Angel Sugar

「唯我独尊な男4」 後日談 第6章

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「あんたの傷……もう痛くないのか?」
 ジャックの背を撫でながら、恭夜は問いかけた。
「キョウはどうだ?」
 恭夜の耳元でジャックは囁く。よく通る声は甘く、首筋に触れる吐息がくすぐったい。
「俺?俺は……ちょっと疼くくらいかな……。違う、あんたのことを聞きたいんだ……」
「そうだな、疼くという感覚もあまりない」
 恭夜の耳朶を軽く噛んだジャックは、そのまま首筋へと唇を滑らせて肩を愛撫する。肩から腕へ、そして指先へと唇は移動して、ジャックは恭夜の片腕を解き、手に取ると、指先一本一本丁寧に舐め上げた。その緩やかな仕草に、恭夜は目を開けた。
「……っん」
 ジャックは恭夜に見えるよう、口を大きく開いて舌を出し、指先をしゃぶっている。指先がジャックの唾液で濡らされていく様子を見ていると、恭夜の顔は真っ赤に染まった。
「……ジャック……っ」
「黙っていろ。私は今ハニーを味わっているんだ……」
 羞恥に耐えるように唇を噛みしめていると、片手を終えたジャックは、未だ背に回っているもう片方の恭夜の手を解いて、同じように指先を舐めた。
 ジャックは真剣な目をしている。
 恭夜をからかってやろうとか、何かを企んでいるようにも見えない。ジャックは恭夜を愛してやろうとしているのだ。そういう姿を見せられるだけで恭夜は堪らない羞恥に身悶えしてしまう。
「う……」
 欲望を煽られるようなことをされているわけでもないのに、ジャックの唇が、舌が、指先に絡められると、恭夜は身体の奥底が疼く。もっと違うところを舐めて欲しいと、望む気持ちが湧いてくるのだ。多分、ジャックを求める言葉が素直に出せればこの男も喜ぶのだろうが、喉元まで上がってきては、呑み込まれる。
「あっ……そこは……駄目だって」
 恭夜が愛撫の心地よさに酔っていると、ジャックは撃たれた傷口に被せられたガーゼを取り去ろうとしていたのだ。
「私が見てやる」 
「……だから俺……まだ痛いんだって……」
 手で払いのけることはしなかったが、恭夜はジャックにそう言った。
「何もしない」
 ジャックはそっとテープを外して、傷口に被せられているガーゼを取り去る。空気に晒された傷口は、チクチクとした刺激を恭夜に伝えていたが、痛いというものではなかった。
「まだ、生々しいな……」
「すぐ……治るよ」
「こういう傷がキョウに付けられたことが腹立たしい」
 ジャックはムッとした表情のまま、恭夜の傷口にそろりと舌を這わせた。
「……っ!」
 傷口から走った痛みから、条件反射でジャックを押しやろうとしたが、逆にその手を押さえつけられた。ジャックがどういうつもりで傷口を舐めているのか知らないが、ようやく塞がり始めた傷口に、唾液は染みる。
「……痛い……って」
 不思議なことに痛みと同じだけの快感が伝わっている。痛みと快感は表裏一体になっているのかもしれない。とはいえ、痛いのに気持ちいいという感覚は、自分にマゾッ気があるのだろうかと、考えたりもするが、それは思い過ごしだろう。
「痛いといいつつ、顔は喜んでいるんだが……キョウは不思議な男だな」
 ジャックはクスクス笑いつつ、傷口から唇を離した。
「だが……この傷を見るたびに私はお前を守りきれなかった自分の不甲斐なさを思い知らされることになる……」
 恭夜には、急に表情を曇らせたジャックが苦悩を抱えているように見えた。
 もしかして恭夜の怪我を自分の責任だと思っているのだろうか。
 恭夜は一度だってそんなふうに考えたことなど無いのに。
「そんなふうに、言うな。上手く言えないけど……俺は……あんたに感謝してる。それに、この怪我は……あんたの責任じゃない」
「責任はその怪我を負わせた男にすべて取らせる。今すぐではないが……約束する」
 それはリーランドという男にジャックが何かをすると言っているのか。
 恭夜はそんなことなど望んでいない。
「いいんだって、ジャック。俺は生きてるし……怪我と言ってもかすり傷程度だしさ。あんまり深刻になるなよ……」
 慌ててそう言うと、ジャックはフッと口元に笑みを浮かべ、恭夜の言葉に答えることなく、とめていた愛撫を再開した。胸から腹へ、腹から下部へ移動し、茂みを通って尻へと向かう。バターが塗られ、トロトロになっている蕾に舌を這わせて、窄んでいる場所をこじ開けた。
「ジャック……っん」
 舌は雄の抽挿を真似て、出たり入ったりを繰り返し、恭夜の身体を高めていく。表面だけを掠めていく舌は、一番触れて欲しい奥には届かない。
「あ……ああ……」
 内部からの疼きがますます強くなり、恭夜は腰を左右に捩った。ジャックはクチュクチュと何度も蕾に吸い付きながら、時折指先で中を抉る。舌よりも遙かに鮮烈な快感を伝えてくれるジャックの指だったが、それよりも欲しいものが脳裏に描き出されて、恭夜を責め苛んだ。
「……ジャック……っ……あ……」
 恭夜はジャックに訴えるようにゆるゆると腰を振った。後腔を弄られ、舐め回されるだけでは足りない。
「もっと違うものが欲しいか?」
 口を離して指先で恭夜の蕾を弄りながら、ジャックは嬉しそうな声で言った。
「……頼む……俺……」
 快感にだけ素直になる身体が恨めしい。それを自覚していているのに、ギリギリまで抵抗しようとする己の理性が、恭夜は腹立たしい。
「素直に口にしてみろ……欲しいものをすぐに与えてやるぞ」
「……ああ……俺……」
 恭夜の脳裏には、すでにジャックの立派な雄が描き出されていて、激しく突き上げられる自らの姿も見えた。
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