「監禁愛5」 第7章
「こら……ユキ……何するんだよ。煽るなって」
リーチは名執が絡めてくる指を外そうとしたが、名執の方は素早く身を沈めて手の中にあったモノを口に含んだ。
「ユキ!ちょっとちょっと待てっ」
待てと言っても名執は止めなかった。いつもより温かい舌が執拗に己のモノを舐め上げてくると、どうしようもない本能が身体を支配しそうになる。
だが、そんな名執を何とか引き離し、自分の目線まで身体を引き上げると、
「駄目だと言ってるだろ」
と、言い聞かせるようにリーチは言った。
すると名執の方は肩を落とし、視線を避けるように瞳を逸らせる。そんな姿もリーチには愛おしい。
「ユキ……」
「リーチ……身体が貴方を欲しがってるんです……このまま何もなく終わってしまったら、今週、私は身が持ちません。お願いですから私を愛して……。疲労がたまったのも貴方が私を可愛がってくれなかったから……。貴方の腕の中で感じさせてくれなかったから……。私にとって貴方に抱かれることが、疲れた心と身体を癒せる唯一の方法なんです」
瞳を潤ませながら名執が言うとリーチは逆らえない。
真っ直ぐこちらに向けられる瞳はリーチの困惑した表情を映す。
「……でもなあ……」
「……お願いです」
駄目だという日に絡みついてくるという事は、それだけ名執自身の身体がせっぱ詰まった状態になっているからだろう。
それは分かっている。
分かっているのだが……
暫くリーチは考え、腕の中で丸くなってこちらを見つめ続ける名執を見下ろす。すると訴えるような瞳の奥に、確かに自分と同じ飢えを見つけた。
「ユキ……」
ギュッと名執を抱きしめると、熱が下がってい身体は普段より温かい。名執の体調が気になるのだが、どう考えても三週間なんにもなしではリーチも耐えられないというのが正直な気持ちだ。
エリックがいる為に触れることも抱きしめることも出来なかったから。
「……」
まだ迷いのある手で名執の頬にそっと触れると、名執は自分の手を重ねてきた。
「リーチ……触れて……もっと私に触れて下さい……」
甘えるようにすり寄られ、我慢できなくなったリーチは名執のパジャマをはぎ取り、既に尖っている胸の先端を揉みながら首筋に舌を這わせた。名執の方は身体を逸らせながらリーチの行動に満足したような笑みを口元に浮かべる。
「ユキ……ごめ……」
ん、という最後の言葉は名執の唇が塞ぐ。
ここまで来たら最後までやるしかないだろう。
熱のために汗を滲ませている名執の肌はしっとりと潤い、桜色に染まった身体がリーチを余計に興奮させた。この身体を見るたびにリーチは名執の全てを貪りたくなるのだ。
手荒に名執の足を広げさせると、リーチは手で愛撫を繰り返しながら名執の腰元に顔を埋めた。そこで口内に含んだ名執のモノは熱くなっていて、周辺はぐっしょりと濡れている。
多分、リーチが側にいたときからずっとこうすることを望んでいたのだろう。だから疼く身体を名執はリーチに絡ませてきたのだ。
それがリーチを余計に興奮させた。
普段通りに振る舞いながら隠された部分を密かに濡らしていた名執の欲望が愛おしかったのだ。
「ああ、こんなに濡らして……そんなに俺が欲しかったんだ……」
リーチは濡れた周辺を指でなぞらえ、指先に付いた名執の欲望を見ると、感嘆の声をあげた。
「嫌です……そんなこと言わないで下さい……」
顔を赤くした名執は恥ずかしいのか、手で顔を隠している。
自分から誘ったはずなのに。
「ぐちょぐちょ……」
指で名執のモノを弄びながらからかうようにリーチは言った。
「あ……や……」
「あんまり大きい声上げたらあいつに聞こえちゃうぞ」
ニヤニヤとした笑みを口元に浮かべてリーチは更に言う。
