが震えだした。
 快感が腰から全身に行き渡ると、ベッドに上半身を支えるために突っ張っている両手までもガクガクと震えだした。
「ひろ……博貴……っ……あっ……」
「何……もっと奥まで口に入れて欲しい?そう言ってくれたら……奥まで入れて舐めて上げるよ……」
 うう……
 またそういうだろう……っ!
 こいつなんで、こういう状態で言うんだよ……!
 舌をこちらに見えるように博貴は口元から出し、大地のモノを舐め上げる行為は見ていて恥ずかしい。一旦身体を起こしてしまった手前、このままベッドに倒れ込むのもなんだかわざとらしくて大地は余計にできないでいた。
 だがそんな事を考える余裕が少しずつ無くなってくるのが大地にも分かった。軽く舐められる行為は、確かに気持ち良いのだが、強い刺激を既に知っている身体は、すぐに物足りなさを感じるのだ。
 そう博貴に素直に伝えればいいのだろうが、大地には恥ずかしすぎて言葉が出ない。毎度のことだが、博貴はすぐに大地に言わせようとするのだから困っていた。
「あ……あっ……あ……博貴……っ……」
「何?」
 先を舐めながら、指はその下に付いている二つのモノを弄んでいる。それを間近に見ると声など出ない。変わりに頭を左右に振ってギュッと口元を引き結んだ。
「大地だって、私を欲しいって思ったんだろう?ねえ……色々して欲しいって思わなかった?私は……君に触れられずにいた暫くの間、とても辛かったよ……」
 口元に含んでいたモノの側面にキスを何度も落とし、博貴はそう言ったが、そんなところで話しなどして欲しくなかった。
「やだっ……あ……」
「ねえ……大地……寂しくなかった?このうちから出て……私に会いたいと思ってくれなかったのかい?」
 ずいっと身体を起こし、博貴は大地の喘ぐ口元の周囲に唇を這わした。だが片手は背に回し、もう片方の手で、大地のモノをギュッと握りしめた。
「やっ……あっ……博貴っ……」
「大地……君に触れたくて、どれだけ……我慢したか……分かるかい?」
 甘く囁くように言っている割には、博貴の手は大地のモノを力を込めて擦り上げる。その痛みを伴うほどの圧迫感と突き抜ける快感で大地は瞳を涙で曇らせた。
「ひろ……きっ……あ……」
 塞がれた口を何とかずらし、大地は訴えるような声を上げたが、もちろん博貴の手は緩まず、上下に擦られている。きつく擦られたにも関わらず、先端からはぬめりを帯びたものが伝い、博貴の手を濡らした。
「ほら……大地の……喜んでる……」
 クスクスと笑いながら、博貴は大地の耳朶に今度は舌を這わせてきた。
「……や……やめっ……」
 両足を広げ、上半身を起こし、自分の腕で支えているものの、博貴が体重を掛けてきたことで、腕が震えた。もちろん、快感に耐える事でも震えが止まらない。
「我慢したんだ……大地……君が欲しかった……触れて……こんな風に可愛がってあげたかった……」
 博貴は自分のモノと大地のモノを掴み手の中で擦りあわせると、うっとりとした目を向けてきた。腰元で自分のモノと博貴のモノが絡まって擦り上げられると、大地は羞恥心が一気に身体を覆い、体温が益々上昇するのが自分でもハッキリと分かった。
「や……やだ……博貴……あ……」
「私のだよ……大地……」
 ヌルッと手を滑らされた瞬間に、大地は支えていた腕が滑り、ベッドに背を沈ませた。もちろん、博貴の身体は大地の上に乗っている。
「………っ!」
 いきなり身体が沈み込んだ所為で、博貴の腰元が押しつけられた形になった大地は、その刺激でイってしまった。
「……我慢しすぎなんだよねえ……」
 原因となった張本人はニヤニヤ笑うだけで、反省の色など見あたらなかった。
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