Angel Sugar

「監禁愛5」 後日談 第2章 完結

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「誘ってる?」
 嬉しそうにリーチは笑みを浮かべ、名執の唇に軽くキスを落とす。
「分かります?」
 くすくす笑って名執はリーチの首に腕を回した。
「……な、ユキ……」
 身体を密着させて、リーチは名執の首筋に愛撫し、ふと口元を離して耳元で囁く。
「どうしてんですか?先程から……」
 リーチは先程からたわいのない話をしながら、何か言いたそうにしていることに名執は気が付いた。
「……エリックのことどう思う?」
「どうって……」
「やっぱりあいつは可愛い奴だとか思ってないか?」
 チラリとこちらを横目で見て、リーチは言った。どうしてそんなことを聞くのか名執には一向に分からない。
「最初感じた嫌悪感は今のところ無くなりました。エリックも色々と事情があったようですし、私に対して持っていた気持ちも分からなくもありません。ただ、利一を誘ったことはどうしても許せませんが……」
 名執が正直に話すと、リーチは「ふうん」と言って鼻を鳴らした。
「……それがどうしたんですか?」
「好きという感情は無いよな?」
「はあ?エリックにですか?それともシャルさんですか?一体、リーチは何を先程から私に聞きたいと思っているんです?」
 やや顔を上げて名執がリーチの表情を窺うと、ムッとした表情がそこにあった。名執にはその理由が分からない。
「俺はねえ、ああいう奴らとユキが仲良しになるのが嫌なんだ。あ~……ケインは別だったけどな。私は、二人とも嫌いです~!ってユキが言ってくれると俺は安心する」
 腹立たしげにそういうリーチが益々名執には不可解だった。
「……別に仲良しになったわけではありませんが……」
「俺はね、あいつらが気に入らないの。分かるだろ?例え利一の立場上、いい顔を見せたとしても、俺はああいうガキが嫌いなんだ。泣いたら誰かがなんとかしてくれるだろうとか、自分はこんなに不幸だなんてことを、ベラベラ口にする奴が嫌いなんだよ。自滅タイプは嫌いなのかも知れない。ほら、ああいう奴にお前って結構引きずられるタイプだろ?うーん……。上手く言えないな……」
 リーチの話してくれた内容を聞いたところで、名執にはよく分からなかった。
「リーチ。済みません。よく分からないのですが……。リーチがエリックのことを嫌いなのは分かりますが……」
「何で分からないんだよ。ていうか、お前さあ、エリックって俺を誘ったんだぜ」
 顔を上げてリーチはブツブツと言う。
「それに関しては……もちろん、今も腹を立てています。あんなのは……もう二度と見たくありません。二度とです」
 あのときの光景を思いだして、名執はギュッと唇を噛んだ。もし名執がもう少し遅く自宅に戻っていたら一体どうなっていたのだろうと、想像するだけで身体が震える。例え、エリックを懲らしめるためにリーチがああいった方法を取ったのだと自分に言い聞かせても、未だに名執には納得できないことだった。
「えへへ……」
「どうして笑ってるんです?」
 名執が心の底から怒っているにもかかわらず、リーチが笑っている姿をみて、余計に腹が立ってきそうだ。
「なんか、俺、愛されてるって感じ……」
 まるで子犬が絡みつくように、名執の頬にリーチは顔を擦りつけて嬉しそうに言った。そんなリーチの姿が益々名執は理解できない。
「嬉しいことですか?」
「ユキは俺が好きだから、腹が立つんだよな?それが分かってすっげえ嬉しい……なんかこう、嫉妬されてるんだよな~俺」
「……信じられない人ですね。こういったことで愛情の確認をしたいんですか?」
 ムッとした顔で名執が言うと、リーチは急に真面目な顔つきになった。
「俺はいつだって、ユキの周りにいる奴に嫉妬してるんだぜ。医者の中でもお前によからぬ妄想を抱いている奴は絶対いると思うし……。俺が知らないところで、俺がムカムカするような視線をお前に送っているかと想像するだけで、苛々するんだぜ。だから俺だって、お前のそういう姿を見たいと思うだろ……いででで……」
 ものすごい理由を当然のごとく言うリーチの頬を名執は引っ張った。
「そんな方はいません」
「いりゅにひまってるひゃろ……」
