Angel Sugar

「監禁愛5」 第14章

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 久しぶりのリーチのコーポに着くと、名執はようやく息を付くことが出来た。
 リーチの方は相変わらず自宅の鍵を郵便受けから取り出していて、その姿に名執は笑みが浮かぶ。
 昔からリーチはここに鍵を隠していた。
 空き巣でも入ったらどうするのだろうか。
 仮にも刑事のうちであるのに、それはあまりにも恥ずかしいような気がはするが、未だかつて名執が危惧するような事はなかったらしい。
 盗って金になるものはねえよ……と、リーチはいつも答えるのだが、考えてみると、ごく普通に現場検証の写真などを入れた箱がテーブルなどに置かれているのだ。もし泥棒が入って、一般家庭には絶対に無いであろう死体写真を見たら一体どう思うだろう。
 刑事とは気付かず、自分より危険な男が住むうちに、二度と入らないと誓うに違いない。
「鍵……いつもと同じところから出てくるんですね」
 くすくす笑って名執は言った。
「まあな。ていうか、ここに置いてあるのユキも知ってるんだから、勝手に入って良いんだぜ。まあ、おまえんちにいない俺が、ここにいたためしはないけどな」
 プライベートの時間、このうちでリーチが休むことなど滅多にない。リーチなら名執のうちに、トシであるなら幾浦のうちに出かけているからだ。
 捜査の渦中、着替えを取りに戻ったり、ちょっとした仮眠を取るためにしか利用されないうちだ。ならば借りなくても良いような気が名執にはする。
 だが、リーチ達はそれをしない。
 たとえ、名執や幾浦のうちでほとんどの時間を過ごしていようと、けじめだと思っているようだった。
 本当にごくたまにではあるが、トシとリーチが仲良くこのうちで過ごすこともあるらしいから、彼らだけの時間が取れるこの場所が必要なのだろう。
「なんだか……久しぶりに来たような気がします」
 玄関から中に入ると、狭い部屋が全て見渡せる。ごちゃごちゃしていないのは、トシが整理しているに違いない。
「……リーチ?」
 靴を脱ごうと腰を屈めた名執の身体を、リーチは突然抱きしめてきた。久しぶりの抱擁……というわけでもないのに、妙に気持ちが高ぶる。
 数度、力を込めて抱きしめられてからリーチの手は離されて、そのまま名執の上着を脱がせにかかった。もちろん、名執は逆らうことなく、手助けするように身体を捩る。
 リーチは上着を脱がせ終えると、今度はシャツのボタンに手を掛けて外していくのだが、何処かじれったい。
「……リーチ……私が……ん……」
 自分から衣服を脱ぎ捨てても構わないと思った名執であったが、口に吸い付かれて、舌を絡められると出来なくなってしまった。
 既に体温が上がっている身体は、今から与えられる快感を待ち望むように、小刻みに震えている。当然、指先も震えて自分のシャツであるのに、上手くつかめそうにない。
「……ん……」
 貪るような口づけと、舌をきつく吸うリーチの唇に名執は酔った。自分のものよりも遙かに温かく肉厚なリーチの舌は、まるで何ヶ月もあわなかった恋人達が、ようやく抱き合えたときにするようなキスだった。
「……あっ……」
 ボタンを外すことを途中で止めたリーチの手は、薄いシャツの上から名執の胸を撫で回し、刺激を与えて、柔らかかった尖りに力を与えた。
 手の平で擦り、ぷっつりと立ち上がった小さなふくらみを、今度は指の腹で押しつぶす。その一連の動きに名執は腰が砕けそうな快感を味わい、じわじわと膝を折って、最後は玄関に座り込んでしまった。
 それでもリーチは口元を離さず、手は動かされ続ける。早急な鼓動の高まりに名執は不安が心に生まれてしまうほど、リーチの求めは激しい。
「リーチ……待っ……」
 靴を脱げぬまま、名執は玄関から床に倒され、胸元を露わにされた。リーチの方は名執に馬乗りになったまま、己のシャツを脱ぎ捨てて覆い被さってくる。
「黙ってろ」
 首筋を舐め上げ、そのまま耳朶に噛みつき、何度も歯を立ててきた。小さな痛みが耳元から感じたが、身体はぴくぴくと痙攣したように反応する。普段音を聞き取る部分であるために、リーチの口内で舌と唾液が交わる音が生々しく響いて、名執は羞恥から目を閉じた。
 胸の突起を弄っていた指が、いつの間にかベルトを外して下着の下へ入れられる。そうして名執の薄い茂みにリーチは指先を絡めると、何度も引っ張ってきた。痛いと言うよりくすぐったいその仕草に、名執は声を上げる。
「……っ……や……」
「俺のお守りに入っている奴だよな?これ……」
 笑いながらリーチは指先に絡めたものを、キュッと引っ張っては伸ばし、指先で肌を引っ掻いてを繰り返した。
「……や……止めて下さい……っあ!」
 名執はお守りのことをあまり口に出して欲しくないのだ。
 嫌なのではない。
 恥ずかしいからだ。
 作った当初は、なんて素敵なアイデアなのだろう……と、自分で自分が誇らしかった。が、後からよく考えてみると、素敵ではなく無謀だったのだ。
 今は自分からプレゼントをしたとはいえ、リーチに返して欲しいと名執は日々、思っていた。ただ、当人が嬉しそうに警察手帳と一緒にぶら下げているのをみるにつけ、やはり、自分の分身がいつでも一緒にいるようで嬉しくなり、結局言い出せない。
 他に何か変わるものと差し替えることも考えたが、下であろうと上であろうと同じものしか思い浮かばないのだから、どうしようもない。
「俺……気に入ってるんだ……これ……」
 キュッと今度は強く茂みを引っ張られ、まだ触れられていない己の雄の表面が突っ張って名執は身体を震わせた。
「……あ……いや……」
 ゾクゾクとした快感が背を這って、名執を追いつめていく。
「これだけで、お前イけそうだな……」
 言いながらもリーチはようやく茂みから手を離し、名執の雄に触れた。そっと掴む手はまだ力が込められていない。
