Angel Sugar

「唯我独尊な男4」 後日談 第5章

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「ジャック……ご……ごめん」
 恭夜は珍しく素直にそう言った。こんなところで延々と苛められることを考えると、素直になるしかないだろう。
「ほう、急に素直になったな」
 ジャックは笑うこともなく冷えた目でそう告げる。恭夜が謝ったところで、今のところ許す気がないのだ。
「え……たまには……そういうこともあるよ……はは。だから……さ、こういうのやめようぜ」
 そ~っと手を伸ばし、自らの雄に巻かれたネクタイを解こうとしたが、ジャックによって払われた。
「ジャックって……」
「このままやり終えるとどうなるんだろうな?」
 どうって……。
 そりゃ……はち切れそうになって、俺が痛いだけだと思うんだけど……。
 はっ!
 そう言う問題じゃねえっ!
「それはやめてほしいんだけど……なんていうか……っひ!」
 クチュッと粘っこい感触が蕾から伝わり、恭夜は視線を下半身に向けた。いつの間にか脱がされたスラックスは床に落ち、下半身を露わにして両脚を広げている自分の姿に目眩がしそうだったが、それよりもジャックがバターを手に持っているのを目撃して、失神しそうになった。
「ああ……あ……あんた、なに手に持ってるんだっ!」
「パンに付けるバターだな」
「そ……それは分かってるっ!じゃなくて、それをどうするんだよっ!」
「キョウのいいところに塗っている。油だから滑りがよくなるだろう」
「はあっ?」
「それとも濡らさずに突っ込まれたいか?」
 ジロリと睨まれて恭夜は肩を竦めた。
 食材であるバターで濡らされるのと、無理やり突っ込まれるのとどちらがマシかと考えれば、やはり前者になるだろう。けれど相変わらず縛られた雄を見ていると、無事に済むとも思えない。
 これって……愛なのか?
 愛じゃねえよな?
 でもこいつの考えから言うとこれもジャックの愛で、しかも俺が我が儘になってるんだよな?
 なんか、理不尽とか言わないか?
「普通の……が、いい」
「なんだそれは」
「ふ……普通のやり方がいい……」
「それはねだっているのかい?」
 ジャックはニンマリと笑う。
「そうかな……ねだってるんだと思ってくれていいけど……」
「もう少し可愛く言えないのか?」
 ジャックは眉間に皺を寄せている。
「俺は……っ……そういうの……ほら、苦手だから……分かってるだろ?」
 これ以上怒らせないようにと、恭夜は必死に笑みを浮かべて、ジャックを宥めようとしていた。
「努力しないからな、ハニーは」
「俺だって……努力はしてるぞ」
 ジャックとつきあい始めた当初、タチだった自分をネコと納得させるだけでも恭夜には随分いろいろな葛藤があったのだ。もっとも今では、セックスをして熱が冷めたときにふと心を過ぎるくらいの、僅かな違和感しかないが。
「見えんな」
「なんだか話がずれてるんだけど……俺は普通のエッチがしたい」
「普通とは何だ?」
「バターとか、ネクタイとか使わないってことだよっ!」
 恭夜の言葉に、ジャックは顎を撫で、何かを考えるように目を彷徨わせた。
「なあ、だからせめてネクタイはやめてくれよ……」
 ピリピリとした痛みが今も雄から伝わってきて、これ以上苛められるのは耐えられない。その前になんとかジャックの気持ちを変えたかった。
「キョウがもう少し私を受け入れてくれるのなら、考えてやろう」
「意味が分からないんだけど……俺はあんたを充分受け入れてると思うぞ」
 常人とは違う、理解を超えた男と暮らし、愛している恭夜だ。ちょっとばかり素直でない部分は許されてもいいはずだった。
「……セックスに関して、なかなか私を素直に受け入れないだろう?」
「俺は素直だっ!」
「ムラムラしている私という恋人が側にいるというのに、食い物ばかりに目移りするキョウのどこが素直なんだ?」
 ……。
 それは……単に、時間稼ぎをして、回数を減らしたかっただけだ。
 というセリフはもちろん口にできないが。
「じゃあもう食い物の話はしないから、ネクタイは外してくれよ……」
「私だけを見て……私に身体を素直に預けることができるか?」
 ジャックの薄水色の瞳はじっと恭夜を見つめていた。こんなふうに見られているだけで、恭夜は身体の体温が上がり、どうしようもない羞恥に襲われる。
「……ま……まあ……うん」
「ハッキリしない男だな」
「て……照れくさいんだっ!」
「……まあいい。外してやる」
 締め付けられていた部分が楽になると、ジャックはそのまま身体を重ねてきた。恭夜も照れくさいものの、自分の手をジャックの背に回しておずおずとすり寄った。すると心地よい温もりが伝わってきて、恭夜はそれを味わうように目を閉じた。
「ジャック……ちょっとだけでいいから……しばらくこうしててくれよ……」
「こうか?」
 さらにきつく抱きしめらた恭夜は、今回あったいろいろなことをすべて癒してくれる抱擁に酔いながら、ようやく安堵している自分に気付いていた。
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