Angel Sugar

「空の監禁、僕らの奔走」 第14章

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『他にも武器がねえのか?』
「う~ん……ストッキング爆弾だけじゃ心許ない?」
『ストッキング爆弾ってなんだよ?』
「今つけたの。なにか呼び方があったほうがいいと思って」
 トシは他に武器になりそうなものを探しながらそう言った。
『もう少しマシなネーミングセンスを持てよ……』
「いいじゃない、ね、アル。アルも何か武器になりそうなものを探してくれない?」
 隣でストッキングを不思議な顔をして眺めているアルに、トシが言った。するとアルは鼻をふんふん鳴らしながら、貨物庫内を嗅ぎ回りだした。
『あちこちションベンしないだろうなあ……』
「もう、リーチ。汚いこと言わないでよ」
 トシはムッとしながら、開けた荷物から紺色のジャケットを引っ張り出して羽織っていた。ポケットが沢山ついているタイプのジャケットで、トシは今作ったストッキングの武器をポケットに詰めている。
『ウエストポーチとかねえの?』
「ちょっとまって……。でもなんか……やっぱり人のものを盗る行為って、いい気持ちしないね。後で謝ろうね、リーチ」
 仕方ないとはいえ、盗み行為を働いているトシの姿は、確かに見ていて気持ちのいいものではない。状況が状況なだけに仕方がないが、犯人を拘束した後に、もし謝罪できる機会があるのなら、乗客に白状して許してもらうしかないのだろう。
『そうだな。俺もそう思う』
「あっ、ポーチがあった」
 トシがポーチを見つけたのと同時に、アルが何かを銜えて持ってきた。トシはアルからビニール袋を受け取った。
「アル、何を見つけて……あっ、すごい、スパナとかドライバーが入ってる」
 アルは嬉しそうに尻尾を振って、トシに褒めてもらおうとしていた。
「アル、賢いね。やっぱりスーパードッグだよ」
 トシはアルのあたまを何度も撫でて、褒めていた。
『……聞いたことがあるな。それ、飛行機の備品だよ。客の知らない場所に、緊急事態用に設置されていて、機長の許可がないと開けられない備品だ』
「へ~そうなんだ。じゃあ、探したら銃とか出てくるかな?」
『あのなあ、銃って言うのは下手をすると機内に穴を開けるしろものだぜ。対テロのものを何か隠していたとしても、銃を置いてるわけないだろ』
「そ、そうだよね……。でもスパナか~接近戦にいいね。がんばってねリーチ。スパナやドライバーはポーチに入れておくから」
『いや、取り出しにくいから、でかい物はベルトにはさんでおいてくれ』
「ベルト?……うん。分かった」
 慣れない手つきでトシはベルトにドライバーとスパナをベルトに挟み、他の小さな工具はポーチに入れる。アルはじっとトシの方を見て、首をかしげていた。
「他に……どういう準備が必要かな……」
『食い物』
「はあ?」
『ポーチやジャケットのポケット、まだ入るだろ?なんか食い物を入れておけよ。ペットボトルの飲物もあればなおいいな』
「こんな時に何言ってるんだよ……」
 トシは呆れていたが、リーチはふざけて言っているわけではなかった。
『あのなあ、腹が減ったらなんとかって言うだろ?俺たちは朝、食べただけで昼はまだ食ってねえんだぜ。食い過ぎるのも判断力がなくなるけど、エネルギーが不足しても、ミスするぜ』
 満腹も空腹もどちらも困る。緊張した場面で息を潜めているのに、腹が鳴ったりしたら目も当てられない。
「食べ物を持って歩けないよ……どうせならここで食べていくしかないって。身軽が一番だよ」
 トシはそう言いつつも、スナック菓子の入った袋や、水の入ったペットボトルを探し出しては床に並べていた。
『言われてみたらそうだけどな……じゃあ、俺と変わって。なんか食う』
「いいよ。でも食べたら行動に移そうね」
『それより先にアルの役所を決めようか』
「役所?」
『ずっと後ろをついてこられちゃ、こいつの図体からして俺たちも目立ってしまう。だろう?』
「そうだけど……」
 トシはおとなしく座っているアルを横目に見て、肩を竦めた。
 アルは大型犬の中でもかなり大きな犬種だ。しかも毛足が長く、ふわふわとしていて、目立つ。
『だからそれを逆にとって、こいつに先頭を歩かせるんだ』
「はあ?それじゃあ、アルが標的になるじゃないかっ!」
 トシは本気で怒っていた。
 けれどリーチは冗談で言ったわけではなかった。
『なあ、飛行機で普通いないはずの犬が、尻尾をふって愛想よく歩き回ったらどう思う?いきなり撃ち殺そうと思うか?』
「それは……屁理屈だよ」
『じゃなくて、さあ、よく考えてみろよ。襲いかかっってきたら撃つかもしれないけど、いきなりでかい犬を見たら、一瞬、びっくりしないか?』
 トシはしばらく考え込んで、アルの頭を撫でていた。
「……それって、アルを囮にするってこと?」
『囮をやって、犯人をおびき出し、倒すにはどうしても二人必要。けれど俺たちは二人でも、身体は一つ。俺たちの方はアルと利一だ。どちらが囮に最適で、どちらが犯人を倒す役に最適だ?』
 リーチの言葉にトシは小さく唸った。
『アルは賢くて、人間の言葉が理解できるんだろう?』
「そうだけど……囮は危険だから……」
『俺たちだって危険だ。ユキも幾浦も危険にさらされてる。アルだって主人を救う義務があるんだぜ。しかもこいつはやる気になってるんだろ?』
「……リーチがアルに上手に説明してくれる?嫌だっていう顔をしたら、無理強いはしないで」
 トシは心配そうな顔でそう言った。
『大丈夫。こいつも俺たちと同じ男だ。やるときはやる』
 リーチはそう言ってトシと交替した。
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