 頬を引っ張ったままの口でリーチが言ったため、言葉が妙な具合に聞こえた名執は思わず笑いが漏れた。
「リーチが心配するほど、私は人様から好意を抱かれることはありませんから心配なさらないでください……」
 指を頬から離し、再度リーチの首に腕を回して名執は笑いながら言った。リーチが心配するように名執も本当は心の底でいつも不安に思っている。それを吹き飛ばすような言葉を聞かせてくれるとき、名執は幸せに浸れるのだ。
「とりあえず、そう言うことにしておこうかな……」
「ええ。」
「あ?……違う。エリックのことだ。奴とも仲良しになるなよ。お前は意外に情に流されやすいタイプだからな。俺は一度嫌な奴だと思ったら、死ぬまで嫌な奴になるけど、お前は違う。それがユキの優しいところで、俺が好きなところでもあるんだけど……。エリックだけはやめとけ。あいつはお前を泣かせた。俺が嫌になる理由はそれだけで充分だろ。だからお前にも嫌な奴であって欲しいんだ。そりゃ、こんなの俺のわがままだと思うけどさ……。しかも、俺のしたことでお前が泣いたっていうのもあるけど……」
 こだわるリーチに名執は頷くだけに留まった。
 エリックに関して名執が随分と胸を痛め、リーチの目の前で泣いたこともあった。それが気に入らないのだ。分かってしまうと単純なことなのだろうが、そんなリーチが名執には愛しく思える。
「リーチ……大丈夫です。私は墓参りに行っても彼らにはお会いするつもりはありませんよ。もし、そんな機会が巡ってきたら……その時は貴方と一緒だと約束いたします……」
 ギュッと身体を密着させて名執は囁くように言った。温かいリーチの体温を感じているだけで安心できる。リーチが側にいてくれたらどんなことがあってもきっと乗り越えられると思う瞬間だった。
「うん。そう。そう言って欲しかったんだ……」
「……あ、ですが……エリックにしたようなことを二度となさらないでください。良いですね。絶対に嫌です。二度と見たくありません」
 名執には珍しく口調きつく言うと、リーチは目を丸くさせたまま顔を上下させた。その様子は名執が怒っていることをあまり理解していない様子だ。
「私は本当に怒っているんですからね。エリックに対してではなく、リーチにです。それを分かってます?胸が裂けそうなほど辛かったんです。例えあれが演技だったとしても……一番私には堪えることなんです。本当にリーチはそういう私の気持ちを分かっているのですか?」
 あのときのことをまた思いだして名執は目尻に涙が浮かんだ。自分が傷つくよりもショックを受けたのだ。
「うわ……泣くなよ。分かってるって。俺もあれはちょっとやりすぎたかな……って反省してるんだから」
 うっすらと瞳が煙るように浮かんだ涙をリーチは指先で拭う。優しいリーチの仕草に名執は、涙を浮かべながらも嬉しく思えた。
「お話はもうやめて……そろそろ私を愛してください……」
 身体を重ね合わせているだけで、気持ちが高ぶってくるのだ。話をしていても、身体だけは正直に反応している。
「俺も……そろそろ話しているのは限界……」
 名執の胸元に手を滑らせてリーチは言った。衣服の上から感じる指先の動きは、口調とは違い強く胸の尖りを押しつぶしてくる。
「……あ……」
「そうだ、ユキ……」
「なんです?まだ何かあるんですか?」
 これ以上話を続けられない状態であるにもかかわらず、リーチはまだ何かを口にしたそうな様子だった。
「あとこれだけ。あのさあ、篠原からずっと言われてるんだけど、お前、コンパ企画してくれよ。可愛い看護婦さんを集めてくれたら良いんだけど……。あ、お前が無理だって言うなら田村さんに頼んでくれないか?ほら~あいつ、ずっと独り身だろ?可哀想になってきてさあ。で、俺に以前からお前に頼んでくれって五月蠅かったんだ。いいよな?」
 にへらとした表情でリーチは言ったが、名執は今まで以上に腹が立った。コンパを企画すると言うことは、利一も参加することになるのだ。そんな頼みをどうして名執が聞けるというのだろうか。
「いで~……いでででで……お、お前……それは……いで~!」
 名執は思いきりリーチの雄を掴んで締め上げた。

―完―
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