「監禁愛5」 第23章
「……わ、私だって……怒ってます」
リーチによって顎を掴まれたまま、名執は涙を落とした。ようやく二人きりになれたことで気が緩んだのだ。その後にやってきたのは、名執からすると珍しい怒りの気持ちだった。エリックがリーチにどうしてあんなことをしたのかを考えると、怒りで身体が震える。
悲しいと言うより、腹が立つのだ。
他の誰にもリーチを触れさせたくない。まして、名執のものだと約束してくれた、リーチの雄を銜えさせるなど、どう考えても信じられない。どちらが、誘ったかなど問題ではなく、はね除けることができたはずのリーチが、堂々と名執にその姿を見せたのだ。
しかも、リーチは気配に敏感で、名執が帰ってきたことを知っていたはずだった。それなのに、慌てることなく、まるで名執に見せてやろうと企んでいたようにも思えるのだ。
もしこれが悪ふざけであるなら、たちが悪すぎる。
「……だってなあ……」
フンと鼻を鳴らして名執を離すと、リーチは相変わらず不機嫌な表情でソファーに、身体を伸ばした。
「だって……って、なんですかっ!リーチは私が帰ってきたことが分かっていたんでしょう?なのに、どうして……っ……」
一気に涙がこぼれ落ちて、言葉がまた喉で詰まる。なにもされていない筈の身体があちこちと痛んで、骨が軋む。
「ん~お前が帰ってくるとは思わなかったんだよ。俺が迎えに行くつもりでいたんだ。ていうか、あいつが、お前を拉致したみたいに言いやがるから、俺は切れてたんだっ!なあに、言っても白状しやがらないから、仕方ねえだろ……」
リーチにはリーチの事情があるのだろうが、名執には関係がなかった。それを言葉にしようとしたが、どうしても言葉が出ずに、名執はソファーに近づき、リーチの身体に覆い被さるように上に乗ると、嗚咽の漏れる口元を抑えながら顔を左右に振った。
「……ユキに何かあったら……俺はもっと切れてたぜ……」
名執の腰のラインを撫でながら、リーチは言う。だが、名執はリーチの気持ちなど分からない。名執が言いたいのは、どうしてエリックとあんなふうに絡んでいたのかだ。いくら名執の居場所を突き止めるためだと言われても、どうしてやる、やらないという選択肢が、発生するのだ。
そんな理由など、納得がいかない。
「え……エリックに……さ……誘われたんですか?」
「……まあなあ……でも、勃たなかっただろ?」
苦笑いしつつ、宥めるような口調で言うリーチの姿に、名執は珍しくリーチの胸元を掴んで叫んだ。
「リーチは私のものだって……約束してくれたでしょう?誘われたら……貴方は……誰とでも……セックスできるんですかっ!そんなの……嫌ですっ!絶対に嫌っ!」
名執の剣幕に、リーチは相変わらず誤魔化すような笑いを浮かべていた。それが余計に名執を腹立たせていることに気がついていない。
「いや……だからさあ。別に誘われたからやろうと思った訳じゃないんだって。あいつが、セックスしてくれたらお前の居場所を吐くっていうからよ。やる気はさらさらなかったけど、仕方ねえだろ。俺だって切れてたんだ」
リーチの言葉に名執はまた左右に顔を振った。
「……参ったな……俺よりお前の方が怒ってるような気がしてきた……」
「怒ってるんですっ!だって……嫌なんです……絶対に……嫌……」
ぼろぼろと涙が零れ、それはリーチの頬に落ちていく。リーチは名執の頬に手を差し伸べて、伝う涙をそろりと拭ってくれるのだが、何故か嘘っぽく思えて煩わしい。なにも壊れてもいないのに、逆に全てが壊れてしまったようにも思える。
消してしまい一瞬が、何度も脳裏を過ぎって、名執を苦しめるのだ。これほど苦しんでいるというのに、リーチには分からないのだろうか。
とはいえ、目が涙で霞み、リーチがどんな表情をしているのか、名執にはもう見えなかった。
「俺も嫌だ。お前が、誰かに合意だろうが、無理矢理だろうが……俺以外に触れられるなんて……考えただけで、気が変になる」
頬の丸みを何度も撫でて、リーチは言った。真剣で、それでいて優しい、いたわるような口調だ。だがいくらそういうふうに宥められても名執には納得がいかない。リーチを初めて許せないと、心の底から思うほど、名執は彼らの姿にショックを受けたから。
「もうこんなことは、絶対にしないで下さい」
「分かった」
「絶対です。絶対ですからね。絶対に……嫌……」
「ユキ……許してくれよ……」
頬から手を離し、リーチは名執の手の甲を撫でてくる。しっかりとリーチの胸元を掴んだ名執の手は、いくら優しく撫でられようと緩まなかった。
「……私の……私のものなんです……」
シャツを握りしめていた手を解き、名執はボタンを外した。震える手が上手くボタンを掴んでくれなかったが、それでも名執はリーチの胸元をはだけることに成功した。
「……ユキ、おいって……」
「……リーチ……」
頬をリーチの胸元に擦りつけて、肌から直に感じる温もりを確かめるように名執は目を閉じた。この温もりは名執だけのものだ。リーチは約束してくれたのだ。
随分前に。
そして、今もその約束は有効だ。
「私のです……」
リーチの胸の筋肉を、名執は手の平で撫でつつ、呟くように言った。何度も何度も撫で、自分のものであることを名執は確信する。
