「黄昏感懐」 第6章
「……私は……」
ギュッとシーツを掴んで宇都木は言った。
「貴方のことがずっと好きだったんです。だから……手紙を出してくれと頼まれたとき……出せなかった。宛先が誰か知っていたから……。私は……」
そう言って宇都木が顔を上げると、如月は目を見開いてこちらを見ていた。
驚くのは当然だ。
「出会う前から……好きだった。それを言えずに何年も経ってしまった。貴方の気持ちがこちらを向くことなどないのは分かっていたから……言えなかった」
言ってしまうと気持ちが楽になった。
だが、その宇都木の告白を聞いた如月は笑い出した。
何が可笑しいのか宇都木には全く分からない。自分は必死に告白したのだ。こんな風に笑われるようなものではないはずだ。
「……どうして……何が可笑しいんです?」
「宇都木……今度は私を好きだと言って止めるつもりか?あの爺さんに何を言われたのか知らないが、戸浪とのことはどう邪魔されようと止める気はない。だから、そんな言葉は言わなくてもいいぞ」
目の端に涙を溜めて如月は言った。
「……」
「なあ……私も考えたよ。宇都木の立場って言うのをね。すると不思議に腹が立たなくなった。お前は可哀相な奴だとは思いこそすれ、お前に当たるのは的外れだとな」
哀れまれている……
それは宇都木にとって憎まれるより辛い事だった。
「私の立場は関係ないんです!」
大声で宇都木は言った。
「私は誰に命令されたわけでもない……ただ自分がそうしたかったから行動したんです。誰にもこうしろああしろと貴方のことで言われた事などないっ!」
「宇都木……」
困惑したような如月の表情だった。
「……ただ……好きだったから……貴方に抱かれ続けてきた……他の誰でもない……貴方だから……抱かれたいと思った。それが……どうしてそうなるんです?」
必死にそう言うと如月はチラリと視線を向けてきた。
「……私はそれに応えられない……」
「応えてくれ等と何時言いました?そうじゃない……ただ……私の気持ちを知っていてくれるだけで良いんです。どうして抱かれ続けてきたか……その理由をきちんと知って貰えるだけで……充分なんです……」
最後の方で口調は小さくなる。
「そうか……」
如月はただそう言い、ベットの脇に座った。宇都木はもう一度身体を伸ばして落としたタオルを自分の額にあてがった。
「私は……別に貴方が好きだからといって、その気持ちを押しつける気はありません。ただ……言いたかっただけです……今晩だけだと忘れてください……」
「……宇都木……」
じっとこちらを見つめる青い瞳は、何かもの言いたげに見えた。
「何でしょう?」
「私達は……馬鹿な恋愛をしているな……」
そう……
お互い想いの届かない相手に恋をしていると宇都木は言いたいのだ。
そうなのか?
馬鹿な恋愛だろうか?
少なくとも宇都木にとって、如月に対する想いは馬鹿なものはないのだ。だから如月とは同じ悩みを持つ仲間ではない。
如月はそんな共感を共にしたいのだろうか?
「私はちっとも馬鹿だとは思いません……」
宇都木が言うと、如月は小さく笑った。
「強いな……お前は……」
溜息と共に如月はそう言った。何時もと違い、何処か弱々しく見えるのは何故か宇都木には分からなかった。なにより、昨晩あんな事があり、その後これほど如月が饒舌なのも珍しい。
「強い訳じゃない……無我夢中なだけです……」
そう言って宇都木は目を閉じた。
怠い体はベットの深みにはまっていく。睡魔が瞼を覆い、もう話すのも辛いのだ。
目が覚めたら……
夢だと思うに違いない……
いや……
今こうやって一緒に居ることも夢なのかもしれない……
宇都木はそのまま睡魔の虜になった。
如月は宇都木が眠ったのをじっと見ていた。
この男はこれほど感情的にものを言っただろうか?
