Angel Sugar

「唯我独尊な男4」 第42章

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「……う……あ……」
 一度奥まで入った雄は、緩やかに引かれて蕾の入り口まで戻ると、またゆるゆると奥へと挿入される。快感を味わっているはずなのに、満たされないものが内部で疼いて、余計に恭夜の身体を苛んでいた。
「……あっ……あ……こんなの……」
「傷が痛むのか? ん?」
 首筋を愛撫しながら、ジャックが聞いた。
「……違う……」
 ただ、ゆっくりとした動きに恭夜が苛立っていただけだ。もちろん、それはジャックが恭夜の傷を気遣っているからだと分かっていた。分かっているのに、中途半端な抽挿に身体が不満を恭夜に訴えている。
「じゃあ、なんだ?」
「…………うう……」
 恭夜が今の不満をそのまま口にすれば、勘違いしたジャックが喜び勇んで、貪るようなセックスをするだろう。身体は悦ぶかもしれないが、傷口が開いて血まみれになる。しかもジャックのことだから、すぐに身体を離してもらえそうにない。
 俺は……絶対、失血死する……。
 セックスをして、失血死なんて……笑えねえ。
「気味の悪い奴だな……」
「……ひっ!」
 いまはぐんにゃりしている恭夜の雄が、ジャックによって回された手で掴まれた。根元から先端に向けて丁寧に擦りあげられると、簡単に力がこもってくる。ジャックの手練れになすがままになっている自分の雄を、心の中で恭夜は叱咤するものの、外部からの刺激に敏感なのは男の性だろう。いや、今は後ろも緩やかではあるが、穿たれている。
「……ん……うっ……あ」
 本来なら意識が飛んでいるような状態に陥っているはずだが、あまりにも穏やかな抽挿に身体が焦れていた。セックスに心底浸れないために、ジャックの雄が入った、出た姿を想像してしまう。そんなことで頭を一杯にしたくないのに、淫らな雄の姿が鮮やかに描き出されている。すると奇妙な苛立ちが恭夜の中で生まれ、両手の爪を立てて、シーツを掻きむしりたくなった。
「……あ……っ」
 恭夜はまた身体が折れ曲がりそうになった。けれどジャックに引き戻される。背後から吹きかけられる熱い吐息を感じ、恭夜の首筋から背が震えた。
「あ……ああ……も……」
 こんなセックスは肉体の拷問だ。
「足りないのだろう? どうするんだね、キョウ。私はこれでも満足できるが、キョウは無理だろう? 違うか?」
 雄の先端をクチュクチュとジャックは指先で刺激しながら、耳元で囁いた。それはまるで悪魔の囁きのように聞こえる。
「俺……俺は……っん」
 痺れを切らしたように、両脚がもぞもぞと動く。満たされない飢えが恭夜に悪魔の囁きを受け入れろと強制していた。理性が必死に抵抗を試みているものの、生理的欲求の方が勝っているのは事実だ。
「キョウ……」
 ジャックは耳朶の裏側に鼻を擦りつけ、頬骨の形を確かめるように舌を這わせていた。
「も……いい。あんたのやりたいようにやれよ……」
 絞り出すように恭夜は声を発した。
「そうすると、キョウが困るんじゃないのか?」
 ジャックは笑っていた。こうなることを予想していたのだ。本当に憎たらしくて、腹立たしい男だった。にもかかわらず、恭夜はこの男の激しい愛撫を、貫くような抽挿を、意識が朦朧とするような快感を欲していた。
「……この状態も……つれぇ……」
 情けない言葉を出して、恭夜は降参した。
「だろうな。肩に力が入りそうになったら、できるだけ腹に力を込めるようにすればいい。キョウは幸運だ。傷口が開いたとしても、ここには医者が掃いて捨てるほどいる。死にやしないさ」
 ジャックは何度も鼻先を恭夜の髪や首筋に触れさせて、言った。恭夜からすると、最後にいった言葉が現実にならないことを祈るだけだ。
「……ジャック……うっ……!」
 急に強く突き上げられて、恭夜は身体が前に動いた。繰り返されるたびに、身体がベッドの端へと移動していく。落ちるわけにもいかず、恭夜はベッドの縁を掴んで自らの身体を支えた。けれど腕に力が入らない上に、肩に激痛が走った。
「ひっ……あっ……い……いてぇっ!」
「手に力を入れるんじゃない。私が支えているだろう?」
 恭夜がベッドの縁に伸ばしていた手を、ジャックが絡め取り、腹を押さえた。すると自然と尻がジャックの方へ突きだした形になり、雄の切っ先がより深く沈む。その瞬間、腹のところで組んだジャックの手に力が入った。
「あっ……ジャッ……あっ……ああっ……」
 上半身に力が入らない分、今ある力が全て下半身にかかっていた。
 互いに横向きで重なって背後から突き挿れられると、怒張しているジャックの雄が反り上がった形で挿入されることで内部の腹側をきつく擦り、恭夜は今までとは違う快感を味わっていた。
「やはりこうでないとな」
 余裕のジャックは声の掠れもない。
「あっ……なんか、変……いつもと……ちが……あ……ああっ……!」
「キョウ……私も……味わっている」
 ジャックの顎が恭夜の肩に乗り、頬を擦りつけてくる。長い金髪が恭夜の肩に頬に触れ、恭夜の身体に滑り落ちてきた。僅かに触れているだけなのだが、肌が焼け付くように熱く感じた。
「……っ……あ……ああっ……あ……ジャック……っ!」
 擦られている部分が熱くなって、切っ先で突かれる部分がビクビクと悦びに打ち震えているのが分かる。快感だけが身体を支配していて、燻っていた欲望が満たされていく。ジャックの身体と触れている背は汗で湿り、身体の熱を下げていた。
 恭夜が望んでいたのはこの快感だった。ぬるま湯のようなセックスではなく、炎に焼かれて灰になるような快感。頭の中が芯まで真っ白になる瞬間が、このときだけ得られる。
「ああ――――――っ!」
 内部に温かな迸りを受けて、恭夜は声を上げ続けた。



