Angel Sugar

「空の監禁、僕らの奔走」 第20章

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「うう……」
 最初は、最後まで耐えようと考えた。
 この男は危険な男たちの一員だからだ。ハイジャックを計画するほどの男たちだから、逆らう相手など容赦なく殺すに違いない。だから、堪らなく不快でゾッとすることをされようとしているのに、耐えることを選んだ。名執は生きることを選んだからだ。
 けれど男が名執の尻に顔を近づけ、舌で尻の谷間を舐め回している感触が伝わり、熱い息までも肌に触れると、不快感が一気に名執の身体を駆けめぐった。
 こうなると我慢などできない。
 本能は耐えることよりも、この男から逃げ出すことばかり必死に考えていた。
 何か方法が……なんでもいい、何か……。
「……っく」
 固く閉じている蕾に男の指が入れられた。
「どうせ、逆らえないんだ。あんたも愉しむといい……」
 硬い指の感触が内部から伝わってきて、名執は目を見開く。もう一度、反撃をするしかない。もし反撃をするならチャンスは一度。下手をすると空振りに終わって、腕が折られるだけではすまないだろう。
 けれど殺されるかもしれないという不安より、この男に触れられて身体を覆う不快感が勝った。
 背後の男は、名執がおとなしくなったのを見届け、もう反抗しないものだと安心したのか、己の欲望を遂げるために指で蕾を弄っていた。
「……っ……ん」
「たまんねえな、あんたのここ。早く突っ込みたくてウズウズするぜ……」
 指の数が増やされ、内部で粘膜を抉る。男の指は乾燥しているのか、内部で擦れるとガサガサとした感触がする。耳に響く男の荒くなった息。すべてが生々しく名執の五感を刺激し、虫酸が走る。
「ちょっとばかり早いが突っ込ませてもらうぜ。見かけ倒しじゃないかどうか試したくて仕方ないんだよ」
 指を抜き、男が露わにしているだろう己の雄を掴んだ瞬間、名執は足を思いきり蹴り上げた。名執のかかとは男の股間にヒットする。
「……がはっ!」
 男が倒れた音を聞き、名執は後ろを振り向かず、すぐさま部屋の端に這い、壁に背を凭れさせるようにして男の方を振り返った。男は気を失ったのか、汚らしい雄を勃起させたまま仰向けに倒れていた。
 や……やった?
 名執は拘束しているベルトから手を引き抜こうと、必死に手首を動かした。男が目を覚ますまでになんとか身なりを整えて、ここから逃げ出したいのだ。
 早く……早く早くっ!
 何度も名執は手首を動かし、ようやく緩んだ締め付けから、手を引き抜いた。手が自由になるとすぐさま口の戒めを解き、息を吐いた。
 男はまだ伸びている。
 名執は下着やスラックスを手に取って急いで穿くと、露わになったシャツのボタンを留めようとした。
「おい、何をやっている?」
 いきなり響いた声に、名執はシャツの前を握りしめたまま、ドアの方を向いた。するとリーダーが怪訝な顔をして、名執とそして倒れている男を見比べて、何があったのか想像しようとしていた。
「……私は……」
 リーダーは伸びている男の方へ向かうと、胸ぐらを掴んで頬に平手を飛ばした。
「おい、起きろっ!」
「あ……痛ぇ……こいつ……やりやがった……っ!」
 男の頬にもう一度平手を飛ばし、リーダーは胸ぐらから手を離す。
「目障りなものをさっさとしまえっ!」
 チッと口を鳴らし、リーダーは名執の方を睨み付けた。名執はさらに壁に張り付くようにして身を小さくする。
 リーダーは名執を襲った相手とは纏う雰囲気から違うのだ。黒のサングラスをかけているために、その瞳がどういう光りを灯しているのかまで分からないが、ひどく冷たいものが感じられる。やや痩せ形に見えるが、それは鍛えられた肉体に贅肉が付いていないからだろう。視線を向けられると思わず目を逸らしてしまうのは、ヒシヒシと伝わる冷酷さをリーダーから感じられるからだ。
「俺じゃねえよ。信じてくれって。あいつが俺を誘惑したんだ。俺はただ……」
「黙れ。言い訳など聞きたくない。お前が色気付こうが、こいつが誘惑しようが、どうでもいい。それより犬を追いかけていった二人が戻ってこない。どうせ犬に振り回されているんだろうが、後部の様子を見て来い。面倒なら撃ち殺してこい」
「あ……ああ」
 男は残念そうな顔をしながら雄をスラックスの中へ戻すと、名執をじっと見つめた。
「目を覚ますために、あと二、三発殴った方がいいか?」
 リーダーは底冷えしそうな声で男に言う。
「見に行く。今すぐ」
 男が出て行くと、リーダーは名執の方を向いた。
「こんな状況であっても男を欲しがるのか?珍しい男だな。それとも銃を奪って反撃でもしようと思ったか?」
 口元をニヤリと歪ませて、リーダーは皮肉のこもった言い方をした。
「ち……違います。私は……」
「お前の相手は隣に座っていた男だろう?抜きたければ、そいつとやれ」
「彼は友人です……そういう関係では……」
 リーダーは名執の目前で中腰になって見下ろしてくる。名執は縮こまったまま動けず、リーダーの行動を見守ることしかできなかった。
「……で、こんなものを勃起させたまま、お前は医療活動をする気でいるのか?誘ってくれと言っているようなものだ」
 リーダーの持つ銃口が名執の膝頭を押し、両脚を無理やり開かされる。すると股間には、単なる刺激で勃ち上がった名執の雄が、スラックスを持ち上げていて、無様な格好を晒すことになった。
「……」
「お前の相手に抜かせるとするか。面倒だが、他の仲間が惑わされると困る。それに、医者は今のところお前しかいないからな。利用する価値のある人間は生かしておいた方がいいだろう。立て」
 名執は痛みで震える手で、シャツのボタンを留めながらよろよろと立ち上がった。口の中が切れていることに今頃気付く。その上、何度も殴られたためか、あばらや腹も痛む。それでもこの男には逆らわない方がいいと、名執の本能は告げていた。
「ほら、行け。私の前を歩け。お前の席まで行くんだな」
 背を銃口で押され、名執は部屋から通路に出ると、おぼつかない足取りではあったが、歩き出した。
 通路にはあちこち血が飛び散っている。
 座席の前方には撃たれたことで出血が止まらない客室乗務員が数名、身を寄せ合って隅に座り込んでいて、シートに座っている人達はみな怯え、恐怖の表情を浮かべていた。
 名執は彼らを悲痛な面持ちで見つめながらも歩いた。
「名執っ!」
 ようやく帰ってきた名執の姿を見た幾浦が安堵の表情で名を呼んだが、それはすぐさま青ざめたものへと変わった。
「幾浦さ……っ!」
 リーダーは名執の身体を背後から突き飛ばし、床に倒した。驚いて身体を起こそうとしたが、リーダーは冷ややかな声で言った。
「そこに寝ていろ。お前の相手をそいつにさせる」
「え……?」
「おい、そこの男。こいつの知り合いか、恋人かそんなことはどちらでもいい。さっさとこっちにきて、この男を満足させてやれ。色気を振りまかれては困るからな」
 いきなり指名された幾浦は、青い顔をしたまま驚きに目を見開いた。
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