Angel Sugar

「血の桎梏―策略―」 第23章

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「ラシャッ!嫌……ひっ!」
 ライが抵抗しようと手を振り上げるのと同時に、ペニスを掴んでいるラシャの手がきつく締められた。けれど痛みは僅かで、伝わる刺激はすべて快感へと変化されていく。サイファが目の前にいる状況に、ライは身を裂くほどの羞恥と、感じたことのない快楽を何故か得ていた。
「あ……やめ……っ」
 顔を逸らせてライは呻いたが、ラシャは表情を変えずに手の動きを早めた。
 痛みを与えられたなら苦痛の表情を浮かべて、横暴な扱いに涙を流し、サイファの哀れみが得られたはずだ。けれどラシャはそれを見越しているのか、ライに一切の言い訳を与えることなく、ゆっくりと、そして確実に快楽でライの身体を拘束していく。
「あ……ああ……俺……いや……だっ!」
「嫌だ?そんな顔などしていないが、私の見間違えか」
 ラシャは残酷な言葉を告げ、ライのペニスの先端をねじり上げるようにして擦り上げた。
「ひいっ!」
 白濁した飛沫はラシャの手を濡らし、シーツに染みを作った。目を閉じて欲しいサイファは、ライの期待を裏切り、もの悲しい瞳を向けている。それは憎まれるよりも辛い現実だった。
「……もうやめてくれよ……」
 恥ずかしい、見られたくないと強烈に願えば願うほど、我慢できない刺激が身体を覆い、虜にしていく。浅ましい自分の欲望をサイファに知られて、ライは唇を噛んだ。けれどラシャは手でイかせるだけでは足りないのか、ライの身体をベッドに押しつける。この程度で許してくれるわけなどないと恐怖を抱いていたが、それが現実になるのだと確信すると、何故か心の奥で安堵している自分がいることも、ライは気づいていた。
 そんな本心を知られたくないライは、声を上げて抵抗をした。
「それだけはやめてくれよっ!お願いだから……他のことなら何でもするからっ……ラシャ、頼む、お願いだ。こんなの……耐えられな……」
 ラシャはライの後頭部を掴むと、さらにベッドに押しつけた。
「ショーはこれからだろう?」
 声には抑揚がないものの、背を這うような響きがあった。
「ラシャッ!……嫌だっ……嫌……あっ!」
 固定された右腕をベッドに強く押しつけながら、動く方の左でシーツを引っ掻く。けれど、ラシャに腰を強く引っ張られ、怒張した雄がライの窄んだ蕾を割り裂いた。伴う痛みは僅かで、背骨を突き抜けていく快感が、今までにかんじたことのない嫌悪感を掻き立て、ライの口から叫びを上げさせた。
「嫌だ――――っ!ラシャ……嫌……嫌だっ……ああっ!」
「イイ顔をみせてやれ」
 隠すようにうつ伏せていた顔が上げさせられ、ライは目をギュッと閉じた。サイファと目が合う瞬間を想像するだけで、身体のあらゆる細胞が沸騰して、燃え尽きてしまいそうだ。
「よせっ……嫌だ……嫌だっ!あっ……はっ……や……」
 リズミカルに繰り返される抽挿は狭い内部を擦り、快楽の源を突く。ラシャから逃げようとすればするほど、身体を貫く楔は深く突き刺さる。身体の奥から熱が上がり、溶けてしまいそうな心地よさが身体を覆っていく。
「あ……あっ……やめてくれ――――っ!」
 快楽に堕ち、淫らな自らをサイファの目前で披露することだけは避けようと、ライは僅かな理性を必死にたぐり寄せていた。けれど、ライが思うほど身体の制御などできるはずもなく、突き入れられる雄の存在感に圧倒され、快楽によって浮かぶ涙が、閉じた目から滲み、頬を伝う。
「嫌だっ……いや……や……やめて……くれ……あっ……ああっ……」
 認めたくはないのだが、抜き差しを繰り返されることが、気持ちいい。身体の隅々まで行き渡る愉悦が、ライを淫らに喘がそうとする。このまま理性を手放せたら、どれほど楽になるだろう。
「もっといやらしい顔ができるはずだろう?どうした、足りないのか?」
 ラシャの声は上擦ることもなく、また皮肉っているわけでもなかった。あくまで淡々としたものなのに、よく耳に響く。  
「……あっ……ああっ……ああああっ!」
 抜き差しの間隔が奇妙なほど長く、奥まで力強く突き入れた後、その場に留まり、ライの内部を味わうように、ラシャはさらに腰を押しつける。息が同じような間隔で吐き出されて声が上がった。
 心が快感によって浸食されていく。
 淫らな自分を隠す必要がいまさらあるのかという疑問が生まれ、理性を手放し楽になれと悪魔が囁く。
 サイファがこちらを見ているのかどうか、目を閉じているために分からない。
 呆れているのだろうか。
 それとも憐れんでくれているのか。
「……ラ……シャ」
 意識が朦朧として、夢心地になってきた。
 我慢できない射精感に襲われている。内部にあるラシャの雄は熱く、今にも弾けそうなほど、みっちりと詰まっていた。あつい飛沫が内部で解放されたとき、どれほどの快楽が得られるのか、ライはよく知っている。サイファからは到底得られなかった快感をラシャは与えてくれるのだ。
 理性がなんだというのだ。
 目の前にサイファがいて、何の都合が悪いのだ。
 ライは願っていたはずだ。
 二度と顔を見たくないほどライはサイファに憎まれたかったはず。
 そのチャンスを目の前にして、自分を偽る必要がどこにあるのだ……と。
「いい具合に力が抜けたな」
 ラシャはライの雄を引き絞り、断続的に蜜をシーツに飛ばし、快感に喘いだ。誰に遠慮することもなく与えられる快感に浸り、淫らに酔えばいい。
「ひっ……あっ、あっ、あっ!」
 艶やかな尻は抗いようのない快楽に屈し、自然と揺れていた。シーツを何度もたぐり寄せ、クシャクシャになった感触を頬に感じて、熱い吐息を吐き出す。サイファの視線などもう気にならない。どんなふうに思われようと、どうでもいい。
 ライはすべてを捨てて、ラシャとともに生きることを決めた。
 ラシャに抱かれることに嫌悪感もなければ罪悪感もない。サイファが知っているライではもうないのだ。
「あ……ああ……っ……ラシャッ!」
 恋人にでも求めるような声でライは叫び、ラシャの熱い迸りを内部に受けた。



