「唯我独尊な男4」 第16章
「ハニー……待っていたぞ」
一目散に駆け寄ってくるジャックに驚いた恭夜は、手に取ったチキンのパックを落とした。ジャックはそれを見つけて立ち止まると、髪を掻き上げて恭夜に聞こえるようなため息をつく。
「え……あ、これ、ほら、冷蔵庫に何が入ってるのかな~なんて、気になっちゃってさ……」
落としたチキンのパックを慌てて冷蔵庫に戻すと戸を閉める。
「私がこれほど待ち望んでいたというのに、キョウはいつだって、食い物のことしか興味がないようだな……」
冷えた目つきで見下ろされ、恭夜は笑って誤魔化すしかなかった。確かに不味い場面を見られたに違いない。
「……そ、それは……あ、あんたも悪いんだろっ!俺は、無理矢理ここに連れられてきたんだからなっ!しかもまた、不法入国だ。いや、そういう問題じゃねえっ!科警研に連絡も入れてないんだぞっ!これでクビになったらどうしてくれるんだよっ!」
ジャックに負けないように恭夜も立ち上がって、叫んだ。だいたい、無茶苦茶なことばかりするジャックが悪い。
「……腹が減っているのか?」
腕を組んでジャックは相変わらず恭夜を見下ろしている。
「減ってる」
ブスッとした顔つきで恭夜は答えた。するとジャックはニヤリと口を歪ませて笑う。いつものように何かを企んでいる顔だ。
「なんだよ……その顔……」
背中を冷蔵庫に張り付けながら恭夜はジャックとの距離を測っていた。例え相手が恋人であっても、逃げなければならないときは逃げる。再会を喜び、甘く抱き合うような二人ではないからだ。
「キョウ……私も腹が減っている……」
口元からマイクを取り去ったジャックに対し、やばいと感じた恭夜は更に距離を取ろうと足を踏み出そうとしたが既に遅く、抱き込まれていた。
「う……うが~……離せ~……」
ジャックの方が恭夜より身長が高いため、抱えられるようにして抱きしめられると足が宙に浮く。しかも背中は冷蔵庫に押しつけられたままで身動きが取れない。いくら両脚をばたつかせても、ジャックの拘束は緩まないのだ。
「ジャック……あんた、仕事中なんじゃ……うっ……」
いきなり口元を掬われて恭夜は息が止まりそうになった。だが、久しぶりのキスは脳髄までとろけそうになるほど、甘い。
流されないぞ……と、心の中で強く思うものの、絡められた舌が己の舌をきつく吸い上げると、理性など吹っ飛んでしまう。
「……ん……う……」
問題は恭夜も暫くご無沙汰だったということだ。
ジャックが自宅にいるときは、勘弁して欲しいと思うほどセックス三昧で、身体がガタガタになってしまうのだが、仕事で出かけてしまうと、今度は己の身をもてあます。この辺りが微妙で、恭夜もどう説明していいのか分からないが、やればやったで目の下のクマが濃くなり、身体はいつも気怠く、なければないで、身体が疼く。
これはもう、自分ではどうしようもないほどジャックのセックスにならされているのだろう。
「……ジャ……ック……」
唇が離され、恭夜は鼻から抜けるような声を出した。するとジャックは目を細めて、愛おしそうな視線を向ける。それだけで、恭夜は身悶えそうだった。
「シャツの上からでも分かる……。ハニーのここは尖ってきたな……」
親指の腹で胸の尖りを衣服の上から擦りあげられて恭夜は呻き声をあげた。
「……あ……っ……」
身体が熱く高ぶってくるのが恭夜にも分かる。触れられているだけで、魔法にでもかけられたように己の身体がジャックに従うのだ。こうなるともう、恭夜も歯止めが利かない。
「ジャックっ……あ……やめろ……」
グリグリと親指を動かしつつ、ジャックは己の腰を恭夜に押しつけてくる。ズボンの布地から分かる、硬く尖ったモノの存在を感じ、恭夜はジャックに回した手に力を込めた。まだ挿れられてもいないのに、己の雄の在処を擦りあげられて、堪らない気持ちになった。