「私の立場は関係ないんです!」
そう言った時の宇都木は今までにない強い口調であったのだ。
宇都木は普段穏やかに話す。その内容が、とても口調とそぐわない時もある。淡々と人を切り捨てる場合も、穏やかに対応するのだ。
それを如月の兄は冷たい男だと評価している。うっすらと笑う表情の向こうで宇都木が何を考えているのか分からないからだろう。
人間が出来てるのか、二重人格かどちらかだ……という噂も如月は聞いたことがある。確かに、作ったような宇都木の穏やかな仮面は自分というものを一切出さず、何事にも感心が無いように見える。
だが如月は兄の思うような冷たい人間だとは思わなかった。思わないから今までつき合って来られたのだ。
東に昔拾われた所為で、宇都木は驚くほどの忠誠を東に誓っている。それは見ていて良く分かる。東を褒める言葉を宇都木から聞いたわけではない。だが東都という名前を守ることなら何でもする男なのだ。
「……すごいよ……お前は……」
眠る宇都木を見ながら如月はそう呟いた。
宇都木は如月が仕事上でトラブルを抱えていると、何も言わずに色々と資料を取りそろえてくれるのだ。何処でどう集めてくるのか分からないが、そのかゆいところに手が届く宇都木という存在が如月にはありがたかった。
友人としての宇都木と、時には互いの欲望を処理するだけに抱き合う関係。ただそれだけだと思ってきた。
だが宇都木は如月に対しこちらが持っていない感情を持っていた。
貴方のことがずっと好きだったんです。だから……
手紙を出してくれと頼まれたとき……出せなかった。
宛先が誰か知っていたから……。私は……
如月と戸浪がよりを戻すのが耐えられなかったのだろうか?
そうであるから手紙を処分したのだ。
そんなことをして、後でばれたときの事を考えなかったのだろうか?
出会う前から……好きだった。それを言えずに何年も経ってしまった。
貴方の気持ちがこちらを向くことなどないのは分かっていたから……
言えなかった
何度も抱き合い、一緒に朝を迎え、時には爛れるようなセックスをしてきた。そんな中宇都木はずっと如月に対して、秘めた想いを抱いていたのだろうか?
それで良かったのか?
相手に気持ちを伝えることもせずに、身体だけ繋がってそれで満足できたのか?
私なら……
そんなことは出来ない。
だが宇都木はそれで満足してきたのだ。
何年も……
抱き合っている男が誰を想っているのかを知っていながら……
それでも宇都木は良かったのだ。
何が良いのだ?
馬鹿馬鹿しいと思わないのか?
私はちっとも馬鹿だとは思いません……
宇都木はただそう言った。
決してやせ我慢をして言ったわけでも、みえを張った訳でもなかった。
如月にとって馬鹿げた行為でしかない事が、宇都木にはそうでは無かったのだろう。
相手がどう思っていたとしても、自分が幸せを感じるのならそれで良かったのだろう。
それが本当に幸せだったのだろうか?
それとも時間が経てば、如月が宇都木に対し、恋愛感情を持つかもしれないとでも思ったのだろうか?
そんな先の見えない事に何故身体を投げ出せる?
「……ああそうか……お前はそれでも良いと思ったんだな……」
呟く様にそう言いながら如月は宇都木の額にかかる髪を撫で上げた。
お前は馬鹿だ……
お前のことなど何とも思っていない男と何年も寝てきたんだからな。
そんなお前がいじらしく思う……
だが……
知らない方が良かった……
苦渋に満ちた表情を浮かべ如月は寝室を後にした。
数日経つ頃、祐馬から一本の電話が入った。意外に真剣な声で会いたいと行った来た。如月は別段用事も無かったことも有り、「いいよ」と答えた。するとそれからすぐに来訪者を告げるノックが聞こえた。
如月は椅子から腰を上げて、扉を開けた。すると祐馬は如月の視線を外し、こちらを見ようとはしなかった。
なんだ……
気付いたのか?
それとも戸浪が話したのか?