 腕に痛みが走ったことで、ライは失っていた意識を取り戻した。
「追跡マーカーを消す薬だ。気分が悪くなるかもしれんな」
 グッタリとベッドに身体を伸ばしているライの腕から注射針を引き抜き、ラシャは静かに言った。
「……そう」
 つとめてサイファの方を見ないようにしていたライだったが、すすり泣きが耳に入り、ようやく顔を上げた。
 サイファは項垂れたまま涙を落としていた。自らの不甲斐なさを責めているのか、それともライの乱れた姿にショックを受け、泣くことで己を慰めているのか。
「……ラシャ……俺、もうここから出たいんだ……早く帰りたい……」
 ライは絞り出すようにそう言い、目を伏せた。
 投与された薬が身体の隅々まで行き渡り、DNAに書かれたマーカーを消していく。その過程で、酷く身体が怠く、自分で立ち上がり、歩くこともできなければ、気力も湧いてこない。
「そろそろ引き上げるか」
 ラシャはライの身体を抱き上げる。甘い抱擁とはほど遠い、硬いだけの腕の感触。それでもライは不思議とこの腕に安堵していた。
「ラシャ、あいつのスティンガーを抜いていかないと……」
 サイファに背を向けたラシャにリーガがまるでライの言葉を代弁するように言った。リーガの気遣いにライは冷えていた心が温もったような気がした。
「……全く……」
 ラシャはライを腕に抱いたまま、サイファの肩を貫いていたスティンガーを引き抜き、懐へと戻して、もう一度、背を向ける。
「ライ……僕がしたことは……余計なことだったのか?」
 背後から投げられた声に、ライは答えた。
「そう……余計なことだったんだ」
 その言葉にサイファからの返事はなかった。
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