「よせ……っ……あっ」
首筋に噛みつかれて、恭夜は刺激に顎を仰け反らせた。もう、既に視界は霞始めている。このまま衣服を裂かれて、滅茶苦茶に犯されても、恭夜は感じることができるだろう。
それほど、恭夜の身体はジャックの愛撫に飢えていた。
ただ、恭夜が身体の訴えを認めないだけだ。
「キョウ……私の可愛いハニー……」
上着のボタンを外していくジャックの指先は緩やかで、決して性急なものではなかった。とはいえ、見つめている薄水色の瞳は飢えた輝きを灯している。
「……ジャック……っ……あ……」
もう、どうにでもなれ。
どうせ二人きりなのだ。一度こんな風に火がついたジャックには、恭夜が何を言ったところで無駄だった。それを骨の髄まで恭夜は知っている。
「遠いところまたこっちに来たんだって……ひゃあっ!」
聞き覚えのある声が響き、恭夜は一瞬にして理性が戻った。ジャックの肩越しに扉のところを見ると、腰を抜かしそうなほど驚いているテイラーが立っている。恭夜は思わず顔が青くなり、気づいていないわけなどない、ジャックを思いきり引き剥がそうとしたが無駄だった。
「ジャ……ジャックっ!はな、離せっ……!離しやがれっ!」
テイラーとジャックを交互に見つめつつ、恭夜は青くなった顔色が蒼白に変わる。どうして鍵をしていないんだと叫びそうになったが、口を開いた瞬間、ジャックの唇によって塞がれた。
「う~……うーーーーー!」
目を見開いてテイラーを見ていると「と、ととと……取り込み中、邪魔をして……なんだ、悪かった……」と言って慌てて扉を閉めた。
人生最大の不覚っ!
次に会ったときにどんな顔をしてテイラーと会えばいいのだ。
「っ……てめえっ!普通、こういうことをしようと思ったら、扉に鍵をかけるんじゃねえのか?やめ……やめろってっ!また誰か入ってきたらどうするんだよっ!畜生っ!あんた聞いてるのか?耳に蓋でもしてるのかよっ!ていうか、あんた、セックスすることしか頭にねえのかよっ!」
ようやくジャックの唇を引き剥がしたが、恭夜の身体は未だ宙に浮いている。
「ああ、ないね」
恭夜の上着を床に放り投げて、ジャックはあっさりと言った。
「なんでもいいから、鍵、鍵をかけてくれよっ!」
「そんな時間も惜しい」
スルッと恭夜のベルトを引き抜いて、同じように床に転がす。
「……じ、じ、時間が惜しいとか、そういう問題じゃねえだろうっ!」
職員が、ジャックを呼びに代わる代わるやってきては、扉を開け、二人の姿に驚愕し、慌てて扉を閉める姿を想像して、恭夜は生きた心地がしなかった。この男は、見られても構わないと思っているのか、それとも集中していたら全く別世界に一人だけいってしまうのか、もう、恭夜にも理解ができない。
「そういう問題だ」
「ひっ……」
恭夜の履いているジーンズのファスナーを下ろしジャックは手を滑り込ませ、すぐさま雄を掴む。
「やめろっ……ぜってー……嫌だっ!鍵だっ!鍵を……ひゃあああっ!」
掴んでいる雄をジャックはぐにゃぐにゃと柔らかい手つきで揉み上げ、恭夜は奇妙な声を張り上げた。今までなら、いきなり握りつぶすような行動に出るジャックなのだが、今日は違った。
「……そ、そんなふうに……触るなっ!」
へ……変な気分になる……。
くすぐったいような……気持ちいいような……。
じゃ……ねえっ!
「だからっ……鍵っ!……ひ~……」
今度は、ぐにゅっと潰されて、恭夜は力が抜けそうになった。
「テイラーが来たのだろうから、どうせ立ち入り禁止にしてくれている。そのくらいの気は回る男だ。安心しろ」
ジャックはそう言って、笑うと恭夜のジーンズを下着と共に引き下ろした。