Angel Sugar

「唯我独尊な男4」 第25章

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「……っ……!」
 ジャックの手の平で揉まれた恭夜の雄は張りつめ、トロリとした蜜を滴らせている。生理的現象とはいえ、眼下で己の雄がジャックの手練れに落ちる姿を見るのは辛い。
「……く」
 歯を食いしばり天井を見つめながら、恭夜は次第に快感で痺れていく意識を保たせていた。
「たまには、最初から快感に身を任せてみたらどうだ。どうせ、同じことだろう」
 皮肉ったような口調でジャックはそう言い、突き入れている指先を大きく動かした。
「……っあ……!」
 立てた腕や、膝がガクガクと小刻みに震え、ベッドに倒れ込みたい欲求に駆られる。だが、たとえ倒れ込んだとしても無理矢理ジャックに引きずられ、身体の上に乗せられるに決まっていた。
「キョウ……早く私も良くしてくれないか?色っぽくよがるハニーの尻を見せつけられて、私の方も堪らない……」
「……俺……でも……っ」
 ジクジクとした疼きが身体の奥にあり、内部が更なる刺激を求めて収縮を繰り返している。それはジャックの指にも伝わっているはずだ。
「そろそろこっちを向け」
 ジャックは指を抜くと、恭夜の腰を引っ張った。
「……もういい……俺……」
 言葉は否定的なのに、恭夜の身体はジャックの方へ向く。指だけで翻弄された身体はグラグラで、ジャックの言いなりだ。
「これからだろう?」
 半分霞んでいる瞳は状況を把握できず、ぼんやりとしたジャックの顔を見つめている。笑っているように思えるが、正常な判断はもうできない。
「……俺……っあーーーっ!」
 グイッと腰を引かれると同時に、ジャックの熱い楔が身体を穿った。一気に奥まで割り裂いたジャックの雄に、恭夜は息が止まりそうな圧迫感を喉元に感じる。咳き込みたいが、咳すら止まってしまい、薄く開いた口元から漏れるのは、小さな喘ぎだけだ。
「……はっ……あ……あ……」
 吐き出されるばかりの息が、空気を求めているのに吸い込めない。苦しくて顔が赤くなるのに、呼吸の仕方を忘れたかのように、新鮮な空気は鼻や口を通らなかった。
「キョウ……私は動けないぞ。ハニーが動いてくれないと、挿れただけでは快感の『か』の字も味わえん」
 不機嫌そうな声でジャックはそう言ってのけるが、恭夜は身体が痺れて動けない。いや、今の最優先事項は空気を吸い込むことなのだ。
 快感を味わっている。
 だが、とても苦しい。
 顔を赤く染めて、喘いでいるとジャックはフッと鼻で笑った。
「馬鹿だな。吐いてばかりいないで空気を吸え」
 すうっと喉元を撫でられ、まるで魔法にでもかかったように恭夜の口は空気を吸い込んだ。
「……っは……はあ……はあ……あ……」
 新鮮な空気によって、少しだけ歪んが視界が輪郭を持つ。
「ハニー……」
 甘く囁かれて、貫かれている場所がギュッと締まり、恭夜は己で締め付けたのに、背を這う快感から声を上げた。
「動いてくれ。それとも私が動くのか?まあ、それもいいが、出血多量で意識を失ったら私を優しく介抱してくれ」
 誰が?
 出血多量で意識を失うって……?
