Angel Sugar

「唯我独尊な男4」 後日談 第7章

前頁タイトル次頁
 想像だけの映像が心の中で乱舞し、恭夜の身体を追い詰めていく。
 一言、たった一言、口にさえすればジャックは恭夜の求めるものをすぐさま与えてくれるだろう。それを知りながら、渇望と理性が未だに無駄な争いを繰り返しているのだ。
「ジャック……っ」
 恭夜はまたジャックの名を口にした。そこに込められている恭夜の望みをジャックは気付いているはずだ。なのに、ジャックは知らぬ振りを決め込む男だった。
「そう悩ましい表情で名を呼ばないでくれ……。許してやりたくなるだろう?」
「俺……もう……駄目だ……」
 恭夜は腰を左右に揺らして、身体の疼きを訴える。
 ジャックはフンと鼻を鳴らして、恭夜の両脚を今以上に押し広げた。太ももの付け根に痛みが走るほど、左右に開かされた両脚は恭夜の股間を余すことなく部屋の明かりに照らされていた。
「……うう」
 羞恥が身体をがんじがらめにしていて、身動きすらできなくなった。
 ジャックの視線が恭夜の胸元から腹へと移動し、股間でとまる。その視線にすら恭夜は身悶えた。ジャックの薄水色の瞳。透き通った海の色にも見えるその瞳は、冷えもするし熱くもなる。たいていは見下したように半眼の瞳で視界を眺めているが、時に恐ろしくて見ることもできない光りを灯す。
 そして今のような状況の時、ジャックの瞳は、抗えない拘束力と吸引力を持つのだ。
「キョウ……ここが構って欲しがっているぞ」
 恭夜の蕾に突き刺した指先が、粘膜を押し広げるように動かされる。同時にクチュクチュと粘着質な音が響く。ジャックは恭夜の身体を音でも昂ぶらせようとしているのだろう。
「あっ……あ。ああ……足りない……っ」
「そうだな。指の太さじゃ足りないだろう」
 ジャックはクスクスと笑った。
 今の状況を愉しんでいる様子だ。
「分かってるんなら、ちゃんとしてくれよっ!」
 耐えられなくなった恭夜が叫ぶと、ジャックはしらけた顔で言った。
「叫ぶんじゃない。いい気分が台無しだろう?同じ言葉でも言い方一つで聞こえ方が変わってくる。色気のある声をキョウに求めても無駄なのは分かっている。せめて普通に言ってみろ」
「普通って……っあ……」
 グリッと奥を抉られて、恭夜は胸が反った。
「普通に……だ。叫ばずに言う。それくらいできるだろう?」
 ジャックはもう片方の手で、恭夜の雄の切っ先をグリグリと弄りだした。恭夜にはもう余裕はないが、退屈になっているというより、今の状況を愉しんでいるようだ。
「ジャック……も……」
 触れられているだけで息苦しくなってくる。
 何かがジワジワと身体を締め上げていき、自由を奪っていく――そういう感じだ。
 ジャックの熱い肉棒を内部で感じたくて仕方がない。粘膜を広げて奥を抉るあの感触が堪らなく欲しくて仕方がない。
「その前のセリフだよ、キョウ」
「して……くれよ……」
「ん?聞こえないぞ」
「だから……してくれよ……ジャック。頼むよ……」
 恭夜は顔の皮膚を縮め、クシャクシャにしてみせると、ジャックは口元に笑みを浮かべた。
「色っぽい顔とはとても言えないが、愛らしいところもある」
 ジャックはそう言って、恭夜の蕾や雄から手を離すと、両脚を抱えた。恭夜はゴクリと喉を鳴らし、すぐに訪れるだろう快楽の極みを待った。
「……」
 しばらくの間が開き、恭夜が不審に思い始めた瞬間、ジャックの雄が気の緩んだ身体を割り裂いた。
「――――ひっ!」
「面白いな、キョウ。不意を突かれたときの表情の方が、いい顔をしてみせる」
 容赦なく抜き差しを繰り返すジャックの雄は、バターの助けを借りて、痛みではなく鮮烈な愉悦を恭夜に与えた。身体はジャックの動きに合わせて動き、恭夜はガクガクと頭を振った。
「ジャ……ジャック……もっと……ゆっくりし……ひっ!あっ、あっ、あっ……」
 内部の襞がこそぎ落とされそうなほどの摩擦が発生しているのが分かる。もちろん、同じだけの快楽が身体に行き渡り、恍惚とした表情が恭夜の顔を支配していく。
「ああっ……あ……ジャック……」
 両手をジャックの方へと伸ばし、そのまま背に這わせた。スレンダーな身体からはとても想像ができないジャックの逞しい背が掌に伝わり、快感に満たされている中にあっても、安堵できた。
「ハニー……私だけの恋人……」
 ジャックの声がやけに遠くから聞こえた。
「お前に仇なす相手はすべて私が始末してやるから安心しろ」
「ぶ……物騒なことを……言うな……」
「本気だ」
 満たされた中で零れた涙は瞳を覆い、視界を霞ませていて、ジャックがどんな表情で話しているのか恭夜には確認ができなかった。けれどジャックが本気だと言うことだけは、ヒシヒシと伝わる冷たい気配から感じられる。
「も……いいから……俺……こうやってあんたと一緒にいられたら……いい」
 恭夜は素直にそう告げて、今まで以上にジャックにすり寄った。
 この男のどうしようもない独占欲には恭夜も参るが、立場が逆であったら、やはり恭夜も同じように考えるのかもしれない。
 ジャックが撃たれたとき、恭夜もそう思った。
 もし撃たれどころが悪く、ジャックに死が訪れていたなら、そこにどんな理由があったとしても恭夜は許せなかっただろう。
 ジャックは生きている。
 だから、恭夜は平静を保っていられるのだ。
 もしこの男を失ったら、恭夜はどう生きていくのだろうか。
 何もなかったように、いつもの日常を取り戻しているのだろうか。
 それとも日々ジャックを思い出し――とても自分の性格からは考えられないが――涙に暮れているのだろうか。
 ジャックを失ったら……。
 この強情な性格も素直になるのだろう。けれど、ようやくジャックが求める恭夜になれたとしても、喜んでくれる相手はいない。
「キョウ……どうした?」
「なんでもねえよ」
「快楽からくる涙ではないものが、頬を伝ってるぞ」
 ジャックは恭夜の頬を指先でそっと拭い取った。
「……急に怖くなったんだ」
 恭夜はぽつりと呟いた。
前頁タイトル次頁

↑ PAGE TOP