どっちでも良いが……
「なんだ祐馬、どうしたんだ?」
「ちょっと……聞きたいことがあって……」
「いいよ、入るといい……」
如月はそう言って窓際にあるソファーに案内した。
「あのさ、如月さんが今、日本に二週間もいる理由何?そりゃ爺さんの事もあって帰ってきたんだろうけど……それにしちゃ長い滞在だよな。だって如月さん忙しいはずじゃん」
祐馬は一気にまくし立てるようにそう言った。
「ああ、昔に忘れた物を取りに戻ってきたんだ……」
言って如月は視線を外しがちの祐馬にニコリと笑みを見せた。
「それって何?ううん……人?」
不安げな表情で祐馬はようやくこちらを見た。
「お互い好きなのに色々あって離ればなれになった相手を捜しに来たんだ。忘れられなくてね……」
「その人は見つかった?」
「ああ……」
「そんで……戻ってきた?」
祐馬の声が掠れた。
「もちろん……」
逆に如月は自信たっぷりに言った。
「……もしかして……俺……知ってる?」
如月は頷きながら「ああ……」と言った。
すると祐馬の表情が真っ青になった。正確には信じられないという表情だ。
そうだ……
お前が今一緒に暮らしている戸浪が……
私の忘れられない人だ……
「……もう茶番は止めだ……。そうだ、お前が今一緒に暮らしている戸浪が私の忘れられない恋人だ。いや向こうも忘れられなかったようだがな……」
そう言って如月は祐馬を見据えた。
「……戸浪ちゃんはっ……俺を……俺を選んでくれたんだっ!」
いや……
お前に情が移っているだけだ……
本当はまだ戸浪は私を愛している筈だ……
そう思わなければこんな事やっていられない。
「馬鹿だな……祐馬……」
如月はそう言って笑った。
「俺は馬鹿じゃないっ!」
「本当に戸浪がお前に惚れているとでも思ってるのか?お前の知らないところで会っていたと、どうして思わないんだ?私が帰ってきたのは、あの爺さんの誕生日じゃない。その一週間前だ。そのとき、戸浪が遅い日はなかったか?正確には日本に三週間滞在する気で来たんだ」
それは嘘だった。
「違うっ!それは嘘だ。俺は知ってる。ちゃんと戸浪ちゃんは仕事してたっ!あんたの言うことなんか俺は信じないっ!俺は……俺は戸浪ちゃんを信じてるんだっ!」
信じるなんて言葉はとても壊れやすい……
壊れてしまうと良いんだ……
そうしたら……
戸浪には私しか居なくなる……
この程度で勝手に誤解し崩壊するのなら、どうせ今ではなくても、これから先壊れないとどうして断言できる?
そんな付き合いならさっさと壊れてしまえば良いんだ……。
如月はそう思い、心の中で笑みを浮かべた。
「膝が急に悪くなったのも、毎日私と抱き合ったからだと思わないのか?」
だめ押しのように如月は、打ちのめされている祐馬に言った。
「誰が信じるもんか」
そう言った祐馬の声は弱々しかった。
「悪いな祐馬……返して貰うぞ……」
如月がそう言うと、祐馬はよろよろと帰っていた。
暫く考えたくなかった。
如月のことも……
祐馬達のことも……
自分が何を言おうと如月は過去の思い出を取り戻そうと必死になっている。
それを止める権利は宇都木にはない。
例え、如月と数年間抱き合ってきたと言っても、その間に愛だの恋だのというものは無かったからだ。
告白されたわけでもない……
ただ、お互い気分が乗ったときにセックスをしていただけだ。
違うのは宇都木だけが一方通行の想いを秘めていたことだった。それを告白したところで何も変わることなど無い。
逆に、如月に罪悪感を与えてしまったのかもしれない。それが申し訳なく思う。本当はこれからも言うつもりはなかった。だがあの晩、如月にいつの間にかベットに運ばれ、介抱されたことで心ストッパーが緩んでしまったのだ。
今しか無いと思った。