 セックスしているときに聞かされるものとしては不適当な言葉に、恭夜の意識は鮮明になる。今の今まで快感で忘れていたが、ジャックの肩にはまだ弾が入っているのだ。今の状態も傷口にいいとはいえない。
「あんたは……動いちゃ駄目……だっ……!」
 快感に押し流されそうな意識をようやく引き留めて、恭夜はジャックに言った。
「じゃあ、ハニーが動いてくれるんだね?」
 本当に嬉しそうな声でジャックは言う。
 なんだか、はめられたような気もするが、ここまできてジャックの雄を抜いて、逃げ出すことなどまずできない。お互い張りつめたモノを何とかしなければ、とても安眠できないだろう。
「……俺……俺が、……畜生っ!動いてやるっ!」
 恭夜が快感で満足する頃、ジャックが血まみれで倒れている姿など見たくない。いくら人間離れしている男だと言っても、この男も一応人類で、怪我もするし、血も流す。痛いものは痛いし、銃で撃たれたら安静だ。
 いや……。
 この状態はすでに安静を越えているが。
「ああ……ハニー。私は今までにない素晴らしい言葉を聞かされているよ」
 感動した声でジャックはそう言ってるが、心の底ではほくそ笑んでいるに違いない。ジャックとはそういう男だ。
「く……くそおおおおっ!動けばいいんだろうううううっ!」
 ギリギリと奥歯を噛みしめて、恭夜は腰を動かし始めた。もう、気持ちいいとか、快感で堪らない……という気分ではない。自分の下にいる男を、多少でいいから満足させればそれでいいのだ。
 大体、銃の弾を身体に入れたまま、セックスしようと考えるジャックが非常識なのだろう。出血を起こさなくても、貧血くらいなるかもしれない。だが、それは自業自得だ。どうせここは病院なのだから、どうにでも処置してくれるはずだ。
「もう少し可愛く言えないものか。まあいい。その気になってくれているんだからな」
 恭夜が必死であるにもかかわらず、ジャックはどこか呆れていた。
「……っ……あ……くそ……畜生……はっ……あ……っ……この野郎っ!」
 不器用ながらも、恭夜は腰を動かしているにも関わらず、ジャックは冷えた表情で恭夜を眺めているだけだった。
「……気持ちよくなる前に、ハニーのかけ声に萎えそうだ」
「うるせえっ!あんたが、やれって言ったんだろうっ!俺、俺はこういうの、苦手なんだよっ!」
 額に汗を浮かべつつ、恭夜は叫ぶように言った。
 恭夜の方はやけくそなのだ。
「もういい、私がやる」
 呆れたように髪を掻き上げるジャックの手を恭夜は掴んだ。
「駄目だっ!あんた、怪我してるんだからな。最初から……俺が……駄目だって言ってたらこんなことにならなかったんだっ!やったからには今日だけは俺がなんとかするっ!」
 もう、恭夜は涙目になっていた。
 こんな状態でもジャックは恭夜とセックスをしたいと考えているのだ。だから、自分の快感を求めるよりも、ジャックが満足できるようなことをしてやりたいと、心底恭夜は思った。
 ただ、思うことはできても上手く行動に移せないだけだった。
「ハニー……」
「あんた、馬鹿だっ!俺はいつだって、あんたとこうやってやってるだろっ!あんたがやりたいときに、嫌だって言っても最後は付き合ってやってるだろっ!なのに、どうして怪我がマシになるまでの少しの間、我慢ができないんだよっ!畜生っ!」
 もう、涙が止まらなかった。
 こんな男だが、恭夜には本当に大切な相手なのだ。
 求めてくれるのは嬉しいが、それも時と場合による。
「なんて可愛いんだ……ハニー……」
「わああっ!」
 いきなりジャックが起きあがり、恭夜はベッドに押しつけられた。突然ひっくり返った自分に何があったのか分からないまま見上げると、見下ろすジャックの目と視線があった。
 その瞳は飢えていた。
「……あ……あれ?」
 組み敷かれている自分の状況に、キョロキョロとしていると、ジャックは嬉しそうに言った。
「こういうハニーを見られるのなら、私は何時までも弾を取り出したくなくなる……」
 顔中にキスを落とされて、恭夜は目を白黒させた。
「違う……俺……」
「もっとも、私はキョウに強要してみせたが、されるのはあまり好きな方ではない」
「へ?」
 何かが違う……そう思ったときには思いきり突き入れられて、身体を揺らされていた。
「や……やめっ……やめろって……ひ……あ……駄目だって……あーーーっ!」
 抵抗するまもなく、恭夜はジャックの突き上げに、身をよがらせることしかできなかった。
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