「……っ……リーチの意地悪……」
「泣かし甲斐があるな……」
リーチは名執の身体を俯け、膝を立てさせてから後ろから覆い被さった。そうしてリーチは先程まで名執の額に置かれていたタオルを手に取った。
「ほら、これをくわえたらちょっとマシになるんじゃないか?お前の色っぽい声……」
すでにシーツに顔をこすりつけている名執の目の前に持っていたタオルを置くと、何も言わずに掴んで自ら口に持っていく。
「いい子だ……」
後ろから名執の頬にキスを落とし、その間もリーチの両手は名執の股を這っている。手の平でぬるりとしたモノを上下に扱くと、呻くようなくぐもった名執の声が聞こえた。
更に先端を指先でつまんだり引っ張ったりして刺激を与えると今度は名執は身体を小刻みに震わせた。
快感に敏感なこの身体は何処に触れても反応が早い。
「ん……んん……」
「なあユキ……お前のここ……ぬるぬるしてきたよ……ん?ここも感じるだろ、いや、こっちも気持ちいいか?んーどの辺が一番気持ちいいんだろうな……」
リーチは名執の耳元で囁くようにそう言った。だが名執は口にタオルをかみしめているので答えることが出来ずにうめき声を上げ、非難の目をリーチに向けてくる。
その瞳は快感で潤み、涙がうっすらと盛り上がっていたが、リーチは声に出すのも恥ずかしい言葉を名執に何度も囁きかけた。
「お前って結構エッチ?だってこれ、すごいぜ……ほら……な?」
何度も指先でこねくり回すと、にじみ出ている液をシーツに落とし、しみを作った。
「もうこれだけでイきそう?……な、ユキ……」
「う……ううう……うーっ……」
シーツをくしゃくしゃにしながら拳を作ったり開いたりを繰り返す名執の手は、快感にも悶えているのだ。
暫くして蕾がヒクヒクと蠢き始めると、リーチは舌をその部分に這わせた。名執の腰はそれを待っていたかのように突き出されるのを見ると、言葉ではなく身体で誘う事にしたようだ。
名執の嬌態に、リーチは口元に笑みを浮かべながらも舌で丁寧に愛撫を繰り返し、ひくつく部分を柔らかく溶かしていく。もちろん、右手は相変わらず名執のモノを嬲り、左手で太股を揉みながら快感を煽っていく。
「……っ……ん……」
溶けてきた部分に指を沈めると名執は「うっ」と言って顎を逸らせた。
リーチは名執の反応に満足すると、次に人差し指を根本まで入れ、狭い中でグリグリと廻した。それが済むともう一本指を増やして二本で抉るように弧を描く。
名執の太股はぶるぶると震えながらも、快感に揺さぶられる自分がもっと快感を味わえるよう、自ら腰を揺らめかせる。だが指では満足出来ないのか、物足りないという視線を送ってきた。
「欲しいの?俺の……」
そうリーチが言うと名執はこくこくと顔を上下に振った。その顔は快感とそれに耐えようとしている理性的な部分も見られたが、理性など今は必要ない。
互いに奪い合い、満たされあうことが目的なのだ。
暫くすると名執が少しタオルを外して言った。
「リー……チ……早く……」
「しっかりタオルくわえとけ」
リーチは舌なめずりしながら名執の腰を引き寄せ、猛りきったモノをずぶりと蕾の奥に沈めた。
「ううーっ」
涙を落としながら名執はその塊を内に迎え、熱い鉄となった異物は狭い中でピタリと張り付いてくる。
「ここは風邪知らずって感じだな……」
クスリと笑い、リーチは名執を後ろから抱きしめると腰を激しく揺さぶった。
名執の中は普段以上の熱を伝えてくる。その熱もさらなる快感を呼ぶものでしかなかった。
何度も突き上げるたびに名執のくぐもったうめき声がリーチの耳元を掠めるが、名執は快感の涙を頬に伝わせつつも口元に笑みが浮かばせている。
その陶酔の表情はリーチを満足させるものだ。