「うん……分かってる」
名執の髪を指先で弄びながら、リーチは言った。だが、名執はまだ許していなかった。このままでは絶対に許せない。
「……リーチ……これも私のです」
胸元から手を離し、下へと移動させて名執はリーチの、既に隠されてしまったペニスをズボンの上から押さえつけた。
「……触れよ……もっと……お前にだから興奮するんだからな……」
リーチの言葉に促されるように、名執は触れている部分を何度も擦りあげた。すると手の平に伝わる、固くなったリーチの雄が、名執を誘うようにビクビクと震え出すのが分かった。
「……あ……リーチ……」
エリックが銜えても決して反応しなかったものが、名執の手の平に興奮している。その事実に、名執はまだなにもされていないのに、身体が熱くなってくる。思わず、名執はファスナーを下ろして、リーチの雄を引きずり出した。
そそり立っている雄は名執の手の中で、更に固くなっている。
リーチは私に興奮している……。
私の手に……
どうしよう……嬉しい。
あれほど怒りに満ちていた、心が急に晴れていくのが名執には分かった。リーチは名執が触れているから興奮して、欲望を見せてくれているのだ。その事実は今、名執が手にしている雄が教えてくれている。
「……気持ちいいな……ユキが触ってくれると……」
「もっと触ってあげますから……本当に……本当にもう二度とあんなことはしないで下さい」
グイグイと手に力を込めて擦りあげながら名執は必死にリーチに言った。だが、リーチの方は、聞こえているのか、聞こえていないのか分からないような表情で頷くばかりで、名執が安心できるような言葉を口にしなかった。
「どうなんですかっ!本当に約束してくれてるんですよね?」
「ん~……分かってるって。なんていうか……ユキの手は柔らかくて、本当に気持ちいいなあ……」
き……
聞いてない?
せっかく喜びに満ちあふれそうになった心が、また苛立ってくる。名執は本当に怒っていたのだ。だから、何度でもリーチから安心できる言葉が欲しかった。にもかかわらず、リーチは既に、快感に酔っている。
「あいたっ!」
ムッとした名執はリーチの雄に爪を立てて、どれほど自分が腹を立てているのか、分かって貰えるように行動に移した。同時に、己のファスナーを下ろし、疼くものを外に出す。
「怒るなよ……」
「……リーチは……分かってない……」
はぁっと息を吐き、名執はリーチの雄に自分の手ではなく、己の雄を押しつけて腰を揺らした。堪らなくリーチが欲しいのだ。あんな二人を見せつけられて、このままにしておけるわけなど無い。
「……分かってる……」
名執の足に絡めてくるリーチの両脚が、名執の動きを止めさせようとする。それを無理矢理押しのけて、名執は自分の行為に耽った。喘ぎながら腰を振り、リーチの雄と己の雄を絡ませる。実際触れている感触が伝わると、身体が益々高揚して、我を忘れてくる。
「……あ……あ……」
「ユキ……舐めてくれよ……お前の舌でさ……」
リーチの言葉に、エリックがやっていたことを思い出した名執は、体勢を変えて四つんばいになると、リーチの雄を口に含んだ。それはネットリとして、弾力があり、温かなものだった。これをエリックも口にしたのだと思うと、名執は意地になって舌を使って散々舐め上げた。
「……うわ……すげえ~……」
背後からリーチの声が響いたが、名執の耳には入らない。エリックより下手だと死んでも思われたくなかった名執は、己の行為に没頭していた。負けたくないと名執は思った。エリックにはできなかったことを自分がするのだと、名執は必死だったのだ。
「……あっ……」
リーチが己の尻に触れた瞬間、名執は自分が既に脱がされていることを知った。没頭していて気がつかなかったのだ。そこで初めて、自分の姿を想像し、名執は我に返ったように、羞恥で顔を染めた。
「……や……嫌です……」
リーチの雄から口を離し、名執は己の尻を両手で隠してそう言った。
「おら、さっさとしゃぶれよ。こっちは俺が面倒を見てやるからさ」
既に尻の丸みを、舌で愛撫しながら、リーチは言ったが、急に襲ってきた羞恥はなかなか名執の心から離れてくれないのだ。
「……は……恥ずかしい……」
「今更なんだよ。はは。おもしれえな。お前が煽ったんだろ……。そんなことはいいからさっさと俺の息子を舐めろって。お前の中にそいつを入れてやるから、しっかり勃たせておくんだな」
くすくす笑いながらリーチは、両手で双丘を割り、窄まっている部分を舌で舐めてくる。考えると恐ろしい格好をいつの間にかしている自分に、身体中が赤くなりそうなほど、名執は羞恥で身を焦がしたが、ここまで来たらやるしかないのだろう。
名執は自分を奮い立たせ、リーチの雄を再度口内に入れた。先程よりも大きくなった雄は、名執の口の中で一杯になっている。その先端はぬめりを帯びていて、名執の行為に興奮していることを分からせた。
名執が一番幸せに思う瞬間だ。
興奮するリーチの姿を見ると嬉しくて仕方がない。名執だから見せてくれる姿だ。恥ずかしいと思う気持ちなど、どこかに消し飛んでいく。
「……あ……っ……」
もっとリーチを興奮させるのだと名執が考えた瞬間、緩みはじめた窄まりに指をつき入れられて、名執は思わず雄から口を離した。