だがそれは気が弱っていたからに他ならない。今は言って後悔をしていた。余計溝を作ってしまったような気がするからだ。
如月は優しい男だ。
それは宇都木にはよく分かる。冷たいというなら正に自分のことだろう。如月以外のことはどうだって良いと思えるからだ。
だから、何だって出来る。命令されたことに逆らったこともない。そうであるのに、如月に関しては何事も深入りしてしまうのだ。
惚れた弱みなのだろう……
そんな言葉をつい最近知った。
惚れているから何をされても許してしまう。
惚れているから何を言われても耐えられる。
小さく溜息を付きながら、宇都木は止まっていた手を動かし始めた。今作っている資料は明日東に渡さなければならないのだ。
それにしても……
東には親族、親戚を監督する秘書がいるというのに、どうしてこう訳の分からないものに手をだす身内が居るのか分からない。
今まとめているのはサラ金に手を出してそろそろばれる頃だと言う家族の資料だ。どうせこれを東に見せると、東が手を回すのだろう。
なんて甘いんだ……
甘すぎて吐き気がする……
護られた中で出世をしても意味など無い。確かに東は仕事上では実力主義だが、こういう家庭内のトラブルは金で何とか出来る範囲であるかぎり、自ら処理をするのだ。
だが宇都木にしてみればその行為自体が余計に闘争心を無くしてしまうような気がする。その点、外部から入ってきた親戚は強い。認めて貰おうとあの手この手で仕事を切り回す。
まあ……
祐馬の父親は別だが……
名前だけの役員にはなっているが、この男出世欲がとんとない。だが誰よりも子煩悩であった。
昔、祐馬が車に引っかけられ事故に遭ったとき、祐馬はかすり傷であったにも関わらず、祐馬の父親は何か勘違いしたようで、会社から病院に来ると、車を運転していた男を引きずり回し「息子を返せ」から始まり、「お前を殺して私も死ぬ」と屋上で大騒ぎになったこともあるほどだ。
すぐに祐馬が屋上で父親と会い、その場は収まったのだが……
そんな婿を意外に東は気に入っているのだから、何が気に入る対象になるのか宇都木にも分からない。
気まぐれな部分と、そしてしっかりと経営を行う手腕が両立しているのが不思議で仕方ないほどだ。
まあいい……
私は言われたことをこなせばそれで良いんだ……
書類を封筒に入れ、宇都木は椅子に身体を伸ばした。
色々と雑多なことは多いが、何かしている方が気が紛れるのだ。
如月……
あの兄弟はとにかく仕事が出来る……。
特に兄は仕事に対して容赦がない。東に認めて貰う為に必死なのだろう。そうであるから、義理の父と馬が合わない。
弟の方はまだ優しさがある。それでも如月は自分のことより仕事を優先するきらいがあった。
身体が熱っぽくても、大事な商談には這ってでも行く男だ。所詮そんな男の恋人に、あのどこか浮世離れした戸浪が合う筈など無い。第三者から見ているとそれがよく分かる。
やはりああいう戸浪のような男は、祐馬のような仕事より家庭や恋人を選ぶタイプの方が上手く行くのだ。何より、祐馬の母親はお嬢さんで育っているために、もっと浮世離れしているのだ。
所詮恋人としてつき合うのなら、お互い気兼ねせず一緒にいても苦痛にならない相手が一番なのだ。
そうであるから如月と戸浪が上手く行くはずがないのだ。
時には仕事しか見えなくなる男を、常に自分の方を見ていて欲しいと考える戸浪とどう上手くやっていけるというのだ?
無理に決まっているのだ。
戸浪に出世欲など無い。平凡で淡々と日々を暮らすことに喜びを見いだせる男なのだ。そんな男とよりを戻して苦労するのは如月だ。
それなのに、如月は過去の綺麗だった思い出だけを必死に取り戻そうとしている。あの時どうして別れようと思ったのかちっとも思い出さないのだ。
何故戸浪とあわないと思ったのか?
どうして戸浪を試したのか?
何に対して不満を感じたのか?