「もっと……触って……」
「こんな風に?」
 ギュッと握り込まれ、敏感な部分から伝わる刺激に耐えるように名執はリーチの身体にしがみついた。
「……あ……ああ……」
「ユキ……最近、ここを自分で慰めたりしたか?」
 その言葉に名執は顔を左右に振った。
「本当に?絶対に無いって言える?」
「まだ……少しだけ耐えられてました……。この間……貴方に触れて貰えたから……。でも……足りなかった。これ以上こんな状態が続いたら……きっと貴方を想って……慰めていたと思います」
 名執は素直にそう答えた。
「へえ……こんな感じか?」
 リーチは手の中で悶えはじめた名執の雄をにゅるりという音と共に扱いた。
「……っ……だから……まだ……私は……」
 粘着質な音に名執は顔を真っ赤にして、口元を噛みしめる。そんな表情を見るのが楽しいのか、リーチは益々名執の雄を、わざと音を立てながら上下に擦りあげた。
「……や……あっ……!」
 響き渡る音が名執の快感を煽り、身体の内部まで熱くさせ、リーチの雄に突かれたいという欲望がわき上がってきた。
 煽られるだけの快感など必要がない。
 熱された鉄を思わせるリーチの雄で、身体を滅茶苦茶になるまで突かれたい。
「焦らさないで……」
 涙目で名執が訴えてみるものの、リーチは手の中にあるモノを手放すつもりがなく、弄ぶように弾いた。
「……うっ……あ……や……」
「両脚を開いてさ……口元なんか開いてるんだ。目はうつろで、涙目になってるかもしれない。そうした姿で俺を想って擦るんだよな……。お前ならすっげえ色っぽいかもしれない。で、ヌルヌルにさせてるって訳だよ……こんな風に……」
「……っ!」
 先端に爪を立てられて、名執は我慢していたものが弾けた。
「……はあ……はあ……いや……入れて……」
「お前はすぐそれだよなあ……でもほら、準備も無く入れると痛いだろうから……」
 苦笑するリーチの表情には先程感じた余裕のなさなど綺麗さっぱり消えていた。それが名執には悲しかった。
 今は貪られたいのだ。
 野生の獣が、獲物を捕らえ、ごく僅かな肉片すら残さず貪るような……。そんな愛され方をされたかった。最初感じる不安を霧散させてしまうような快感を身体に受けて、愛されている事を実感したい。
「……欲しいんです……それも早く……」
 頬をリーチの胸に擦りつけ、名執は呟いた。が、頬に何かリーチの心音ではない振動が伝わってきた。
「嘘だろ……おい……。悪い。ちょっと待ってくれよ」
 胸ポケットから携帯を取りだしたリーチは、突然利一の口調で話し始めた。
 信じたくはないが、呼び出しが入ったのだろう。
「はい……は~はい。分かりました。すぐに向かいます」
「……」
 携帯を終えてポケットに再度戻すと、じ~っと見つめる名執の方をリーチは見下ろしてきた。
「あのさあ。なんか事件だって……」
 ははと笑いで誤魔化すようにリーチは言った。
「……こんな状態で……放置ですか?……いえ……お仕事ですから……仕方ありませんよね……」
 最初は怒りに似たものが過ぎったが、仕事なのだから快く送り出してやらなければならないと名執は思い直した。
「……悪い。俺……俺も、こんな状態で出るのは……ちょっと不味いんだけど……。事件の方も不味い状態みたいだから……」
 はあ~と、名執に聞こえる程大きな声でため息をついて、リーチは脱いだシャツを着た。名執よりも肩を落としているようにも見えるリーチに、わがままなど言えるわけなど無い。
「私、今日はこちらに泊まっていきますから、戻れそうでしたら戻ってきてくださいね。無理はしなくて良いんです。ここで眠ることが出来るだけで私には安心できます」
 にこやかな笑顔で名執が言うと、リーチは名執のシャツも手に取った肩に掛けてくれた。
「悪い……。あ、その代わり、ベッドにある布団だけど、下に畳んでるのが俺のだから、そっちと代えてくれよ。あのブルーのシーツはトシのなんだ」
「え?」
「いや、なんていうか、人の布団は嫌だろ?お互いだけど。だから二組あるんだよ。話したこと無かったっけ?」
 上着を羽織り、ネクタイを整えながらリーチは言うが、名執は初めて知ったことだった。
「知りませんでした」
「それだけ守ってくれよ。俺だってユキの匂いがトシの布団につくの嫌だからさ~ユキの匂いは俺の布団につけるんだ」
 なんだか嬉しそうだ。
「は……はあ……。分かりました」
「あと、誰もこのうちに来る人間はいないから、来たとしても開けるなよ。居留守使えばいいんだから……。それと……」
「リーチ……分かってますから、急がないと……」
「あっ!そうだった。うん。じゃあ、なんとかけりつけて帰ってくるから……」
 床に座り込んでいる名執の額にキスを一つ落として、リーチは慌ててうちから出ていった。見送りながら、名執はやはり寂しい気持ちに囚われる。
 それでも言われたとおりにベッドの敷物を代え、毛布を取り替えた。トシの方はブルーで、リーチの方はオレンジ色で統一されている。
 これが済んだらシャワーでも浴びようと、名執が下ろしたトシの毛布を畳んでいると床に一冊のノートが転がっているのを見つけた。題名は「業務連絡」と、書かれている。
 ふと、名執はそのノートを手にとって、何の気無しにパラパラとめくってみると、これがリーチとトシの連絡帳だと分かった。
 プライベート中、利一として知っていなければならない事が書かれているのだ。例えば、トシのプライベートの日には、幾浦と出かけた先で「利一の知り合いに会った」「どういった会話をしたか」など、書かれている。
 こうやってどちらかがスリープしている間、何があったかを、互いに知らせあっているようだ。利一を演じることの大変さは、普通ではないのだろう。
 そういえば……
 リーチは何を書いているんでしょう……
 次を繰って見ると……
 