 ジャックの腕の中で微睡む時間が、意外なことに恭夜は好きだった。セックスの後、身体がくたくたに疲れ、何をするのも億劫な状態にあるときのみ、恭夜は素直になれるのだ。このときばかりは自分に対して男に依存する理由がつけられるからかもしれない。
 眠った振りをして、恭夜はジャックの胸にすり寄り、伝わる鼓動を感じていた。ジャックが確かに生きている証拠を耳にしていると、安堵できるのだ。こんな男であっても、パブロに撃たれた姿を目の前で見た時、恭夜の衝撃は普通ではなかった。
 恭夜はジャックのことを、死神すら尻尾を巻いて逃げ出すような男だと信じている。今もそうだ。永遠にこのままの姿で何百年も生きるのではないかと、そんなことも真面目に考えられるような男だった。けれどジャックにも血が流れていることを知って――当然のことなのだが――恭夜は怖くなった。
 もし、肩ではなく別のところを撃たれていたら……。
 今ごろになって、恭夜はそんな恐ろしさに身体を震わせた。
「起きているんだろう?」
 ジャックは恭夜を抱きかかえるようにして身体を起こすと、枕に凭れた。
「あ……うん」
「傷は開かなかったようだな」
 ジャックの手がそろりと恭夜の包帯に触れた。
「……無茶なことしやがってよ」
 口を尖らせて悪態をついた恭夜に、ジャックは笑った。
「あんたはいつも笑ってるんだな……もういいけど……」
 包帯から手を離し、ジャックは今度恭夜の髪に触れた。同時にジャックを呼ぶ内線が鳴る。
「そろそろ来る頃だと思ったが、無粋な呼び出しだな」
 ジャックはヘッドボードに引っかけていたローブを掴み、恭夜の身体を自らの身体から離すと、ベッドから下りた。
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