Angel Sugar

「空の監禁、僕らの奔走」 第19章

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「私は医者としての仕事がありますっ!」
「だからなんだっていうんだ?」
 名執を跨いだ格好で座り、男は名執のシャツのボタンを外し、露わになる素肌に喉を鳴らした。唇はいやらしく歪んでいて、見ているだけで吐き気がしそうだ。
「力でねじ伏せようとする人は、力ですべてが片づくと思っている。でもそういう人は本当は能なしで頭が弱い。そう、今の貴方ですよ」
 そう、この男は、ただ突っ込んでピストン運動をすれば、相手は歓喜し、満足するものだと大きな勘違いをしている男だ。
「なんだとっ!」
 名執は頬に平手を飛ばされたが、ギュッと唇を引き絞り、男を睨み付けた。
 妖艶ともいわれる名執の瞳には怒りが灯っていて、そこにはいつもの穏やかさは欠片もない。ねじり上げると簡単に折れそうなほど細い腕しか持たない名執だったが、こういう男にはもううんざりしているのだ。
「俺を怒らせたとしても無駄だな。その嫌みなほど綺麗な顔でいくら怒りを見せつけたとしても、そいつを精液で汚してやるさ。泣いたところでどうせ誰も助けちゃくれない」
 男は名執のベルトを引き抜いて振って見せた。革のしなやかな動きが、目前で揺れ、名執の恐怖心を煽ったが、睨み付けることをやめなかった。
「本当にあんたは綺麗な顔をしているな……」
 頬に手を伸ばされた名執は噛みついてやろうとしたが、失敗した。
「そんな顔で下品なことをするなよ……。あんまり抵抗すると痛い目に遭わせるぜ。ま、俺も愉しませてもらうから、あんたも愉しんだ方がいい。どうせあんたの隣に座っていた男とやりまくってるんだろ?その愉しみを俺にもちょっぴり分けてくれって言ってるだけだ」
 男は名執の首筋に銃口をあてがい、身の毛がよだつような臭い息を吐きかけてくる。
 リーチ以外の男に近寄られるだけでも、名執は不快な気分になるのだ。だからこうも近づかれると、本当に吐きそうになる。
「顔を近づけないでください」
「気の強い奴は嫌いじゃないぜ。反抗する男をねじ伏せるのも堪らないからな。けど、おしゃべりな奴は気に入らない」
 名執の口に男は先程外したベルトを噛ませ、後ろで縛った。苦い革の味が口内に広がり、名執は顔をしかめた。
「いいぜ、その顔。堪らないな~。いつまで強がっていられるのか、見物だ」
 男は自らのファスナーを下ろし、怒張したペニスを引きずり出して、名執に見えるように左右に振った。大きさを誇示しているのか、それとも名執の恐怖を掻き立てようとしているのか。
 こういうときに比べるのもなんだが、男のペニスはリーチのものとは比べものにならないくらい貧弱で、名執からすると汚らしいだけのモノだった。
「いい気持ちにさせてやる……っ!」
 名執は迷うことなく男のペニスを掴み、今ある力をすべて込めて握りしめた。
「ぎゃあああっ!てめえっ!なっ……なにしやがるんだっ!」
 男は拳を振り上げて名執を殴ったが、手はしっかりペニスを掴んだまま、耐えた。気が狂ったように男は名執の腹や顔を殴る。鋭い痛みで気が遠くなりそうな状況の中、名執はリーチのことだけを考えた。そうすることで少しでも痛みを紛らわせたかった。
 リーチがいてくれたら……。
 側にいてさえしてくれたら……。
 痛みから涙が瞳に浮かぶ。決して弱音を吐いて滲んだものではない。
 しばらく名執は抵抗していたが、両手をねじり上げられて、とうとううつ伏せに押さえ込まれた。
「っ……!」
「このままねじり上げたら、腕が折れるだろうな。折ってやってもいいんだぜ……こっちは息子が真っ赤になったんだからな」
 ゼエゼエと息を吐きながら、男は顔まで真っ赤にしていた。
「それとも、一本くらい折ったほうがおとなしく従うか?」
 腕を折られても構わない――声が出るのなら、名執はそう叫んでいた。
 たとえ死んだとしても、見知らぬ男の欲望の処理にこの身体を使われるよりマシだ。
 名執は男の怒りを煽るために、また、睨み付けた。
「睨んだところで無駄だって言っただろ……」
 男は自分のベルトを引き抜くと、名執の両手を後ろ手に縛った。
「最初からこうしておけばよかったんだな。ほら、腰を上げろ」
 男は名執を犯すことを諦めていない。
 名執は革を噛みしめながら、決して自分からは腰を上げなかった。すると男は業を煮やしたのか、名執の腰を無理やり引き上げて、四つん這いにさせた。
「まだこっちは拝ませてもらってなかったな」
 男はスラックスと下着を同時に引き剥がし、名執の尻を露わにした。
 名執は今まで以上に革を噛みしめて、何もできない自分の歯がゆさに、痛みを覚えていた。けれどたとえ犯されてしまっても、名執は耐えられる。自分を卑下したりしないし、自ら身体を傷つけるような、過去の自分に戻るつもりもなかった。
 私はどんな目に遭わされても、自分を見失ったりしない。
 その強さを教えてくれたのはリーチだ。
 身体がどれほど汚れようと、心さえ守ることができたらいい。
 そう、教えてくれたのもリーチだ。
 リーチが生きている限り、自分がどんな目に遭っても、名執は生きることに執着するつもりだった。生きてさえいれば、幸せを感じることができるのだ。
「綺麗な尻だな……」
 男は値踏みでもするように、名執の尻を撫で回していた。ピリピリと肌に感じるのは、男の睨め付けるような視線だ。吐き気がさらに激しくなって、口の中に酸っぱいものが溢れ、胃は痙攣を起こしている。
「こっちはどうかな……」
 男の指は尻を割り、そこに隠されていた蕾を見つけ、触れる。汗が浮いた指先がネットリとした感触を伝えてきて、名執は身震いした。
「……っ」
「締まりは良さそうだ。使いすぎてゆるくなってるかと思っていたんだがな」
 男はクッと喉で笑った。
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