 ユキのうちでエッチした。
 ユキと一緒にお風呂に入った。やっぱりエッチした。可愛いぞユキ。
 ユキがリンゴの甘いデザートを作ってくれた。旨かった。
 幾浦には出来ないだろ?作る姿も気持ち悪いけどな。
 ユキと一緒にごろごろした。
 寝ている姿も可愛い。

 ……この人は……
 何を書いてるんですかっ!
 かあっと顔を赤らめて、それでも名執は「業務連絡」と、書かれたノートを胸に抱きしめながらベッドに寝ころんだ。
 何故かとても幸せな気分に名執は浸ることが出来た。
 

 
 名執は帰ってこなかった。
 朝早く起きたエリックが、名執が結局帰ってこなかったことを、いつもある玄関の靴が無いことで知った。
 利一が昨晩、探しに行くと言ったまま帰ってこなかったため、予想はしていた。
 今日はどうしよう……
 別に予定など無い。
 夕方まで出ずにここでごろごろとしようかと考えたが、そろそろ帰国の為に飛行機のチケットを取らなければならなかった。
 仕方無しにエリックは一人で朝食を終え、片づけをしてから外に出た。旅行代理店など良く分からなかったので、空港まで行くことに決める。
 その空港には昼過ぎ頃着き、カウンターで手続きをしてチケットを手渡されると又不安が身体を覆った。
 フランスに帰国してからはまたシャルに付きまとわれるかもしれない……。
 日本に来るときに精算したと思っていたが、この間の事で、シャルにはその気が無いことが分かったからだ。
 突然事故で死んでしまえばいいのにと何度思ったか分からない。だが、その望みが叶えられることは無かった。
 ああいう男ほど長生きするのかもしれない。
 ため息を付くと空港から出、来た道を戻ろうとすると後ろから声を掛けられた。
「やっぱり来たな……」
 振り返るとシャルが苦々しげな顔をして立っていた。
「シャル……」
「調べてみると帰りのチケットをお前が取っていなかったからな。いずれここに来るだろうと張っていたんだ。で、この間のことは許してやる。まあ、私も言い過ぎた」
 エリックはシャルのその言い方に驚いた。こんな風に下手に出ることは今までになかったからだ。
 どんな風に利一はシャルを宥めたのだろうか?
「なんだ、その顔は……」
 驚いた顔をしているエリックを見たシャルが訝しげに言った。
「え……な、何でもない……。それで……どうして僕を張ってたの?」
「チケットは買ったのか?」
「……買ったよ……」
「帰国する気はあったのか」
「……」
「エリック……」
 じっとこちらを見下ろしてくる瞳に動揺を覚えながらもエリックは言った。
「もし……シャルが僕の望みを叶えてくれたら、僕はシャルの言うことを何でも聞くって約束をしてもいいって考えている」
「金ならいくらでも出してやる」
「そんなのいらない。それより僕には兄さんがいることは話したよね?」
「そうだったな」
「僕の兄さんを犯して、滅茶苦茶にして欲しいんだ」
 シャルは一瞬目を大きく見開き、すぐに細くなる。
「……それで満足なのか?」
 小さくため息をついてシャルは言った。
「兄さんは僕が誘い出すから……」
 エリックはそう言って笑みを浮かべた。
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