本来ならば友人になる事すら難しい名執を自分だけのものとして征服しているという優越感と外見からは分からない名執の精神の脆さと強さ、それら全てが自分一人のものなのだ。
それは付き合いが長くなろうと、会うたびにリーチは名執に恋をし、出会えた幸運に感謝する。
薄茶の澄んだ瞳はまるで特別な宝石だ。
市場に出ることがあれば天井知らずの金額が付きそうな宝石であった。
名執が笑みと共に瞳を細めると、抱きしめてそのままベットに直行したくなるような気持ちにリーチはいつも駆られる。
服を脱がせた身体も極上だ。
それを初めてリーチが味わったのだった。
あの時の感動は言葉では言い表せないほどだ。
精神的な苦痛から、自分の身体を嫌悪してきた名執にとって、セックスは嫌悪の対象だった。だからそれを自ら求めることも無かった。
信じられないことに十数年もの間。
だがリーチは嫌悪するその心の奥に誰かに抱きしめて貰いたいという欲求が強烈に渦を巻いていたのを見逃さなかった。
今では感じること抱き合うことその欲望を名執は自然にリーチに見せている。ベットの上で名執は自分を偽ることは無い。
欲望を満たしあうことは自然の事だとリーチが教え込んだからだ。
お互い抱き合いながら自分の欲しい分だけ求めあう。
だが、求め合う根底には深い愛情があるのだと二人とも良く知っていた。
「うっ……くう……」
静かな寝室で、ベッドのスプリングだけがギシギシと音を立てている。そんな中、時折響く名執のくぐもった声が、いつもより色っぽく聞こえるのが不思議だ。普段は声でかき消される互いの接合点から漏れる粘着質な音が、耳に付くが、普段とは違うセックスに、何故か余計にリーチは己の欲望が高まるのを感じた。
「ユキ……」
いつもより熱い内部が、摩擦で更に熱をもっている。なにかこちらまで溶かされそうな気分になるのが不思議だ。
「……っ……う……く……」
同時に達するとリーチも名執も重なってベットに倒れ込んだ。気持ちのいいけだるさと満足感があらゆる所を満たした。
「……大丈夫か?」
今頃、気が付いたようにリーチは名執に聞く。
「……喉が痛い……」
タオルを外し、掠れた声で名執はそう言った。
「喉痛いか……」
投げ出した名執の身体はいつもより多くの汗を肌に浮かべていた。
荒く吐き出している息は、身体が辛いからか、互いに求め合ったせいかわからない。
リーチは脇机に置いてあるペットボトルの水を口に含むと名執にその水を口移しで与えた。何度かそれを繰り返してようやく名執は、ホッとした表情にかわる。
しかしこのままでは自らの汗で身体を冷やし、名執の風邪が悪化するだろうと考えたリーチは、いつもなら抱き合って互いの温もりを交換するのを愉しむのだが、今日に限っては床に落としたバスローブを羽織るとバスルームに向かい、熱い湯でタオルを絞ると、また寝室に戻った。
「リーチ……」
収まらない荒い息をしている名執の身体に、先程絞ったタオルで丁寧に身体を拭いてやり、それが済むと乾いたパジャマを着せた。
最後はシーツを真新しいものに代えて、ぐったりと満足そうな瞳をしている名執を横たえる。その間、名執は熱がまた上がったのか、夢を見ているような表情をしていた。
「リーチ……」
名執はシーツを畳んでいるリーチに向かって名執は手を伸ばしてきた。熱に浮かされた瞳は何処かぼんやりとした色合いを見せている。
「辛くないか?」
「大丈夫……。気分は良いんです……」
リーチは身体を布団に潜り込ませると名執を引き寄せた。するとやはり先程より身体が熱くなっていた。
「風邪が悪化しても俺は責任取れないぞ」
「汗を沢山かいたのできっと明日には熱も下がると思います」
