Angel Sugar

「唯我独尊な男4」 第24章

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「ちょっとまて、あんた、こんなことやってる場合かって、俺になんべん言わせるんだよっ!」
 もう、頭の線がブチブチと音を立てて切れているのが自分でも分かるほど、恭夜は腹を立てているのだ。本気で殴ってやろうかと思っていると、ジャックは胸ポケットから一枚の写真を取り出して恭夜に見せた。
「なんだよ……」
 よく見ようと手を伸ばしたが、それは気に入らないのか、ジャックは写真を持つ手を引っ込める。
「パブロ・ブロック。キョウを撃とうとした人間だ。この顔に見覚えはあるか?」
 先程の笑みなど見られない、冷えたようなジャックの表情に恭夜は肩を竦めた。
「テイラーさんにも話したけど、俺は知らないし、名前も聞いたことがない」
 短髪の髪は清潔そうに見える。面長の顔立ち。鼻筋は通っていて、瞳は濃い藍色だ。身体を普段から鍛えているのか、張りつめて盛り上がった筋肉が無駄な体脂肪を感じさせない。かといって筋肉ばかりが目立つ体型ではない。
 やっぱり俺は、見たことない……。
 困惑している恭夜に気が付いたのか、ジャックは手に持っていた写真をポケットに戻した。
「……分かっていたが、一応、確認しておかないとな」
「なあ、その人と交渉してるんだよな?……俺のこと何か言ってたか?こういう事情だとかさ。あっちは、俺のこと知ってるんだろ?」
 ジャックによって組み敷かれながらも恭夜は聞いた。何がなんだかさっぱり分からなくて頭が変になりそうなのだ。
「さて、私はキョウとセックスの交渉でもしようか……」
 額に軽くキスを落とされ、恭夜は目を見開いた。
「あ……ああ、あんたなあ、自分の状態を把握してるのか?ちょ、ちょっと、待て~!」
 無理矢理服を脱がそうとするジャックの手を掴んで止めさせようとしたが、無駄だった。本来、傷口がある方の腕には力が入らないはずなのに、ジャックの手の動きはそんなものを一つも感じさせない。
「自分の状態くらい把握している」
 ニヤリと口元を歪ませて、意味ありげにそう言うジャックに恭夜は思わず視線を下げてみた。すると、ズボンの上からも分かる膨らみがジャックの欲望を示していた。
「……何考えてるのか分かったけど、あんた、マジか?」
「今更何を言ってるんだ。ベッドですることと言えば一つだろう?」
「待てっ!待てよっ!俺はさっきからあんたに、何言ってたのか、その耳に入っていたか?あんたは、けが人だぞっ!そんな身体で、やれるわけないだろう。いい加減にしろよっ!」
 また、ジャックの腕の中でもがくと、いつにも増してきつく抱きしめられて恭夜は息が詰まりそうになった。それよりも問題なのが、己の雄にジャックの高ぶった雄が擦りつけられていることだ。触れている布地からも伝わる熱い高ぶりは、恭夜の欲望に火を付けかねない。
 いつもは流されるままであったが、今日は違うのだ。どんなことがあっても抵抗し続けなければならない。とはいえ、組み敷かれたまま動けなくなっているのは恭夜だった。
「うが~……いい加減にしろ~」
「……くっ……くく……」
 いきなりジャックが笑い出したことで恭夜は両足をばたつかせるのを止めた。
「……なに笑ってるんだよ。あんた、危ないぞ……」
「いや。あまりにもハニーが可愛くて、感動しているんだ」
 笑っていたはずなのに、顔を上げたジャックの表情は真面目なものだった。これはこれで不気味だ。
「はあ?」
「それほどまでに私を気遣ってくれているのなら、優しくしろ」
 ジャックはそう言って抱き込んでいた恭夜の身体を自分の上に乗せる。いきなり体勢が変わったことで恭夜はジャックが何を考えているのか直ぐに理解できなかった。
「……え、な……なに?」
 恭夜はキョロキョロと意味もなく周囲を見回して、最後にジャックの方を向く。薄水色の瞳は期待に満ちた輝きで恭夜を見つめていた。
「何……じゃないだろう。負担がかからないようにキョウが私にしてくれるんだろう?」
 ズボンを一気に下ろされたのに、恭夜は状況が把握できなかった。
「……優しくしろって……なんだよ?」
「私が怪我をしているから、ハニーは自分で挿れて、自分で動いてくれるというわけだ。素晴らしい愛だな。こんなハニーは滅多に見られないから、私も楽しみだ」
 は……
 はああああああ?
 こいつ、なに言ってんの?
