Angel Sugar

「血の桎梏―策略―」 第20章

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「サイ……ファ……?」
 どうしてサイファがこういう行動を起こしたのか、全く理解のできなライは、痺れている手を何とか動かした。けれど、指先はようやくサイファのスラックスの裾を掴んだものの、引っ張る力はなかった。
「僕はずっとライに触れたかった。こうやって……」
 サイファの手がライの首筋に触れ、ジャケットのファスナーを下ろしていく。その手を払いたいのに、身体が痺れていて、ライにはできない。
「やめ……ろ……よ」
「やめない。ようやく手に入れたんだ」
 ライの身体を抱えると、サイファは寝室に向かった。なんとか身体を動かして、逃げだそうとするものの、ライの思うようには動けず、あっという間にベッドに下ろされ、サイファに組み敷かれた。
「頼むから……やめてくれ……よ」
 抵抗らしい抵抗もできず、衣服が剥ぎ取られていくのを見つめながら、ライは弱々しい声を上げた。サイファはライを素っ裸にすると、自らの上着を脱ぎさって、覆い被さってくる。
「ずっと、好きだったんだ……」
 唇が触れ合うほどの距離で呟かれた言葉に、冷たいものが背筋を這う。
 サイファの唇が首筋に触れる。
 チリリと産毛が焼けるような感触がそこから伝わり、ライは身を竦めた。
 これからどうなるのか、簡単に予想はつくのだが、サイファから知らされた事実に戸惑い、慌てることも、拒否する言葉も、それら行動を決定する暇をあたえてくれない。いくつかの思考を覗き見したときのように、何もかもが混乱している。
「や……め……っく」
 仄暗い部屋で浮かび上がる肌につけられたキスの跡を、サイファの唇がたどっていく。チクチクと小さな痛みが走るが、嫌な感触ではない。ラシャによって慣らされた身体は、誰が触れても感じるものへと変化させられているようだ。
「あ……あ……いや……だ……」
 サイファの唇は首筋から胸へと移動し、乳首を数度しゃぶって、臍の穴の脇を通り、茂みへと向かう。緩慢とした動きで愛撫が進み、ライの身体を昂ぶらせ、痺れていながらも拒否しようとする意志は、快楽によって簡単に宥められてれてしまう。
「僕の愛撫に……応えてくれてるじゃないか」
 笑いを含んだサイファの声に、ライは歯を食いしばった。
 身体は麻痺したまま、動かない。なのに快感だけは鮮やかに身体に伝えられる。
「……やめ……っう」
 まだ柔らかい雄が生温かい口内に誘われ、クチュリという粘着質な音を立てた。耳にしたくない淫靡な音は生々しく耳に伝わり、さらにライの体温を上げていく。同時にサイファの思うまま、雄は鍛えられていった。
 サイファの触れる手が生温かい。
 ラシャは手は最初は冷たいが、しばらく触れていると少しずつ温まっていく。決して熱くはならず、それでいてセックスは激しい。いや、ラシャの表情は最初から最後まで大きな変化はないのだが、ライを揺さぶる手は力強く、貫く雄は熱い。
 どうしてこんな時にラシャのことを思い出しているのか、ライにもよく分からなかった。一人だけに身体を許すという貞操などこの場合、意味を成さないし、かといって、サイファに欲望の捌け口とされるいわれはない。
 けれど、ライの身体はサイファの愛撫に酔いはじめている。
 身体を痺れさせている薬は、決してライの欲望を掻き立てるものではなかった。今、感じているのは確かにサイファの愛撫に、ライの身体が反応しているからだ。それは紛れもない事実で、認めざるを得ないライの欲望だった。
「ああっ……!」
 ライは自らの欲望を、羞恥する間もなく、サイファの口内に吐き出した。サイファは蜜をすべて飲み干すことなく、手の平に落とすと、股間に手を突っ込んで、尻の割れ目に塗りたくる。粘ついた感触が伝わり、ライは低く呻いた。
「……こうやってライを味わえるなんて、僕は嬉しいよ」
「頼む……やめて……くれよ……俺……」
 指が二本蕾を割り裂いて入ってくる。簡単にライの快楽のツボを見つけ出して、指先は内部で蠢き、吹き掛かるサイファの息が肌に触れ、焼けそうに熱い。
「好きなんだ……ライ……」
 それが免罪符にでもなると思っているのか、サイファは同じ言葉ばかり繰り返す。友人だと信頼していたライに、許し難い裏切り行為をしている自覚は、まるでない。そんなサイファに、ライは絞り出すように告げた。
「俺には……そんな気持ちは……ない」
 その言葉を遮るような平手打ちがサイファによって飛ばされ、貧血を起こしたようなめまいをライは感じた。
「殺し屋には自分から尻を振るのに、僕にはできないって?」
 サイファは暗く沈んだ、得体の知れないものを瞳に浮かべて、ライの両脚を抱える。睨み付けても、迫力のないライの表情は、快楽で歪んでいるのか、それとも苦痛に喘いでいるのか、自分でも分からない。
「俺は……そんなこと……してな……っくう!」
 抵抗できない身体はグニャグニャで、サイファの思うまま、後秘が穿たれている。ラシャとは明らかに違う、感触。炎が舐めるように身体を這うような快感は伝わらず、闇雲に突き入れてくる不快感があった。
「や……めて……くれっ!」
 自分の顔が苦痛で歪むのが分かった。
ラシャのことも愛していないのに、伝わる快楽の差は明らかだ。
「イイって言ってくれ……ライ……僕を、少しでいいから愛してくれ……」
「これは……強姦って……言うんだ……知ってるよな?……っく!」
 両膝が胸につくほど折り曲げられ、抽挿を繰り返されたライは、痛みとともに意識を失った。



 ヒヤリとした感触でライは目を覚ました。
 視界には、濡れたタオルでライの身体を拭いながら、覗き込むサイファの顔がある。寡黙な表情は微笑など浮かべず、いまだ答えのでない問題を抱えた、哲学者のようだ。
「気は……済んだのか?」
 身体の痺れはまだ足や指先に残っていたが、動かせないほどではなかった。それでも倦怠感が身体を覆っていて、すぐに立ち上がる気にはならず、ベッドに横たわったまま、サイファを見上げていた。
「済むわけない」
「……どうすれば、サイファは俺を解放してくれるんだ?」
 足首から何かがはめられている感触が伝わってくる。これは以前も感じたものと同じ、ガーデンストッパーなのは見なくても分かる。
「解放すれば、ライはあの殺し屋のもとへ戻るんだろう?」
 持っていたタオルを床に放り投げて、ライに背を向ける。
「戻るよ」
 ライは胸元にかけられた毛布をさらに引き上げて、息を吐いた。
「奴とのセックスが……ライを虜にしてるのか?」
「そんなんじゃないよ……ただ……俺がいれば……あいつは人を殺さない」
 その言葉に、サイファは乾いた笑いを響かせた。
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