それをもう一度考えれば自ずと合わないことに気が付くはずなのだ。もし間違ってもう一度つき合ったとしても、いずれ破局を迎えるのは目に見えている。
私なら……
何処までだって付いていく……
例え一瞬、仕事に没頭し、恋人の存在を忘れたとしても……
私はいつだって待っていられる。
待てないときは、自分も協力できる。
そんな男の方が良いとどうして思ってくれないのだろう……
如月の仕事でトラぶったときも、宇都木は何気なくフォローしてきた。
それを知っているはずなのだ。
確かに如月から有能な男だと見られたいと思ってきた。だから色々と手伝ってきたのだ。
その結果、如月は宇都木を友人と見てくれるようにはなった。だが肝心の恋人まではいかなかった。
何を何処で間違えたのか、宇都木には分からない。精一杯アピールしたつもりなのだ。
「はあ……」
何度考えても答えなど出ない。それでも宇都木はいつの間にか如月の事を考えているのだ。
この間……
どんな気持ちで介抱してくれたのだろう……
友人として?
それともたかが男の問題であんな風に体調を壊す宇都木に哀れみを感じたのか?
そこに一本の電話が入った。
「もしもし……はい……ええ、今例の資料を仕上げたところです。明日にはお屋敷の方へ届けられるかと……え………………ええ…………分かりました……」
宇都木は言葉少なく電話を切った。
今のは東の第一秘書からだったのだ。
邦彦が今孫にちょっかいを出していると聞いたが本当か?
と問われ宇都木は頷いたのだ。
だったら何とかしろと東様がおっしゃってる。
その事にも宇都木は頷くしかなかった。
嫌だな……
こういうことは……
宇都木は切れた電話をじっと見つめながら心の中で呟いた。そうして暫くしてから受話器を上げると、如月に電話をかけた。
「宇都木です……今からお伺いしても宜しいでしょうか?」
そう言うと分かっていた風に如月は「構わない」とだけ言って電話を切った。
宇都木は憂鬱になった。
如月の止まるホテルに十二時すぎ宇都木は着いた。そうして如月の泊まっているであろう部屋の扉を叩くとすぐに如月によって開けられた。
「なんだ?そろそろ爺さんが文句を言ってくる頃だろうとは思ったが、その事か?」
分かっていたように如月はそう言ってベットに腰をかけた。
「分かっていらっしゃるのなら、そろそろ手を引いて帰られた方が良いかと思いますが……」
宇都木は淡々とそう言った。
「……まだだ」
視線を逸らせて如月は言った。
「良いんですか?貴方が数年かけて築き上げたものを、取り上げらる可能性だってあるんですよ」
「なんだって?」
逸らせていた視線が今度は射抜くようにこちらに向けられた。
「貴方も分かっていたはずでしょう?何より東様は祐馬様に対して別格扱いで可愛がっておられます。それをご存じな筈です」
そう言うと如月はちっと舌を鳴らした。
「で、お前が止めろと命令されたわけだ」
「そうです。普通ならこんな風に警告は出しませんが、長年の付き合いもありますので、先にご報告させていただいたのです」
「お前は……冷たい男だな……」
小声で如月はそう言った。
冷たいと……
貴方にまで言われるようになったなんて……
これほど悲しいことは無い……
それでも……
私は逆らえない……
「……そう思われても仕方ありませんね」
宇都木にはそう言うしかなかった。
「……開き直ったか……」
そう言った如月はやや口元に笑みを浮かべていた。
「貴方は……一体何をされて居るんですか?貴方らしくないとご自分でも分かっていらっしゃるでしょう?」
「まあな……」
言って如月の視線は窓の外に向けられた。
「もう戻らない過去を必死に取り戻そうとしている……」
「ああ……」
「彼とよりなど戻らないと本当は分かっている」
「そうだ……」
「だったらどうして?」
「とことんやってみないと分からないだろう……希望が僅かでもあるなら……私は取り戻したい……」
「取り戻したところで、また放り出すのは貴方だとどうして思わないのですか?」
そう宇都木が言うと如月の顔色が変わった。
「何だって?もう一度言ってみろ!」
「何度だって言えます。貴方には彼を大事にすることなど出来ない。過去を繰り返すだけです」
宇都木は更にそう言うと、如月の瞳は怒りに満ちた。