Angel Sugar

「空の監禁、僕らの奔走」 第28章

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「どうなんだ?手を組む気がないのなら、ここで殺すことになるが」
 リーダーの言葉に、リーチは声を上げて笑った。
「それ、本気ですか?」
「どう思う?」
 ニヤリと唇を歪ませて、リーダーは言う。とても本気で手を組もうなどと考えている表情ではない。
「あなた方からすると、取り分が減るような人間を増やす気などサラサラないという感じですけど……。そういう質問をして、私の何が知りたいんですか?」
「軽い男か、慎重な男かどうか判断しようとしているんだ」
「私は慎重な男だと自負しています」
 この会話がどういう方向を向いているのか、リーチ自身もよく分からない。だが、もし信頼を得ようと考えるのであれば、会話を少しでも長引かせることが得策だろうと、リーチは判断した。もっとも信頼など得られるわけなどないだろうが。
「ところで……お前が連れて逃げた綺麗な医者はどこへ行ったんだ?あれは仲間か?それとも偶然知り合いが乗っていたのか?」
 銃口は左右にゆっくりと揺れる。気を許してはいないとリーチに見せているのだ。
「……仲間ではありません」
「じゃあ、どうしてあんなふうに連れて逃げたんだ?で、どこへ隠した?」
 リーダーはリーチの顔をじっと見下ろし、冷えた瞳で睨み付ける。
 どういう言い訳をすればいいのだろうかと、逡巡していると、事態を窺っていたトシが声を出した。
『一目惚れをしたから連れて逃げたって言うのはどう?雪久さんの容姿なら、納得してもらえそうじゃない? ……駄目かな?』
『なんだか……ふざけた答えのような気がするが、仲間とは言えないし、それしかないか……』
「どうなんだ?ベラベラとくだらないことは話すのに、あの男のことは答えられないのか?」
 黙り込んでいるリーチに、リーダーは言った。
「いえ、信じてもらえるかどうか分からないので、言い淀んでいるんです」
「お前が話すことなどどれもこれも信用はしていない」
「そうですか……じゃあ、白状します。天井から彼の姿を見て、一目惚れをしたんです。あまりにも美しい彼の姿を見て……その……頭に血が上って、突然、自分のものにしたくなりました。だからあなた方に見つかるリスクなど全く考えずに、飛び降りてしまいました」
 リーチが淡々と話すと、リーダやその仲間達は、一瞬虚を突かれたような目をして、次に腹を抱えて笑い出した。
「一目惚れだって?それを信用しろと?」
「信じてもらえるとは思いませんよ。でも、それが事実なんです。考えてみてください。そういう出会いも、人生のうち一度や二度あると思いませんか?私も驚きましたよ。彼を見た瞬間、自分の目的を忘れてしまうほど惚れ込んだんですから……」
 ここではないが、リーチ自身、名執と初めて出会ったとき、電流が身体を走ったような衝撃を受けた。それが一目惚れだと気づくのにしばらく時間はかかったが。もし、リーチが名執とここで初めて出会ったとしたら、幾浦から引き剥がし、自分のものにするためにどこかへ隔離していたに違いない。それほど名執の容姿や彼の纏う雰囲気には独特なものがあり、人を惹きつけずにはいられないのだ。
「面白い男だな。普通ならこういう状況に陥ると、失禁でもしそうなものなのに、妙に落ち着いている」
「私はこの機に乗っている金を奪おうと計画してやってきました。どういう状況にも対応できるよう訓練してきましたよ」
「そういえば、仲間にお前が連れて逃げた男を捜させているんだが、見あたらない。どこへ隠したんだ?」
「人質の数は足りているでしょう?あの方が例え何か行動を起こしたとしても、空の上です。しかも素人ですよ。見つからなくても問題はないはずですが」
 リーチの言葉にリーダーは眉間に皺を寄せ、左右に振っていた銃口をピタリと止めた。
「あれは貴重な医者だ。それをお前が知っていたのかはしらんがね。時々必要になる人材だ。だから手元に置いておきたい。場所を明らかにしてもらおうか」
「いやです」
「これでも最大限に譲歩して、穏やかに交渉しているつもりだが」
「ええ。分かっています」
「今は見つけられないが、いずれ引きずってくることになるぞ。隠れられる場所など、決まっているからな」
「どうぞ探してください。私は構いません」
 彼らが車輪のある空間に気づくかどうか、分からない。
 けれど、ここで名執を彼らの手に渡すわけにはいかないのだ。例え自分がここで撃ち殺されたとしても、決してリーチは名執の居場所を教えることはない。
「可愛い顔をして気の強い男だな。お前の立場は最悪な状況に陥っていることは理解しているはずなのに、どうして毅然としていられる?」
「あなた方は金を目的としてこの機をハイジャックしたんですよね?」
「ああそうだ。それがどうした?」
「金のありかを本当に知っているんですか?」
 リーチの言葉にリーダーは微笑したまま、無言になった。
『リーチ、突然、どうしてそんなことを言い出すの?』
『いや、ただ、ずっと気になっていたんだ。もし貨物庫に金があったとしたら、奴らの誰でもいい、見張りが付くんじゃないのか?だけど誰もやって来なかった。だったら、金はどこにあるんだ?ていうか、お前、見た?』
『……そういえば……見てないよね。でも飛行機の貨物庫っていくつかあるから、僕たちが乗り込んだところになかっただけじゃないの?』
『十数億あるってことは、普通の荷物じゃねえぞ』
『……そうだね』
『しかも、十数億あったら、いくらなんでも護衛が付くんじゃないのか?』
『……かもしれない』
『だったら、上でどんぱちやってるのに、護衛はどうなったんだ?』
『……隠れてるの?嘘でしょう?』
「お前は知っているのか?」
 ようやく口を開いたリーダーは、銃口でリーチの顎を押し上げて、言った。
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