今にも寝てしまいそうな目をリーチに向けながら名執は言う。
「夜中気持ち悪くなったり、辛くて起きたら俺を起こせよ」
そう言うと名執はクスリと笑った。
「起こさなくてもリーチの方が起きるでしょう……」
「そうかもしれないけどさ。とにかくもう眠ろうか……」
リーチは名執を自分の身体の上に引き上げ右手で背中をさすった。それが心地良いのか、名執の瞳は徐々に閉じていく。
暫くすると小さな吐息がリーチに聞こえた。
眠ったな……
警戒心のかけらもない表情で名執は眠りについている。その顔を愛おしそうにリーチが暫く眺めていたことを名執は知ることは無かった。
翌朝名執が目を覚ましたのは昼近くだった。昨日あれ程気分が悪かったのが嘘のようにすっきりとしていた。熱も下がったのか、けだるさは残るものの頭はすっきりとしていて、もやもやとした霧が晴れたような心境だ。
ふと気が付くと、リーチと抱き合った後、着替えさせられたものとは違うパジャマを名執は着ていた。
そう言えば、あれからまた汗をかいてむずがる自分のパジャマを着替えさせてくれたり、水を飲ませてくれたリーチのことをぼんやりと思い出した。
随分面倒を掛けたのだろう。
名執はリーチに申し訳なく思う反面、なんだかとても嬉しかった。寝付くまでずっと背をさすってくれたことも思い出した。それら全てが自分を愛してくれていることを証明している。
その事が嬉しい。
窓の外から漏れる光が酷く眩しく思えた。枕に背をもたれかけさせて、伸びをすると脇机にメモが置いてあった。
おはよう。
気分はどう?お前の食事は別に作ってあるから絶対温めて食べること。病院には田村さん宛に連絡して休むことを伝えて置いたから、今日は一日大人しくしているんだぞ。また熱が上がるようだったらもう一度病院に行けよ。
ああ、シーツとかはあいつが寝てるうちに洗濯をして干してあるから、取り込めそうなら取り込んでくれよ。
駄目ならあいつに頼めばいいさ。
じゃ、又来週な。
リーチによって簡単に書かれたメモであったが名執はそれを読んで心が暖まった。
愛されていることが分かる瞬間が喜びになる。
ベッドの上で何度もリーチからのメモを読み、頭の中で言葉をかみしめる。
それが終わってから、名執はガウンを羽織ってベッドから降り、ようやくリビングに向かった。
リビングではエリックがお昼を作っていて、名執がそろりと入るとこちらに気が付いて振り返った。
「兄さん大丈夫?」
手に持ったフライパンを置いてエリックは言った。
「ええ……もう大丈夫です。今日一日ゆっくりすれば明日は出勤できると思います」
「そうだ、隠岐さんが朝兄さんのためにお粥作ってくれたんだ。それを温めるね」
「お願いします」
エリックは手早く鍋を温め、準備をした。暫くすると自分の前にお粥と漬け物が用意された。
「沢山食べて元気を出すように伝えてくれって隠岐さん言ってましたよ」
「そうですね。元気になります」
柔らかな笑みをエリックに向けて、名執は用意されたお粥を食べ始めた。エリックは自分の食事も机に置いて、食べ始める。それはオリーブオイルで軽く炒めたパスタとフランスパンであった。
「それでお腹が一杯になりますか?」
名執は心配になってエリックに聞いた。
「普段の食事はこんなものです」
「そうですか、お腹が空いたらうちにあるものでしたら何でも食べて下さいね」
「はい」
食事が済むと名執はまた寝室へ戻った。干してあるものは夕方取り込めばいいと考え、クスリを飲み、ベットに横になる。
すると又眠気が襲ってきた。
クスリの所為だろうか。
名執は抵抗することもなく眠りについた。
だがそんな名執をエリックが扉の隙間からじっと見つめていることには気が付かなかった。