「ちょ……ちょっと……ちょっと待ってくれよ」
 すでに素っ裸にされている自分に気がついた恭夜は思わず逃げようと腰を上げたが、ジャックの手に掴まれて阻止された。
「これ以上焦らすな。もう、焦らさなくても充分私は興奮している」
 スッと細められた目が恭夜を見据えていて、笑うことも出来ない。
「焦らしてなんかねえよっ!俺……俺はっ……ぎゃーーーっ!」
 いきなり雄の根元を強く握りしめられ、恭夜は絶叫をあげた。
「かわいげのない喘ぎだな」
 面白くなさそうにジャックは言う。
 これが恋人なのだと思うと、時々恭夜は何か間違っているような気がするのだが、何がどう変なのか自分でも分からないのが辛い。
「こっ、これが喘ぎに聞こえるのか?あんた、耳、おかし……ひーーっ!」
 恭夜の、まだ柔らかい肉に指先を食い込ませたジャックは、憮然とした表情をしていた。
「さっさと四つん這いになるんだな。濡らさずに受け入れてくれても私は一向に構わないが」
 部屋の温度が一気に下がりそうなほど、冷えた口調でジャックは言った。先程まであれほど嬉しそうにしていた男には思えないほど、変わり身が早い。
「……うう」
「うう……じゃないだろう。どうするんだ?このまま突っ込まれたいか?」
「それは……嫌だ」
 う~っと唸るように声を発して恭夜は項垂れた。
 誰かこの男を止めてくれ……と、心底願うのはこういう時だろう。何より、この世の誰であろうとジャックを止められないことも恭夜は知っていた。
「なら、言われたとおりにしろ」
 この状態から逃げ出したいのだが、逆らったところで苛めに拍車がかかるだけだ。
 恭夜は渋々、ジャックに背を向けて四つん這いになった。
 身が焦げそうなほど恥ずかしくて堪らないのだが、ここまで来てジャックに逆らうことが出来ない。そんな自分を情けなく感じるが、同時に相手がジャックだから恭夜は逆らえないのだろう。
「……ジャック……でも……マジ、あんた、やばそうだったら途中で止めても……っ!」
 双丘を左右に割り、指先で固く閉ざされている蕾を引き、ジャックが舌で軽く舐め上げてきた。肉厚な舌の感触が、下肢に伝わり思わず震えが走る。周囲に響くほどの音を立てつつ吸い付いてくる舌は、優しい。
「……うっ……」
 シーツに顔を埋め、尻だけ突きだした形で、恭夜は与えられる刺激に耐えた。ジワジワと身体を包んでいく快感が、ゆっくりと理性を鈍らせていく。快感に流され始めている自分の中で、ジャックの負った怪我のことだけは、霞がかった意識の中に残っていた。
「ジャック……怪我……」
「分かっている。キョウが優しくしてくれたら、私の負担も少なくて済む。分かったか」
 ……。
 分かったか……ってなんだよ~。
 なんでこう、立場が逆転するんだ?
 俺……俺は、無理にでもこいつ、手術室へ連れて行くはずだったのに……。
「……っあ……」
 少し緩み始めた部分に指先が挿入される感触に、恭夜は小さな声を上げた。指先は内部で蠢き、側面を擦りあげて、クチュクチュと音を立てている。内部から痺れるような感覚はまるで得体の知れないクスリでも塗り込められているかのようだ。
「……っ……!」
 いつの間にか指の数が増えていて、二本の指先が交互に動く。狭い場所を押し広げる行為は恭夜をよがらせた。
「駄々をこねていた割には、ここは素直だな」
 背後で笑っているジャックは、楽しげな声で言った。
「……駄々をこねていたのは……あんたじゃねえか……ひっ!」
 言わなければいいのに、思わず口にした言葉に、ジャックは三本目の指先を無理矢理ねじ込んできた。
「私か?」
 振り向かなくても怒っているのが分かった恭夜は、思わず顔を左右に振っていた。ここで顔を縦に振れば次にどんなことをしでかすか予想がつかない。アメリカくんだりまで来て、セックスで体を壊したなどという、情けない結果にはなりたくなかった。
 いや、すでにそういう状況に追いやられているが。
「……っく……」
 三本の指が同時に側面を爪で擦り、恭夜は瞬時に駆け上がる刺激に呻き声をあげた。快感にねじ伏せられていく理性は、すでに降参している。どれほど嫌だと口にしたところで、確かにジャックの言うとおり、身体だけは素直だった。
 ただの快感を求めているわけではない。
 ジャックから与えられる快感を欲しているのだ。
「ジャック……ひあっ……!」
 内部に指先が挿れられたままの状態で、もう片方の手で前を弄られた恭夜は、背を弓なりに逸らせた。
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